皇帝の小剣   作:橡樹一

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 テラ統一における山場を迎えることができました。
 次でテラ統一は一段落する予定ですので、楽しんでいただければ幸いです。


小剣と粛清

 サンダーウォリアー介錯作戦に参加したプロパトルの逸話として、アラック・タラニスとの決闘がある。致命的な細菌に冒されながらも正気を保っていたかの英雄は、プロパトルへ決闘を挑んだのだ。それは戦士として、戦いで死すという望みだったとされている。この誇り高き決闘を、プロパトルは正面から承諾した。

 サンダーウォリアーとして卓越した2人の英雄は皇帝陛下から下賜された刃を交え、他の誰もが立ち入ることのできない勇壮なる一騎打ちを行ったと小剣部隊副官であるレゴーは記録している。その結果は歴史の中に失われたが、二人の傑物がその刃を交えたという事実に変わりはない。

 彼ら英雄は、いかなる敵にも誇り高く立ち向かいそのすべてを打ち倒した。我らの刃にも彼らのような力を宿し、敵対する異種族を滅ぼすのだ。

 

――デスウォッチ戦団、チャプレイン(教戒官)の説法より抜粋

 

 

 

 プロパトル率いる小剣部隊がアララト山の中腹に足を踏み入れたところで、一人の兵士が追いついた。

 

「伝令!」

 

 見れば、兵士は背にヴォクス通信用の機材を背負っている。これは将軍旗下の部隊でも機密に当たるため、偽装工作員の可能性は低いだろう。

 

「誰何!」

 

 しかし油断せず、伝令は兵士に符牒を求めた。プロパトルたちは油断なく武器を構え、兵士が僅かにでも怪しい動きをした場合に備えている。

 

「将軍旗下第17連隊の隊訓は?」

 

 問いかけに、兵士は乱れた息を整えながら答えた。

 

「存在せず、設立されることもない」

 

 伝令が頷き、プロパトルたちが武器を下ろす。

 

「失礼。規定に基づき対応した。

 内容は?」

「お気になさらず。

 医療班は突入部隊の錯乱が不可逆であると結論づけ、将軍閣下は彼らの介錯を決定なされた。5分後から砲撃を行う故、アララト山南面にいる部隊は至急退避するべし。

 砲撃後は追って連絡を行う。

 以上」

 

 プロパトルが頭部装甲内部のモニタで地図を確認したところ、砲撃予測地点が赤くマーキングされている。

 

「砲撃ならば着弾地点からの礫が怖い。少し移動しよう」

 

 兵士も伝令も知らないであろうそれを頼りに、プロパトルは部隊の待機場所を決定した。付近の大岩を盾に、しかしウラルトゥ王国最後の拠点を視界に収めることができる盆地だ。

 そして、あまり時間をおかずに砲撃が開始された。本陣付近に展開した砲兵陣地から、砲弾が絶え間なく元ウラルトゥ王国中枢へと送り届けられる。着弾時の衝撃がプロパトルたちが控える窪地まで響くが、幸いにも礫が届くことはなかった。

 火力支援は十分ほど続き、すでに着弾地点にあった建物は原型をほとんど失っている。

 なおも砲撃が続く中ヴォクス通信が起動し、兵士が対応をはじめた。二言三言言葉を交わし、プロパトルへ視線を移す。

 

「砲撃はまもなく終了します。

 赤い煙幕弾が最後となるため、煙が広がり次第残存するサンダーウォリアーを介錯しろとのことです」

「了解した。

 諸君、移動準備。近接戦の備えを忘れるな」

 

 そう言いながら装備確認をするプロパトルの視線の先で、深紅の煙が立ち上がった。崩れ去った廃虚を包み込むそれは、当然ただの煙幕ではない。糜爛ガスを改造した猛毒であり、生身の人間が立ち入れば一息で即死する威力を持つ。

 本来無色無臭であるそれに赤色をつけたのは、制圧部隊への配慮だ。粛正対象はガス程度でどうにかなる装備ではないため、合図と同時に装備が損傷した者が倒れれば儲けもの程度の期待しかされていない。

 煙が風で吹き散らされ、廃虚が視認可能になったことを確認したプロパトルは右手を挙げた。

 

「突撃!

 狂わされた同胞に慈悲を与えよ!」

 

 呼応する鬨の声を背に感じながら、プロパトルは真っ先に駆け出した。周囲を見れば、深緑の装甲を身につけた戦士を率いる黄金の近衛兵団の姿が見える。移動速度からして、目標地点到着はほぼ同時となるだろう。

 そう考えたプロパトルの視界に、黄土色の装甲が映った。瓦礫の山と化した目標地点の内部から、砲撃を凌いだサンダーウォリアーが次々と駆け出してきたのだ。

 

「暴れろ野郎共!

