他の作者様と比べると遅筆である拙作ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
英雄としてその名を轟かせるプロパトルは、あるとき一人のサージェントと出会った。本来であれば歯牙にもかけないであろう相手に、彼は軍歴の長さから敬意を払ったのだ。それに感動したそのサージェントは、自らの軍歴から学び取った戦場での心得を惜しむことなくプロパトルへと伝えたのだという。
常人の身で生きながらえていたサージェントの経験は、超人たるプロパトルを長く支え栄光の助けとなったとされている。
また身分を気にせず教えを請い研鑽を積み上げるプロパトルに、皇帝陛下は心打たれその心構えこそ模範たるべきと讃えたとされている。
身分を厭わぬ交流と、相手を選ばず学ぶべきという度量。これこそ、我らラスの仔らがかの英雄から学ぶべき精神である。
――スペースウルフ戦団、
将軍との奇妙な謁見から数日後、プロパトルの元へ従者から伝言を届けられた。それはマルカドールから送られたもので、ミリタルム所属のパーペチュアルと面会する準備が整ったという内容だった。
急な話だったが、それを断るほど重要な用事があるわけではない。昼食後の訓練をレゴーに任せ、指定された小部屋へと向かう。
指定された部屋は、人気のない廊下の突き当りにある。入室前にノックをすると、返事が返ってきた。
「どうぞ、開いていますよ」
扉を開くと、ミリタルムの制服を身に纏った男が椅子に腰かけていた。入室したサンダーウォリアーの姿を見ると、弾かれたように立ち上がり敬礼する。
「こ、これは失礼いたしました!
小官はこの部屋で待機せよと命令を受けておりまして……」
「一つ聞きたい。人間たるは何による?」
プロパトルが従者から聞いていた符牒を口にすると、慌てていた男は冷静さを取り戻した。
「倫理と理性による。
あなたが件の精神的パーペチュアルですか」
先ほどまでの慌てようが嘘のように、兵士はプロパトルを遠慮無く観察している。
「その顔、小剣部隊の隊長でしたか」
「私を知っているのか?」
「ミリタルムでは名高いですからね。我々を見下さないサンダーウォリアーはあなた方以外にはいない」
そう言われ、部隊の意思改革が無駄では無かったと実感しプロパトルは内心感動した。同時に、他の部隊へ影響を与えられていない現実も見ることになってしまったが。
感情の波を噛み殺し、プロパトルは兵士へ向き合う。
「名乗らせてもらおう。サンダーウォリアー小剣部隊隊長、プロパトルだ。
君は将軍閣下のおっしゃっていた、ミリタルム所属のパーペチュアルだな?」
「おっしゃるとおりであります。
ミリタルム第41連隊サージェント、オラニウス・ピウスであります。プロパトル様の活躍は兼々聞き及んでおります。
本来であればもう一人のパーペチュアルも同席するべきだったのですが、現在潜入任務中故私だけの面通しとなります」
ピウスの言葉に、プロパトルは首を捻った。
「この会談を準備したのはマルカドール閣下だろう。あの御方が潜入任務中を考慮に入れなかったなどという、初歩的な手落ちをするとは考えにくいが」
「何分急な話でしたから。
潜入は半年以上前から継続しているようなので、流石に予定が合わせられなかったのでしょう」
プロパトルはそういうことならばと納得した。彼の特異性を将軍たちが知ったのは偶然によるものだ。それから急遽準備された会談故、年単位で行動する潜入工作員の予定が合わずとも仕方のないことだ。
切り替えたプロパトルは、気になっていたことを思い出した。
「一つ、質問をいいかな?」
「なんでしょうか?」
「君は長い軍歴を持つと聞いた。参考までに、参戦した有名な戦いを教えてもらっても?」
その質問に、ピウスは顎に手を当て沈黙する。
「……長く生きているので、古い記憶は曖昧です。
覚えている限りでもよろしいですか?」
「それはもちろん」
プロパトルの返答に、ピウスはそれではと答える。
