コデックスに掲載されている以外の公式小説を読んだことがないので口調等がおかしな点があるとは思いますが、その点はこっそり指摘していただければ幸いです。
かの英雄プロパトルは、宰相マルカドールに自らが率いる部隊と引き合わされた際、その規律高さに感銘を受けたとされている。
勇猛に過ぎる戦士団は、得てして規律が乱れることが多い。にもかかわらず、部隊は彼の予想を裏切り規律だった行動を良く見せた。これは、他のサンダーウォリアーと比べて顕著であった。
副官に任命された筆頭戦士の指示に対しても彼らは声一つ漏らすことなく行動し、プロパトルを驚かせたそうだ。
初めての会合で部隊員たちが見せた行動こそ、我ら帝国の戦士たちがが胸に刻むべき規範だ。当時の戦士に負けぬ規律を、我々は体現しなければならない。
――ウルトラマリーン戦団、
荒廃した世界を見せつけられた翌日、男はマルカドールに呼び出されていた。与えられた服を着て出向くと、思いがけない話を聞かされる。
「名前、ですか」
「そうだ。いつまでも名が無いのでは不便であろうと、閣下直々に名を考えられた。光栄なことだ
今このときから、プロパトルを名乗るがいい」
耳馴染みのない響きに、プロパトルと名付けられた男は内心首をかしげた。
「失礼ながら、どのような意味なのでしょうか。将軍閣下が無意味な名をつけるとは思えませんが、浅学ながら似た響きの言葉に心当たりが無いものでして」
「古の言葉で、祖を意味する。
貴様に施された術式は、新たな技術が盛り込まれたものだった。これからの戦士たちにとって技術として、そして心構えとしての祖となるよう、心に留めておくように」
「かしこまりました」
「納得したようだな。
ではプロパトルよ、ついてこい。貴様が率いる部隊との面通しだ」
踵を返したマルカドールへ、プロパトルは慌てて駆け寄る。
「閣下、率いる部隊とは何のことでしょう。
私は記憶が無いのです。戦った経験も、部隊を率いた経験もありません。預かった兵をいたずらに損耗させるだけになりかねません」
「昨日運ばせた資料に目は通したか?」
「一通り。しかし所詮は付け焼き刃です」
「ならばよい。文字を読もうとするだけで、十二分に上澄みよ。
知識を血肉として、刃を磨げばよい」
マルカドールの言葉に、プロパトルは絶句した。戦闘部隊とは名ばかりの、野蛮人たちを相手取らなければならない可能性が出てきたのだ。
「従わぬ者がいれば、力を示せ。貴様の性能ならば、兵士数人程度問題なく打ち倒すことができよう」
続いて告げられた不安の裏付けに、プロパトルは内心溜息を吐いた。昨日の道中に軍人然とした装備の部隊を何度か見かけたのだが、その誰もが彼と比べれば子供も同然の体躯だったのだ。そんな兵士を打ち倒したところで、何の武勇にもなりはしない。
鬱々とした気分でマルカドールに追従し、彼が立ち止まったことでプロパトルも足を止めた。
「ここだ。
繰り返しになるが、我を通せ」
そう告げたマルカドールが扉を開くと、そこには百人を超える男たちがたむろしていた。扉が開く前に音で察知していたのか、全員の視線が入室した二人へと向けられている。
マルカドールが口を開く前に、男たちはバラバラと席を立ち整列した。迅速とは言いがたいが、緩慢とも言えない速度で整列は完了する。
文字を読もうとしない集団だと暗に聞いていただけに、プロパトルは僅かに目を見開く。
整列が完了したことを見計らって、マルカドールが一歩前に出た。
「先日の通達にあった、貴様らの指揮官だ。今後はこの者から貴様らに指揮伝達がされることになる」
「かしこまりました」
代表者らしき男が敬礼と共に返事をすると、マルカドールは踵を返す。
「後は任せたぞ。交流を深めるなり、練度を高めるなり、貴様に一任する」
そう言い残し、マルカドールは退室した。残されたのは途方に暮れるプロパトルと、彼を訝しげに見つめる戦士たちだ。
「……君たちを率いることになったプロパトルだ。指揮官としては勉強中だが、実戦までには付け焼き刃を卒業するつもりでいる。
