囚人ラスボスTSエルフ   作:ゴンの助

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第4話

 パチパチと音を立てて焚き火が燃える。

 あたりはもう暗かった。

 

 

 僕と、親友のミーファはあぐらをかいてそれを囲んでいた。

 

 

「ん……教団のやつらと、遭遇した?」

「……ああ」

 

 力なく頷く。

 

「変な魔法を使う少女。エルフのね」

「エルフ? エルフって……エルフの?」

「うん、間違いないね。……金色の髪に、翠の瞳。それにとがった耳。確かにエルフだったよ」

「珍しい。殺しちゃった?」

「いや……殺されかけたね」

 

 苦々しく思い出す。日光も十分にあった。僕の最大の力を発揮できる場所であった。

 

 

 闇の魔法。僕の光を容易く打ち消し、氷の槍で容赦なく貫いた。

 

 

 あの時の、底知れない瞳。

 

 

 完膚なき敗北だ。ああ、弱いなあ、僕は。しかもそんな事実に気づかず僕は自分が強いと驕っていた。ほんとに馬鹿だ。

 

 

 僕の様子を珍しく思ったのか、彼女は少し目を瞬いた。

 

 

「まあ……無事? ならよかった」

「……とにかく、計画は決まった。やつらの本拠地は今回の探索で割れた。そうだろう?」

「ん……」

 

 

 こくりと頷いた。

 

 

 ならいい。本拠地の様子を聞くに、やはり奴らは出払っている。

 となると──

 

 

「明日、教団へ攻撃を仕掛ける」

「おー」

 

「──のは、やめよう」

「……え」

 

 

 なんで、と言わんばかりに訝しげに僕を見てくる。

 でも、僕からしたら当然の選択さ。

 

 

「今日気づいたんだ。僕の無力さに」

「……わたしもいるんだよ?」

「……すまない、ミーファ。君がいても、僕が今日戦った彼女に勝てるビジョンが見えないんだ」

「む……」

 

 

 彼女が、自身の魔法の調子を確かめるように、土の槍を作り出した。

 土属性。言わずと知れた最強の属性だ。環境を利用する魔法使いからすると、大地さえあれば使える土属性は最も安定して戦力になる。

 

 

 ……環境の利用? 

 

 

 ガバッと顔を上げる。そして、ミーファの肩をグラグラと掴んだ。

 

 

「この辺りに氷はあったかい!? 氷属性の魔法使いが魔法を行使できるような環境が!」

 

 

 彼女は目を白黒させながら答える。

 

 

「……なかったとおもう?」

「やっぱりか!」

 

 

 心の中で何かが解けたような気がした。

 

 

 頭の中には、エルフの少女が無から氷を作り出した光景が鮮明に浮かんでいた。

 

 

 そのことをミーファに伝えると、顎に手を当て、考え出した。

 

 

「……魔法陣はあった?」

「魔法陣とはなんだい!」

「ん……魔法を使うのに必要な、絵? みたいな……」

 

 

 絵? いや、そんなものは……

 

 

 ──いや! 

 

 

 あった、僕が身体に負った傷をいとも容易く治した時に、なにか地面に描いたものが! 

 

 

「確かに使ってた! そっか、あれが魔法陣──……いや、でも、一回のはずだ。氷の魔法のときは使っていなかった」

「……ありえない。無からの創造は『古代魔法』の特権。……効率が悪すぎて廃れたけど。……それに、魔法陣が必要だから発動まで時間がかかる。『魔法陣破壊(スペルブレイク)』が開発されたら完全にこの世から消えた。弱すぎて」

「でも、彼女の使っていた魔法は僕らのとは違う!」

「……『古代魔法』の使用者はもういない。実物なんて見たことない。この世でそれが扱えるとしたら……あの監獄の『畢竟』……あ、『滅国』くらい」

 

 

 互いに顔を見つめ、乾いた笑いが響いた。

 

 

「はっはっは……ありえないありえない」

「ん……そう。ありえない。目の錯覚」

「いやー、よかった〜〜……目の錯覚で」

「それな」

 

 

 ふー、疑問が解決してスッキリしたね。今日はよく寝るぞー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝冷静になってみたら何も解決していないことに気がついた。

 

