皇帝の小剣   作:橡樹一

12 / 13
 日本語での資料収集に限界を感じたので、機械精霊の力を借りてそれらしい歴史をなぞる形をとることにしました。
 相違が発生した場合、異物が投げ込まれたことによるバタフライエフェクトと考えていただければ幸いです。
 今回は幕間となります。


幕間
少年の発見


 プロパトルが赤子となって意識を取り戻してから、七年の月日が経過した。それまでのことを思い返すと、歴戦の戦士を束ねた部隊長の精神をして眉間の皺が深くなる。

 乳幼児の身では未発達の五感に加え肉体がまともに働かず、脳が常に休息を要求するため高度な活動ができるはずがない。それを割り切り成長を待ち年相応に発達した五感で周囲を伺えば、明らかに彼が生きた時代ではない生活様式に愕然とした。

 

「土壁に木の柱、屋根は植物蕗だと?

 テクノバーバリアンの都市でも石材は使用していたぞ」

 

 成長により視界がはっきりと焦点を結び、自らの住む家を見渡したときにプロパトルが思わず漏らした言葉である。さらに床は寝床以外踏み固められた土であり、食事は日に二回薄いスープと固いパンだけという有様。

 

「荒野の自由民以下かここは。

 飢え死には避けられてもいつ栄養失調になってもおかしくない」

 

 危機感を覚えるも、プロパトルに農業の知識は無い。サバイバル知識を生かそうにも、植生の違いか見慣れた植物が存在しないのだ。そもそも彼の両親は土地を持たない小作人であり、雇い主の計画に口を挟むなどできるはずがない。

 

「森への立ち入り権利が無いから狩りもできない。まるで封建制度下だ。

 栄養に関してはある程度諦めるしかないか」

 

 森に向かおうとすれば今世の両親に止められ、理由を聞けば権利の無いものは足を踏み入れただけでも重罪になると教えられた。考えれば限りある資源を守るための手段なのだろうが、禁止される身としてはたまったものではない。

 たまったものではないが騒いでどうにかなる問題ではないため、プロパトルは思考を切り替えた。幸い、周囲の大人の様子から独り立ちすればある程度の自由はあるようだ。

 手始めとして、周囲の人間に衛生観念を広めはじめた。食事前に手と食器を清め、傷口を最低限不衛生にしない程度の段階からだ。

 意外なことに、これはすぐに受け入れられた。というよりも、元々形作られかけていた習慣に最後の一押しを加えた形になる。そもそも生活水準から見て、不自然に身綺麗な者が多かったのだ。そこへ思いつきのようにでも新しい考えが投げ込まれた結果、集落は不用意が原因としての感染危機を心配せずともすむ程度には衛生的になった。

 

「……受け入れがよすぎる。最悪異端か気狂いと捉えられてもおかしくないはずだぞ」

 

 前々世における医学の発展、その過程で起きた悲劇を思い出しぼやく。納得できない気持ちを押し殺しながら、プロパトルは次の手を打つ。ある意味専門である、肉体の動かし方だ。

 当たり前だが、農業は肉体を酷使する作業だ。僅かに間違った動かし方でも、それが積み重なれば骨格は(ゆが)み筋肉は疲労を溜め込む。プロパトルの周囲にも、長年の労働の結果からだが(ゆが)んだ老人が多々見られた。

 衛生観念の前例があってかプロパトルの提案は広く受け入れられ、結果他の集落と比べて疲労の軽減や負傷の減少が顕著となり体の動かし方は一帯に広く知られるようになる。

 その功績として、七歳の儀式を街で行うという栄誉が与えられることになった。

 

「前々世では七歳までは神の子だと聞いたことはあるが、この世界でも同じだとはな」

 

 事実、彼の周囲では幼子の突然死が珍しくなかった。隣の家にいた同年代の少年は風邪を拗らせて命を落とし、プロパトルの弟は生まれて数ヶ月目の朝に目覚めず冷たくなったいたのだ。

 この現状も変えなければと悩むプロパトルへ、父親から声がかかった。

 

「サム、行くぞ」

「今行くよ、父さん」

 

 未だ慣れない名に返事をし、プロパトルは父親の元へ駆け寄った。当たり前だが、転生した身であるプロパトルに同じ名がつけられる可能性は極めて低い。しばらくの間はサムが新たな名だという認識が浅く、発育が遅れているのではないかと心配されたこともあった。

 

(……考えてみれば、農民が発育の概念を知っていたのも奇妙だ。

 新たな知識をまるで元は知っていたかのように受け入れ、結果を偶然と切り捨てず評価する。これを農村が可能とするには、相応の教育的下地があるはず。

 ならば何故この程度の発展しかしていない?)

