後世の歴史に告げられるであろうその一時。
裁判所で、手枷をはめられ、身体は柱へ縛られ、魔法封じの首輪がつけられたエルフへ向かって、その裁判を取り仕切っている男が口を開く。
「――判決。懲役5690年」
その瞬間、周囲には安堵の雰囲気が満ちた。
前代未聞である個人での滅国を成し遂げ、ただの一晩にして大国を亡きものにし、
魔術における畢竟と称されたその栄誉を捨て、邪道に堕ちた生ける悪魔。
『滅国』のエルフ――ラスティン・セワルーグの投獄をもって。
無論、投獄と言ってもただの監獄ではない。
死刑では到底償いきれぬ罪人が落とされるその監獄は、課せられた懲役を償いきるまで寿命が止められる。
悠久とも思えるその時を過ごし、その後死刑に課される、神代の監獄
周囲の安堵の雰囲気に紛れ、投獄される本人であるラスティンも、妖しげな笑みを浮かべていた。
まるで、計画通りだとでも言わんばかりに。
★
幼少の頃、焼かれる故郷を見て、理解した。――この世界は、あのゲームの中だ。
俺が前世で死ぬほどのめりこんだゲームの、過去回想のワンシーンで、確かにあった。
ゲームの考察勢が時系列整理したところストーリー開始の1000~2000年前の時代に起きた出来事だったと記憶している。
そのゲームは2章構成。第1章に邪神復活阻止編。第2章に真相編とでもいうべき、光の女神討伐編。
ストーリーを簡単に言うなら敵と思ってたやつらがそんな悪い奴らではなく、主人公に力を与えていた女神が悪者だったという話だ。
そしてその過程で、1章の敵陣営のキャラたちは、まあしょうがないとはいえ主人公陣営に殺されてしまうのだ。
これがただの、同情の余地もない非道な敵なら気にせず見られたのだが、ゲームでは敵陣営キャラの性格、愛情や信頼など関係性を緻密に描いていたり、もし何か一つ歯車が違っていたら主人公たちと笑っていたのではないかと思わせる描写が、俺の心の中にモヤモヤを残した。
強引だが、例えば、最終決戦で、互いに手を取らなければ打ち倒せない強敵が現れたならば?
きっと、彼らは手を取り合って、共闘する。
ゲームでは有り得なかったそのイフ。
ならばその世界に転生した俺が、共闘しなければ打ち倒せないボスになれば、バカみたいなご都合主義も、現実になるのではないか。
そう思ってしまった。
とはいえ、エルフの寿命がだいたい二百年。
つまるところ、俺はゲームのストーリーまで生きることなく、死ぬ。
そう気づいた俺は、どうにかストーリー開始まで生きられないか考えた。
自分でストーリーを思い返しながら、もんもんと頭を悩ませた日々。
その時、俺は気づいたのだ。
ストーリー序盤で起きる、敵陣営の
邪神を復活させようと目論む敵陣営が、収容されている『邪なる忌み子』を引き入れることと、史上行われたことのない
……それしかないよな?
確実にストーリーに合流出来て、なおかつ
まさに俺の求めていたものだった。
唯一にして最大の欠点は俺が
それこそ他国の国民を全員殺すレベルの罪を犯さないといけないからだ。
そんなふうにどうしようかともんもんと考えながら旅を続けていたある日。
入った国の国民が全員死んでいた。
魔法で、みな一律に心臓をくり抜かれて死んでいた。国を滅ぼす単位の魔法。もはやそれは魔法というステージから脱却していた。魔法の痕跡から感じられるのは、この世全ての恨みを込めたような怨嗟の叫び。
いったいどれほどの犠牲、生贄、いや……。
魔法の痕跡を辿ると、自身のラボに籠る1人の男に行き着いた。
この虐殺の首謀者だったので、殺した。
そしてその部屋を漁っていたとき。
昔から顔を知っている、同じ村出身のエルフ、ワールズが俺と同じように魔法の痕跡を辿って、俺のいるところまでやってきたのだ。
呆然とした顔で、彼は俺に言った。
――……お前が、やったのか?
震える声で、信じたくないといわんばかりの顔で。
俺が殺した魔法使いは、1つの国を滅ぼしていて、その行為を今なら俺がしたことにできる。
俺は笑った。
――ああ、そうだ。
あとは1000年くらい大罪人として檻に入れられておけば、ストーリー合流というわけだ。
★
「セワルーグ……」
全てが終わった、静寂の裁判所。既に人影はなく、ただ一人エルフの男のみがポツンとたっていた。
苦々しく呟いたその言葉は、誰の耳に入ることもなく消えていった。
「俺は……どうすればよかったんだろうな」
金髪に翠眼。エルフの特徴を引き継いだその美丈夫は、悲しげに顔をうなだれる。
彼は、セワルーグの幼なじみであった。
「焼かれた故郷を、唖然と見ていたお前を、もしかしたらあそこで……」
あそこで、手を取らずに放っておけば。あんなことは起こらなかったはずだ。
「心の中で人間に対する復讐の業火で燃えているお前に、どこかで気づけたら……」
何かが、変わっていたかもしれない。
突如として一切の連絡が取れなくなった大国に対し、周辺諸国が結成した調査団の団長として任命された男は、生存者無きその国に足を踏み入れ、ついには魔法が発動された場所まで特定した。
そして、そこには家族同然に育ってきた
ワールズが問い詰めると、退廃的で、気だるげで、ニヒルなその表情を一瞬凍らせ、昔の溌剌さを思い起こさせる笑みを浮かべ、罪を認めた。
だが、抵抗のつもりもなく、ただ、ありがとう、と耳元で言い残し、捕まった。
男は英雄になった。
「セワルーグ……」
まぶたを閉じれば、己と同じ金髪に翠眼で、周りと比べても若干小さめの背で、本人はそれを気にしていて。
「……」
きっと
「……」
もう
「……」
会えないだろう
「……」
――本当に?
「……」
あれが、ただあの監獄で、長い懲役と、その果ての死を待つのみか?
彼女が投獄される監獄、
今までの歴史上脱獄や襲撃はなく、それは逃げ出すことの出来ない徹底した管理と攻めさせる感情を起こさせない圧倒的な武力からだ。
だからこそ、彼女が脱獄できる可能性など、ない。
――そしてだからこそ、誓約として成立する。
「……おれは、セワルーグが脱獄した時、蘇ろう」
魔力で強化した手で胸を刺した。