囚人ラスボスTSエルフ   作:ゴンの助

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第10話

「ああ、そういえば」

 

 

 俺は学長に伝えておく。

 

 

「そのうち、ここには勇者たちが来る」

 

 

「そのとき、もし私について尋ねられたら、濁してほしい」

 

 

「──よろしく頼む」

 

 

 彼らに俺の滞在がばれるのは少々不都合だ。

 

 

 それに、ラスボスは神出鬼没でなければ。

 

 

 さて、彼らが仲間として引き連れてくるのは武闘家か? 剣士か? 弓使いか? はたまた、彼ら二人のままだろうか……

 

 

 

 ★

 

 

 

 ア・モルフェ魔術学院の威容は遠くから見てもものすごかった。天を衝くようにそびえる中央の城は、知識と権威の象徴のように街を見下ろしている。

 

 一つの城を起点として城下には活気豊かな街が広がっていて、石畳の道を行き交う人々の喧騒、露店の呼び込みの声はまるで王都のようで、単に学院と称するにはあまりある。

 

 

 けれど時折聞こえる魔法の詠唱や、爆発音らしきもの、街を歩く魔術師の多さに、まぎれもなくここが魔術学院であると象徴していた。

 

 

 ワールズさんは、周囲の喧騒や壮麗な建造物にも特に表情を変えることなく、ただ静かに佇んでいる。彼の視線は、時折、魔術学院の城の頂上へと向けられていた。

 

 

 僕が物珍しそうに周囲を見るのに対し、ミーファは勝手知ったる顔でずんずんと進んでいく。

 ここは彼女の第二の故郷のような場所。頼もしい限りだ。

 

 

 僕と彼女が生まれたのは辺境の片田舎だ。

 しかし彼女は片田舎の人間が見てもこれを世間に出さないのはもったいないと思うほど才にあふれていた。そういうわけで村のみんなが共同でお金を出して、彼女を一年間魔術学院に通わせるという話しになったのだ。

 

 

 その中で学長さんにその才を認められ、その後は彼の援助で卒業までここにいた。

 

 

「そういえば、宿とか探さないといけないね」

「ううん。大丈夫。学長に頼んで学院の部屋を貸してもらう」

「本当かい? それは助かるね」

「ん」

 

 

 そう話しながら、学院へと向かう。

 

 

 学院の正門を抜け、来訪者用の受付へと向かった。ミーファが受付の魔術師に自身の名を告げ、学長への面会を申し込むと、すんなりと許可が下りた。

 

 

「すんなり進むね」

「ん。魔術師はわりと……ひまだから」

「そうなんだ……」

 

 

 最上階にある学長室の扉は、重厚な木材で作られ、威圧感すら漂わせていた。ミーファが深呼吸をしてから、扉をノックする。

 

 

「入れ」

 

 

 扉を開けると、そこには無数の書物に囲まれた大きな机があり、白髭を豊かに蓄えた老人が座っていた。ア・モルフェ魔術学院学長、その人だ。

 何やら熱心に書物に目を落としていたが、区切りのいいところまで読み終えたのか、少ししてからこちらへと顔を向けた。

 

 

「久しいの、ミーファ。息災であったか?」

「ん」

 

 

 僕らを一瞥し、エルフだとばれるのを防止するためにフードをかぶっているワールズさんに一瞬視線が止まってから、けれどすぐにミーファへと視線を戻し穏やかに笑った。

 

 

「ここにはどれほど泊っていくのじゃ?」

「まあまあ」

「そうか、では部屋を用意しようかの」

「ありがと」

 

 

 学長さんとミーファは少し他愛もない会話をしてから、本題に入る。

 

 

「──それで、君たちはなにゆえここに来た?」

 

 

 代表して、一歩前に出る。

 

 

「はい。すでにご承知おきの話かと存じますが、かの監獄が破られた件に関係しております」

「タルタロスか」

 

 

 学長さんの声には、動揺のかけらもなかった。

 

 

「私たちはタルタロス破りを決行した邪神教団と矛を交え、その途中交戦したものが『滅国』ラスティン・セワルーグであると突き止めました」

「それで?」

「何か彼女についてご存じでしたらお教え願いたいです。エルフを見たとか、少しでも彼女に関係していそうな情報があれば、なんでも」

「ふぅむ……」

 

 

 学長はひげを数度撫でて、こちらを向いた。

 

 

「知らんのう、何もかも。ま、そのラスティンの情報が入ったらそっちに伝えよう」

「ありがとうございます」

 

 

 ミーファが肩をトントンと叩いてきた。

 僕はすこししゃがんで、彼女は耳打ちをする。

 

 

「学長先生、昔のこと嫌いだから。もしかしたら、それで機嫌悪いかも」

「なるほど?」

「だから、この部屋の本とか全部現代魔法が──」

 

 

 そういって彼女は学長さんの書斎へ目を向け、え、と声を漏らした。

 そこには古代魔法について書かれた本が所狭しと並んでいた。

 

 

 別に妙なことではないと思うけれど……どうかしたのかな? 

 サーっと血の気が引き、顔が青くなっていくミーファ。貧血か、少し休もうと声をかけようとしたところで、ミーファが声を発した。

 

 

「──せ、せんせ、その本……」

 

 

 彼女の声は震え、信じられないものを見たかのように学長さんを指差していた。

 

 

「──すまない。老人、お前からはうそを感じる。何かごまかしていることは?」

 

 

 そんなミーファの声を遮って、ワールズさんが前に出た。

 うそ? 学長さんに? 

