皇帝の小剣   作:橡樹一

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 今回も幕間となります。
 ウォーハンマーカフェのアニバーサリーで貰っていた銀河地図で新しい発見があり、ストーリーにも活かせそうです。


少年と遭遇

 プロパトルが都と呼ばれる都市の支配権を継承してから三年が経ったある日、彼は執務室で惑星の地図を広げていた。かつての時代に作られたそれは、都市の支配者に代々受け継がれてきた秘宝の写しだ。

 地図の上には駒が置かれ、現在彼の支配する軍と彼に抵抗する勢力がどこにいるのか一目でわかるようになっている。

 プロパトルと机を挟み、数人の男たちが地図を眺めていた。プロパトル自らが選んだ、都市運営における重役たちだ。 そのうちの一人、軍務を担当する男が口を開いた。

 

「軍部より報告です。

 先ほど前線からの連絡が入りました。西部最大の抵抗拠点を占領したとのことです。

 これにより、惑星上にあった主要な抵抗勢力は一掃された形となります。後は細々とした反乱分子しか残らないかと」

「そうか。よくやったと伝えてくれ。引き続き治安維持は任せる」

「情報局より報告です。

 先日制圧した東部拠点の精査が終了しました。集まった情報はリストにしてありますので、後ほど御確認ください」

「素晴らしい。必要になった情報は追って知らせる」

「物資庁から報告です……」

 

 男たちの報告は続き、プロパトルはそれぞれに対応を伝える。時計の長針が一回りしたところで、今回の報告会は幕を下ろした。

 

「皆、よくやってくれた。主な反乱分子を一掃したのは大きな進歩といえるだろう。

 今後は科学技術の発展と、惑星系外への進出が主な目的となる。内政は重要性を増し、軍部は未知の危険への備えとしての役割へ推移するだろう。

 一層の献身を期待する。解散」

 

 プロパトルの短い演説を聞いた重役たちは、一礼して執務室を去る。最後の一人が扉を閉めたことを確認し、部屋の主は椅子へと深く腰掛けた。

 最高級の革張りが体重を受け止める感触を味わいながら、プロパトルの目は押収資料の目録を精査する。

 複数のタイトルを見た指導者は、以前からの謎に一つの仮説を立ち上げた。

 

「やはり、この惑星は意図的な愚衆教育を施されているな。それも、かなり徹底的なものだ」

 

 資料に記された教育論には、支配者層とそれ以外に明確な格差が存在していた。一般の民は疑いは恥ずべきことであり指導者への信頼こそ美徳であると説き、支配者には民に教え込まれた考えをいかに利用するのかを解説している。

 

「教育水準と文明の乖離はこれが原因だったのか。惑星維持のためとはいえ、よく考えついたものだ」

 

 膨大な労力と非人道的な思考の元行われたこの教育格差は、恐ろしいほど効果的に作用したようだ。現に農村の民は都市からの指示とあれば疑いもなく政策に従い、その理由など考えもしない。

 もちろん指導者層が反乱を誘発するような政策を行っていない点も評価されるべきではあるが、本質は強固に構築された教育の成果だ。

 

「そしてこの星の気候。明らかに自然のものではないな。惑星規模の気候操作があったはずだ。しかも数百年単位で作用を続けるほどのものが」

 

 目録上には、地域ごとの作物情報も纏められていた。各支配地域ごとの農村が生産する作物が、ほぼ同一であり収穫量も大きな差がない。真実ならば、土壌に含まれる栄養素や気候が、数百キロメートル単位で同一であるということになる。

 自然環境を考慮すればありえない以上、考えられることは一つ。STCを生み出した時代の技術によって、人工的に整えられた環境であるということだ。

 

「明らかに過剰な農地面積からして、おそらく食料生産に特化した操作がなされている。かつての人類の勢力では、食料の供給源として設計された惑星だったのだろう。

 そして予想通り都市以外からはSTCの残骸すら見つからなかったが、都市以外には必要なかったと考えられていたのか?

