皇帝の小剣   作:橡樹一

4 / 13
 予想を超えるお気に入りと感想、高評価をいただいて驚いております。
 感想は全てありがたく拝読しております。
 少々盛り上がりに欠ける内容となってしまいますが、楽しんでいただければ幸いです。


小剣と誉れ

 小剣部隊がプロパトルの教えを受けてから初めて投入されたのは、テラ統一戦争でも指折りの激戦となった戦場だった。圧倒的な敵の数に前線は分断され、本陣が攻撃を受ける危険が迫る。

 その時、小剣部隊は自らの危機を顧みずに敵部隊を突破し、本陣を守る壁となり戦ったのだ。無謀ともいえる行動にさしものサンダーウォリアー部隊にも犠牲は発生するが、その英雄的行動により本陣が攻撃に晒される事態は回避されたという。

 尊い犠牲となった英雄は、小剣にその名を刻まれ永遠となった。今でもテラの墓標に現存する聖遺物は、多くの巡礼者が涙する美しさをその鞘に納め眠っているのだ。

 自らの犠牲を厭わぬ防衛行動に、その身を盾とする奉仕の決意。これこそ、我らが目指す理想の体現に他ならないと言えるだろう。

 

――インペリアルフィスト戦団、チャプレイン(教戒官)の説法より抜粋

 

 

 

 その凶報がプロパトル率いる小剣部隊に届いたのは、テクノバーバリアン国家の要塞攻略戦において城門を攻略したタイミングだった。

 

「隊長、部隊後方に敵増援が出現しました!

 こちらへの挟撃ではなく、本陣を強襲する模様です!」

 

 同様の情報がサンダーウォリアー部隊に広がるが、一般的な軍ならばおこる動揺はほとんど見られなかった。

 それも当然と言えるだろう。本陣の中枢には、彼ら以上の力を持つカストーデス(近衛団)が控えているのだ。場合によっては、一人でサンダーウォリアー十人を一方的に打ち破る黄金兵団を心配するだけ無駄だと皆が知っている。背後を突かれ挟み撃ちになろうとも、それで死んだ者は弱兵であったと片付けられるだけ。故に、戦闘部隊は振り向かず戦闘を続行した。

 一部隊を除いて。

 

「総員反転!

 眼前の敵部隊を突破し、本陣前に展開せよ!」

 

 プロパトルの号令に従い、小剣部隊全軍が即座に敵要塞へと背を向けた。

 挟み撃ちの危険性が大きいということもある。彼らが纏うパワーアーマーは、エネルギーパックが装備されているという理由から背面の装甲が薄い。背後から射撃を受ければ、さしものサンダーウォリアーも被害を免れ得ないのだ。

 だが、プロパトルたちが反転した理由は他にある。カストーデスが守護するのは、あくまでも本陣中枢だ。近衛兵団の使命があくまでも将軍その人の守護である以上、彼らからして有象無象の集団が自軍に襲い掛かろうとも自ら動くことは決してない。

 それはカストーデス以外の軍勢が、テクノバーバリアンに援護なしでの戦闘を強いられることを意味する。主力ではなくとも将軍に率いられる戦闘部隊である以上、テクノバーバリアン相手に敗北することはまず無いと見ていい。

 しかし、それは多くの犠牲を払った上での勝利となる。その犠牲を理解してなお前線に留まり続けるだけの理由を、プロパトルは持たなかった。たとえ軍事的には無駄な行動であろうとも、意味もなく友軍を見捨てることは彼が理想とする戦士像に反する。

 そしてその選択を、彼の教育を受けた者たちは無言のまま受け入れた。不満も疑問も持たず、自らよりも直接戦闘に劣る友軍を助けるために危険な敵陣中央突破を敢行したのだ。

 

「全部隊は私に続け!

