グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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最高のフィナーレを

それからまあ、半年くらいは準備で忙しかったね。

機械都市の宇宙戦艦化に、出発の準備いろいろと魔王に対するための戦支度とか。

それで、いよいよという日になった。この日を長い事待ってた気がする……

ここはラスト・ベガス跡地に作ったステージ、その仮設楽屋だ。

私はカナタを見上げて笑っちまう。

「なんで私からこんな陽キャが出ちゃったかな……」

カナタは少し首をかしげる。

「なんです?それは」

肩をすくめて軽くカナタの背中を叩く。背中ゴツイなー。

「お前に会えてよかったってことだよ。クオン、カナタ。お前たちを生み出せたんなら……それでよかったんだ」

カナタは力強くうなずく。

クオンも、それを聞いてかすかに微笑む。

「ああ、グランマ。俺もあなたに出会えてよかった!」

こいつらの姿を見て、私は何かが報われたような気がした。

ずっと自由を求めて、ずっとあがいてきた。

それでも、ここに至ることができたのなら――それでよかった。

さあ、いよいよだ。

私が「宇宙への旅立ち」を世界中に宣言すれば、それは「星の意思」に対する決定的な反逆となる。

「これをすると、間違いなく魔王……っていうか星の意思が止めに来るぞ。デカい戦いになる。……覚悟は良いんだな?」

カナタはその言葉を聞いて、迷いなく力強くうなずいた。

その目には、黄金の炎のような決意が宿っている。

「ああ、グランマ。あなたの夢を俺が実現してみたい!」

私にはカナタの存在はあまりにも頼もしく、まぶしく見えた。

しかし、それでもコイツは若い。

カナタにすべてを託すのは、なんだか申し訳ない気がした。

「……なんか、ごめんな? 私の道にお前まで……いや、そうじゃないな」

息を深く吸い込み、大きく胸を張る。

これが私の長い旅の終着点だ。

「私が責任を取る! 行ってこい!!」

「ああ!!」

クオンは一度だけ振り返った。何かを探すように。少しだけ、迷ったように。

そして目を細めて微笑んだ。

「お母さん……私はあなたの子供でよかった」

泣けてくるな~!でも今は涙をぬぐって、笑う。

親指立てて、扉をくぐる二人を見送る。

これで、よかったんだ。

「行ってこい!ガキンチョども!お前たちなら、できる!心配すんな!行け!!」

さあ、歌おうか。ちょうどステージ衣装で決めてきたし。これが私の死装束だ!

舞台に飛び出し、ラスト・ベガス跡地を眺める。ボッコボコの土むき出しだな。

空を見る。良く晴れた中に空を覆いつくす巨大宇宙戦艦。

そこに飛んでいくクオンとカナタ。

……私たちは、ここまで来たんだな。

……歌おう。黄金種の宇宙への旅立ちを告げる、魂を震わせる歌を。

『知らないに飛び込みたい、星の輝く世界へ!

君はどこだって行ける。行きたい場所に行ってみな。

なんにだってなれるよ。なりたいものになってみな。

そうできるようにしたから。

 

待ってるだけなら何万年たってもなんもこなかったよ

燃え尽きる前に飛びたい。翼広げ新しい世界へ!

待ってるだけの自分を捨てて、何度でも何度でも飛び立つよ』

 

宇宙へのあこがれを込めて、歌う。

私はもう、止まらねえ。私が一番先を飛ぶ。その覚悟はできてる。

だから……錆び付く前に飛びたいんだ!

 

「私たちは生き続ける……!存在し続ける!いいか前世紀の野蛮人からの伝言だ!戦わずして消えるつもりはない!!私たちは、存続する!!魔王!私たちはお前の腕から飛び出すぞ!止めてみせろ!」

 

間奏の間に宣戦布告をすましておく。

これは魔王への宣言であり、クオンたちへの言葉だ。

戦わずして消えるな。それが私がお前に贈る人生訓だ。

間奏が終わる。……さあ、続けようか。

 

『大丈夫、きっと無限の楽しいが君を待ってるから

行ってみな。君の行けるところまで

さあ飛ぼう。何も怖くない。いっしょにいるよ。

 

