更新は遅いですが楽しんでいただければ幸いです。
皇帝陛下の元で初陣を勝利で飾ったプロパトルは、しかしそれを喜ぶことはなかった。彼の目には、無残に殺された人々と破壊された都市が映っていたのだ。
争いの無用な犠牲を嘆いた彼は、自らの部隊を集め演説をしたという。
我は人間を率いる。獣を率いるのは性に合わず、獣性に飲まれることなく人であれ。敵対者に容赦をせずとも、その被支配者や投降した者には慈悲をかけ無用な戦闘は慎むべし。
これこそ我ら戦闘者が持つべき心構えであり、皇帝陛下からあまねく存在へともたらされるべき恩寵である。
――サラマンダー戦団、
初陣後、プロパトルは自らの部隊を招集していた。前日に行われた祝賀会に参加しなかった隊長からの呼び出しに、部隊員達は疑問符を浮かべながら割り当てられている訓練場へと向かう。
全員が整列したことを確認し、プロパトルは口を開いた。
「諸君、まずは此度の勝利見事だったと言っておこう。
射撃戦、そして接近戦で一人の負傷者も出さなかったのは正しく普段の訓練が報われた形だ」
褒めているはずのプロパトルが苦い表情を浮かべていることに、隊員たちは内心首をかしげる。
「だが、それだけに首都攻略戦の見苦しい有様には失望した。本能のまま狂乱に身を任せるとは、戦場での心構えがまるでなっていないではないか。
私は規律正しい人間の戦士を率いているつもりだ。本能に支配された、獣の群れを従えるつもりはない」
ざわめきが大きくなる。自分たちの指揮官が何を問題視しているのか、誰も理解できなかったのだ。
「今の反応で、諸君らがどの程度の倫理を持っているのかよくわかった。
訓練時間の割り当ては変更だ。開始と終了から30分を、座学に当てる」
この宣言には、隊員たちも眉を顰める。彼らの不満を代表するように、レゴーが一歩進み出た。
「指揮官殿、その時間は無駄ではありませんか?
我らは暴力装置であり、僅かな時間でも腕を磨き技を得ることに費やしてこそのサンダーウォリアーでありましょう」
副官の言葉に、プロパトルは内心諦めを覚えていた。部隊でも、特に理知的であるレゴーがこの認識なのだ。他の部隊員の片間の中など、考えるまでもない。
どれだけ理知的に話しても無駄であろうことを悟ったプロパトルは、内心の溜息を飲み下し前を向く。
「理由は多々あるが、中でも大きな理由は一つだ。
単に、私が気にくわない」
理論理屈を全て無視し、指揮官は自らの好みの問題であると言い放った。
「私は戦士と共に戦い、規律立った戦闘を理想としている。どれだけ強かろうとも、本能に呑まれ暴走する野蛮人と轡を並べるなど願い下げだ。
私が率いる以上、貴様らには人間でいてもらう。獣の群れを率いるのは性に合わない」
獣と呼ばれ、隊員たちの目に僅かながらの不満が浮かぶ。自らを戦士であると定義するサンダーウォリアーにとって、技も鍛錬も無い獣扱いされることは腹に据えかねるものがあったのだ。
「発言の撤回を要求します、指揮官殿」
「断る。貴様らは現状を正しく認識する必要がある。機嫌を取るために言葉を選んでは何の意味も無い」
レゴーとプロパトルの視線がぶつかり合い、空中で火花が散る。不満を瞳に宿していた隊員たちが、あまりの気迫に一歩退くほどの剣呑とした空気。
言葉を発しその空気を破ったのは、プロパトルだった。
「私の考えに不満があるだろうことはわかっていた。一方的に考えを押し付けても、身にはなるまい。
7日に一度、貴様らの代表者が私に挑む機会をやろう。私が負ければ、勝者の要求を1つ飲むことを約束しようじゃないか」
力を信奉するサンダーウォリアーにとって、非常にわかりやすい条件。現時点でプロパトルを除いて最強と言えるレゴーは、決意を示すように一歩進み出た。
「要求内容に、制限はあるのですか?」
「将軍閣下に不利益を与えるであろう要求以外、一切の制限を与えないことを誓おう。
戦士と獣の間で揺れる隊員諸君。文句があるのならば、実力で示せ」