 将軍閣下の思し召しだぞ!」

 

 怒鳴り声と共に、サンダーウォリアーは身近な部隊めがけ走り出した。

 

「射撃!

 近寄らせるな!」

 

 プロパトルの指示により小剣部隊が一斉に射撃し、同時にカストーデスやスペースマリーンも射撃戦を開始した。

 並の敵であればこれだけで勝負がつくであろう弾丸の嵐を、しかし介錯対象のサンダーウォリアーたちはほとんど無傷で突破した。戦闘にのみ最適化された神経はほぼ正確に弾丸の軌道を予測し、改造された肉体が連続した回避行動を可能とする。運の、あるいは状況が悪かった者がボルト弾の直撃を受け倒れるが、それすらもほとんどが装甲を活用し致命傷を避けている。

 結果として数人の例外を除いたほぼ全戦力が、近接武器を抜き放ち介錯部隊へと襲いかかった。

 怒号と悲鳴が周囲に響く。サンダーウォリアーよりも強い近衛と粛正のために鍛え抜かれた小剣部隊は、介錯対象とほぼ互角の戦いを繰り広げていた。砲撃支援無しで戦っていた場合万全の体制と数が揃った介錯対象に押し負けていたかもしれないが、現実にはやや押される程度で踏みとどまっている。

 問題はスペースマリーンだ。常人を遙かに超える超人兵士といえども、その設計は安定性が重視されている。戦いを追求して生み出されたサンダーウォリアーと正面から戦うだけの力を持たない彼らは、数と連携を駆使してなんとか戦線を維持していた。

 体格、持久力、筋力においてスペースマリーンはサンダーウォリアーに劣るのだ。戦いが長引けば、全滅こそ避けられるだろうが大きな損害を覚悟しなければならない。

 そして、それを見過ごすプロパトルではない。

 

「レゴー、指揮は任せた!」

 

 そう言い残し、プロパトルは単身で介錯対象をかきわけるように進む。振るう小剣は、将軍が授けるに相応しく名工が造り上げた逸品だ。防ごうとした武器ごと鎧を両断し、内部の人間にも致命傷を与える。

 数人のサンダーウォリアーを切り捨て、プロパトルはスペースマリーンと介錯対象がぶつかり合う前線へたどり着く。そこには、僅か数人のサンダーウォリアーが数十倍の数のスペースマリーンを相手に暴れ狂うという目を疑う光景が広がっていた。

 いくら力の差があるとしても、このような光景はまずありえない。だが、サンダーウォリアーの中にはそれを可能とする個人が僅かながら存在した。

 

「筆頭戦士、アリック・タラニスか!」

「小剣のプロパトルか。これは嬉しい客だ」

 

 超人兵士であるサンダーウォリアーにおいてなお例外的な強さを誇る男たちが、互いの名を呼び合う。

 

「貴様ら、手を出すなよ。

 せっかくのお相手だ、一人で楽しみたい」

 

 近衛であろうサンダーウォリアーが口を開く前に、タラニスは満面の笑みで部下を制した。

 

「残念。お楽しみは自分だけですか」

「こっちは雑魚で我慢しますよ」

 

 部下は笑いながら了承を返し、スペースマリーンへ襲い掛かった。圧倒的な戦力差は変わっていないが、タラニスが抜けたためか目に見えて圧は減っている。これならば、戦闘終了までの犠牲は大きく減るだろう。

 

「つれないな、よそ見とは」

 

 並のサンダーウォリアーならば反応すらできない速度で、タラニスが巨大な戦斧を振り下ろす。回避したプロパトルの足元へ戦斧が叩きつけられ、まるで素振りをするような気軽さで振り抜かれた。大地を大きく切り裂いた刃は青白く輝き、それを担ぐタラニスの顔をうっすらと照らしている。

 

「せっかく互いに将軍が下賜された武器を振るえるんだ。楽しもうじゃないか」

 

 気の置けない友人に語りかけるような口調と共に、タラニスは得物を振りかぶった。常人ならば持ち上げることすら叶わない重量を誇る戦斧が片手で振り回され、小剣にその軌道を阻まれた。

 力場が反発し合う異音が響き、僅かな拮抗の後に戦斧が振り抜かれる。タラニスの剛力に乗る形で飛び退いたプロパトルは小剣に目をやるが、刀身やそれを覆う力場にはなんの異常も見られない。

 

