愉快なハウンズの、幸せ家庭犬計画。   作:犬(ゆきいろ)

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何故か冒頭から犬ではなく猫がはえてきてしまった。


喫茶山猫軒

江戸川コナンはむっとばかりに端正に愛らしい顔を歪めて小さくため息をついた。

原因は今抱えている購入したばかりの一冊の本。目当てのコレがなかなか見当たらずに、小さな体で探し歩く羽目になり、6歳児童の肉体はくたくたに疲れていた。

 

そもそも買う予定は無かったのだ。著者は顔のいい某俳優。ジャンルも普段は手に取らない類のもの。なんなら出版された事も気づかずにスルーしていたかもしれない。

ただ一つ問題が。帯の推薦文がコナンの、正確にえば工藤新一の父が書いたという事だ。

翻訳されたものが各国で出版されている世界的な作家に、推薦文を依頼するのにいったいいくらかかったのかと恐ろしく思う一方、真実『推薦』したいと思えば依頼料など関係なく書いているかもしれない。

 

再び幼い顔をむっとさせる。

高校生男児が素直に親への尊敬を表すのは、照れ臭く難しく、認めがたい。だが間違いなく父を尊敬している。

 

つまり、この本の著者の顔のいい某俳優は、尊敬する父に認められたのでは? と、敵愾心に似たものを抱いた。

己の目で確かめなければならない。そう思い立ち、購入予定の無かった本を必死に探した。

一瞬脳の奥の方で『親が他所の子に構って拗ねたガキみたいだ』なんて思考がチラ見えしたが見気づかなかった事にした。

 

前述のとおり、大変の顔のいい俳優は、作家としては無名であるがファンが大勢いた。そして本の帯に撮りおろしの写真が使われ、内容などには目もくれず、帯目当てで買う人間が大勢出たのだ。一人が数冊買う現象もおきいてた。ついでに世界的な有名作家の推薦文も、多大なる効果を発揮している。コナンと同じように、普段なら興味を持たない層も、手に取っているのだろう。

 

その為、なかなか入手出来ずに歩きまわる羽目になった。

大きな書店よりも、町の本屋の方がまだ可能性があるかと巡ったのもその原因。ようやく見つけた時には、普段の小学一年生単独での行動圏内から大きく外れた街並みに居た。

 

ついでに空模様も怪しく、今にも雨が降り出しそうで、実に散々な気分になる。ネットの天気予報を見れば、通り雨のようだからどこかでやり過ごすかと、見慣れない街並みを見回す。

 

喫茶山猫軒 LYNX HOUSE

 

そんな看板が掲げられていた。

山猫軒といえば、宮沢賢治の注文の多い料理店が思い浮かぶ。だがあちらは『WILDCAT』と表現されていが、この看板には『リンクス』となっている。

喫茶店のオーナーの拘りか、逆に拘りが皆無の為の投げやりな命名だろうか。

 

そんな思考が持ち上がるが、ぽつりと鼻先に落ちた雨粒に、それ以上は考えずに扉を押し開ける。

少し重い木製の扉に下がる、籠ったベルが鳴った。その段階で、はたと気づく。

本来こんな低学年の子供が一人で喫茶店へ入ることなどできないものだ。あまりにも下階にある喫茶店へ入り浸っているので失念していた。

 

「おかえりなさいませ! ご主人様!」

 

出迎えたのは、猫耳付きのホワイトプリムを着けた少女。私服と言い張れなくもないカントリー調のエプロンドレス姿だ。

メイド喫茶か否かの判断は難しい。

 

「すいません。まちがえました」

 

だが結論を出す前に、反射よろしく回れ右をしていた。

 

「ああ~! ごめん! 間違えてない! 間違えてないから! お客様ぁ! 間違えではございませんお客様ぁあ!」

 

喫茶店の入り口で、大きく見積もっても中学一年生程度の女子と小学一年生男子が押し問答をしている光景。実に不審だ。

 

「喫茶店! 普通の喫茶店だから! ちょっとふざけちゃっただけだから! 今日お客さんゼロで暇の~! 帰らないでお願い!」

 

よほど暇を持て余していたらしく、腕にしがみつく勢いで引き留められている。

 

「わかった! 帰らないから! いや、力が強いな……!?」

 

身長から鑑みた体重差は倍ほどはありそうだが、それにしたって少女の力が強い。

 

「でもいいの? ボク一人なんだよ?」

 

入店後すぐに思い至った通りに、小学一年生が一人で喫茶店で飲食できるのかが問題だ。

 

「でもお金あるでしょ?」

 

青い瞳を瞬かせ、少女はコナンの抱えた書店の紙袋を指さす。確かに買い物をしてきた形跡があり、無銭飲食する気はない。ただ、いくら支払い能力があるからと言って、一人でやって来た小さな子供を『客』として扱うかは難しい話だ。

 

「……お姉さん何歳?」

 

髪は黒いが、青い瞳に東洋人とは異なる顔立ち。明らかに外国の血が入った少女は、実年齢は見た目よりも幼く、だからこそ同じ目線で客と認識したのかもしれない。そんな思考で尋ねてみれば、悪戯っぽい笑みを向けられる。

 

「えぇ~何歳に見えますぅ?」

 

「そういうのいいから」

 

「ちぇっ」

 

ワザとらしく唇を尖らせてから、こちらのお席へどうぞ、と、随分奥まったソファー席へ案内されるのに、大人しく続く。

 

「ここの席周りからは死角になるから。子供一人が気になんならここどーぞ。普段私たちが細々作業してるから、ちょっと端に物おおいけど」

 