その一言に、居並ぶ隊員たちの目が変わる。強さを尊ぶ者達にとって、それをもって示せの一言はよく響いたのだ。
部下の表情を眺めたプロパトルは、内心で満足そうに頷いた。
「反論は無いようだな。
明日より座学を開始する。その7日後、最初の挑戦を受けよう。
では、解散」
そう言い残し、プロパトルは退室した。座学で何をどう教えるべきか、頭を悩ませながら。
それから、プロパトルの率いる部隊は奇妙な日常を送ることになった。
「――つまり、弱くとも我々にとって欠かせない存在はあるのだ。むしろ、弱いからこそ戦いに関わる物資を作り出すことに専念できる。
我々が振るう刃も、纏う鎧も、弱き者がいなければ十全な整備すらままならない」
毎朝夕の座学。
強さだけでは集団は成り立たないと教え込み、強さを元とした傲慢から来る粗暴性を削ぎ落とす。
「力だけに頼るな。私が言えたことでは無いが、技が無ければ同程度の相手と戦ったとき為す術無く敗北することになる。レゴーを手本に足捌きから覚えろ。
次」
合間の訓練。
力任せではない確かな技術を身につけさせ、荒々しく暴れる集団から洗練された戦士へと動きを変える。
「私の勝ちだ。
次の7日間も、座学と訓練は続行する」
そして7日に一度の試合。
教え込んでいるのは弱者の理想論などではなく、実力を伴った強者が示す規律なのだと結果をもって叩き込む。
元々戦闘経験無しでレゴーを下したプロパトルだ。実戦に近い訓練を積み続ける今、彼とそれ以外の戦闘力は開き続けている。とはいえ部隊員の中には食らいつく気概を持つ者が一定数いるため、油断はできない。
意識改革と同時に、部隊構造の変更にも着手が開始された。
「レゴー、実力のある者を選び部隊を編成しろ。精鋭として扱い、手本とさせる。
座学で頭角を現した者は私との面談予定を組め。素質が見込めれば現場指揮官に任命する。十人ほど従えさせる予定だ」
「かしこまりました。手配は進めますが、弱者に従わぬ者もいるでしょう。
どうされるおつもりで?」
「指揮官は私が直接指導する。最低限一隊員に負けぬ程度には鍛えられるだろう」
突出した部隊の設立と、指揮伝達網の構築。強者に特異な地位を与え、憧れを持たせると同時に過分な交流を断つ。強さではなく頭脳で階級を決め、自らの思想を明確な形とする。
この改革は将軍の興味を引いたらしく、プロパトルはマルカドールに呼び出されることとなった。
「何故呼び出されたのかはわかっているな?」
「はい。私の部隊改革についてで間違いないでしょうか」
「そうだ。何故あれほど手間のかかる方法をとる。命じて従わせた方が手っ取り早いだろう」
マルカドールの疑問はそこだった。
サンダーウォリアーは強さを信奉する野蛮人の群れである。強い者が命じれば、多少の反発を腕力で黙らせるだけで従い続ける。プロパトルのように、思想から変えていく必要などないのだ。
その疑問の答えは簡単なものだった。
「つまらない理由なのですが、単に私が気に入らないのです。
戦士とは高潔な暴力装置であるべきであり、理性を持たない存在は戦力たり得ないと私は考えております。
私のしていることは、率いる部隊に自分の理想を体現して欲しいというわがままに過ぎません」
プロパトルは素直に行動理由を白状した。
初めて戦士団と聞いて彼がイメージしたのは、一糸乱れぬ統率を持った高潔な集団。仇なす敵を容赦なく屠りつつも、銃後の民に慈しみを向ける者達。
野蛮人の群れでは先がないと考えたのは嘘ではない。だが実態と大きく乖離していた理想を現実にしようとしているのも、大きな理由なのだ。
叱咤を覚悟しての暴露だったが、それを聞いたマルカドールの口元には小さな笑みが浮かんだ。
「それが貴様の本音ならば、叱咤するほどのものではないな。欲望のままの行動が閣下の利となるならば、その欲望を追及するとよい。