「おいおい、俺たちに下賜された武装がこの程度でどうにかなるわけがないだろうか。

 実戦経験が足りてないんじゃあないか?」

「あいにく、信用と盲信は違うと知っている。万が一を確認せずに死ぬ間抜けになるのは御免だ」

 

 互いに軽口を交わし合い、プロパトルが小剣を突き出した。牽制程度の一撃は腕部装甲を僅かに裂きながらも軽く弾かれるが、その動きすらも利用してプロパトルは連撃を叩き込む。

 致死性の嵐に、黄土色の装甲が斬り裂かれ血が吹き出す。しかし、致命傷にはほど遠い。笑みを浮かべるタラニスへ、プロパトルはさらに刃を振るい続ける。サンダーウォリアーにあってなお驚異的な腕力で振るわれる超重量の武器を相手に、受けに回るのは愚かだというプロパトルの判断だ。常人、あるいはサンダーウォリアーであっても切り刻まれるであろう剣技を前に、タラニスはただ笑みを深くする。

 盾代わりとしても使用できるよう設計された左腕の装甲で、致命的な斬撃は防がれる。無傷とはいかず僅かに血が噴き出すも、それすらも笑みに変え戦斧が振るわれた。風を切る巨大な刃は小剣を滑るように受け流され、無防備になった胴に浅くない傷が刻まれる。

 追撃は大上段から振り下ろされた戦斧によって遮られ、プロパトルとタラニスは互いの武器を構えてにらみ合った。

 

「なかなかにやるな。

 俺たちの監督として、腕を磨いていたわけか」

「実戦経験では劣ろうとも、対サンダーウォリアー戦闘で負けるわけにはいかないからな」

 

 戦闘全般に参加したタラニスとは違い、プロパトルが表だって動くときは主に対サンダーウォリアーとして活動していた。たとえプロパトルを上回る者が相手でも、それが職務である以上彼は例外なく捕らえてきた。故に、対サンダーウォリアーにおいてプロパトルの右に出る者はいない。

 現に今もプロパトルの技量を駆使した連撃を前に、タラニスは守りの姿勢を崩さない。分厚い装甲と戦斧で斬撃を防ぎ、隙を見ては大振りの一撃を繰り出しては避けられている。

 一見すれば優勢のまま戦いを進めるプロパトルに、タラニスは追い込まれつつ苦し紛れの攻撃をしているように見える。

 

「そろそろその手も見飽きてきたな。

 そら、腹が割けるぞ!」

 

 宣言と共に放たれた横薙ぎの一撃を、プロパトルは辛くも受け流した。牽制に小剣を数度振るうが、それらはタラニスが纏う鎧に弾かれた。

 逆なのだ。プロパトルにタラニスが食い下がっているのではなく、タラニスにプロパトルが食らいついている。戦闘経験において、プロパトルはタラニスの足下にも及ばない。常に最前線で剣を振るい続けたタラニスに対し、プロパトルは後方支援と被害の抑制が主任務になっていた。当然戦闘内容には大きな差が生まれ、出撃のたびにそれは大きくなっていった。

 その結果、本来絶対である性能差が圧倒的経験値で踏み潰されている。だがまだ僅かな差で、プロパトルの性能がタラニスの戦闘経験を上回っている。それ故の均衡だ

 しかし、それが崩れるのも時間の問題だろう。剣を交える今この瞬間にも、タラニスはプロパトルの動きを学んでいる。プロパトルにも同じことが言えるが、積み重ねた経験が違うのだ。

 もしプロパトルがタラニスのように前線で戦い続けていれば、勝負はプロパトルの圧勝で幕を閉じただろう。だが現実では、プロパトルが迫り来る敗北を引き延ばそうと足掻いている。

 

「いいじゃないか。これだ、この感覚だよ。

 俺の命に届きうる敵とのやりとり。これに勝る快楽は無いさ!

 シケた面してないで、お前も楽しめよプロパトル!」

「あいにくだが、お前と違って戦いは使命であって楽しむものじゃなくてね!」

 

 もう一つ、両者の間には大きな違いがあった。

 プロパトルの胸には、同胞を手にかける後悔と死への忌避感しかない。使命感で塗りつぶしてはいる。だが元々敵ではない、しかも同じ技術から産み出された同胞を手にかける嫌悪感はそう簡単に拭いきれるものではない。

 しかしタラニスは違う。彼の胸中には、戦いへの純粋な歓喜が渦巻いている。サンダーウォリアー改造手術によって発生する理性の低下すらも楽しみ、ただひたすらに殺し合う。

 将軍の裏切りを悟り、彼は感謝すらしたのだ。自分と全力で殺し合う相手がいなくなった途端、新たな敵を与えてくれたのだと。

 