胸元の猫の形の名札には、可愛らしいレタリングで『LISA』と書かれている。本当に普通の喫茶店で間違いないのだろうか、不安になる字体と装飾だが、『年下』の少女の心遣いに感謝を伝える。

 

「リサさん? ありがとう」

 

「リザだよー。どっちでもいいけど。こちらメニューです」

 

もう一度ありがとう、と礼を言い受け取り開く。

きっと傍から見れば子供のお飯事に見えるのだろうと考えながら、シンプルで淡白に過ぎる印象を受けるメニューを眺める。飾り気のない写実寄りのイラストと、神経質そうな手書きの文字は読みやすい。

 

「じゃあ、オリジナルブレンド。アイスで」

 

「はーい」

 

普段なら現在の姿のために、止められる事の多いコーヒーを当然の様にオーダーし、当然の様に受け入れられる。

リザは何も言及することなく、頷きキッチンが有るのであろう奥へ向かう。『えいぷーブレンドーアイスー』と客の耳に入れるには少々粗雑な声が響く。

 

しばらくすると、慣れた手つきでコーヒーが提供された。流れでテーブルの端に置かれた伝票は、当然の筈なのにどこまでも飯事染みている。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

これまたお決まりのセリフを、慣れた様に添えて離れていく。メイドカフェ染みた出迎えは、相当に暇だったからなのだろう。この喫茶店の子なのか、動きに少々子供っぽさはあるが接客に淀みがない。

 

目の前に置かれたコーヒーへ視線を向ける。ミルクとガムシロップには触れずに、まずはそのままとストローに口をつける。

ほろ苦く香ばしい、酸味は控えめだが後味が華やかなコーヒーだ。嫌いではないな、と結論付けた。

 

一息ついて、さて、それではこの『敵』に取り掛かるかと書店の紙袋から例の本を取り出す。それと同時にドアベルの籠った音が響き、ぱたぱたと小さな足音が続く。

 

「おかえりなさいませ! ご主人様!」

 

そして自身も食らったリザの悪ふざけが耳に届き、つられて視線を上げる。周りからは死角になるらしいが、席からは店内が良く見渡せた。なるほど。確かに手の空いた店員が腰かけ、ちょっとした作業をするのに向いた席なのだろう。

 

「あ」

 

少しだけソファから伸びあがって向けた視線の先、小さな店員の悪ふざけを真正面から食らった新たな客は見知った人物だった。

 

『安室さん』

 

知覚した通りに呼びかけようとしたが、直ぐに音が喉の奥に引っ込む。何故か、今は声をかけるべきではないと感じた。

そんな、ぴんと張った、触れれば切れそうな空気がある。浮かせかけた腰をそろそろと戻し、浅くソファに腰かけ入り口を注視する。

 

「……君が、リザ・ヘイズ?」

 

「そだけど?」

 

名札を見たのだろう、少々戸惑った問いかけに、少女も訝しむようにしながら肯定する。

 

「彼の紹介です」

 

小さく白く、弱く光りを返す紙片は名刺かなにかだろうか。不審そうに首を傾げながらもリザは確認する。長身の成人男性と、猫耳付きのホワイトプリムを着けた小柄な少女の組み合わせは、先ほどのコナンとの物より一層なにかの真似事、ごっこ遊びに見える。

 

その筈なのに、何故か妙な緊張感が張り付き身を固くする。

 

「あぁ~。こっちのお仕事もう廃業してるんですよぉ。すいませーん」

 

年齢を尋ねた時同様の、わざとらしい声音で謝罪している。彼女には喉がひり付くような緊張感が伝わっていないのだろうか。

 

「『リザ』という女性なら金額によっては依頼を受けるだろう、と」

 

「私が小切手に『まる』書いていいならいいよ」

 

柔らかい声だが子供に対するには硬い口調に、リザは怖気づく事もなく悪戯を企む様に笑って答える。

無邪気な子供の笑い声、または『そんな事出来ないだろう』という嘲り。しかしそれにすぐに了承し、再び何かを手渡す様な動作を見せる。

差し出されたそれを受け取ったリザは、次の言葉に小さく飛び跳ねた。

 

「ええ。勿論。『悪名高きハンドラー・ウォルター』とその猟犬達についてお話して頂けるなら、お好きなだけどうぞ」

 

「えっ。え~……めっちゃ『まる』書こ~……。こちらのお席にどーぞぉ……」

 

 

 





・喫茶店を営む愉快な山猫たち

いろいろあって早期退職(非・円満退職)をキメ、元勤め先が許可した地域の中から日本を選び元同僚連中で喫茶店を始めた。男性一名、女性六名で店をまわしている事になっている。野郎一名の負担がデカい。が、本人も仕切りたがりなので問題ない。
基本的に仲間意識はほぼない個人主義の猫の集まり。
それぞれ好きにやってるので、猫たちの内でも価値観の相違が起こる。許容できない奴がでたら平気で殴り合いを始める。殴り勝った方が正義。興味なければ特に止めたりはしない。好きにやってろ。そして責任もてめぇで取れ。そんな集団。
ただ一応、前の勤め先とのコンプラ関係と、ハンドラー・ウォルターとその猟犬たちには出来るだけ触れないようにしよな。とは取り決めていた。あんまり関わりたくねえ。と、皆の意見が一致した。ちょっと個人主義猫たちには理解できない集団だった。こわ。

小切手にたくさん『まる』を書いたリザはペンギンコラの様に叱られた。
ちょっとしょんぼりしたが、全く懲りてない。
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