囚人ラスボスTSエルフ   作:ゴンの助

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第9話

 ア・モルフェ魔術学院の攻略は容易だった。学長を懐柔し、聖遺物はもう渡してもらっている。

 あとは学長に俺の魔法を教えるだけ……と滞在しながら、勇者くんの到着を待っている。

 

 

 学長については、まあ、不運だったとしか言いようがない。初見でこそ一番威力を発揮する魔法が、残念ながら俺はゲームの知識で学長が何を使うか知っていた。ただ、あの魔法をあそこまでの練度にもっていったのはさすがだ。

 

 

 正直魔力の体外放出なんて、最初の十年はレスポンスのない相手に一生話しかけるようなものだ。本当に上達を感じない。

 

 

 戦いの場を支配するために多少話を盛って伝えたが、あの魔法が滅んだ実際の理由は、大半の人間がそんなに頑張って練習できないからだ。

 

 

 体外放出できるまでに至った人が初めてその魔法を使った時、それはもうそれはもう──落胆する。

 だって、最初はへなちょこのふわふわとした何かしかでないのだから。

 

 

 だから後世に伝わるときは弱すぎて滅んだ、としか伝えられないし……だから、まあ、そういう意味では学長に言ったのも、別に嘘ではない。

 ただ、学長のレベルまで洗練したらもちろん強い。そういう魔法だ。

 

 

 さて、それで学長に俺の魔法を教えるという話だ。

 

 

 まずとっとと魔法について教えて、といきたいところだが、正直現代魔法について詳しくない現在、学長と古代魔法が現代魔法とどれほど違いがあるのか話をしていた。

 

 

「なるほど。現代魔法は名付けるなら『環境利用魔法』といったところか」

「そうなりますな」

 

 

 そして、この会話が思ったより勉強になった。

 

 

 まあまずそもそも古代魔法と現代魔法の何が違うかだが……古代魔法は『無』からなんでも生み出せる。現代魔法は『有』をどうにか弄繰り回す。そんなところだ。

 

 

 例えば極寒の地でも古代魔法であれば魔法陣を描けば炎を起こせるが、現代魔法は種火がなければ火に関する魔法は何も使えない。

 なおかつ古代魔法は誰でもどんな魔法でも使えていたが、現代魔法には生来性の属性があり、それにより使える魔法が異なるらしい。

 

 

 そこだけ聞くと古代魔法の方が使えそうだが、戦闘という場面ではその魔法陣が必要となるのが非常にネックになってくる。

 

 

 だから俺は頑張って魔法陣を使わないで魔法を使える方法を模索していたのだが、そもそも古代魔法という体系を放棄し新しく魔法陣がいらない魔法を作り出すとは、俺にはなかった発想だ。

 

 

 とはいえこれだけで古代魔法が滅ぶという段階へ行くには少々理由が薄いと思うが、どうにも『魔法陣破壊(スペルブレイク)』という魔法が発明されてから一気に凋落していったらしい。これは習得にあまり労力もいらず、例えば大魔法を発動させるために数年かけて準備した魔法陣にちょっと発動させただけで崩壊させられるらしく、古代魔法の軍事的な価値が大暴落し、姿を消していったらしい。

 

 

 ……と、なると、勇者くんとの戦いでビジュアル的になんとなく良さげだからと闇魔法を使ったのは間違いだったか? 

 

 

 だって、現代では闇魔法は暗いところでないと使えないのだから。それこそ光があるところで使える光魔法と闇魔法がぶつかることなんて、そうないだろう。

 

 

 ……懸念はある。しかし、たとえ俺がタルタロスから出てきたエルフだと結論付けられたところで、影響はない。今のところ問題はないか。

 

 

「──それでです!」

 

 

 バン、と学長が台を叩いた。

 

 

「あなたの、古代魔法は一体どのような原理で動いておるのか……皆目見当もつきませぬ」

 

 

 本題だ。なぜ俺が『魔法陣を介さなければ魔法を使えない』という古代魔法の弱点を克服したか? 

 

 

 これについては、克服したという表現は正しくない。俺は魔法陣を使っているのだ。間違いなく。

 

 

「それについて単純明快に答えると──()()()()()()()()()()()。それだけだ」

「己を、魔法陣と……?」

 

 

 学長の声がわずかに上擦る。

 

 

「ああ。魔法の発動に必要な魔法陣を体内に描き、そして身体の動きで魔方陣を完成させる。例えば──」

 

 

 指を鳴らす。

 

 

 そうすると、ハンカチ程度の布が出てきた。

 

 

「ほお」

 

 

 学長は食い入るようにその布と俺の指先を見つめる。

 

 

「私の体内にはすべての魔法発動の基礎となる、『未完の魔法陣』がある。魔力そのもので織り成された、流動的な設計図のようなものだ。それに特定の動きを加えることで魔法陣としての形を完成させ、魔法を発動させている」

「なるほどですな。つまり、その『身体の動き』そのものが、不足している魔法陣のラインや術式を補完し、一時的に完成形へと導く……というような解釈でよろしいのですかな? しかし、それならばすでに完成している魔法陣を描く、という方法でよろしいのでは?」

「ああ、もちろん、そういう考えもある。というか、それを試していたやつは古代にもいた。ただ問題はそれでは魔法の指向性を与えられないということだ。炎の魔法を発動させる魔法陣を皮膚に描いたとしたら、描いた皮膚の上で発火する。そういうわけで、できなくはないが意味のないこと、と当時は捉えられていた」

