機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
黒いザク
格納庫へ足を運ぶと、そこには一機のモビルスーツ──退役した量産型ザクIIが鎮座していた。
全体に鈍く光るオリーブグリーンの外装は、ところどころ宇宙ゴミ、デブリによる傷跡が浮いていた。塗装は剥げ、右肩のシールドには小さなへこみも見える。
細かい傷はあれど、使う分には十分だろう。周囲には臨時のキャットウォークが取り付けられ、整備員たちが忙しなく動いている。コックピットハッチへと続く梯子は開かれており、整備の為に外装パネルの一部も取り外されていた。
「退役機らしい姿だな……」
フブキはそう一言だけ呟き、黙って見上げた。かつて敵として無数に見てきたはずの“ザク”。自分がそれに乗ることになるとは、皮肉というにも程がある。
だが、彼は止めなかった。無言のまま、整備用のキャットウォークをゆっくりと登っていく。モノアイを湛えた量産型ザクの顔が、無機質に彼を見返していた。
コックピットハッチの前で、フブキは整備員の一人に声をかけた。
「中を確認していいか?」
「あ、はい。どうぞ、狭いので気をつけてください」
若い整備員は手に持った端末を持ち直しながら、どこか興奮気味に言った。
「……こんな間近でザクを見るの、初めてなんですよ。モビルワーカーとは、やっぱり“格”が違うっていうか……」
フブキはその言葉に、ほんのわずかだけ目を細めた。
「……俺も、敵であったこいつに乗ることになるとは、思ってもいなかったよ」
淡々とした口調。だがその奥には、皮肉と自嘲が混じっていた。
ハッチをくぐって中に身を滑らせる。数年ぶりの、本物のMS、敵機の内部。かつては標的として、何度も照準の中に収めてきたその“内側”に、今、己がいる。
狭いコックピット。剥き出しの鋼材。ディスプレイは古い型式の表示で、補助視界はない。直接前方を見なければ状況を把握できない“視界の狭さ”が、肌にまとわりつくようだった。
(……01とは比べ物にならないな)
視界は悪い。レイアウトも違う。連邦系のモビルスーツでは主流となっていた、横倒しの操縦桿方式ではなく、この機体では直立したモビルワーカー型の縦型操縦桿が両脇に配置されていた。
手のひらをそっと添えてみる。反応のない操縦桿は、ただそこにあるだけだったが、グリップの形状も、スティックの角度も、すべてが馴染まない。かつての自身が操った機体、──
(視界が狭い。反応速度も鈍いだろう。連邦の操縦系ともまるで違うな)
(こんなので赤い彗星は戦っていたのか……)
フブキは無言のまま、操縦席に体を預けて少しの間、天井を見上げる。視界よりもずっと狭く、息が詰まりそうだった。
狭いコックピットの中で、しばし視線を泳がせながら思考に沈んでいたフブキだったが、ハッチの外から声がかかった。
「アルジェントさん、少しよろしいですか」
キャットウォークの上から、整備員の一人が覗き込んでいた。年若いながら、工具の油に染まったツナギと手が、彼の手馴れた仕事ぶりを物語っていた。
「このザクなんですけど……操縦系統がかなり古くてですね。なんせ戦時中の設計ですから、現行の規格とはあらゆる部分で噛み合わないんですよ」
フブキは軽く頷く。
「まあ、そうだろうな」
整備員は苦笑しつつ、続けた。
「ですから──現行のシミュレーターで使っていたOSと、制御系システム一式、丸ごとこの機体に移植予定なんですよ。もちろん、全天周囲モニターなんかは付きませんけど……それでも、今よりは遥かにマシになります。モニタリングと同期処理が入れば、視界の補正もずいぶん利くはずです」
フブキは、それを聞いてわずかに視線を外した。古びた機体の骨格だけを残して、中身はすべて別物、それがこの"ザク"の役割なのだろう。
外見はザク。だが、中身は全くの別物。そしてそれを動かすのは、自分。
「……了解した。あんたたちの仕事に、期待するよ」
整備員は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締め、
「はい、任せてください」と言って敬礼めいた動作を返した。
フブキは再び視線を戻す。鈍く照明を反射する計器の縁を、指先でなぞる。
(……俺に乗られるのは気に食わないだろうが……しばらく頼むよ、ザク)
わずかな皮肉と、乾いた諦観だけが、胸の奥で静かに揺れていた。
──
朝の光がダイニングのテーブルをやわらかく照らして、アマテは制服姿のまま、トーストにかじりつきながらテレビをぼんやりと見ていた。
画面にはアナウンサーが笑顔でニュースを読み上げている。
『──ジオン公国は、旧式となったモビルスーツの一部を民間企業へ売却する方針を正式に発表。すでにいくつかのインフラ関連企業が購入手続きを進めており、各コロニーでの実地運用が始まっています』
映し出されるのは、どこかのドックに並ぶ数機のザク。塗装は塗り直されており、肩のシールドも削ぎ落とされている。
『今後、このイズマコロニー内でも、83年以降の工事や資材運搬といった重作業において、これらMSがモビルワーカーに代わる新たな主力となることが期待されます──』
アナウンサーの口調は明るく、“平和利用”という言葉がナチュラルに並べられていた。アマテは、口にしていたパンを咀嚼しながら、画面をじっと見つめた。
(モビルスーツ……公園のときに見た、作業車みたいなのとは、違うよね)
思い返すのは、あの時──社会科見学で見た、鈍く光る作業用のモビルワーカー。そして、その隣に腰掛けていた“彼”。
(フブキさん、モビルスーツにも乗れるのかな?)