 楔型を維持し、陣形を崩すな!」

 

 叫びながら、プロパトルは先陣を切って敵陣へと襲い掛かった。

 専用に鍛えられた大剣を振るうと、テクノバーバリアンの兵士が紙切れのように薙ぎ払われ陣形に致命的な穴が開く。浮足立った敵兵へ、旗下のサンダーウォリアーが容赦なく襲い掛かり穴を広げる。

 当然、テクノバーバリアンもただで殺されるほど愚かではない。戦場音楽に気がついた者から次々と小剣部隊へ襲い掛かり、確実に戦士の体力と気力を奪っていく。

 そして、いかに強かろうとも無敵の戦士は存在し得ない。プロパトルの視界の端で、一人のサンダーウォリアーが崩れ落ちた。顔面装甲の隙間に斧が突き立ち、噴水のように血が撒き散らされている。思わず伸びそうになる手を意思の力で捻じ伏せ、代わりに正面の敵を唐竹割りに切り捨てる。

 僅かな犠牲を出しつつも、小剣部隊は敵陣の突破に成功した。迫る死をかき分けて現れたサンダーウォリアーに、ミリタルムは何が起きたのかわからないといった表情を浮かべている。

 

「展開し、1人も通すな!

 ミリタルムは我らの援護を!」

 

 プロパトルの怒声に、小剣部隊は薄く展開しミリタルムは我に返り武器を構えた。その光景にテクノバーバリアンは僅かに怯むが、小剣部隊の装備を見て一斉に襲いかかる。

 血に塗れ、所々破損した装備の小剣部隊は容易に打ち倒すことができると判断したのだ。その血のほとんどが返り血であり、破損は表面だけであり機能に影響がないことを彼らは知るよしもなかった。

 安易な突撃の代償は、すぐに支払われることになる。先ほどのような無理な突破でもしなければ、サンダーウォリアーはテクノバーバリアンを正面から相手にすることができる。しかも小剣部隊は互いに連携し、その背後からはミリタルムが射撃を続けているのだ。

 擬似的な要塞とも呼べる陣形に挑みかかったテクノバーバリアン部隊は、小一時間もせずに壊滅することになった。

 

 

 

 要塞攻略が終わり、また1つテクノバーバリアン国家が将軍の支配下へと下った。文官たちが平定を進める中で、武官であるプロパトルたちは自らの部隊の状態を確認する必要があった。

 

「レゴー、何人死んだ?」

「8人です、指揮官殿」

「遺体は?」

「回収し、安置しております」

 

 背後からの攻撃を無視した他の部隊と比べると、意外なことにプロパトル旗下の小剣部隊が受けた被害はそれらの半分にもならない。戦場の規模を考えれば、異常な戦果と言えるだろう。

 だが、プロパトルの表情は暗い。戦死者の内の数名は、彼の命じた無謀な敵陣突破が原因なのだから。

 

「保管庫に向かうぞ。誇り高き戦士に最後の言葉をかけてやらねば」

「はい」

 

 部隊初の戦死者ということもあり、プロパトルの足取りは重い。

 普段よりも時間をかけて辿り着いた保管庫の前には、見慣れない男たちが直立不動の体勢で整列していた。

 

「……ミリタルムの指揮官か。

 レゴー、彼らから何か連絡はあったか?」

「いえ、なにも聞いておりません」

 

 男たちの胸に付けられた識別票を見たプロパトルの疑問に、背後に控えていたレゴーも困惑を交えながら答える。話し声で2人に気がついた指揮官たちは、一斉に敬礼をした。

 

「小剣部隊隊長のプロパトル様でお間違いないでしょうか?」

「ああ。私がプロパトルだ。何用かな?」

「我々は先の戦いで、あなた方に守られた部隊の代表であります」

 

 答礼を返したプロパトルは、内心で首を捻る。このような場所で、彼らが待機をしていた理由がわからなかったからだ。単に礼を言うならば、訓練場へ来ればいい。その他の用事ならば、伝令を走らせれば済むことだ。

 

「ところで、どのような用件か聞いても?」

「はっ。我らを庇い、斃れた戦士に最後のお目通りを賜りたく」

 

 明かされた理由に、プロパトルは目を見開いた。常人で構成されるミリタルムからすれば、サンダーウォリアーは畏怖の対象だ。恐れられこそすれ、死した戦士に礼を言われるなどとは思いもしなかったのだ。

 