 ……いや、反乱防止の線もあるか」

 

 抵抗勢力の拠点が陥落するたびに、プロパトルはその跡地を徹底して捜索させている。しかし、インフラの要ともいえるSTCが発見されたことはなかった。人類が恒星間交易を成立させていた数千年前のデータや資料は少なくない資料が発見されているにもかかわらず、である。

 プロパトルの予想では、点在する都市につき一つはSTC端末が存在していると予想していた。だが、どれほど捜索の手を広げようともSTCの痕跡さえ見つかっていない。十を超える拠点において発見の報告がなかった時点で、プロパトルはそもそもSTCは彼が支配する都市以外に存在しないのではないかと考えた。

 理由は発見できなかった事実以外に。都市の位置と付近に残されていた施設にある。彼が支配する都市は惑星の赤道にほど近い場所に存在する。付近の遺跡は探索の結果宇宙船の発着場であり、都市の資料には同類の施設が存在しないことが分かった。

 

「宇宙との出入口を一つに絞り、そこを唯一の拠点とすることで星の首都としての地位を絶対とする。そこが生産拠点を兼ねれば反乱を起こされても防衛が楽になる上、惑星が離反した場合軌道上から首都を潰せばそれで反抗できなくなるというわけか。

 なかなか考えられているな」

 

 予想を交えながら、プロパトルはわずかな量である惑星外について記された資料へと目を移した。断片的に集められた情報から推測できるのは、この星が持つ特異性と運の良さだ。

 プロパトルが将軍の下で学んだ歴史において、かつて人類は広大な星間国家を樹立していた。しかし超光速航行に必要不可欠な空間に異常が生じ、航行どころか通信すらも断絶されたのだ。

 

「"歪み"を巨大な嵐が吹き荒れているという話だったが、感知できない身としては何のことだかわからなかったな。実験で"歪み"に突入しても無の空間としか認識できなかった」

 

 オフィシオとして活動していた記憶を掘り起こしながら、プロパトルは資料目録を捲る。

 人類は領土を拡大する最中に無数の異種族、俗に言う異星人を排斥してきた。数々の恨みを買ってきた巨大星間国家に属する惑星が、災害によって孤立した状態を排斥されてきた存在が見過ごすとは思えない。

 ただの農業惑星でしかなかったであろうこの惑星が襲撃を受けなかったのは、ひとえに惑星が存在来る場所が良かったからに過ぎない。

 

「星間地図によれば、この惑星は人類の領域でもテラに近しい。おそらく、拡張の最序盤に入植されたのだろう。

 広がった領土が緩衝材となって、外敵は襲撃に来なかったのだろうな。ここよりも近く資源のある星はいくらでもあっただろう」

 

 ろくな軍備も工業力も持たない、人口と食料の豊富な惑星。これほど割のいい獲物はそう無いだろう。プロパトルは自らの置かれた幸運に感謝した。

 

「惑星平定が現実味を帯びた今、進めるべきは技術の進歩と軍拡だ。

 今の技術ではテラへの帰参どころか隣の恒星系へ渡ることすらできん」

 

 プロパトルの指導の下、都はSTCに含まれていた大量の設計図を元に急速な進歩と軍拡を果たした。

 しかし、それはSTCに依存した歪な進歩だ。事実、設計図が存在しない分野では中世にも劣る程度の蓄積しか持たない。

 

「とりあえずの足がかりとして、恒星系を手中に収める必用があるな。そのくらいならなんとかなるだけの設計図はある」

 

 そう口にするプロパトルは、胸中で膨らむ情けなさを押さえられなかった。今彼が率いる勢力は、STCと納められた設計図へ完全に依存している。そんな文明とも呼べない存在が、健全であるはずがない。

 

「教育面の復興は急務だな。くだらん思想教育を取り除き、健全な知を育てなければ」

 

 歪んでいたとしても、教育システムが生きていたのは幸いだった。プロパトルの理想に近づくよう調整をすれば、さほど苦労せず新たな教育方法を広めることができるのだから。

 

「恒星系を移動するような初期の宇宙開拓程度なら、残されている資料でなんとかたどり着ける。

 設計図の解析と理解を進めつつ、まずは月への安定航路の確立を指針とするか」

 

 独り言の形で考えをまとめながら、プロパトルは科学庁への公的な命令文を作成する。夜が更けるまで、執務室から明かりが消えることはなかった。

 

 

 

 惑星が統一されてからわずか二年後、都から首都と名を変えた都市でプロパトルは報告を受けていた。

 

「人工衛星の打ち上げは順調であります。月の前線基地運営も安定しており、近隣惑星への調査もそう遠くはないかと」

「そうか、よくやってくれた。科学庁の活躍には目を見張るものがある」

「もったいない御言葉、ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げる科学庁長官の前で、プロパトルは内心で舌を巻いていた。科学促進の指令を出して半年も経たない内に、科学庁は人工衛星の打ち上げに成功したのだ。その功績で宇宙開発プロジェクトの責任者に任命された男は驚異的な速度で新技術を開発し、ついには長官にまで上り詰めた。

 