個人的な話になるが……力のみを原理とする者よりも、秩序と理性を元に行動する者の方が好ましい。貴様が今のまま進み続けることを願うぞ」
「は、はっ!」
予想外の言葉にプロパトルは一瞬呆気にとられるも、慌てて頭を下げた。
「そう慌てずとも、貴様にかけられた疑惑は晴れたと考えてよい。今後も閣下のため行動するように。
下がってよい」
「かしこまりました」
一礼し、退室するプロパトル。扉が完全に閉まったことを確認し、マルカドールは背後へと振り向いた。
「彼の者の言に嘘偽りはなさそうですな。幸い、私兵を肥やすつもりもなさそうです。
我らの理想に、近いものを持っているようですな」
「そうだな。思わぬ収穫だ」
声と共に、輝かしいばかりの巨体が虚空から滲み出るようにして現れた。マルカドールの背後に立っていた将軍が、隠形の術を解いたのだ。
恐るるべきはその精度。新世代の戦闘兵器であるプロパトルに、一切の違和感を持たせることなくそこにただ立っていたのだ。術が中途半端であれば気配や空気の動きで気づかれ、強すぎれば意識の空白に違和感を持たれる。それを自然な空間としてその身を溶け込ませるという、異能者としての脅威的な技量の一端だ。
「部分的とはいえ、我らが理想を体現する部隊が自然に完成しつつあるとは、嬉しい誤算というものだ。
彼の部隊の注視を続けよ。どのように変化するか、興味深い」
「かしこまりました。面白いものが見られそうですな」
「次の進行に抜かりはないな?」
「すでに補給体制も整っております。
敵は我らの戦力を警戒して籠城の構えをしておりますので、少々長引くやもしれませんな」
「できるだけ短期で落城させる。策は先日伝えた通りだ」
「かしこまりました」
「士気向上の式典も控えている。武具の選定を忘れるな」
「承知しております」
立ち去る将軍へ深い一礼をし、マルカドールは自らの領域へと足を向けた。
プロパトルがマルカドールに呼び出されてから数日後、各サンダーウォリアーの部隊名を正式に付与する儀式が行われることとなった。
初陣での戦いを見た将軍がその戦いぶりから名付けるとあって、各部隊長のみならずサンダーウォリアー全体が浮き足立つような雰囲気に包まれている。
「貴様の部隊は多くの敵を薙ぎ払い、力強い武勇を示した。力により戦列を破る姿に相応しくなるよう努めよ。
部隊を大剣と名付ける。グラウスよ、ここへ」
マルカドールに促された隊長が、将軍の前に跪く。掲げた手に、手すがら大剣型のパワーウェポンが下賜された。
「励め」
一言声をかけられると、隊長は武装を腰に帯び下がる。
同じ流れで儀式は進み、大槍、戦槌、大鎌、大斧といった部隊が誕生する。
そして、プロパトル率いる部隊の番がやってきた。
「貴様の部隊は戦功に逸るも即座に落ち着きを取り戻し、閣下の戦利品を損なわぬ行動をとった。必要以外では振るわれぬ武威を磨くよう努めよ。
部隊を小剣と名付ける。プロパトルよ、ここへ」
付けられた名は、一見するとサンダーウォリアーに相応しくなく思えるだろう。現に、すでに名付けられた部隊の中には忍び笑いを漏らすものが散見される。
しかし、プロパトルがそのような雑音を耳に入れることはなかった。差し出した手に授けられた、部隊を象徴する武具に見入っていたのだ。
「励め」
将軍の声に深い礼をもって答え、プロパトルは自らの部隊へと戻った。その後つつがなく式典は終了し、各部隊はそれぞれの訓練場へと足を向けた。
プロパトルは訓練場に入ると、授けられたパワーウェポンを室内の上座に当たる壁へと安置し部隊員たちへと振り返る。
「諸君、これが我々の象徴だ」
鍛え上げれた刀身を、うっすらと青いエネルギー力場が覆っている。全体に施された細工や彫刻も相まり、芸術品にも見えるだろう。
しかし、武器としてみれば最低限の性能だ。パワーウェポン特有の力場は複合装甲であろうとも貫くが、それまでだ。装甲を断ち切る大剣ほどのリーチは無く、装甲もろとも粉砕する大槌の破壊力も無い。
