グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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真剣魔族しゃべり場

「残りは無貌のセレナか……あいつ絶対に居場所つかませないんだって?」

「彼女の家ならば俺が知っている。案内しよう。きっと三人で話せばもっと何かがつかめるはずだ。俺はその何かを知りたい」

「おう、いいじゃん。それって『心』じゃないの?」

「かもしれないな」

 

『最強』のアダマスがなんか知ってたわ。

しゃあっ、この調子でバンバン仲間を増やしていこうぜ!

 

「セレナよ。あなたが噂の変わり者さん?」

「イブキだ。おめー魔族らしい魔族だな……」

 

なんか「近所の素敵なお姉さん」みたいな品のいいゆるふわした恰好の女が出てきた。

家もこじゃれたログハウス風のおしゃれな家に住みやがって……

頭には小さな二本角。細長くて牙のような形だ。

タッパも体形もあたしと同じチビだ。

でも、方向性が酒カスバンド女とゆるふわお姉さんなので対極に見える。

 

「そうかしら。私は自分を変わり種だと思うけど」

「その面でわかるよ。魔族で満足ですって顔だもん」

「あなたは逆ね。一秒でも早く進化したいって顔」

「だろうね」

 

コイツ気があわねえー!!

問題は魔力量で同等でも多分腕っ節だと負けることだよねえ……

強そうだもんこいつ。見るからに魔族的にはサドの顔だもん。

どうしようかな……

 

 

私達はセレナからお茶でも飲みながら話しましょう、と言われて家に来た。

コイツ人間のフリを楽しんでやがるな……まあ私もそうっちゃそうなんだけど。

 

「すげーコレクションだな。……まるで私達と人間の関係だ」

 

鳥とコウモリ、サメとシャチ、カニとタラバガニ。

あるいは犬と狼、虎と猫。

すべて『似て非なる動物』の標本が『きっちり』と箱詰めして並べられている。

 

「わかるのね。そう、これは魔族と人間の関係を表してるの。似てるけど全く別の生き物なのよ。共存なんて無駄だと思わない?魔王様も、あなたも」

 

品の良いくつろげる感じの空間だった。丁寧な暮らしとかしてそう。

私達は丸テーブルに三人で座ってお茶してる。うまいねこのクッキー。

 

「可能不可能で言えば可能だよ。どういう形になるかでクソさが決まる」

「へえ……アダマスでもわからなかったことがあなたには解るのね。これで4人目というわけね。最初の一人は魔王様。次は私。そしてあなたが殺したナザルが共存の形について理解していたわ。あなたはどのくらい理解しているの? どういう形の共存があると思う?」

「俺もそれは気になるな。いや、ぜひ聞かせてくれ。セレナはそれを聞くといつもはぐらかす」

「それはあなた自身の知る楽しみを奪わないためよ。自分で実験してみなければわからないこともあるはず。で、あなたの考えは? イブキ」

 

めちゃくちゃ早口で喋るじゃん……そんでもってナチュラルに煽りを入れてくるじゃん……

これ話すの長くなるから面倒なんだよな。楽しい話でもないし。まあいいや話そう。

 

「パターン1、人間が魔族の家畜になる。最悪の形は人間牧場だけど、比較的穏当なのだと魔族が人間にとっての神になってたまに生け贄を捧げれば良くて、それは人間にとっての名誉にすればいい。1発2発ヤらせてやれば喜んでやるだろ」

「ええ、そうでしょうね」

 

セレナは楽しそうに、アダマスは困惑した様子だ。こいつ部分的にクソボケになるよね。魔族だわー。

 

「それは……俺は、何か嫌だ。共存とは思えない」

「でも共存よ? 牛と人間は共存しているわ」

「そうかもしれないが……俺は、もっと違う穏やかな形が良い」

 

アダマスのやつ本人的には穏やかな生活したいらしいんだよな……

最強すぎてバトルつまんない勢だから。

もうセレナとつきあっちゃえば?