「本来であれば部隊全員でのお目通りを願いたかったのでありますが、人数が多すぎる故迷惑であると判断いたしました。

 よって、庇われた部隊の指揮官である我々が代表としてお待ちしていたわけであります」

 

 緊張からか恐怖からか、指揮官たちは体を強張らせている。恐怖を押し殺してでも、礼を言いたかったのだということは見ただけでわかる。

 

「入りたまえ。ここに安置されているのは我らの戦士だけのはずだ」

「……感謝いたします!」

 

 驚きと喜びを噛み殺して一斉に礼をする指揮官を手で制し、プロパトルは保管庫へ足を踏み入れた。

 冷気に満たされた暗室に、8の棺が安置されている。それぞれの名と部隊の象徴である小剣の意匠が彫られただけの、簡素な白木の箱が戦士たち最期の寝床だ。

 

「彼らだ。蓋を開けるぞ」

「わかりました」

 

 蓋を除けると、完全装備の遺体が横たわっていた。プロパトルが敬礼をすると、レゴーと指揮官たちもそれにならう。

 

「小剣、か……」

 

 プロパトルの目が、腰に差された小剣へと向けられる。他の部隊は採用していない、彼らだけの装備だ。常人から見れば幅広の長剣にも見えるそれを、しげしげと眺める。

 

「……レゴー、埋葬は10日後だったな?」

「はい。被害順にすると、どうしても遅くなると聞いております」

「それは構わない。従者たちならば遺体を腐らせるようなへまはしないだろう。

 戦士達に最後の贈り物をやりたいと思う。武具整備の従者に連絡はとれるか?」

「すぐにでも」

「ならば、3時間後に個室へ来るよう伝えてくれ」

「かしこまりました」

 

 そのやりとりの間にも、ミリタルムの指揮官たちは敬礼を崩さない。目をつぶり、真剣に祈っている。

 

「私は彼らと話すことがある。連絡を頼むぞ」

「はい」

 

 そう言い残して退室するレゴーを見送った後、プロパトルはミリタルム指揮官たちの祈りが終わるまで待つ。

 立ち上がった指揮官たちは、静かに待つプロパトルを見て驚愕を隠せない。

 

「そう驚く必要はない。

 さて、君たちに聞きたいことがある」

「はっ。何なりとお聞きください!」

「斃れた者たちが、どのような最期だったのか教えてほしい。数名を除き、彼らの最期を私は見ていないのだ」

 

 ミリタルムの指揮官たちから、驚きの声は上がらなかった。死した戦士を悼み、弱者と認識されるミリタルムへも敬意をもって接する、眼前の指揮官を受け入れ始めているのだ。

 

「では僭越ながら、我々が把握する限りのことを語らせていただきます」

「ああ、ゆっくりでいい。彼らの手向けにもなるだろう」

 

 どこか柔らかな雰囲気を纏う指揮官同士の語らいは、レゴーが戻ってくるまで続けられることとなった。

 

 

 

 10日後、大広間に小剣部隊は集合していた。彼らの眼前には、飾り付けられた8の棺が並べられている。

 

「将軍閣下から、私なりのやり方で戦士を送り出すことが許された。

 諸君、まずは黙祷を捧げる。よく戦い、散って逝った勇士たちに」

 

 プロパトルの言に従い、黙祷を捧げたのは小剣部隊の戦士たちだけではない。誘いを受けたミリタルムの指揮官たちや、従者も数名が参列していた。

 

「同じ部隊であり、共に研鑽した戦友が死んだことは悲しいことだ。だがそれを踏み越えて我らは進まなければならない。我らこそ将軍閣下の信厚き部隊であると、胸を張れるその日まで」

 

 そう言いプロパトルが合図をすると、従者たちが抜き放たれた小剣を掲げ進み出た。磨き上げられた刀身に、文字が刻み込まれている。

 

「これは、彼らの小剣だ。名と、名誉ある最後を刻み込んだ。

 読み上げるぞ」

 

 小剣の刀身を持ち、掲げる。その姿は見ようによっては、旧い儀式を行う司祭にも見えるだろう。

 

