動画に映ったのはおだやかそうな少女だった。
白いレースのフードにローブ。聖女みたいだが頭には二本角がある。
『……そう警戒しないでほしい。こうやって顔を合わせるのは初めてになるね。私が予言者ノアだ』
ちょっと待ってくれ。これ最初から予言されてたってことは、私の行動は運命の通りってことか……?ふざけんなよ!?
『……まず初めに言っておくが、運命というものは決まりきったものではない。川の流れのようにいくつも支流がある。単に私はそのすべてに仕掛けを施していただけだよ。だから、君がこの世界線にたどり着いたのはまぎれもなく、君自身の選択だ』
「全部お見通しってわけか……」
画面の中の少女はくすりと笑う。
『その世界線を予知しているからね。だから疑似的に会話が成り立つんだ。さて、私の目的だが……君と同じだよ。『黄金種』の誕生。本能に縛られず真に自由な者。生まれの差異にとらわれず自由に自分自身の在り方を選べる者。私もそういう思想にたどり着いた。だから、それを実現できるものを、そんな者が生まれる未来を探り続けた』
そこで画面の中で少女は私をなでるように愛おしそうな顔をして手を伸ばしてくる。
『……イブキ。君は私の希望だ。私はそれを得ることはできない。けれど……君という希望がいつか私の求めたものを実現してくれると信じているから、そのために死んで行ける。イブキ。君に託すよ。魔族の未来を。人との共存を』
勝手に期待されてそそのかされるのはスゲー気に食わない。
けれどわかる。こいつは私と同じようにどうしようもない本能に絶望したんだと。
そして自分じゃなくとも、いつか子孫が自由を手に入れればいい。
そういう、未来に希望を託す姿勢は敬意が持てる。
未来の世代のためにこいつは本気で命を賭けたんだろうからな。
「あんたは。未来の私たちのために死んでいくって言うのか」
『……そうだ。私本人が得られずとも、いつか誰かが希望ある未来を切り開いてくれると信じるから私はそのために死にに行く。大丈夫だ。君ならできる。予言者の私が言うのも何だけど、なんとかなるさ』
そしてアダムの方を指さした。
『ああ、それから彼も大丈夫だ。死にはしないだろうし、ひどいことにもならない。そろそろ目を覚ますだろうから、魔法を切っておくよ。たのむ、魔族に黄金の時代を……宇宙への道を……!君になら、できる』
そこで動画は止まった。私はアダムの方を振り返る。
カプセルのモニターの中で、膨大な過去の記録が映し出されている。
戦争、人々の涙、崩壊する都市——そして、昔の私の姿。
「どうするの、お姉さま」
「……信じるさ。こいつは私と同じだった。一万年も前にたった一人で命がけで自由のために戦った女だ……私は、託されたんだ」
「そう……たしかにアダムの脳波とかは平常範囲内よ。なら、賭けてみるのも悪くないかもね」
「だな」
アーカイブの光がふっと弱まり、静かにフェードアウトしていく。
カプセルがゆっくりと電源を落とし、記録の再生が終わる。
辺りは静寂に包まれ、かすかに機械のノイズだけが響いている。
アダムがゆっくりと装置の中から立ち上がった。
かつての虚無や未熟さはみじんもねえ顔だ。
目には、深い静けさと燃えるような光が宿っている。
「……お前、大丈夫か?」
「俺は問題ない。ただ知っただけだ……大丈夫じゃないのはあなただろう」
窓の外から、一筋の光が差し込んで都市の向こうに朝日が昇り始める。
アダムはゆっくりと装置から体を起こす。
その姿は輝かしく生命力に満ちているように見えた。
「お、おう……だいぶキャラ変わったなお前」
大丈夫かなあ!?これラビに怒られないかなあ!?
害がある感じじゃないのはいいけど。
「……あなたは自分は逃げたと思っているだろうが、あなたより運命と戦い抜いたものはいない」
「見たのか。わたしのやったことを。ろくでもなかっただろ」
「あなたがどれだけのものを背負い、どれだけのものを失ったか。俺は知っただけだ。それでも、あなたがいたから俺がいる。あなたの行いは、無駄じゃなかった。俺の行く先も、必ずどこかにつながる。……つなげてみせる」
アダムが、ゆっくりと立ち上がり、窓に、夜明けの光の中へ歩きだした。
その輝きは私の目にアダムへの祝福のように映った。
「……聖人にでもなっちゃった?」
「俺は聖人じゃない。でも、俺の使命はわかった。夢が見られない、未来を想えない、そんな世界は存続できない。だが『ヒト』でいる限りそんな世界は来てしまう」
アダムが私を見る。
「……進化が必要だ。そのために、俺は進む。」
その目には強い意志が見えた。かつて、私も持っていたものだ。
気づいちゃったんだろうな。安らぎよりも素晴らしいものってやつに。
「……そっか。夢、持っちゃったか」
ノアに誘導されたようで腹立つけどね。
でもそれは私もたぶん同じだから……
あいつだいぶやってんなあ!暗躍してんなあ!
「ああ、俺には夢がある。ならば叶えなければならない」
「キッツいよ?それは」
実際キツかったよ。
ステイツ作って。核落として。逃げて。世界が滅んで……
それを自分の責任でやった。つらくないワケないだろ。
「それでも進む。あなたがそうだったように。あなたが作ってくれた道は光り輝いている。それは、残されたものが行かねばならない」
こいつ、マジだ。これが若さか……
ああ、イシュトアン様がなんで私にあんだけ尽くしてくれたかがわかったよ。若さって尊いんだ。失ってはじめて気づくけど。
……この熱を守っていなきゃいけない。若い者の道を切り開くことこそ、私たち古い者の役割なんだから。
「……ちょっとは良い目をするようになったじゃん?」
やろう。はるかな過去から託された希望を、未来に継いでいこう。
「あなたが必要だ。共に行こう。宇宙へ。未来へ」
「……ああ」
この時は気づかなかったけどこれ告白だったのな。
マジ?私もおねショタしなきゃいけないの?