「直近での戦いとなりますと、鉄人戦争ですかね。アシンスト星系での撤退戦は壮絶でした」
「鉄人戦争?」
「おや、プロパトル殿は鉄人をご存じないので?」
「私の記憶は一部が失われている。サンダーウォリアーの手術を受ける前の記憶は全く無いんだ。
それより前になると、おそらく技術の時代よりも前のものになる」
「なるほど……」
ピウスは興味深そうに考え込むと、それではと顔を上げた。
「技術の時代よりも前となりますと、世界大戦はどちらも参加しましたね。主にヨーロッパ戦線になりますが。
塹壕戦、毒ガス、戦車に戦闘機。あれほどまでに戦場が目まぐるしく変わることは初めての経験でした。国家総力戦の概念も生まれましたし、様々なものが生まれては消えたのも印象的です」
ピウスからすれば単なる記憶の一つだったが、プロパトルからすればそうではなかった。讃えようと口を開くが、それよりも一つ疑問が浮かぶ。
「まさか世界大戦にも参戦していたとは。
ところで、その言い方だともっと古い戦場で戦ったことも?」
「それはもちろん。私の主な生活区域がヨーロッパの周辺地域でしたので、大きな戦いには傭兵紛いに参加しておりましたよ」
「それは、なんとも……」
あっさりと明かされる予想を超えた軍歴に、プロパトルは言葉を失う。眼前にいるミリタルムのサージェントに、畏敬の念を抱いたのだ。
「凄まじい軍歴だ。貴方こそ、戦争の全てを知る者と言えるかもしれない」
「嬉しいですが、その称号は将軍閣下にお渡しすることになりそうですね。
あのお方は、私など及びもつかないほどの遥か古代から生きておられるとのことですので」
プロパトルの敬意を受け取り、ピウスはまんざらでもなさそうに笑う。
「是非、戦場での心構えや行動を教えて欲しい」
「私程度が身につけたもので良ければ喜んで」
パーペチュアルは不死身である以外の能力を一切担保しない。肉体的にはただの人間でしかないピウスの武器は、その圧倒的な軍歴による知識と経験だ。それを改造された超人であるプロパトルが身につけることができれば、戦士として比類なき存在へと足を踏み入れることができるだろう。
改造兵士の幹部に肉体的にはただの人間が講義を行う不可思議な時間は、しかし本人たちからすれば非常に充実したものとなった。
「……という可能性が大きいため、この場合は中途半端に撤退するよりも敵陣に切り込んだ方が作戦の成功率が高くなると判断しました。
敵将もこの状態で我が軍が突撃を選択するとは思っていなかったようで、意外なほどあっさりと敵軍の戦線は崩壊しましたよ」
「なるほど。しかし士気崩壊についてはテクノバーバリアンには期待できなさそうだ。
意表を突いての痛撃、あるいは遊撃戦を主目的とするべきか」
「隙さえつくれば、あなたがたにとってテクノバーバリアンは敵ではないでしょう。
おっと、そろそろ点呼時間になりますので、名残惜しいですが私はこれで失礼いたします」
「ありがとう。非常にためになる話だった。
また話す機会をもらえるかな?」
「お誘いいただければ、喜んで。
ただ、上官に口添えをお願いします」
「それはもちろん。
では、また今度」
「ええ、よろしくお願いします」
互いに敬意を込めた敬礼を交わし、先にピウスが部屋を出る。小走りの足音が遠ざかったことを確認し、プロパトルは部屋を後にした。
プロパトルとピウスが会談を行った数日後、プロパトルの姿は彼の素性が判明した謁見の間にあった。心当たりがない状態で呼び出されたため、プロパトルは困惑を押し殺し跪いている。
「そう緊張するな。貴様に失態があったわけではない」
その様子を見たマルカドールの一言に、プロパトルは思わず肩の力が抜ける。
「では、何故呼ばれたのでしょうか?」
「それは私から伝えることではない。
閣下がいらっしゃる」
マルカドールの言葉が終わると同時に聞こえてきた足音に、プロパトルは頭を垂れる。