二人で丁寧な暮らししてろよ……お似合いだよ。

 

「だからパターン2、魔族が人食いも殺人も辞める。そんだけで100年もすれば向こうから和平を申し出てくる。だって私らメチャクチャ美形だから」

 

人間はルッキズムの塊だからな。

美形の私たちが涙ながらに言い訳したら信じちゃうんだよ。

まして平和だとな。

 

「あら、あなたは魔族に停戦が可能だと思っているのね。どうやって?」

「待ってくれ。なぜ人間を殺さないだけでそうなるんだ?」

「それは説明すると長くなるから後でな。とりあえずなんかわからんがそうなるってここでは覚えとけ」

 

でもアダマスにはルッキズムの概念がわかんないんだよね。本人美形なのに

魔族の姿かたちはあくまで人間を油断させるためのものだから、本人がその意味を自覚することはあんまないんだよ。

その代わりに魔力の量や質で美醜を判断してる。

 

「気になるな……まあいい、あとで必ず聞かせてくれ」

「わーってるよ。どうやっても長い話になるけどまあいいや……話すよ。けど酒飲むね。今ちょっと正気だからよ……イラつくんだ」

 

手が震えてきた。ママもよくこうなってたな……シラフでこんな真面目な話したくないよ!

 

「あーうめえ。で、えーっと……」

「魔族が人を殺さないようにする話」

「うん、それなんだけどさ。たとえ話いくつかするね。いい? いいよねありがとう」

 

『熊がガリガリにやせ細って死んでた。でも解剖したら胃には肉がいっぱい有った。傷も病気もなかった。なんでだろうな?』」

 

セレナは得意そうにお茶を飲みながら答えた。

 

「質問は受け付けてるかしら。たしかそう言うゲームよねこれ。ウミガメのスープ」

「そうだよ。ウミガメのスープだ。質問いいよ」

「熊は人食い?」

「人食いでもそうじゃなくても成立するね」

「じゃあ食べてたのは家畜の肉でも成立する? それは美味しいヤツよね?」

「そうだよ」

「解ったわ。熊は雑食性。でも一度人を食べた熊は人が美味しすぎて他のものを食べなくなるわ。それは家畜の肉でも同じ。雑食性というのは肉でも植物でも食べれるものではないの。どっちも食べなきゃ死んでしまうわ。だから、その熊はどこかで美味しい肉を食べて、それから肉しか食べずに植物性の栄養が足りなくて死んだのよ」

 

穏やかにカップを両手で挟んで名推理をするのが頭よさげで腹立つな。

実際魔族の中では頭一つ抜けて賢いんだろうけど。

 

「そうだよ。アタリ。そうなった熊は目の前に木の実が落ちててももう食わない。他の動物でもそういうのはいるよ。リスとかにお菓子を与えるともう今までの残飯とかが食えなくなる。まともな料理食ったらもう残飯は食えねえんだよ」

「ふふ、私たちみたいね」

「だろ?」

「……何か、掴めかけて来た気がする。続けてくれ」

 

『人間にもかかわらずエルフみたいに子作りしなくなって滅んだ国があった。なんでだろうな』

 

「そこは絵の上手い人がいた? 写真があったかしら? 製本技術は発達してた?」

「全部イエスだな」

「それはよくできたゴーレムでも成立する?」

「そうだよ。もうそれで正解だ」

「どういうことだ?」

「つまりね、性欲を満たすような絵や写真、人間の代わりにセックスしてくれるゴーレムでそこの人間は満足してしまったのよ。性欲を満たすために子作りをする必要はなかった。代用品で全部足りてしまったから本物が要らなくなった。そういうことでしょ?」

「待ってくれ、イブキが言う共存とは、そのために魔族が人を殺さなくするための手段とはー」

 

私はへっ、と笑って吐き捨てた。

 