 

 農村にこれだけの教養を与えられる文明ならば、それ相応の暮らしぶりというものがあるはずなのだ。

 にもかかわらずテクノバーバリアンの奴隷以下の生活を強いられ、それを当然のものとして享受している。

 

「ここから馬車で数日かかる。お前は聞き分けがいいから必要ないだろうが、おとなしくしているんだぞ」

「わかってるよ、父さん」

 

言いようのない不気味さを拭い去ろうと、プロパトルは都と呼ばれる都市へ思いをはせながら馬車へと乗り込む。

 声援に振り向けば、村人たちが誇らしげに馬車へと手を振っている。プロパトルは小さく手を振り返し、父親の陰に隠れるように床へと座り込んだ。

 

 

 数日駆けて都へ到着したプロパトルは、さらなる混乱へ叩き込まれることになった。

 農村よりは発展した程度の服を身につけた男が腕時計を眺めながら走り去り、石造りの塔に備え付けられた街頭モニターが砂嵐を映し出している。

 大通りでは自転車が走る横を、馬車が轍を踏みながら列をなしていた。

 

「サム、驚いているな。

 私も昔来たきりだが、言葉を失ったことを覚えているよ」

 

 息子の珍しい様子に微笑みながら、プロパトル今世の父は先導する村の権力者の後に続いて歩き出す。

 驚きながらと周囲を観察していたプロパトルは、一つの違和感を抱きはじめていた。

 

(どういうことだ。あの自転車、かつてテクノバーバリアンの居城にあったスクラップにそっくりだ)

 

 一度気がつくと、共通点は次々と目につくようになった。将軍の居城で見た門の意匠に似た窓枠に、廃墟と化した集合住宅にあったものと同じ壁飾り。見回りをしている兵士が持つ剣はミリタルムに支給されていたものと酷似し、兵士の詰め所らしき施設の壁には滅び去った軍事施設に刻まれたいたものと同じ紋章が掲げられていた。

 偶然では片づけられない一致に、プロパトルは一つの仮説を組み立てる。自分は戦死した後、過去か未来に生まれ落ちたのではないのかと。平凡な一般人からサンダーウォリアーとして生まれ変わったときには、世界すら超えたのだ。時間を超える程度十分にあり得ることだろう。

 

「サム、見てみろ。あそこが儀式をする教会だ」

 

 思考の海に沈んでいたプロパトルは、父の一言で現実へと浮上した。彼が指差す先には、尖塔を備えた建物が周囲を威圧するように存在している。

 石造りのような外見だが、近づいたプロパトルは表面に浮かび上がった独特な文様からその材質の正体に気がついた。

 

「ハイセラミックコンポジット、それもこんなにも高純度な……?」

 

 かつて仕えていた将軍の支配領域でも、彼の居城を始めとした限られた軍事施設にしか使用されなかった物質。温度変化の影響をほぼ受け付けず、単純な強度も並の特殊合金を遙かに上回るそれを使われた目の前の建築物の正体をプロパトルは一つしか考えつかなかった。教会の皮を被った軍事要塞だ。

 今の文明では壁の一枚すら製造不可能である技術の結晶を見て、警戒を最大限にまで引き上げた。

 

「参加者は中で待つらしい。さあ、入ろう」

 

 初めて入るから緊張するなと呟く父親と共に要塞内部へと足を踏み入れたプロパトル。そこで彼は、都市内部で感じた技術レベルのちぐはぐさの原因を発見した。

 室内の最奥に安置されているのは、歪んだ卵型の装置。かつて将軍から彼の至宝として一度だけ見せられた装置と、それは酷似していた。

 

「STC端末……だと!?」

 

 咄嗟に周囲を見回すが、目立った行動をしている者はいない。せいぜい、貴重な品を見たという感動に目を輝かせている程度だ。

 プロパトルの困惑をよそに、儀式に参加する子供たちが次々と要塞へ入ってくる。促されるままに彼は父親と別れ、長椅子の一つへと着席した。

 参加する子供たちが集まったのか、要塞の扉が閉められる。ステンドグラスを通して差し込む日の光が差す際壇上に、一人の年老いた男性が姿を現した。

 

「若人よ、よくぞ来た。私は総括長サボネス。

 ここに集った者は皆将来を期待される才を持った者たちだ。この先その才能を腐らせることなく成長することを祈り、授けの玉へ触れることが許可されている」

 