それでも、居並ぶ戦士達に不満げな表情を浮かべているものは一人としていなかった。
「必要以上に傷つけず、最低限の工程で敵を断つ。
そして、いかなる場でも身に帯びることができる。守るために振るわれる刃だ」
拡大解釈であることはプロパトルも理解している。だが、それでも小剣はたしかなアイデンティティとして部隊に刻まれたのだ。それを誇る演説を誰が責められようか。
「皆の顔を見れば、座学が無駄ではなかったと実感できる。
この短剣に恥じぬ部隊となるよう、一層の研鑽を期待する」
隊長の演説に、部隊は敬礼で返す。
満足そうに頷くプロパトルへ、レゴーが一歩進み出た。
「隊長、折り入って願いがあります」
「言ってみろ」
「部隊の希望者全員に、小剣の支給を願いたく」
「残念だが、それだけの数のパワーウェポンを揃えるのは不可能だ。用意できても1本が限度だろうな」
「いえ、通常の小剣で構わないのです」
「なに?」
副官の頼みに、プロパトルは思わず首を捻った。パワーウェポン輝きに惹かれたのかと思えば、それは違うという。
隊員たちがただの小剣を装備したところで、お守り代わりにしかならない。それを理解しないレゴーではないはずだ。
考えるプロパトルへ、レゴーは話を続ける。
「数名の隊員から、我ら部隊の象徴として小剣の装備許可を願われました。私も、できるなら身につけたいのです。
もちろん、飾りではなく実用性のある小剣を希望します。如何でしょうか?」
その申し出に、プロパトルは虚を突かれた。戦闘向きではない小剣を象徴とされても憤慨しない時点で内心驚いていたのだが、それを身につけたいという申し出が一般隊員から出るとは想定の埒外だったからだ。
「……そうか。レゴー、3日後までに希望者を纏めて発注しておくように。デザインは任せる。
希望する者の、短剣着用を許可する。今まで存在しなかった装備だ。動きの邪魔にならないよう注意するように。
解散」
隊長の許可に、静かな歓声が広がっていく。プロパトルも内心で笑みを押し殺しながら、小剣を腰に差し訓練場を後にした。
3日後。全隊員が自らのものと似たデザインの小剣を腰に差している光景を目の当たりにしたプロパトルは、内心で歓喜の雄叫びをあげることになる。
ウォーハンマー40K用語解説
あいうえお順
・異能者 いのうしゃ
混沌と呼ばれる異空間の力を引き出し操る存在であり、サイカーとも呼ばれる希少な存在。
才覚によって操る能力の規模が変わり、手品代わりの小規模なものから街を壊滅させることができるほど大規模なものまで振れ幅が大きい。
能力を濫用すれば混沌に住まうディーモンに感知され襲われる可能性があり、破滅と隣り合わせの生を送る運命を背負う存在である。
・サラマンダー
緑のアーマーが特徴のスペースマリーン戦団であり、炎熱兵器による中・近距離射撃戦を得意とする。
石炭にも例えられる黒い肌と燃えるような赤い瞳という恐ろしい風貌を持ち、ヘルメットを脱いだだけでいくつもの反乱が鎮圧されたという逸話を持つ。
外見とは裏腹に非常に慈悲深く人道を重んじる精神性を持っており、敵を打倒することよりも非戦闘員の救助や保護を重視している。
・パワーウェポン
エネルギーフィールドを纏った武器の総称であり、内蔵されたジェネレーターが生み出す力場により高い破壊力を生み出す。
近接武器であるならばほぼ全ての武装を改造可能であり、装甲に覆われた拳から大槌までその形状は幅広い。
高貴な役職の戦闘員やエリート部隊が持つことが多く、ある種の象徴とも見なされてもいる。
・部隊名
サンダーウォリアーの各部隊に付けられた名であり、得意とする戦法を武器になぞらえて命名された。
原作でもサンダーウォリアーの部隊はそれぞれ得意分野に秀でており、本作ではそれを元にわかりやすい形として名付けを行ったと設定している。
名付けられた武器をパワーウェポンとして各隊長に下賜されており、それらが部隊の象徴となっている。