「下級貴族の出である私をここまで重用してくださるとは、プロパトル様には感謝してもし足りることがありません」

「君が才覚に応じた席を勝ち取っただけだ。

 しかし前教育システムの元で君のような人材が育つとは、なにがおこるかわからないものだ」

 

 プロパトルの賞賛に長官が再び頭を下げると、首からネックレスが滑り出た。見慣れないそれに、プロパトルは興味を引かれる。

 

「珍しいものをしているな」

「これはお恥ずかしい。私の大切なものなんです」

 

 そう言いながら、長官はネックレスを手に収める。どこか鈍い印象を与える青に染められた、歪んだ三日月のチャームが光を反射し輝いた。

 

「……あまり見ないデザインだが、どこで手に入れたんだ?」

「古い友人が作ってくれたものです。数年前に科学の話で盛り上がったのですが、そのとき科学集団の証だと」

「そんな集団が存在したのか。

 是非科学庁に招きたいものだが、コンタクトは取れるのか?」

 

 プロパトルの問いに、長官は嬉しそうに頷く。

 

「私が友人に掛け合って、予定を調整しましょう。きっと我らの力になってくれるはずです!」

「そうか。近いうちに連絡を取ってくれ」

「わかりました!」

 

 喜色を隠そうともしない長官とは対照的に、プロパトルの目は極寒の色を湛えている。眼前の存在に対して一切の情を捨て去ったそれに、長官が気づくことはなかった。突如、緊急を示すランプが点灯し通信が入ったのだ。

 喜びに溢れていた表情筋を引き締め、長官が通信機へ応答する。

 

「私だ。なにがあった?」

『こちら月面基地!

 謎の通信が我々へ送りつけられています!』

「謎の通信だと?

 我々の通信規格を使用している以上、我々の技術を使ったもので無いわけがあるまい。通信先は?」

『未知の宇宙船です! 空間を裂いてセンサー有効範囲内に突如現れました!

 映像送りますので、通信室へ!』

 

 同時に二人は走り出した。新たに建て増しされた屋敷に備えられた通信室まで、一分とかからず到着する。

 

「着いたぞ。映像回せ」

『はっ!』

 

 わずかなノイズの後、モニターに表示された映像にその場の者たちは絶句した。彼らの文化には存在しないデザインの宇宙船が、数十隻の隊列を組んで悠然と航行していたのだ。プロパトルの記憶にあるゴシック様式の大聖堂を思わせる船は巨大であり、生み出した文明の技術力が侮れないことを言外に主張している。

 その機体に、プロパトルは見覚えのある紋章を発見した。猛禽が、稲妻を掴み取るその紋章。

 

『通信、繋げます!』

 

 最高指導者が思考を取られている間に、謎の宇宙船団から発せられている通信が中継越しに通信室へと届けられた。

 画面に映し出されたのは、赤いローブを身に纏った人物だった。赤い布地は人間的な要素をすべて覆い隠し、唯一見える顔面も下半分が装甲に覆われている。

 カメラに置換された片目と、残された生身の目がモニター越しにプロパトル立ちへと向けられた。

 

『稚拙な宇宙開発技術しか持たぬ者共と、よもや通信が成立するとは。万機神(オムニシア)の加護は遍く齎されるということだな。

 我が名はベリサウルス・カウル。偉大なる万機神の化身たる皇帝陛下の使いであり、帝国技術局(アデプトゥス・メカニカス)の技術司祭にして賢人である。

 貴様らに寛大なる提案をしよう。皇帝陛下の威光に平伏し、帝国の一部となるのだ。帝国の礎としての義務は発生するが、臣民として安寧を手に入れることができる』

 

 ノイズ交じりの一方的な宣言に、通信室にいた者たちは全員が言葉を失った。

 一人、プロパトルを除いて。

 

「一つ、聞きたいことがある」

『なんだ?』

「マルカドール、そしてコンスタンティン・ヴァルドルという名に聞き覚えはあるか?」

 

 プロパトルの大きな賭けは、正しく報われることになった。その一言に、カウルは残された眼を僅かに見開いたのだ。

 だが技術司祭は動揺を声に出すことなく、ただ疑問のまま言葉を紡ぐ。

 

『貴様、なぜあのお方々の名を知っている?』

「詳しくは話せない。以前マルカドール様に仕えていたのだが、故あってこの場所にいる。

 プロパトルが面談を申し込んでいると伝えれば、それでわかっていただけるはずだ。遅参を詫びているとも」

 

 重苦しい沈黙が流れるが、意外にも返答はすぐに返された。

 