上官として仲良くやろうとは言えないが、無駄死にさせるつもりはないからよろしく」
どうにも締まらない演説を終えると、先ほどマルカドールと受け答えしていた男へ声をかける。
「そこの君」
「はい」
「名前は?」
「レゴーです」
「レゴー、君を副官に任命する」
「はい?」
突然の任命に困惑するレゴーへ、プロパトルは質問を続ける。
「この後、部隊としての予定はあるか?」
「訓練時間となっています。
あちらの壁に、週の大まかな予定が纏められています」
示された壁には、確かに予定表が貼られていた。改造された視力で内容を確認し、頭に入れる。
「では、予定通りに訓練をしてくれ。
私も改造を馴染ませるために参加する」
「わかりました。
予定時刻まで、近接戦闘訓練開始」
レゴーの指示に返答は無く、行動で示された。戦士たちは無言で部屋へと広がり、訓練用の武器を構える。そして開始の合図無しに、各々が切り結び始めた。
金属の打撃音が響く中、プロパトルは内心首を傾げた。戦士たちの行動が、どこか鈍く見えるのだ。互いに怪我をさせないよう手加減していると考えるが、彼らの表情がそれを否定する。
戦闘経験が無いプロパトルから見ても、殺意に溢れた眼差し。彼から見れば緩やかに見える一撃も、防がなければ命にかかわる軌跡を描いている。
攻撃速度とは裏腹の、卓越した技量を持った戦士たちが一度のミスで命に届きうる負傷を当然と考える闘技場。その空間に、プロパトルはらしくなく昂る。
「指揮官、お相手をしますか?」
レゴーの進言に、プロパトルは驚いた。しかしレゴーからすれば、プロパトルの反応にこそ驚かされた。
つい先ほど任命された指揮官が模擬戦を行う戦士たちを見る目は、飢えた野獣にも似た渇望が込められていたのだ。その根源は、戦闘衝動。
これほどまでにわかりやすくしておきながら、しかも改造を馴染ませるという大義名分まで自分で用意していたにもかかわらず、いざ戦いを差しだせば困惑する矛盾。レゴーには指揮官の内面を推し量ることはできなかった。
「頼もうか。
戦闘は初めてだから、お手柔らかに」
「我らにはできないことを言ってくださる」
互いに微笑み、武器を構える。合図は無しに、互いに剣を振るった。
鍔迫り合いの中でプロパトルが眉を顰め、レゴーが歯を食いしばる。プロパトルからすれば副官の一撃は緩やかに過ぎ、レゴーからすれば指揮官の一撃は稲妻とも見紛うものだったのだ。拮抗状態が成立しているのも、プロパトルが考え事に気をとられているからにすぎない。
この身体能力の絶対的な差こそ、プロパトルに施された新式改造手術の成果だ。文字通り世代の違う格差が、両者の間には存在する。
プロパトルが力を込めれば、レゴーは力比べの愚を悟り飛び退いた。即座に踏み込み斬りかかるも、プロパトルは容易くそれらを弾き返す。
僅かな交戦で、レゴーは新任の指揮官に戦闘の経験が無いことを見抜いた。素直に過ぎる剣筋に、誤魔化しの無い足運び。本来であればレゴーに数合で切り伏せられる素人は、しかしその身体能力で全てを踏み潰す。
レゴーが並の戦士ならば、敗北という形で決着はすぐについていただろう。しかし、彼はこの部隊の代表を務めていた男だ。ろくに学がない戦士の集団で、何故彼は上位者と認められ、指示に従うことを良しとされてきたのか。
ごく単純な答えだが、彼は部隊の誰よりも強かったのだ。部隊筆頭戦士として勝利を積み上げ、揺るぎない敬意を勝ち取り続けた。その誇りにかけて、無様を晒すものかとレゴーは自らに気合いを入れる。
凄まじい剣撃の応酬に、周囲の男たちが自然と観戦をはじめる。本来決着がつけばすぐさまもう一戦を始める狂戦士たちが、闘争本能よりも見取り稽古を優先したのだ。戦士からすれば、力と技の極地ががぶつかり合うような眼前の光景は値千金と言える。