 

 

「なにゆえ偽りを感じると? 答えてみろ」

「……いや、こちらも誠実でなかった。こちらの事情を開示しなければ双方信頼ができないのは当然か。いいな、人の子?」

「え、あ、はい」

 

 

 確かに突然来て情報だけ教えろというのはぶしつけだったかもしれない。

 

 

 ワールズさんは、ためらうことなくフードを脱いだ。彼の尖った耳と、端正な顔立ちが露わになる。

 

 

「俺はワールズ。見ての通りエルフだ。そして、セワルーグの同郷でもある。セワルーグが脱獄したときに俺は過去から蘇り、奴を追うことを使命としている」

「なんと……」

 

 

 学長さんが目を見開く。その表情には、純粋な驚きと、そして何かを察したかのような緊張の色が浮かんだ。

 

 

「あいつは過去、一つの大国を滅ぼした。それを野放しにするのは、民にとって、国にとって良くないことだ。俺はいち早くその対処をしたい。そうだな、いうなれば──己の国を滅ぼしたくなければ、知っていることを話したほうがいい」

「おっしゃる通りですな。それはそうするべきですのう。そのうえで語らせていただきますが、何も知らない。これにつきまする」

 

 

 ドンと学長さんの机を、ワールズさんが叩いた。その音は部屋中に響き渡り、緊張が一気に高まる。

 

 

「なぜだ? なぜそういう? わからんな、国よりも己を優先するか?」

「ほっほっほ、なぜそのようにおっしゃるか見当もつきませぬが、そうですなあ……その『滅国』とあなたの関係は、どのようなものだったのですじゃ?」

「俺は……あいつの、元親友だ」

「親友! それはすばらしい」

「……いったい何がすばらし──」

「ワールズさん! 学長さん!」

 

 

 割って入る。

 青白い顔をしたミーファが、がくがくと震え腰を抜かしたのだ。

 脈拍も早い。調子が悪いみたいだ。

 

 

 僕の声に呼応してこちらに向いた二つの視線は、ミーファの様子に気づき、ひとまずの休戦をしてくれた。

 

 

 学長さんへのあいさつもほどほどに、僕たちは部屋への案内をされていた。

 ワールズさんが口を開く。

 

 

「すまんな。少し、動揺した」

「学長さんがうそをついている、ですか。なぜそう思ったんですか?」

「……勘だよ」

 

 

 ワールズさんは少し、ばつが悪そうに言った。

 さっきよりかは調子を取り戻したミーファが、話す。

 

 

「実際、先生は、変になってた」

「ああ、古代魔法についての本があるのがすごく気持ち悪かった、んだっけ?」

「ん。おかしい。異常」

 

 

 そうなんだ……

 

 

 二人とも学長さんから何かを感じたみたいだ。

 

 

 僕は、まあ……ほら、人がいいから。

 

 

「でもあの様子じゃあ何も話してくれなさそうだね。でも、せっかくいろいろあるところだ。何か、ここでしかできないことあるかな?」

「んー……図書館とか。その『滅国』のことを知れば何か弱点とか見えてくるかも」

「そうだね、それに、ほら、ワールズさんのことが載ってる歴史書とかあるかもしれないしね?」

「余計な気遣いだ」

 

 

 ワールズさんが僕に軽くチョップを入れた。

 そんなわけで、それぞれ与えてもらった部屋に荷物を置いて、図書館に行くことになった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 ──ポス。

 

 

 石造りの図書館。見渡す限りの本棚の中で、彼女の時代について書かれているエリアに来た。

 

 

 落ちた本を拾う。

 

 

 文字ボケしていてところどころ読めないけれど、なになに? 

 

 

「女神さまの、本、かな?」

 

 

 教会にある聖書のどれでもない。黒色で、少しまがまがしさを感じるその本に若干の興味を感じた。

 

 

 せっかくだし持ち帰ってこれも読んでみよう。

 

 

 僕が勇者だからってことで、学院に滞在している間は好きに本を持って行って良いとのことだった。

 ありがたい限りだね。

 

 

 これも女神様が僕を選んでくださったからだ。

 

 

 ……祈っておこうかな。

 

 

「む。またか」

 

 

 そんな風に言うワールズさんの声が、響いた。

 

 

 

 ★

 

 

 

 部屋に戻り、扉を開ける。

 

 

 個室をもらえるなんてぜいたくだ。

 

 

 久しぶりにちゃんとしたベッドで寝れるなあ……

 

 

 ふわりと、紅茶の香りが鼻をくすぐった。

 

 

「こら、ミーファ、自分の部屋があるんだから自分の部屋で──」

 

 

 間食を取れたり、作業できるような丸机には、椅子が二つあった。

 そのうちの一つに誰かが座っていて、暇をつぶしに茶化しにきたミーファだと、そう思っていた。

 

 

「君は……」

「──久しいな、勇者。いつぶりだ?」

 

 

 そこには、足を組み優雅に紅茶を楽しむ、彼女の姿があった。

 

 

「ラスティン・セワルーグ……!!」

 

 

 そういうと、彼女はにやりと笑った。

 

 

「そこまでたどり着いたか。おっと、逃げるな。別にお前を殺そうと思ってきたわけではないんだ」

「……」

「ま、どう捉えようと好きにしろ。ただ、今日の私の目的は──啓発だ」

 

 

 見るものを魅了する笑顔で、彼女はそう言った。

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