『幸運にも、皇帝陛下と宰相閣下は近くの宙域にいらっしゃる。今の言葉を伝えるが、偽りであった場合は覚悟をするのだな』

「当然だ。

 私はそちらに向かえばいいか?」

『迎えを遣わす。貴様のいる場所を言うがいい』

「地図とマーカーを送付する。

 通信使、首都の場所を送れ。心配せずとも、相手がその気なら我々に勝機は無い。送らなかったところで、敗北をわずかに伸ばす程度にしかならないさ」

 

 震える手で通信使が作業を完了し、カウルの元へ正しくデータが送付された。

 

『確認した。そちらの時間単位はわからんが、こちらのテラ標準時で一時間後に迎えが到着するだろう。

 場所は貴様がいる街の東だ。空から降りる故すぐにわかるはずだ』

「遅れぬよう準備をする。

 持参するべきものはあるか?」

『失礼に当たらぬ装いならば問題はあるまい。

 以上で通信を終わる』

「了解した」

 

 モニターが黒く染まり、プロパトルは踵を返した。

 

「お待ちください」

 

 それを、背後からの一言が引き留める。振り返れば、長官が動揺を抑えられない様子で立っていた。

 

「あの者たちを、ご存じなのですか?」

 

 長官だけでなく通信室の担当者たちも、プロパトルの返答を強張った表情で待っている。

 

「……かつて交流があった御方が、あの宇宙船に刻印されている紋章と同じものを使っていたのだ。名を聞けば、同じ名を持つ人物がいるとわかった。私が知っている御方と相違ないのか、それを確かめるために行くのだ。

 そう心配することはない。悪いようにはならんさ」

 

 部下の疑念を消しきれないとはわかっているものの、時間の指定をされている以上長々と説得をすることはできない。疑いの視線を背に感じながら、プロパトルは足早に退室をする。

 通信室の扉が、どこか虚ろな音を立てて閉じられた。




 ウォーハンマー40K用語解説

 あいうえお順

 ・宇宙船
 人類の帝国が正式採用している宇宙戦艦であり、小さくとも全長数㎞を超える巨体を誇る。
 外見はゴシック建築と見紛う装飾が施されており、宇宙を進む大聖堂にも見える。
 複数の都市がまとめて納められているほどの規模であるため、艦内には外の世界を知らぬまま過ごしている者もいるほどである。

 ・万機神 オムニシア
 帝国技術局が信仰する神格であり、すべての機械の祖とされる存在。
 機械知識とは万機神が人類に授けた英知とされており、それに手を加えることは異端としてみられることがほとんど。
 帝国技術局が技術停滞を起こしている原因ともいえるが、同時に信仰として技術を保ってきた原動力でもある。

 ※科学庁長官
 本作オリジナルの人物であり、科学の発展を目的とした科学庁の最高責任者。
 人工衛星技術の開発と実用化において大きな功績を残し、その実力から長官にまで上り詰めた。
 青く歪んだ三日月の団体に所属してから才能を開花させており、科学庁職員でも少なくない人数がその団体の関係している。

 ・帝国技術局 ていこくぎじゅつきょく
 アデプトゥス・メカニカスとも呼ばれる、帝国の技術を司る部門。
 正確には火星を本拠地とする技術集団であり、帝国とはあくまでも同盟を結ぶ間柄で傘下ではない。
 科学技術と宗教が奇妙に融合している点が特徴であり、機械を動かす機械精霊とそれらの頂点である万機神を信仰している。

 ※都市運営の幹部達
 プロパトルが設立した部門ごとのトップであり、彼の手足となって都市運営を行う存在。
 基本的に各専門家の中から選抜されており、一定以上の功績がなければ候補にすら挙げられることはない。
 あくまでも専門知識のみを基準として集められた結果人格その他の面で問題を抱えてるものが少なくないため、側近として送り込んだ文官が手綱を握っている。

 ・ベリサウルス・カウル
 帝国技術局でも指折りの技術者であり、賢人としても高い名声を誇る。
 技術は人の手で改良可能という異端すれすれの思想を持っており、少なくない発明や改良を人知れず行っている。
 技術司祭としては年若く、手柄を求め行動した結果プロパトルの統治する惑星を発見した。

 ※惑星の教育システム
 かつて人類の星間航路が寸断された時代生み出され、現在に至るまで運用されていた冷徹ながらも効率的な教育方法。
 惑星の維持を第一にするため、一般市民と指導者で絶対的な知識の格差を植え付けた。
 その試みは成功し、惑星の文明は徐々に衰退しながらもプロパトルの誕生まで大きな破綻なく存続した。


 私用が立て込んでいるため、次回更新は6月末までが目標となります。
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