機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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サイコミュ

 

 

「……ただいま」

 

 ドアを開けながら、アマテはいつもより少しだけ沈んだ声で呟いた。その響きは、明るくもなく、元気でもなく──ただ静かに、家の空気へと溶けていった。

 

 リビングの奥からすぐに声が返ってくる。

 

「アマテ! 門限ギリギリじゃない! 遅くなるなら連絡くらいしなさい!」

 

 声の主は、母親のタマキ・ユズリハ。ピシッとした姿勢に、仕事帰りとは思えぬ整ったスーツ姿。怒っているが、それよりも心配が先に立っていることは、アマテにもすぐにわかった。

 

「……ごめん」

 

 アマテは素直に頭を下げた。普段なら、もっと言い訳や反発が飛び出すところだったが、今夜はそうならなかった。

 

「でも……すぐそこまで、送ってもらったから。大丈夫だったよ」

 

 タマキは眉をひそめながらも、その言葉に少しだけ目を細めた。

 

「送ってもらった?」

 

「うん、友達……じゃなくて……仲の良い知り合いっていうか……」

 

 曖昧な言い方をして、アマテは目を逸らす。タマキは追及こそしなかったが、その様子にどこか引っかかるものを感じ取っていた。

 

 普段のアマテなら、もっと年相応に言い返してくるはずなのに、その言葉には、どこか寂しさのようなものがにじんでいた。

 

「……マチュ、大丈夫?」

 

 そう優しく問いかける母に、アマテはわずかに笑って見せた。

 

「……うん、大丈夫。今日はちょっと疲れただけ。部屋、行くね」

 

 それだけを残して、鞄を持ったまま、自室へと歩いていく。タマキはその背中を見送りながら、口には出さずに溜息をひとつだけ落とした。

 

 アマテはカフェオレの缶をテーブルに置き、ふわりとベッドに身を投げ出すと、天井をぼんやりと見上げた。制服のまま、靴下も履いたまま。でも、今は脱ぐ気にもなれない。ただ、あの言葉だけが、頭の中で何度も繰り返されていた。

 

『知識というのは力だ、アマテ』

 

 フブキが静かに言ったその声が、耳に残って離れない。

 

『知識があればいろんな視点で物事を見ることができる。世界を俯瞰して見て、考えて、間違って、また考えて。それの繰り返しだ』

 

(……力かぁ)

 

 アマテは、布団に倒れ込み顔を埋める。その言葉が、難しく、優しくて、でも遠いものに感じた。

 

(そんな風にちゃんと“考える”なんて、あたし……できてないかも)

 

 けれど、彼の言葉には不思議な重みがあった。何かを知っていて、何かを抱えている。──それでも、誰かのためにちゃんと伝えようとするような、諭すような……

 

(フブキ……フブキ・アルジェントか……)

 

 名前を思い出すだけで、胸の奥が少しだけ苦しくなった。……優しくて、温かった。今まで同級生や、先生、周りの大人たち、母親、いろんな人達が居た。でも、彼は初めての出会いから不思議で、空を見ている姿が、とても──寂しそうだった。

 

(……また、会えるかな)

 

 目を閉じると、あの日──社会科見学で見た、あのモビルワーカーの姿を思い出していた。

 

(……あれ、すごかったな)

 

 建設現場で、忙しなく動く機体の中にあって、ひときわ静かに──けれど力強く降り立った、一機のモビルワーカー。そのハッチが開き、中から現れたのが──彼だった。

 

(……フブキ……さん)

 

 その名前を胸の中でそっと呼ぶと、自然と胸が締めつけられるような感覚が湧いた。彼が何も語らずともこなしていた作業、淡々とした振る舞い。でも、どこかに芯の通ったものがある。

 

(あれに乗るなら……やっぱり、ちゃんとした“知識”がいるよね)

 

 闇雲なだけじゃだめ。想いだけでもだめ。ちゃんと知らなきゃ、見えないことも、できないこともある。

 

(……力があれば、自由になれるのかな)

 

 誰かに頼らず、自分で決めて、自分で動いて──そして、誰かのために、何かを残せるような。

 

(フブキ……さんみたいに……いろんなことができるように、なれるのかな)

 

 ふと、頬に熱が差した。でもそれは、羞恥ではない……ハズ……しかし、彼にまた会いたい。その時、今のままの自分じゃ──少し、恥ずかしい。

 

 だからこそ、ほんの少しだけ。ほんの少しだけでも、“ちゃんと”なろうと思った。

 

 知識を得るために。力を持つために。そして──もう一度、胸を張って彼に会うために。

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 フブキは、指定された場所へと向かっていた。イズマコロニーの中心街──高層ビル群の一角に、ひときわ無機質で堅牢な建物が聳え立っていた。