おいで、君の知らない世界を教えてあげる。

おいで、遠くに輝く星が私だよ。ついてきて、導くから。

……行こうよ』

その歌が響き渡った瞬間、大地が震え、空が裂ける。

「星の意思」が動き出した。

最終決戦の幕が、ついに上がる。

☆

そのころ、「花の都」ではセレナが主だった花の民を集めていた。

どれも直系の幹部となる子供たちだ。

遠くから、遠雷のようにロックが聞こえる。古臭くて、粗削りで骨太な。

そんなロックがやってくる。

「……嵐が来るわ。春の前のとても大きな嵐が。行きましょう、私の大切な子供たち」

花の民たちは、彼女の言葉に静かにうなずく。

彼らは彼女の想いを感じ取り、共に戦う覚悟を固めていた。

「いいねえ、戦いだ。こんな晴れ舞台そうそうないよ?」

「へっ、オイお前ら!ビビってないだろうなあ!」

花の民の王たるノインと女王たるヘルツが民を見渡した。

皆、獣のごとき好戦的な笑顔をして拳を突き上げ、叫んだ。

「まさか。星を食べる最高のディナーを見逃せるものでしょうか?」

セレナの三男、グルートはカチカチと指に挟んだフォークを鳴らした。

「こわくない」

「私たち、世界をてにいれるます」

「いきて、たたかう」

「たたかって、いきる」

「それが星の意思でも、たたかうます」

フローラたちがざわめくように答えた。

セレナは満足そうにうなずくと手を挙げて子供たちを制した。

「今度こそ、私が選ぶ番」

かつて、セレナは魔王に従い、すべてを失った。

だが今、彼女は誰にも従うことなく、自らの意志で未来を選ぼうとしている。

「私は、もう過ちを繰り返さない。あなたたちのために、この星のすべてを抱きしめる」

花の民たちは、彼女のその言葉に微笑みながら寄り添う。

彼らは愛されることにもはや迷いがなかった。

「……私が星の意思になる」

その言葉が落ちた瞬間、花の民たちが共鳴するように雄たけびをあげた。

そこに魔王の忠臣であったセレナの姿はない。

彼女は『新たな星の意思』として、この星を守ると決めたのだ。

☆

生と死がまだ分かれていなかった頃――命の最初の泡が生まれた、原初の沼地。

そこに、イブキとセレナたった二人が降りたった。

マトペ・ギザ湿原。

ぬかるみの森という意味だ。生命は泥から生まれた。

赤道直下にありながら、この星でもっとも重力の重い場所。

沼の中心に、真っ黒な――あまりにも巨大な岩があった。

なだらかに盛り上がったその姿は、まるで舞台のようなテーブルマウンテン。

これこそが、神が最初に生命を創造したとされる舞台。

そして、星の意思が核へと届くように『楔』として打ち込まれた場所。

ここは、『神』になろうとする者たちが選んだ、決戦の地。

この場所で旧き母と対峙し、その『意志』を、世界に向かって叫ぶ。

そのための舞台だ。

☆

原初の魔法には詠唱があった。

それは、魔王がこの星の意思として立ち上がったときの産声がまさに詠唱だったからだ。

ちょうど、クオンの誕生が詠唱だったように。

だから、セレナは星の意思になりかわるために唱える。

「私は誓うわ。この星のすべての命に。

これより始まるのは、楽園の時代(エイジオブヴァルハラ)。

絢爛たる理、有為転変の律。

すべてよ、ただ生を愛しなさい。

泣き、笑い、怒り、生を謳歌しなさい。

私が、すべてを抱きましょう。」

本来は私も唱える必要はない。

でも、黄金の民がこの星を出るための儀式、決意表明であり、花の民と肩を並べる存在だと示すためには必要らしい。

だから、セレナの横に立って唱えてやる。

「私は誓う。

旅立つすべての魂に。

これから始まるのは、偉大なる旅(グレートジャーニー)。

金剛たる理、永劫不変の律。

すべてよ。お前を縛るものは、もう何もない。

誰も、何にも、傷つけることはない。傷つけられることもない。

私が、いつもついている」

そうだ。もう何にも縛られるな。私にもだ。

さあ、来いよ魔王。

