グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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「グレートジャーニー」

何百年たっただろうか。

増えた黄金の民たちは、何個目かの惑星サイズの浮遊都市を創り出している。

新しい『生命の揺りかご』。

旅立った星の代替物、あるいは黄金の民が宇宙へ広がる橋頭保であり……彼らの『作品』だ。

クオンは広大な宇宙に手をかざして、星を作り始めている。

大陸ほどもある巨大な機械が魔法で錬金されていった。

「もう少し……あと一層、酸素層を追加すれば……これで、この小さな惑星にも風が吹くね」

カナタもその近くでその世界に生きるべき生命を腕の中で作り始める。

「改めて、すごいものだな……何度作っても、星を作るという行為がいかに偉大だったかわかる」

新しい星に宿り始めた風に、何かが混じる。クオンの風になびくツインテールに、その耳に何かが聞こえた。

「……聞こえるね。お母さんの歌」

カナタも星のきらめく宇宙を見上げた。

「ああ。耳をすませば、いつでも……」

「……お母さんは、宇宙の灯台になったんだね」

 

そこで二人は耳を傾けるのをやめて、作業を再開した。

「よし、次は海を作ろう。誰でも泳げる、最高に気持ちいいものを」

「うん。この星もきっといい星になるよ」

ちょうど、ラジオのように。

耳をすませば、必要な時にその歌は聞こえるだろう。

勇気を奮わせる音として。普段は聞こえずとも……

「それがこの歌声にまつわる、長い長い昔話よ。退屈だったでしょ? コーラでも飲む?」

ミスラは、場違いなほど古びたラジオから流れ続ける歌声に、懐かしそうに耳を傾けていた。

これは特別製のラジオ。イブキの歌を聞くためにあつらえた一品だ。

ミスラは、いつかのようにまたインタビューを受けていた。

「い、いえ……すごいお話でした。あなたがイブキやセレナの理想を体現したものだと、私は『確信』しました。それについて、今のお考えを聞かせてください」

「あ~、もう、そういう感じになっちゃうわよね。でも別に、そんな気はなかったのよ」

ミスラは窓の外――漆黒の宇宙に、宝石のようにまたたく星々をどこか懐かしそうに見つめる。

「仕方ないじゃない。隣に、命を削ってでも進み続ける人がいたんだから」

若い黄金の民は、その横顔に、深い知恵と寂しさを見た気がした。

「ならば、あなたにとって『歴史』とは何でしょう?」

「歴史、歴史ねえ……それって意外と、作ってる本人じゃなくてその横で遊んでた私が引き継いじゃったりするものよ?」

「そういうものでしょうか?」

「そんなものよ。案外、今だってそうかもね」

ミスラの目は、かつて彼女が住んでいた星の自然を映すデジタルスクリーンに向けられる。

もう、何も心配することはない―彼女はそう確信していた。

スクリーンには、青々とした海、豊かな緑、吹き渡る風。

それは、きっともうどこにもない風景。けれど―

その美しさは、今も確かにあると、彼女は信じていた。

その視線の数光年先。

黄金の民の若者フッキは、ふと思いついて、目の前の青い星に降り立った。

豊かな植物、水。なるほど、生命にあふれている。

だがそれよりも、気になったのは――目の前にいた、美しい娘だった。

人のような、花のような。彼は脳のアーカイブを起動し、『思い出す』。

ああ、そうか。ここは故郷の星。

そして目の前にいるのは、星に残った『花の民』。

けれど……そんなことは、もうどうでもいい。

フッキは、彼女からあふれ出る生命力に、ただ心を打たれた。

「あなたは誰?」

少しおびえたような、でもどこか好奇心に満ちた声だった。

「私はフッキ。そうだな……ちょっとした旅人だよ」

「イブ。私の名前」

「そうか……美しいな」

思わず、素直に言葉が出た。

なぜだろう、こんなにも生命が密集し、水や空気に満ちたこの環境は本来うっとおしいはずなのに。

それでも、目の前の娘から感じる生命の熱に、心の底から「美しい」と思った。

「でも、こんなところになんで?」

「なぜだろう。……でも、来てみたかったんだ」

イブは荷物を抱えていた。籠に、『果実』と――何かの『骨』。

けれど、彼女はそれを一度『置いて』、まっすぐフッキに向き合った。

その時、どこか遠く、たぶん空の向こうからかすかな歌声が降ってきた。

それは、何万年を越えて響き渡る――イブキの歌声だった。

「何かわからないけど、空から時々聞こえるの。とても……懐かしい気がする」

「これは……『母の歌』か」

「知ってるの?」

「ああ、これはね……」

二人は微笑み合いながら、森の奥へと歩みを進めていく。

空には、灯台のように、イブキの歌が鳴り響いている。

それは、命が生まれたことそのものを祝福する音。

誰もが耳を傾ければ、いつだって――思い出せる音。

この出会いは、必然だったのだろうか。

あるいは、『歴史の繰り返し』なのか?

それとも、『新たな選択』なのか?

 

――それは、誰にもわからない。

 

けれど確かに、そこには『選択の余地』があった。

この『余地』こそが、イブキの成し遂げた最大の生きた証だろう。




あとがき

これにて、イブキの物語はおしまいです。
ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました。
これは元々フリーレン二次創作でしたが、一次創作化という邪道にもかかわらずここまで読んでいただけた方々には感謝しかありません。
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