 

 

 ただ、言葉では簡単だが実際は案外難しい。

 指先の微細な角度、精神集中の度合い、体内の魔力の流れなど、目に見えない多くの要素が完璧に組み合わさって初めて魔法陣として機能するポーズが完成するのだ。

 

 

「そして、この魔法を発動させる最大の難所は体内に未完の魔法陣を描く、という点にある。これも同様に皮膚に未完の魔法陣を刻むだけでは意味がない。それはただ『未完の魔法陣が皮膚にある』というだけになる」

「解決には、緻密な魔力操作による、魔力でできた魔法陣の作成、ということですな?」

「ああ、その通りだ。これで真に重要なのは、自身の魔力そのもので、流動的かつ正確無比な『設計図』を常に体内に保持し続けることだ」

 

 

 そこまで言って、学長はふーむとため息を漏らした。彼の肩が、わずかに落ちたように見えた。

 

 

「十分実感しておるつもりでしたが、やはり、魔術は一朝一夕にはなりませぬな。はは、老体にはあなたの魔法を習うには少々時間が足りなさそうですの」

 

 

 その声には、諦観と、それでもなお捨てきれない憧憬が混じっていた。

 

 

「……そう悲観するな、学長。もちろん失敗することなく魔法を発動させるには多少時間が必要になるが、学長は私の魔法を扱う上で最も難しいところをすでに突破している」

「なんですと?」

「魔力操作は常人では到底たどり着けない境地にある。それを応用して『未完の魔法陣』を作ることもできる。すべての要素がそろっている。それこそ、古代魔法を研究していたならば、私と同じ発明ができたのではないかと思うほどにな」

 

 

 本心だ。この老人の魔力操作の練度は、俺が見てきた中でも随一だ。惜しむらくは、その探求の方向性が過去に向いていなかったことか。

 

 

「おお、なんと……」

 

 

 学長は打ちひしがれたように、震えた。

 

 

「では、では、これまでのわしの努力は──」

「まったく無駄ではない。……どれほどの努力を重ねてきたか、その練度を見ればわかる。──よくがんばったな」

「なんと……」

 

 

 声は震えていた。どこか、学長は憑き物が落ちた顔になった。

 学長の努力はすさまじいものだ。魔力の体外放出の訓練をする最初の数十年は笑われただろう。それに成功しても最初は使い物にならないとけなされただろう。そんななかめげることなく、常人では重ねることのできない努力を続けるのだから、驚嘆することしかできない。

 

 

「しかし、私の魔法には看過できない弱点があった。いや、できた」

「……ええ、そうですな」

「『魔法陣破壊(スペルブレイク)』……私が魔法を使用し、魔法陣である、という状態になっているとき私にそれが使われたらおそらく──」

「あなたは死ぬでしょうな。おそらくですが」

 

 

 それだ。この弱点がある限り、俺の力は絶対ではない。

 

 

「まあ、私の魔法についての本を書いていこう。学長が私の魔法を実際使うかどうかは任せるが」

「いえ、もちろん学ばせていただきますとも。お恥ずかしながらわしの風属性は威力に乏しく最弱とも揶揄されるものです。それが、全属性を使えるともなれば、どれほど夢のあることか……。それに、古代魔法は滅んで久しいです。リスクはあれど、それを上回る有用性があります」

 

 

 その後も学長との話は続いていき、最後は夜が明けていた。

 

 

 ★

 

「──うわっ」

 

 

 僕はしりもちをついた。彼、ワールズさんとの稽古でだ。

 

 

「はぁ。弱いな」

 

 

 彼は表情を変えることなくそういった。

 

 

 今まさに実感しているところです……

 

 

 ただ、彼の動きを最近は少し動きを追えることになってきた気が……する。多分。

 

 

「す、すみません! もう一回──」

「だめだ。意味がない。それに、ほれ、お前の体はもう悲鳴を上げてるみたいだぞ」

 

 

 そういって彼は、立ち上がった僕の額をピンと弾いた。

 

 

「あれ、れ……」

 

 

 ふらふらと視界が揺れて、力を入れることもままならずこけた。

 

 

「英雄の第一条件は体力だ。お前はそれがなっていない」

「勉強になります……」

 

 

 そういって彼は、ミーファが即席で作った土の家へと入っていった。

 彼女のおかげで旅とはいえかなりの生活の質がある。

 

 

 多少……うん、多少、性格にとげがあるのは否定できないけれども、大切な幼馴染だ。

 

 

「ん」

「ミーファ」

 

 

 気づいたら近くに来ていた。

 

 

「今日はもう遅い。早く家に」

「ああ、そうだね……もう少しでつきそう、かな?」

「うん」

 

 

 どこかといえば、ミーファの母校で、それ自体が一つの都市の機能すら有する、ア・モルフェ魔術学院だ。

 ミーファは、学長先生なら色々な情報を持っているはずと、尊敬のまなざしをしながら行先の一つとして提案していた。

 

 

 ワールズさんはそもそも行くあてのない旅だったと言い、情報を集めるのにどこか都市によるのも悪くないと賛同してくれて、現在の一旦の目的地となっている。

 

 

 ワールズさんとの稽古で以前よりかは進歩しているし、その学長さんが何か知っていれば彼女に近づけるはずだ。

 

 

 ミーファの家に入っていきながら、僕はそう考えた。

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