何度目かすらわからない切り結びの中で、レゴーは自らの疲労を自覚した。負荷をアドレナリンで誤魔化すことができない事実は、訓練の終わりが近いことをレゴーに告げていた。彼の敗北という形で。
認められない。部隊最強の称号は、戦闘経験の無い素人へ簡単に明け渡していいものではない。すでに動きが鈍りつつある体を無視し、レゴーは乾坤一擲の策に出た。
牽制の一撃をわざと弾かせ、勢いのまま半回転。自らの体を死角とし、全身のバネを載せて剣先を突き出す。
凡百の戦士ならば反応すらできずに喉を穿つ一撃を、鍛えられた戦士でも体勢を崩し致命的な隙を晒すであろう一撃を、新たなる指揮官は動体視力と腕力だけで防ぎきった。体幹は崩れ、剣は無惨に歪んでいる。
だが、それでも指揮官は致命的な隙を晒さなかった。倒れかかりながらも、剣は迷いなくレゴーへと振るわれる。その瞬間、彼は指揮官の顔を真正面から目撃した。
荒れ狂う戦闘衝動が、皮膚の下で蠢いている。喜色と興奮に歪んだ眼光とは対照的に、表情はどこまでも冷静だ。
美しいと、レゴーは目を奪われた。激情と冷徹が奇妙に同居する眼前の男は、ある種の芸術に見えたのだ。思わず鈍った動きは、致命的な隙となった。
頭蓋骨を粉砕せんと迫る鉄塊は、しかし直撃する寸前で制止した。風圧が汗に濡れた髪を剥がす感触を味わいながら、レゴーは眼前の剣を見つめる。
「勝負あり、ですね」
彼の口から零れた敗北宣言は、どこか清々しい空気を含んでいた。不思議そうにレゴーを見る男の目から、すでにあの激情は消え去っている。
「そうか。おかげで体もよく動くようになった。礼を言う」
疑念を飲み込み、プロパトルは歪んだ剣を困ったように見つめた。すかさず従者が駆け寄り、それを回収する。
ざわめきが広がる中、プロパトルは先ほどまでの戦闘を思い返していた。改造された体をもってしても見切ることがやっとであるレゴーの動き。力で押せば技で返され、速度で攻めればフェイントで惑わす。身体能力差をものともしない副官の姿は、無意識に慢心していたプロパトルを心胆寒からしめるに十分だった。
次世代に向けて造られた肉体も絶対ではないのだ。鍛え抜かれたサンダーウォリアーであれば、プロパトルを下すことは十分に可能であることをレゴーは証明して見せたのだ。
警戒を新たにするプロパトルを、戦士たちは尊敬の眼差しで見つめていた。部隊内で無敵を誇ったレゴーに、新たな指揮官は初めて土をつけたのだ。彼らにとってそれは偉業であり、付き従うに十分な理由となる。
明らかに変わった部隊の雰囲気を、プロパトルは肌で感じ取っていた。予想よりも高い規律に、明らかな尊敬の念。この二つが揃った今、彼は部隊を十全に率いることができると確信していた。
その確信が、数週間後の実戦で崩れ去ることになるとも知らずに。
燃え上がる炎と、広がる瓦礫。
人々を血と暴力で支配するテクノバーバリアンが保有する、失われた技術を利用した強力な軍隊。周辺国ばかりか自国民にとってすらも恐怖の象徴であったそれは、将軍旗下であるサンダーウォリアーに鎧袖一触で敗れ去ったのだ。
プロパトルも攻撃部隊の戦闘で指揮を執っていたが、彼から見てもまるで戦いになっていなかった。接近戦を好むのか、まともな射撃戦を行わずに突撃をしたテクノバーバリアンの兵。それらは前線のサンダーウォリアーが剣を振るうたび、まともな抵抗すらできずに血に沈む。その死体を乗り越えても、後続の戦士が隙を埋める射撃で射殺する。ほんの数分で、将軍側に一切の損害を出すことなくテクノバーバリアン軍は敗走した。
問題が起こったのは、追撃戦のために首都へと突入した時だった。後方部隊の砲撃で破壊された城門から雪崩れ込んだサンダーウォリアーたちは、見境の無い破壊と虐殺の体現者と化したのだ。戦闘員、非戦闘員に構わず襲い掛かり、血を浴び、笑う。建造物を破壊し、踏み荒らし、火を放つ。得物を奪い合い、同士討ちを始める者すら散見される。
プロパトルは、自らの指揮する部隊内からすらその蛮行に参加する者がいた事実を受け入れられず放心した。
「指揮官殿、いかがされましたか?」