 老人がSTC端末へ近づき、手をかざす。空間投影式の操作コンソールをぎこちなく扱うと、収納されていたアームが展開し分子分解された素材を元に指示された品を素早く組み上げた。

 

 「見ての通り、授けの玉は個々人に応じて物を授けてくださる。私はこの光る棒を授けられた。

 多くの者は似たような物を授けられるが、稀に珍しい物を授けられることがある。おそらく玉様から期待されるのだろう。

 授けられない場合もあるが、それは玉様が必要ないと感じられたに過ぎない。気にすることはないよ。

 それでは最前列左の子供から、こちらに来なさい」

 

 かなりの光量を放つペンライトを掲げながら、総括長が話を終えた。促されるままに、子供たちがSTC端末の前へと列を作っていく。その列に並びながら、プロパトルは操作される端末の様子を観察していた。

 まともに操作されていない以上、形成されるのはある程度パターン化された物が大半だった。様々な工具、色違いの自転車、洋服、珍しい物では補助アーマーの基礎フレーム。

 ほとんどの子供たちは出てきた物を与えられ、顔を輝かせながら親元へと駆け寄る。珍しい物を造り出した子供はそれを取り上げられる代わりに、何やら書類を渡されていた。

 稀にエラーなのかなにも産み出さなかった子供たちは、トボトボと親元へ帰って行く。その背には、大人たちからのどこか蔑む視線が刺さっている。気にすることはないと言っておきながら、産み出した物で明確な格差が誕生していることは明らかだった。不愉快な気分を腹に飲み込むプロパトルへ、ついに順番が回ってくる。

 至近距離でSTC端末を確認したプロパトルは、その現状を正しく理解した。将軍が保有していたものと比べて、眼前の端末は遥かに劣化している。表面は内部構造を覗けるほどの歪みと細かな傷で覆われており、その結果収納できていないアームが少なくない本数失われていた。

 内部からは火花が散り、ただ待機状態でも異音が聞こえてくる。優秀な自己修復回路がなければ、今すぐにでも機能停止してもおかしくない状態だ。

 

「そう緊張することはない。さあ、手を伸ばして光に触れるのだ」

 

 にこやかに、しかし有無を言わさぬ圧を込めて総括長が促す。プロパトルは手を伸ばし、操作コンソールを起動した。

 

(将軍の端末は大破一歩手前だったが、こっちはなんとか壊れてないだけだな。

 緊急起動モード解除。自己診断プログラム始動。内部データに残っている設計図は……おお、思ったよりもあるぞ)

 

 はじめこそ子供らしくたどたどしい動きを装っていたが、徐々にプロパトルの動きは加速する。異変を感じ取った総括長が彼を止めようとするが、端末に起きた異変にその動きは固まった。

 

「音が、消えた?」

 

 常に聞こえていた不愉快な音が、いつの間にか聞こえなくなっていたのだ。見れば、装甲の隙間から見えていた火花も消えている。放たれていた毒々しい光は、柔らかなものへと色を変えている。

 

「だれか、手を貸してくれ!」

 

 突然の呼びかけに、総括長は反射的にプロパトルへと駆け寄った。ここで力を貸すべきだと、直感的に悟ったのだ。

 

「なんだね?」

「この道具で、今押さえているところを押し広げてくれ」

 

 総括長が言われるがままに工具を装甲の隙間に差し込むと、まるで抵抗なく装甲が持ち上がった。そしてできた隙間へと、プロパトルは躊躇なく両腕を突き入れる。

 

「貴様、授けの玉様になにを!」

 

 知識の無いものからすれば内部を破壊しているようにしか見えないその光景に、集まってきていた都市運営の幹部たちが声を荒げる。

 

「黙れ!

 この少年の邪魔をすることは許さん!」

 

 咄嗟に、総括長は幹部たちを一喝した。そうしている間にも、プロパトルは端末内部の整備を続けている。コンソールには、緊急時の整備手順がわかりやすく表示されているのだ。

 技術の時代に使われていた公用語を、プロパトルは将軍の指示で習得していた。故にコンソールの表示を見間違えることなく、正確に修理を進めていく。

 表示に従い作業を進めること数分、コンソールにこれ以上は専門の整備士を呼ぶようにと表示されたことでプロパトルは手を止める。

 軽く息を吐き端末を見れば、廃材寸前から機能停止一歩手前程度にまで状態が回復していた。性能の一端、その欠片の面影を利用する程度はなんとかなるだろう。

 満足感を味わうプロパトルの視界に、総括長が歩み出た。プロパトルが口を開く前に老権力者は跪き、背後には都市の運営に携わる者達が続く。

 