 ビルの外壁には、控えめな字体で「警備技術開発企業ゼネラル・リソース」のロゴが掲げられている。

 

 表向きは警備会社。しかし、その建物から発される無言の圧力は、ただの民間企業のそれとは明らかに異質だった。

 

 エントランスに入ると、広く洗練されたロビーが広がり、受付には落ち着いた制服姿の女性が立っていた。フブキが足を止め、名乗る。

 

「フブキ・アルジェントです。今日から〇〇建設より派遣されました」

 

 女性は一礼し、柔らかく、それでいて訓練された口調で答えた。

 

「お待ちしておりました、アルジェント様。どうぞこちらへ、ご案内いたします」

 

 その一言に、フブキは目を細める。彼女の背に続きながら、自然と観察する。

 

(……立ち振る舞いが素人じゃない)

 

 背筋はまっすぐ、歩幅も正確、足音すら無駄がない。見かけの柔らかさとは裏腹に、その身体からは、戦場で培われた規律と技術がにじんでいた。

 

(警備会社か……おそらくこの会社の大半は、連邦……軍上がり、だな)

 

 導かれるままにエレベーターへ入ると、彼女は制服の内ポケットから細い銀色の鍵を取り出した。操作パネルにある鍵穴へと差し込み、複数のボタンを順に押していく。

 

 “規則性のない配置”バラバラに押されたボタン──セキュリティ層の深さを物語っていた。エレベーターが静かに動き出す。しかし、表示された階数は“B1”をあっさりと通過する。

 

(……随分と深いところに案内されるようだな)

 

 沈黙の中、わずかに冷えた空気が、エレベーター内部を支配していた。しばらく下降しエレベーターが停止すると、機械的な音と共に扉が左右に開いた。その先には、艶消しの金属壁と白い照明が続く無機質な廊下。

 人の気配はほとんどなく、足音すら吸い込まれるような静けさが支配していた。

 

「こちらです」

 

 受付の女性は一言だけ添え、先を歩き始める。フブキも無言のままそれに続く。廊下はどこまでも直線で、曲がり角の一つもない。閉塞感よりも、意図された隔絶がそこにはあった。

 

 やがて、先を行く彼女がふいに口を開いた。

 

「──意外でした」

 

「……?」

 

「味方からも恐れられた鬼神が、こんな子供だったとは正直思っていませんでした」

 

 彼女は振り返らない。だが、その声音には皮肉も挑発もない。まるで、淡々と“記録の再確認”をするような冷静さがあった。

 

 フブキはその言葉に、顔色一つ変えずに答える。

 

「否定はしない。……俺のやったことは、恐れられ、残虐と言われてもしょうがないものだった」

 

 その声は静かだった。言い訳でも、反省でも、開き直りでもない。

 ただ、“事実”として、淡々と述べられた言葉だった。

 

 廊下に、再び沈黙が満ちる。

 

 “鬼神”──その異名がどこから生まれ、どう広まったのか、フブキはもう気にも留めていなかった。そして、それがどれだけ“恐れ”と“軽蔑”を混在させた響きを持っていたとしても──彼にとっては、ただの終わった事でしかなかった。

 

 やがて、女性が扉の前で足を止める。

 

「こちらが、本日からあなたが所属する“部署”です」

 

 扉が静かに開くと、まず目に飛び込んできたのは、広々とした無機質な空間だった。床には金属製のレールが這い、壁の向こう──分厚い強化ガラスの先には、大型の格納庫が広がっていた。

 そして、やはりというべきか、一人の男が静かに佇んでいた。

 

 フブキは、わずかに目を細める。男は気配に気づいたのか、ゆっくりとこちらに顔を向けた。そして、あの時と変わらぬ笑みを浮かべながら口を開く。

 

「──またお会いしましたね、フブキさん」

 

 まるで旧友に再会したかのような柔らかい声音だったが、その仮面の下にある“意図”は明白だった。フブキは一歩、扉の中に踏み込むと、吐き捨てるように呟いた。

 

「よくもまあ、白々しく言えたもんだな」

 

 表情は変えず、声だけが冷えていた。だが怒気はない。むしろ、“全てを見通した者”のような静けさがそこにはあった。

 

「……アンタがいるってことは、例の話なんだろ?」

 

 男は片手を上げて受付の女性に下がるように指示した。彼女は無言のまま一礼し、静かに扉の外へと退いた。

 

 そして、ようやく男は本音を口にする。

 

「──ええ。お察しの通りです。ですが……私は最初から言っておきました。選ばれた人間でなければ、この計画は成り立たないと」

 

 男はフブキをまっすぐに見据えながら、柔らかな笑みを絶やさずに続けた。挑発ではない。ただ、理知的に組み上げられた言葉の罠だった。

 