 

「確かこっちの方で……」

「……あ、なんか開けてるところある」

「そう! ここら辺だ!!」

 

 

 昨日の戦闘の跡にとりあえず行ってみることにした。

 

 

 そしてそこへ向かうと、

 

 

 円状にポッカリと木々が欠け、これまでの起伏に富んだ地面とは異なり、歪なほど平らな空間が広がっていた。

 

 

 僕が木を倒し、彼女がそれを均した、昨日の戦闘の跡だ。

 

 

 少女が木々を氷に変え、砕いたそこは時間の経過により水に変わり、うっすらとした水たまりになっていた。

 

 

 そして、その水たまりの中心に──一人の男が立っていた。()()()()

 

 

 静かに、ただ佇んでいた。

 

 

 金色の髪が風に揺れ、翠色の瞳は閉じられ、まるで何かを探るかのように水面に片手を浸している。

 

 

 その姿は、周囲の自然とは明らかに異質な、それでいて神聖さすら感じさせる雰囲気を纏っていた。

 

 

 彼は、不意に閉じていた目を開き、浸していた手を静かに持ち上げた。指先から滴る水滴が、陽光を受けてきらめく。

 

 

「──ああ、やはりラスティンの魔力の残滓か。微かだが、確かに感じる。この懐かしい感覚……」

 

 

 その呟きは、僕たちに向けられたものではない。遠い過去、あるいは手の届かない誰かに呼びかけるような、深く、そしてどこか切ない響きを持っていた。

 

 

「……俺が蘇ったのならば、誓約は正しく機能していた。逃げ出したのだな、あの檻から……」

 

 

 ──昨日の彼女と、関係があるのか? 

 

 

 僕とミーファは視線を交わし、無言のまま頷き合う。僕は剣を抜き放ち、彼女は杖を構えた。空気が張り詰める。

 

 

 そして臨戦態勢に入ったところで、彼はようやくこちらに気づいた。

 

 

 ゆっくりと、僕らに視線を向ける。

 

 

「はあ。人の子か。ちょうどいい。供が欲しかった」

 

 

 その声には、侮りも、敵意も感じられない。ただ、絶対的な余裕だけがあった。

 

 

「動くな! 二人さ。妙な行動をしても勝ち目は──」

 

 

 警告を発しようとした僕の言葉は、途中で掻き消えた。

 

 

 彼は、ただ一歩、前に踏み出した。

 

 

 ザッ、と地面を踏み鳴らす音だけが響く。

 

 

 それだけのはずなのに、僕の全身が粟立った。空気が震え、呼吸が止まる。見えない壁に押し潰されるような、圧倒的な威圧感。

 

 

 彼は、ゆっくりと僕とミーファの間を歩いてくる。

 

 

 動けない。体が鉛のように重い。剣を振るうどころか、指一本動かすことすらできない。本能が、魂が、叫んでいる。この存在に逆らってはならない、と。

 

 

 彼は僕らの間を通り過ぎる刹那、まるで道端の小石でも払うかのように、僕の剣の切っ先とミーファの杖の先端に、その白い指先で軽く触れた。

 

 

 ──カラン。

 

 

 乾いた、間の抜けた音が響いた。僕らの得物は、まるで意志を持っていたかのように手から滑り落ち、無様に地面に転がった。

 

 

 何が、起きた? 

 

 

 呆然と、自分の空になった手と、地面の得物を見比べる。

 

 

 彼は、地面に落ちた剣と杖を一瞥し、静かに、しかし心の芯まで凍らせるような冷徹な声で告げた。

 

 

「これ。人の子。これはおもちゃでない」

 

 

 侮蔑でも、嘲笑でもない。ただ、揺るぎない事実を告げるような響き。

 

 

 ……ああ、駄目だ。

 

 

 打ちひしがれる、という言葉では足りない。

 

 

 全身の力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる。涙が、勝手に溢れてきた。僕の弱さに、無力さに。

 

 

 昨日、エルフの少女に敗北した。完膚なきまでに。それでも、まだ足掻けた。

 

 

 心の中で、どこか正当化していたんだ。きっと彼女が特別なだけだと。それ以外の人には負けることはないと。

 

 