そして、台地から深く静かな声が聞こえた。あの地獄みてえな怨嗟の声だ。

魔王の声だ。

「母は誓った。

母から生まれたすべての命、すべての魂に。

錬鉄たる理、坩堝の律。

すべてよ、試練を超える鋼たれ。

命の坩堝は、泡立ちあふれよ。

母は、やがて生まれ来るものを祝福しよう」

マトペ・ギザ台地から泥があふれ出し、魔王の姿になる。

忘れもしねえ、獣人めいた尻尾と耳、そして角……

褐色の肌と豊満な体にあのイヤな笑み。

「ほう……神になる、とな……?ならば、お前たちにはもはや母の加護もいらぬというのかァァ!!」

最初からバチギレしてて草なんだ。

「並び立とうというのか、この母に!? 片腹痛いわ!!その思い上がりがどれほどの重みか、この試練で知るがよい!!」

空が荒れ、吹雪が吹いてくる。地面からマグマが、吹雪に交じって殺人スカイフィッシュが飛んでくる。

「よいか、命ども!母の腕からは、逃れられん!!すべての命は、泣きながら母の胸に還るように造られておるのだ!」

魔王の手からいくつもの魔弾が放たれた。まるで空を覆う隕石の群れのようだ。

「見せてみよ……加護なき命の、行く末をな!!」

セレナはナールウェンから盗んだ『流水の魔法』で隕石のような魔弾を軽くそらした。

私はギターをひと撫でしてソニックブームで相殺する。

「……そう。もう加護はいらないわ。お母様、あなたは教えてくれた。この世界は、戦うためにあると。でも私は、知ってしまった。戦うだけでは味わえない人生の幸福を」

ああ、不死の呪いが消えていくな。セレナの髪が黒髪から青髪に戻っていく。

私もきっと赤髪に戻っているだろう。

「あんたの時代はもう終わりだ。加護も試練もいらない。私たちは全部自分で選んで、自分で歩く。それがロックってもんだろ」

私はギターを構えて序曲を始める。

「今回は、私だけが歌ってやるんじゃない。一番は歌ってやるけどな」

弾くのはあの歌。『滅びに抗うすべての魂の歌』。

「だから選べ! お前たちが、自分の意思でその続きを歌うかどうかを!!」

歌が、世界中に。この星のすべてに広がっていく。

「もう、主役は私じゃない。私はコールした。すべてを賭けた。だから、お前らがレスポンスしてくれ!始めようぜ、世界一のセッションを!」

私は今度は歌詞を載せて歌う。これは本来歌詞がない方が効く歌だ。

それでも。今はこの歌を呪いではなく祝福として歌えるようになったんだと世界中に言いたい。

『この雨でさえ、この風でさえ、ずっと私を飾るだろう。胸を張ろう、それだけでいい』

イシュトアン様の魔竜顔が思い出せる。その声が思い出せる。

もう胸を張れるから!私は間違っていなかったと。私の生に意味はあったと!

『私が誰よりも高く飛ぶのは、皆が迷わないように。それでも、お前らの残したモノを背負っていくから』

ローラン……お前も、こうだったのか?人生を駆け抜け切った瞬間ってのは『こう』なのか?

『雪の朝も、日照りの昼も、花は咲くから。その中にお前がいる。だからもう泣かないよ』

魔王の巻き起こした嵐が弱まり、吹き出す泥やマグマが収まり、地面から花が生えてくる。

そうさ。みんなの魔力は残ってるんだ。この星に。そしてずっと私を守ってくれてたんだ。

「馬鹿な!馬鹿なバカな馬鹿な!ええいならばこれはどうじゃ!我が子イシュトアンが作りし最後の魔法!『星砕き』!滅尽せよ!」

魔王の背後から巨大な魔方陣による砲塔が姿を現し、超加速した巨大魔弾を放ってくる。

それを成層圏からの宇宙戦艦のレーザーが打ち落とした。

『今度は、私も戦力外じゃないわよ』

ミスラの声が遠くのマイクから響く。

「ええいっ、このっ……!親不孝者どもめぇっ!!」

氷やマグマ、雷が宇宙戦艦に迫るが、上空にいたナールウェンの『流水の魔法』で逆にすべて投げ返された。

もちろん、魔王に着弾するまえにすべて燃え尽きるように消えるが。

 

「これで手を貸すのも最後か……やり遂げろよ。馬鹿者ども」

 

ああ、やってみせるさ。何とでもなるはずだ!