「そーだよ。私がステイツでやったこと全部だ。美味い飯! 良い酒! 最高の音楽! 人殺すより楽しい事に夢中になればそのうち殺す暇なくなるだろ」

「そんなことで……? 本当に可能なのか?」

 

アダマスは困惑した顔で尋ねる。こいつ、最強で探求心旺盛で、その割にウブだよね。たぶん興味があるのは人間の心だけであって、魔族っていうか自分自身はどうでもいいんだコイツ。

 

「例はもう出しただろー? これは詳細をぼかしてるけど全部本当だよ。生物はそれが自分の生存や種の存続に必要な本能でももっといい代用品があればそれで満足して滅ぶんだよ」

 

イラついてきたので、酒が進んでいくね。よくねえ飲み方だ楽しくねえ。

 

「イブキは魔族を滅ぼしたいのか?いやそうではないな。殺しは生存に必須というわけではない。ただ当たり前なだけだ。いやしかし……」

「『本物の料理を食べたリスはもう残飯が食べられなくなる』あなたは娯楽という代用品を本物以上のモノにしてしまうことでそれを可能にしたいのね」

「お似合いだろ? 人間の偽物の私達には。偽物が本物以上になるのは自分の身で実証済みだ」

 

セレナの笑顔が深くなる。こええよこの女……勘弁してよ。私は芸人であって喧嘩は強くないんだよ。

 

「あなたの考える共存は解ったわ。でも何故? どうして私たちが人間に遠慮して生きようという結論になったの?」

「またたとえ話で悪いんだけどさあ。人間の内臓に盲腸ってあるよな。昔は必要だったけど今はもう要らない内臓。それどころか下手すりゃ病巣になる不要品。私ああいう無駄大嫌いなんだよね。わかる?」

「そうね、人食いの魔獣から私たちは進化したけど、今は別に生存に必要というわけではないわね」

「むしろ害悪だろ。なんで人間なんてクソ種族を敵に回さなきゃいけないんだよ。なあ。クソだろ。なんで女神直々に世界の敵あつかいされてるんだよクソが」

 

女神はちょこちょこ聖剣とかの便利アイテムを人間に贈ってるんだよね……

神から直々にお前らは害獣だと扱われる屈辱わかる?

わかんねえよなあ魔族(ノンデリ)には。

 

「あなたが人間に対して『油断しない』魔族なのはわかるけど、少し意外ね。あなたは人間が好きだと思ってたわ」

 

まあ……個人的に好きなのはいるけど種族としてはカスだろ。

ちょっと自分でもびっくりするくらいすらすら暴言が出てきた。

 

「いや、あいつらカスだし……ヒトカスは金か見た目か腕っ節で地位を決めるだろ?そんでもって強いヤツは弱いヤツを舐め腐って絶対に調子に乗るし。ヒトカスのそういう所本当にキモいよ……ヤれると思ったら自分が死ぬかもしれなくても行く性欲モンスター。本当にカスの生き物だよ勘弁してくれ」

 

セレナは考えるフリをして溜めに溜めて煽り散らしながら笑った。

 

「部分的には魔族にも共通することね。それの例外となると……エルフ? あはは! おかしいわ。エルフになりたい魔族なんて……」

「適度に若い期間が長くて、頭も見た目もよくて、なにより自分の感情や欲ってやつの手綱をちゃんと握れてる生き物になりたい。それが人を食わない魔族が一番現実的だっただけだ。でもクソ大変だからこの世界を憎んでるよ私は」

 

しばらくセレナは笑ってたし、アダマスは考え込んでたし、私は酒を飲んでた。

 

「じゃあその頭の上にある魔力の変な揺らぎ……いえ、点滅している六角形のオーラみたいなやつもそのための自己改造かしら」

「……これ見えちゃったかー……なんでわかるんだよ」

 

たしかに、私の頭上には天使の輪っかみたいな六角形の輪がある。

わかりにくくしてるけど魔力で作った補助演算装置だ。

人体実験大好き『博士』から教わったもので、普通だったら気づかない。

魔力の奔流の中に隠れてるから。

 