「前々から戦いたかったお前が来てくれて助かったぜ。流石になんのあてもなく探すのは骨が折れただろうからな。

 将軍閣下に栄光あれ、だ!」

 

 満面の笑みと共に、戦斧が振り下ろされる。機動こそ読みやすいものの、正面から受ければ装甲など意味を成さない一撃だ。回避するたびに精神は疲弊し、緊張で固まった肉体は疲労を蓄積する。

 決定的な敗北が近づいていることを自覚し、プロパトルが大きく飛び退き距離を稼いだ。追撃をかけようとタラニスが飛び出すよりも早く、小剣が構えられる。

 眼前の男の内面が切り替わったことを読み取ってか、軽薄そうな笑みを浮かべていたタラニスが表情を引き締めた。先ほどまでの軽口が嘘のように、両者が纏う雰囲気は張り詰めている。

 僅かな沈黙を破り、サンダーウォリアーかスペースマリーンが絶命し地面に倒れ込む音が響いた。それを合図として、2人のサンダーウォリアーが弾かれたように動き出す。常人であれば反応すらできない速度で距離が詰められ、先に武器を振るったのはタラニスだった。

 戦闘車両ですら破壊せしめる威力を秘め、戦斧が振り下ろされる。それに相応しい速度の刃を、プロパトルは小剣で迎撃した。力場が突破され特殊合金同士が打ち合う音が響き渡り、あっけなく小剣は弾き返される。しかしそれを代償に、戦斧の軌道は僅かに逸れた。

 避けきれなかった左腕の装甲が紙のように引き裂かれ、肉が千切れ骨が砕ける。だが死を免れたプロパトルは、弾かれた小剣を巧みに手の中で操り構えなおした。戦斧を振り切り隙を見せたタラニスへ、最小の動きで小剣を突き出す。

 咄嗟にタラニスの左腕が突き出されるが、小剣の軌跡が蛇のように曲がった。切り上げる形で刃は振り抜かれ、装甲に覆われた左腕が宙を舞う。そして、血飛沫が舞った。

 

「……経験不足だな。捕縛しかしてこなかったから、殺し合いでケチなミスをするんだ。

 たかが腕を切られた程度じゃ、テクノバーバリアンでもまだ動くぜ?」

 

 二の腕から切り落とされた左腕には目も向けず、タラニスは戦斧を振るったのだ。戦斧はプロパトルの胸部へ深々と突き刺さり、内臓を致命的なまでに損傷させている。

 全身から力を失ったプロパトルが、天を仰ぐように倒れ込んだ。




 ウォーハンマー40K用語解説

 あいうえお順

 ・アリック・タラニス
 非常に高名な戦士であり、サンダーウォリアーの戦旗を掲げる栄誉を与えられた英雄。
 個人的な戦闘能力ではサンダーウォリアー最強であり、それは次世代であるプロパトルであっても覆すことはできなかった。
 史実では五体満足でサンダーウォリアー粛清を生き延びており、後の時代ではスペースマリーンの改造臓器を分析しエラーを克服したと推察されている。

 ・ヴォクス通信
 将軍旗下の部隊が使用する通信機であり、テクノバーバリアン国家が運用していない装置。
 個人同士の連携用の小型のものから通信兵が扱う大型のものまで多数の種類が存在し、大きさによって通信距離が異なる。
 いつの時代から運用されているのか不明であり、上記の運用設定は独自設定のため注意されたし。

 ・サンダーウォリアー粛清
 テラ統一戦争最後の戦いであり、不要となったサンダーウォリアーを処分するための秘密作戦。
 本来はサンダーウォリアーを唯一倒しうるカストーデスと最初期の生産が進んでいたダークエンジェル戦団のみの参加であったが、当作品では小剣部隊が参加したため将軍旗下の損害は少なくなっている。
 この粛清を生き延びたサンダーウォリアーが僅かながら存在し、後に反乱やスラムの犯罪集団支配などでその名を確認できる。

 ・デスウォッチ
 スペースマリーンの精鋭のみを集めた特殊な戦団であり、対異種族のために活動する。
 この戦団に勧誘されることは大変な名誉であるのだが、中には自罰や懲罰といった理由で所属される場合もあるほど過酷な戦場が多い。
 黒一色のアーマーに右肩のみを出身戦団の固有色に染める特徴的な外見をしており、上記の罰則的所属の者はその右肩も黒く塗ることで他の所属員と区別されている。
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