「ガールドよ。斧を巧みに操り、いかなる敵をも両断した勇士よ。汝は戦線を抜けた敵を食い止めんと立ちはだかり、打ち倒した隙を突かれ落命した。

 モルマよ。剣を愚直に振り、自らを高め続けた努力家よ。汝は改造された兵士を、その命を犠牲に打ち取った。

 テタよ。よく戦場を眺め、敵を見逃さぬ鷹の目よ。汝は狙撃されんとしていたミリタルムの指揮官を庇い、その凶弾に倒れた」

 

 次々と読み上げられる名と最後に、参列した指揮官たちからすすり泣きが漏れる。戦士たちも、戦友の最期を噛みしめるように聞いていた。

 1人また1人と読み上げられ、ついに最後の1人。

 

「リフィサよ。槍を好み、堅実な戦いを好んだ熟練者よ。汝は敵陣を超えんとした私の指示の元最前線で戦い、ついに力尽きた。

 8人の勇士たちよ。汝らの犠牲を、献身を我らは決して忘れない。名と逸話は鋼に込められ、永く称えられることだろう」

 

 そう言って、小剣は持ち主の棺の前に立てかけられる。

 

「さあ、最後の別れだ。見たい者は順番に見るがいい」

 

 その言葉を聞き、全員が棺の前に歩み寄った。棺の中で完全武装で横たわる戦士を、その横で誇らしげに光る小剣を、目に焼き付けている。

 不思議と、声は無かった。誰もが、話すよりも見ることに集中している。

 しばらくすると、誰ともなしに元居た場所へと戻り始めた。全員が戻ったことを確認し、プロパトルが再度口を開く。

 

「最後に、小剣を鞘に納める。

 この刃は二度と抜かれることはない。彼らの主は戦うことのない、安らかな眠りについたのだ」

 

 そう言うと、小剣を納刀し横たわる持ち主の腰へと差す。すべての小剣を棺に納め、従者たちに合図を送った。

 控えていた従者たちにより棺は担ぎ上げられ、どこかへと運ばれていく。

 

「地下墓地で、彼らは眠りにつく。黙祷で送り出すぞ」

 

 そう言って瞳を閉じたプロパトルは、扉が閉まる音がするまで顔を上げることはなかった。だからこそ、その目尻に光るものが浮かんでいたことに、誰一人として気がつく者はいなかった。

 こうして、小剣部隊の戦没者を送る儀式は幕を閉じた。この奇妙な儀式が後に小剣部隊の伝統となることを、まだ誰も知ることはない。

 

 

 

「マルカドールよ、偶然で片づけることができる範囲は既に過ぎたな」

「はい。あのような儀式を行う文化はすでにほぼ死滅しております。奴が使用可能な範囲に、それが記された書物もありません」

「異物、か。

 直接問いただす必要があるとは思わぬか?」

「御自ら、でございますか?」

「警護ならばカストーデスがいる。

 そもそも、鍛えたサンダーウォリアー程度に後れをとるとでも?」

「愚問でありました。お忘れください。

 すぐに呼び出しましょうか?」

「そうだな。先の無理な指揮についてといえば拒否もできまい。

 明日、呼び出す手はずを整えよ」

「かしこまりました。カストーデスからはどの者を?」

「こちらで選ぼう」

「……混沌の手のものでありましたら、お手すがら?」

「わかっているだろう。万が一にも、カストーデスを混沌の穢れに晒すわけにはいかん」

「わかっております。

 それでは閣下、準備に取り掛からせていただきます」

「励め」




 ウォーハンマー40K用語解説

 あいうえお順

 ・インペリアルフィスト
 黄色のアーマーを纏う、スペースマリーン戦団の1つ。
 戦線の維持を至上としており、玉砕すら厭わずに戦い続けることで名高い。
 また高い射撃スキルを有しており、主力武器であるボルターの扱いにおいて並ぶものは無いとされる。

 ・ミリタルム
 改造を受けていない通常の人間で構成された、将軍旗下の戦闘部隊。
 サンダーウォリアーの後詰めや援護が主な任務であり、正面戦闘力は期待されていない。
 とはいえ兵数と武装は揃っているため、損害を無視すればサンダーウォリアーと渡り合うことも不可能ではない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。