重い足音を伴い、圧倒的な存在感と共に将軍は現れた。玉座に腰掛け、プロパトルへと視線を投げる。それだけでプロパトルは体が強張った。
「面を上げよ」
マルカドールの言葉に従い、プロパトルは視界に将軍を映す。
「肩の力を抜くがいい。今回は事前通達と任命が要件だ。失態や指揮の追求ではない」
水晶の原石を切り出したような貌をピクリとも動かさず話す将軍に、プロパトルは内心胸を撫で下ろした。以前に呼び出された状態が状態だったため、この空間に小さくない苦手意識を持っていたのだ。
「貴様の指揮する小剣部隊は、他のサンダーウォリアーとは違い理性を持って行動している。これは讃えられるべき偉業だ」
「お褒めの言葉、身に余る光栄でございます」
将軍からの賛辞に、プロパトルは深い礼をした。
「しかし、他のサンダーウォリアーの意識を変えられていないのは忸怩たる思いであります」
「指揮下の部隊を変えただけでも十分な成果よ。
サンダーウォリアーは戦闘に特化した存在故、暴力性に呑まれやすい。それが兵士として己を律し弱者を庇うのだ、驚くべきといえるだろう。誇れ」
「ありがとうございます。その御言葉を賜る栄誉だけでも、努力の甲斐があります」
僅かな沈黙。それを破ったのは、話し合いを見守っていたマルカドールだった。
「閣下、例の件についてお伝えしないのですか?」
「そう急かすなマルカドールよ。
プロパトルよ。貴様の率いる小剣部隊に、配置転換を命じる」
「転換、でありますか?」
「然り。
我らの支配領域は増えた。故に前線の負担は少なくないが、ミリタルムの練度とサンダーウォリアーの突破力で十分に補える範囲だ。
しかし、国内の不穏分子を押さえ込む力が足りぬ」
「拡大と統治が釣り合っていないのだ。貴様の部隊にも、暴徒鎮圧の任が降りたこと一度や二度ではないだろう」
将軍とマルカドールの言に、プロパトルは無言で頷き同意を示した。
破竹の勢いで領土を拡大する将軍の勢力だが、当然ながら戦力までもが増えるわけではない。広がった戦線はミリタルムの物量とサンダーウォリアーの機動防衛で十分維持できているのだが、問題は国内の治安なのだ。
征服した勢力には敵愾心を持つ者も少なくない上、生活を聞きつけてやってくる難民に紛れかなりの数の工作員が領土内に入り込んでいる。民衆に紛れ建物を盾にする工作員の排除は、サンダーウォリアーでは過剰なのだ。数人の工作員排除のために、集合住宅とそこに住む民がサンダーウォリアーの手によって失われたことは一度や二度ではない。
理性で本能を抑制し規律立った行動が可能な小剣部隊は、工作員排除や暴徒鎮圧のような最小限の破壊しか許されない任務にはうってつけだった。それ故中規模以上の暴徒や反乱には、必ずと言って良いほど呼び出されている。
「後日の式典で正式に任命するが、ここに命じる。
小剣部隊総員は、前線を引き勢力内部の治安維持に貢献せよ」
「謹んで、拝命いたします」
プロパトルが差し出した両手に、マルカドールが羊皮紙を乗せた。将軍直筆の指令書は丁寧に畳まれ、プロパトルの懐へと仕舞われる。
「よろしい。
ミリタルムから選抜した専門の部隊を新設し指揮下とする。有効に使え」
「かしこまりました」
「もう一つ、伝達することがある」
話は終わりかと考えていたプロパトルは、マルカドールの一言に内心で首を捻った。
「感知できない貴様には信じられない話だろうが、"歪み"は知的生命体を汚染し邪悪なる意思の下僕とする性質がある。
私はそれの対抗手段を探していた。強靭な精神により"歪み"の誘惑に屈しない存在を考えていたのだが、まさか一切の影響を受けない存在がいるとは望外だった」
そう言いながら将軍が合図をすると、数名の従者が台座を運びながら現れた。プロパトルの傍まだ運ばれたそれは、重々しい音を立てて床へ置かれる。
従者たちが一礼して立ち去り、将軍は彼らが完全に退室したことを確認してから改めてプロパトルへと視線を移した。
「受け取るがいい。