「ええ、気になるわ。極小の迷路みたいな構造が無数にあってその中を魔力が循環して明滅してる……結界? いえ、似たようなものをどこかで……ああ、計算機だったかしら。何を計算しているの? ああそうか。それは思考を計算してるのね。人間の思考を? いえ、そうね。それは魔力で擬似的に作った脳でしょう。補助脳ってところかしら。すごいわね、どうやってそれを思いついたの?」

 

めちゃくちゃ早口になるじゃん……別方面で人間くさいよね。それでいてこの理屈っぽさは魔族らしい。モテそうだよコイツ。擬態がうまいのはモテ要素だからな。

 

「今まで出会ったカス共の一人がこれの完成品を持ってたからだよ。解りやすく言えばそういう魔道具だ。人間の脳の代わりをしてそいつの思考パターンを完全に模倣する。そいつら自身が自分が人間だと思い込むくらいにな」

「そう、人間の脳を模倣する道具を魔力で再現することであなたは人間の思考を身につけたのね。たった100年で千年生きた大魔族においつけたのもそれのおかげ。でも、それだけじゃないでしょう?」

 

あー、まあ対ナザル用に『魔族を殺す歌』を作った時に演算能力が足りなくって物理型の補助脳も増設したんだよね。つまり私は自前の脳も含めて脳が3つあるんだ。

 

「まあね、薬で自分の脳も改造(いじ)ったし、脊髄内に実体の補助脳もあるよ」

 

セレナはなんか勝ち誇った顔で煽りまくってきた。おもしれーけどあんまり近い距離感で会いたくない女だ……

 

「うふふ、あははは! あなた……自分では進化した魔族のつもりなんでしょうね。ええ、そうなんでしょう。でも進化したのはあなた一人だけ。あなたは魔族でもエルフでも人間でもない、この世でたった一人の怪物よ」

「自覚はあるよ」

 

セレナはアダマスの方を得意げに振り向いて煽り散らかした笑顔で演説する。

面倒だから私は今のうちにもう一杯、酒を補給しといた。

 

「ねえアダマス。あなたもこんな風になりたいの? 人間に頭を下げて。代用品の娯楽で満足して。何がなんだかわからない怪物になって。そんな共存が良いの?」

「俺、は……」

「諦めましょうよアダマス。魔族として自然に生きるべきよ。たしかにそれは人にとっては悲惨な共存かもしれないけど……それを選ぶなら、私の手をとって。魔族を辞めてまで人間と仲良しこよしに共存したいなら、あっちの手を取りなさい。ねえ、魔族の本能に従うべきよ」

「ああ、そうだな……魔族の本能に従うよ」

 

ええ……これ私も手を出さないといけない流れ?

テーブルに私とセレナの手が二つ。握手を求めるように出された。

アダマスは2秒悩んで、私の手を取った。

 

「……うれしいけど、やめとけよ。地獄へ道連れだぜ?」

「なんで? アダマス」

 

セレナの顔から表情が消えた。ざまあ!

 

「魔族の本能に従っただけだ。魔族は知りたいと思った事を知るまで止まれないんだ。俺は、俺がどうなろうと何に成り果てようと。それでも人間の『心』というやつを知りたいんだ」

 

その瞬間に、ゆらりとセレナの魔力が揺らぎ、無数の剣が『錬金』されて私達を囲んだ。

 

「あらそう……それは、かなり困ったわね……そうね、もっと『お話』しましょう。そうすればきっと解ってくれるわ」

 

お話と書いて拷問って読むやつだろそれ。

 

「あー……まあ、こうなる気はしてたよ……」

 

やりたくねえ-! こいつ絶対強いよ! だがここで引いたら女が! 女がすたる!

 

「やってやるよ!表に出ろこのメス豚がーっ!」

 

 

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