 フブキはしばし沈黙したまま、視線をガラス越しの格納庫へと移した。そこには、カバーのかかった試験機のシルエットが、ひときわ重々しい存在感で眠っていた。

 

「では、早速ですが──本題へ入りましょう」

 

 男が一歩フブキに近づき、手を軽く振ってみせた。

 

「こちらです。どうぞ、ついてきてください」

 

 フブキは無言で頷き、男の後を追って階段を下りる。足音がコツ、コツ、と階段に響くたび、先ほどガラス越しに見えていた格納庫が、次第に現実の空間として近づいてくる。

 

 足元が金属の床に変わると、視界は一気に開けた。広大な格納庫──そこでは複数の作業員たちがモニターや計器の前に立ち、作業に勤しんでいた。だが彼らの視線の多くは、密かに、しかし確実に“こちら”を伺っていた。

 

(……やはり、厄介な肩書きは外れてくれないか)

 

 フブキは彼らの視線を黙殺したまま、男の背に続いた。男が立ち止まると、その先に大きな白布──シーツを被せられた巨大な物体が鎮座していた。

 

「シーツを取ってください」

 

 男が声をかけると、作業員が小さく頷き、慎重な手つきでその布を引く。あらわになったのは、“胴体だけ”のモビルスーツだった。

 頭部も腕部も脚部もなく、ただ巨大なトルソーだけがむき出しになっている。それでも、その滑らかなライン、装甲の材質、整然とした表面の処理から、それが“新型”であることはすぐにわかった。

 

「コックピットブロックに形だけの装甲を貼り付けただけの、ただのハリボテです。気にしないで」

 

 男は自嘲気味に笑いながら言った。すぐに近くの端末が操作され、機体中央部にあるハッチがカシャリと音を立てて開き、スライドする。

 

「どうぞ」

 

 男が手で示すと、フブキは黙って荷物を傍に置き、昇降用のリフトに乗ってコックピットへと入った。

 薄暗い内部。座席に腰を下ろすと、眠っていたはずのコンソールが電源を受け、ゆっくりと立ち上がっていく。

 

 股下から展開された前面の3面ディスプレイが光を帯び、情報が投影されていく。だが、まず彼の目に飛び込んできたのは──

 

(……少ないな)

 

 物理ボタンの数が、あまりにも少ない。左右に配置された最低限のインターフェースと、座席横の水平スティック。

 かつて乗っていた01ガンダムのコックピットに比べれば、雲泥の差。戦争が終わって僅か2年でここまでの技術進歩とは。

 

(これは……)

 

 “意図的に”削ぎ落とされている。操作系統すら、“最低限”しか存在していないように見える。

 まるで──操縦者と機体の境界を曖昧にしようとしているかのようだった。フブキは、無言でディスプレイの点灯を見つめていた。目の前に広がる光のパネル、操作系統、そして──極端に削られた物理的なスイッチ群。

 

 彼は眉をひそめながら、静かに問いを口にした。

 

「……なぜ、ここまで物理スイッチを削った?」

 

 右手を動かしながら、わずかな操作を試してみる。だが手応えがあまりに希薄で、指先にすら違和感が残る。

 

「これでは、緊急時の対応が困難になる。システムが故障すれば、パイロットには成す術がなくなるぞ」

 

 警告というより、冷静な“技術者”の視点からの指摘だった。男はコックピットの外からその様子を見ていたが、やがてゆっくりと歩み寄り、口元に微笑を浮かべながら言った。

 

「これはあくまでもシミュレーターですから。それにその話は“通常のモビルスーツ”での話です。ですが、貴方が乗る機体においては、その限りではありません。

 言いましたよね、フブキさん。これからの時代、“2機1組”のMAV戦術を仕掛けてくる相手に対して──我々が必要とするのは、“圧倒的な個”だと」

 

 その言葉に、フブキの眉がわずかに動く。男はさらに続けた。

 

「貴方が乗る機体には、“サイコミュ”技術を搭載されていますから」

 

 その一言で、空気がわずかに変わった。

 

「……なんだと?」

 

 フブキの声が低くなる。

 サイコミュ──操縦者の脳波を受信し、それを機体に直接伝える操縦支援システム。連邦では未だ実戦運用に至っていない技術。そして、戦争終結後の条約で禁止された物。

 

「我々は、その素体を入手する予定です。貴方のような高い空間認識力と反射反応速度を持つパイロットならば──その機体を、真の意味で“意志で動かす”ことができると、確信しています」

 

 フブキは無言でディスプレイを見つめたまま、思考を沈める。

 

(……搭乗者の“精神そのもの”を武器にするMS……か)

 

 男の言う“圧倒的な個”の意味が、ようやく明瞭に見えてきた。




GQドムのデザイン良いですなぁ。良い仕事してますよカラーは。
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