 僕の「勇者」としてのプライドが、音を立てて砕け散る。

 

 

 なんのために女神様に選ばれたのだろうか? この程度の力で、何を守れるという? 教団の蛮行を止めると息巻いていた自分が、滑稽でならない。

 

 

 力が欲しい。

 

 

 プライドなんて、もうどうでもいい。

 

 

 矜持なんて、何の役にも立たない。

 

 

 必要なのは、この理不尽なまでの「力」。

 

 

 彼が、あの少女が持つ、圧倒的な力だ。

 

 

 同じエルフという共通点。最初の意味深な言動。

 

 

 ああ、彼は怪しいとも。昨日の彼女と近しい関係かもしれないのなら、彼が邪神教団の一員である可能性ですらある。

 

 

 でも、僕の勘が言っている。きっと、彼は邪神教団のものではないと。

 

 

 そして、これがお前に与えられた力を得る絶好のチャンスであると。

 

 

 盲目的? あまりにも都合がよすぎる? かまわない。

 

 

 僕はこの目の前に垂れてきた糸にただしがみつくだけ。

 

 

 次の瞬間、僕は行動へと移った。

 

 

 次の瞬間、僕は、これまでの人生で培ってきた全ての矜持を捨て去り、地面に両膝をついた。

 

 

 額を冷たい土に擦り付ける。

 

 

 震える声で、言葉を紡ぐ。

 

 

「僕を……どうか、僕を、……弟子にしてくださいッ!」

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 鬱蒼とした森を抜け、険しい山道をいくつか越え、ようやく視界が開けた。

 

 

 目の前には巨大な崖がそびえ立ち、ぽっかりと口を開けた洞穴が見える。あれが教団本部へと続く入り口らしい。

 

 

 洞穴に足を踏み入れると、ひんやりとした湿った空気が肌を撫でた。

 

 

 中にはいかにも邪悪そうな壁画がたくさん描かれていた。(そんなんだから邪神とか呼ばれてるんじゃないの?)

 

 

 内部は自然の洞窟を利用しているようで、道は狭くなったり広くなったり、天井も高かったり低かったりとしている。

 

 

 迷路のような洞窟をしばらく進むと、不意に強い光が差し込んできた。

 

 

 出口だ。

 

 

 眩しさに目を細めながら外へ出ると、そこは崖の頂上、広々とした平らな台地になっていた。そして、その中央に、荘厳な神殿が鎮座していた。

 

 

 神殿の造りとしては神殿と言われてまず思い浮かぶような、パルテノン神殿みたいな感じ。

 邪神信仰者たちの住処とは思えないほどの美しさだ。ただひとつ、上空に邪神召喚用の巨大な魔法陣が浮かんでいた。これはゲームでもあったなー。

 

 

 うひゃー……パッと見でも解析する気が起きなくなる複雑な構築式だ。

 

 

「うっは〜〜! すごいすごい!! これなら確かに邪神さまも呼び出せるよ!!! ボクが捕まる前に作っていたものなんて、これに比べたらチンケなものだね! テンション上がってきたァ!!」

 

 

 邪ちゃんが目をキラキラさせながら、魔法陣を見ていた。ぴょんぴょんと跳ねながら。

 

 

 

 『(よこしま)なる忌み子』……正確に表現するなら『邪神の巫女』と言ったところか。邪神をこの世に再臨させようとした大罪人。

 

 

 過去にとある辺境の小国で邪神を信仰する教会を立ち上げ、邪神と意思疎通をとる段階まで行った、邪神信者界(!?)の革命児。

 

 

 結果として失敗しタルタロス送りになったが、儀式の過程で邪眼が宿っており、復活に必要な聖遺物(世間で言う呪物)の場所がわかる。これを活用し、教団は邪神復活へ向けて一気に行動していく。

 

 

 そんなこんなで興奮気味に色々なところを走り回って、落ち着いた邪ちゃんは左目につけている包帯を撫でて、言った。

 

 

「なんか殺風景。ボクたちここで生活するのぉ? うぅ、せめて個室が欲しいよ」

「……ここはあくまで儀式用の場だ。生活の場は別にある」

 

 

 そう言って、神殿の近くにある地面の扉を開け、地下の居住区へと俺たちを誘った。

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