かつて貴様には部隊の象徴として小剣を授けたな。それはもう一つの身分、その証となる」
立ち上がり台座の布を取り去ると、そこには巨大な
「これは……」
「”歪み”がもたらす混沌の汚染は、人類という種そのものに致命的な損傷を与える。
我が鉄槌となり、混沌の手先を排除せよ」
「恥ずかしながら、私には混沌の汚染が感知できません。
自分に感じ取ることができない存在を、討ち滅ぼすことができるのでしょうか?」
「諜報部隊の情報を精査し、汚染が確実と判明した集団を討てばよい。
汚染されず裏切る可能性がない貴様にしか、この使命を果たすことはできん」
その言葉を聞いたプロパトルは、戦槌を握りしめ持ち上げた。
常人ならば動かすこともできないであろうそれを軽々と動かし、将軍へと向き直る。
「拝命いたします。
人類の敵である混沌の汚染を、授けられた戦槌で討ち滅ぼして御覧にいれましょう」
「よろしい。極秘任務に当たる故、他言無用だ。
そうだな……見当がつき次第オフィシオの名で呼び出す。呼び出しがあり次第、この部屋で装備を整え出撃せよ」
「かしこまりました」
「では下がれ。
期待しているぞ」
「はっ」
一礼し、プロパトルは謁見の間から立ち去った。
「……マルカドールよ、目星はついているな?」
「はい。テクノバーバリアン勢力に、いくつか混沌の汚染が確認されています」
「ならば近いものから優先的に攻め滅ぼすぞ。
被害を気にする必要はない。情報すら残さぬよう徹底させよ」
「心得ております。
オフィシオ専用の装備、その準備を急がせます」
「速度よりも精度を優先させよ。あれがしばらく使えなくなるのは惜しい」
「生還を重視して造るよう、技術者たちに通達しておきましょう」
どちらからともなく頷き合い、将軍とマルカドールもまた部屋の外へと消えていった。
ウォーハンマー40K用語解説
あいうえお順
・オフィシオ
プロパトルに与えられた、混沌の汚染を討つ際に使われる名前。
非公式を意味する通り、この名に下された指令が公的な資料に残されることは一切ない。
武装は戦槌であり、膂力にものを言わせて正面から全てを破壊する。
・オラニウス・ピウス
将軍に仕えるパーペチュアルであり、西暦から様々な戦に傭兵として参加していた歴戦の戦士。
不死である以外に微弱ながら超能力者を感知する能力を持っているが、それ以外は鍛えた生身の人間と何も変わらない。
彼の武器は膨大な経験と不死を後ろ盾とした度胸であり、同条件で彼を打ち倒せる戦士はそう多くない。
・技術の時代 ぎじゅつのじだい
ウォーハンマー世界の時代区分であり、人類の最盛期と呼べる時代。
多くの技術が開発され、銀河の大部分に人類が入植したまさに人類の黄金期と言える。
詳しくは語らないが様々な要因が重なった結果、人類は惑星ごとに分断され不和の時代と呼ばれる暗黒期へと移ることになる。
・スペースウルフ
青白いアーマーを特徴としたスペースマリーン戦団であり、ヴァイキングにも似た独自の文化を持つ。
誇りを至上の価値観としており、それを傷つけられればたとえ上位組織が相手であろうとも牙を剥くある種の狂戦士集団。
その反面情には厚く、友とすればこの上ない戦友となる豪放磊落な戦士たちと言える。
・鉄人 てつじん
マン・オブ・スティールとも呼ばれる、人工知能が搭載された量産型の奉仕機械。
かつての人類が運用し、生活から軍事面において人類を支える主要な労働力として広く普及していた。
地球統一戦争よりもはるか昔に原因不明の反乱を起こし、このことから人類は人工知能に対して根深い不信感を抱くことになる。
・鉄人戦争 てつじんせんそう
上記の鉄人が引き起こした反乱であり、人類の支配領域全てが戦場と化した大規模な戦争。
鉄人の圧倒的な数に対抗するため、人類は多くの異種族と連合を組み辛くも勝利したとされている。
人類技術が頂点を極めた時代の戦争ということもあり、惑星を消滅させ時空すらも歪める兵器が導入された凄惨なものであったとされている。