「そ、総括長様。なにを?」

 

 困惑するプロパトルへ、総括長は静かに顔を上げる。

 

「我々は、授けの玉と名付けた遺物がなにか不具合を抱えていることに気づいていました」

 

 プロパトルの困惑に答えず、総括長は言葉を続ける。

 

「異音と火花を出す状態の授けの玉を、ただ使い続けられると盲信するほど我らが先祖は愚かではありません。しかし、我々にこれを修理する手段はない。

 修理する道具を出せる者を探し各地から子供を集めるようになってから私で3代目、ついにあなたが現れた。しかも、明らかな知識を元に修理をしていた」

 

 そう語る総括長の目が希望に満ちていることに、プロパトルは遅まきながら気がついた。その背後で跪く権力者たちも、例外なく目を輝かせている。

 

「その知識と技術、神から授けられたに違いありません。

 その英知で、我らをお導きいただきたく……」

 

 そう言って、支配者層は深々と頭を垂れた。

 プロパトルの脳が高速で回転する。そもそもある程度の権力は手に入れるつもりだったが、こうも早く手に入るとは流石に想定外だった。

 しかし、この機を逃すわけにはいかない。封建社会において神権ほど強力な後ろ盾はそう無い上、今ならば現支配者が納得した形で、権力を掌握できるのだ。しかも、市井の目の前で。

 

「わかった。我が知識、人々のために使うと約束しよう。

 そして私をプロパトルと呼ぶがいい。古の言葉において、祖を意味する名だ。我々の発展はここから始まる、その決意の名を込めて私を呼ぶといい!」

 

 その声を聞き、その場に集まっていた人々は爆発したような歓声を上げた。これから訪れる繁栄と栄光の日々を夢想し、新たな幼い支配者を諸手を挙げて歓迎したのだ。

 

「STC端末があれほど劣化していたのだ、将軍に仕えた時代よりも未来と考えた方がいい。星空から見るにここはテラではない以上、するべきは一刻も早い惑星掌握だ。

 必ずテラに帰還し、遅参を詫びなければな」

 

 プロパトルの呟きは歓声に掻き消され、だれの耳にも届かなかった。




 ウォーハンマー40K用語解説

 あいうえお順

 ・STCシステム
 技術の時代に生み出された科学技術の粋であり、あらゆる道具のデータとそれを出力する装置の総称。
 適切な使用をすれば子供でも宇宙船を製造可能な性能を誇りながら、当時は各都市に標準装備されていた説があるほどに普及していた。
 技術の時代の終焉と共にほとんどの失われた存在であるため、詳細な外見等は一切不明。

 ※STC端末
 本作オリジナルの装置であり、STCを構築するシステムの一つ。
 持ち運びや頑強さを優先して設計された簡易タイプの出力装置であり、惑星入植の先行隊や小規模の船団に愛用されいた。
 マザーシステムから切り離された場合に備えて小規模ながらも設計データが保存されており、現在でも道具の製造が可能なのはそのため。

 ※サボネス
 当作品オリジナルの人物であり、都を運営する貴族たちを取りまとめる事実上の支配者。
 少年時代STC端末からペンライトを出力し、光源として量産することで権力を手に入れた。
 貴族を取りまとめていた手腕は本物であり、その技量のすべてをプロパトルへ捧げる心づもりでいる。

 ※農村
 プロパトルが生まれ落ちた村。
 都と呼ばれる大都市に属する食糧供給源の一つであり、領土拡張のために作られた開拓前線でもある。
 特筆するべき点はない集落だが、プロパトルの生まれ故郷としてその名は歴史に刻まれることになった。

 ※ハイセラミックコンポジット
 当作品オリジナルの物質であり、技術の時代にはありふれた建材だった。
 当時としてはあくまでも扱いやすく頑丈である以上の価値はなく、STC端末が保管されていた建物はプロパトルの予想に反しただの教会である。
 将軍が居城に採用した理由も入手できる建材の中で最も頑丈だった以上の理由はなく、現在は新開発された建材で改装されている。

 ※都
 惑星有数の大都市であり、高い工業力で周囲一帯を支配する首都のような存在。
 その繁栄の裏にはSTC端末があり、端末が生み出す道具を利用して現在の地位を築いた。
 STC端末を神聖視しているため、それを修理した存在への支配権の変更は不気味なほど抵抗なく行われた。


 次回更新は未定ですが、最低でも一月以内の更新を目標にしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。