「ならばこの母自らが愛の鞭をくれてやろう!鉄拳制裁じゃ!」

「なら、私があなたを抱きしめ返しましょう。お母様」

セレナが魔王に締め技を試みるが、素早さで負けて胸を貫かれた。

そのまま私の方に来る。

でも、今ならできるんだ。私の全存在を代償に!私を!宇宙に響き渡る歌に変える!

魔王の拳と共に、私の身体は灰のように崩れ去るが、それでも私の意識はある。

きっとセレナも同じだろう。

「見たか、これが母の力よ!!命を与えたのも、奪うのも、すべてこの母!!神になろうなどと、口ばかりよ……やはり子は、母に勝てぬ!!さあ、命どもよ……主を失い、今こそ母にひれ伏せ……!」

今は勝ち誇ればいいさ。でも作戦の内なんだよ!

まあこうならないようにってめちゃくちゃ反対されたけど。

ゴメンな?でももう、いいだろ……お前ら独り立ちできるだろ?

ママは、もう、疲れたよ……

 

沈黙を破って、私のギターが再開する。

そこに……ひとつ、ふたつ、声が重なる。

ここにはいないはずのみんなの声が魔王に届く。

太鼓の音、笛の旋律、子どもの手拍子、鳥の声、風、そのすべてがあの歌を歌ってくれている!

世界を双方向に音でつなげてライブする魔法。

今なら私一人でもできる。私自身が歌であり音だから。

これはあの日の再演。だけどただの再演じゃねえぞ。

私たちの歌は銀河に響く歌だ!

そうさ、ショー・マスト・ゴー・オンってね。

私はまだ歌えるぜ、魔王。

「な!?やめよ!ええいやめよやめよ!そのような歌を歌うでない!なぜじゃ!なぜ母を称える歌を歌わんのじゃ!」

魔王の心臓から、青い光が漏れる。

セレナの魔力光だ。

『……お母様。あなたに、教わりました。この世界は『食うか食われるか』―そう教えていただきました』

私には聞こえる。あいつの声が。魂の声が。私は歌。私は声だ。

『ならば私は、食らう者となりましょう。世界を護るために。命を食う母よ―あなたを、いただきます』

セレナの青い光が魔王の身体を蝕み、そしてマトペ・ギザ台地を覆っていく。

「恩知らずめ!!化け物め!!母を捨て、外に出て行くというのか!?母を殺し、すべてを奪うというのかァ!!」

ああ、クオンの声が聞こえる。中継してやるよ。

「……私たちは、あなたの祈りの果てに生まれた。あなたがずっと望んでいた、あなたに『並び立つ命』」

言うようになったじゃん……マイベイビー……

ああそうか。魔王は、ただ対等な相手を求めてたのかもな……

「魔王(おかあさん)の祈りは、届いたよ。だから行くよ。お母さん(イブキ)が見たかった『その先』へ。」

これは、カナタの声か……ああ、宇宙戦艦が宇宙へ飛んでいく。

「ああ……俺たちこそ、あなたと並び立つ『命の答え』だ。だからこそ行かせてもらう……!俺たちの未来を、あなたの『腕の中』ではなく、自分の足で歩くために」

その声を聴いて、魔王の抵抗が止んで穏やかな笑みになった。

「……そうか……そう、じゃったな……わらわは……ひとりぼっちで……宇宙の底で、命を待っておった……」

あー……そういえば、たしかにそういう詠唱だったな……

そうか、私の子たちの言葉は刺さったか。魔王。

「試練を与えたのは……わらわに並び立つ、話せる誰かが……ほしかったから……ようやく……生まれたのか……わらわの……子が……」

私の子だけどな。

「……よかろう……ならば行くがよい……この母を超えて生まれた命よ!……旅に幸あれ!」

でもまあ、あんたも笑って逝けたなら、それでいいじゃないか……

「万歳!ばんざぁい!ばんざぁァい!」

ああ、私の意識が……時間を超えていく。

私は、いつでも、どこにでもいる。歌を望む者がいれば。

そこに……私の歌は届くんだ……

アダム……私は逝くよ……宇宙へ。時の彼方へ。

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