なぜか茫然と立ち止まった上官を心配したレゴーの声に、プロパトルは再起した。
「指揮下の部隊を招集しろ。集合次第、全軍の蛮行を止めるんだ!」
「何故止めるのですか。好きにさせておけばよろしいでしょう?」
不思議そうに問い直す副官に、プロパトルは絶句する。彼らは、今眼前で繰り広げられている行為に一切の疑問を持っていないのだ。戦いこそが本能であり、勝者の当然の権利として敗者を蹂躙している。感情論で否定をしても統率はとれないと判断し、プロパトルは必死に思考を巡らせる。
「……レゴー、勝者が敗者を支配するのは当然のことだな?」
「はい。それが節理であります」
「そうだ。つまりこの都市は、勝者である将軍閣下の所有物となった。それを我々が独自の判断で破壊し、住民を指示なくして殺すことは将軍閣下の意に反する可能性が大きい。
反逆の意思無きことを証明するため、即座に全軍に必要以上の行為停止を通達し、逆らうようならば鎮圧せよ」
「なるほど、かしこまりました」
一礼し、部隊員達を集合させるレゴーを見ながらプロパトルは走り出した。サンダーウォリアーに先ほどの理論を説き、聞き入れなければ問答無用で鎮圧する。造られた素養と鍛錬によって鍛え上げられた身体能力は、並のサンダーウォリアーを一方的に打ち倒すまでの戦闘能力をプロパトルへ与えていた。
数度の鎮圧を経て周囲を見れば、すでに騒動は収束していた。サンダーウォリアーはプロパトルを脅威とみなし、陣形を組み武器を構えている。
注目されていることを確認し、プロパトルは声を張り上げた。
「改めて言おう。この都市は将軍閣下の所有物となる。それを無意味に傷つければ、反逆の疑いをかけられかねない。当然、無意味に民を殺しても同じことだ。
戦闘を最小限に収め、都市全体の制圧を優先しろ!」
プロパトルの指示に、一際体格のいい男が歩み出た。視線は鋭く、敵意を隠そうともしていない。
「なぜ貴様の指示を聞く必要がある。作戦説明で指揮官は好きに戦えと命じたぞ。貴様もその場にいたはずだ、指令を否定するのか?」
「命令ではない。これは提案であり警告だ。あくまでも私の予想だが、無視して行動した場合助けが得られると思うな」
睨み合いは、数秒で終了した。男も、プロパトルの言に一定の理があることを理解したのだ。
男に付き従うようにして制圧を開始する蛮族の群れを見ながら、プロパトルは頭を悩ませる。将軍直参の攻撃部隊がこれでは、いずれ必ず行き詰まることになる。
破壊されつくした都市の一角で、プロパトルはサンダーウォリアーの行動を変えると決意した。まずは、自分が指揮する部隊から始めるのだ。
ウォーハンマー40K用語解説
あいうえお順
・ウルトラマリーン
スペースマリーンでも代表的な戦団であり、主人公的立ち位置を多く務める。
柔軟性と対応力の高さが特徴であり、どのような敵が相手でも同等以上にわたり合うことが可能。
その安定性と精神性を買われ、スペースマリーンが新たな戦団を生み出す際にはウルトラマリーンから分派することが非常に多い。
・テクノバーバリアン
技術蛮族と呼ばれる、テラを支配する暴力集団の総称。
名が示す通り高い技術力を保有するが、その有用性も危険性も理解せず戦闘と破壊にしか興味を持たない文字通り野蛮人。
勢力によっては知的な集団も存在し、将軍は外交と戦争を使い分けて支配領域を広げている。
・プロパトル
当小説の主人公であり、原作には存在しない異物。
何故か別世界の記憶を保持しており、そのため知識や常識の面で戸惑うことが多い。
サンダーウォリアーを生み出す手術との適合力が高く、他の被験者が尽く死亡した新型手術に唯一生存した。
・レゴー
当小説オリジナルのキャラクターであり、主人公が率いる部隊の副官。
サンダーウォリアーの中では知性的であり、段取りや筋道立った思考をすることが可能。
しかし戦闘本能は否定せず、略奪や虐殺も勝者の慣習として受け入れるだけの野蛮さを持ち合わせている。