──ふと浮かんだ疑問に、アマテは自分でも驚くほど自然に“名前”を思い出していた。小さく一口、水を飲む。
画面の中では、MSを導入した企業の代表が「未来のコロニー建設に不可欠な存在」と語っていた。
けれどアマテは、その“戦争の象徴”がなぜ突然、こんなにも身近になったのか、少しだけ、胸の奥で引っかかるものを感じていた。
静かに、テレビのリモコンに手を伸ばした。画面が切り替わり、いつものアニメが始まる。パンの味は──少しだけ、乾いていた。
「ぼーっとしてないの。遅刻するわよ、アマテ」
キッチンから声が飛んできた。朝食を終えた娘がテレビに目を奪われていることなど、母親の目はとうに見抜いていた。
「わかってるってー」
口を尖らせながらも、アマテは慌ててカバンを手に取り、玄関へと向かった。制服の襟元を整える間もなく靴を履き、ドアに手をかける。
「行ってきまーす!」
「忘れ物ないようにね。あと、まっすぐ帰ってくるのよ」
返事の代わりにドアが閉まる音が響いた。
通学路は、いつものように穏やかな朝の光に包まれていた。並んだ街路樹の影が歩道に落ち、小鳥の鳴き声が遠くに響いている。
その中でアマテは、何となく足を止めた。ふと、空を見上げる。コロニー内部の“空”──そしてその向こう、わずかに無重力領域にかかる搬送ラインの方角に
「あ……」
そこには、数機のザクが運ばれていく姿があった。大型の搬送ユニットに固定されたそのシルエットは、まぎれもなくニュースで見たモビルスーツだった。
特徴的な頭部、曲線的な装甲、重量感のある脚部。だが今は、両腕も装備も取り外され、フレームが剥き出しとなり、少し痩せっぽち。
「……本当に、動くんだ。あれが」
アマテは息を呑むように見つめた。いつも通りの朝の風景に、戦争の残滓が静かに入り込んでいる。誰も騒ぎ立てることもなく、誰も恐れた様子もない。
(……フブキさんも、こういうのに──)
彼のことが思い浮かんだ。無骨で、冷たくて、だけどどこか遠くを見ていた人。
(乗るとしたら、あの人は──何を思いながら乗るんだろう)
その疑問に答えはない。けれど、それを知りたいと、なぜか思った。
「……行かなきゃ」
再び歩き出すアマテの耳には、どこかで響く搬送クレーンの低いうなりが残っていた。
戦争は終わった。だがその残穢は、日常の中に静かに根を張り始めている──
教室の窓からは、コロニーの空が見える。穏やかで、変わらない光景。青空に似せた穹頂の向こうに、わずかに光る搬送ラインが走っていた。
アマテは、その“空”を見上げながら、開いた教科書の上に視線を落とすことなく、ぼんやりと物思いに耽っていた。
──彼と、最後に会ったのは半年前。たった半年。でも、もう“ずっと昔”のような気さえする。
あの夜、ふざけて、最後に少しだけ真面目に話して、そして──名前を呼んで、別れた。
その時は、もしかしたら「また会えるかもしれない」なんて、どこかで思っていた。
けれど、それきりだった。
(……半年の間に、いろんなことが変わった)
自分自身も、変わった。彼の言葉通り、授業を真面目に受けるようになった。知ることの面白さも、難しさも、ほんの少しだけ分かってきた。
思えば、それも全部──あの人の、たったひと言のせいだ。
(“知識は力だ”って)
真面目に学ぶようになった。空を見上げるようになった。
そして、“あの場所”にも──
通学路から外れて、わざわざ遠回りして、公園に足を運ぶ。散歩と言い訳しながら、ただあのベンチの前に立つ。
(今日こそいるかも、なんて)
そんな都合のいいことは、当然一度もなかった。彼はもう、あの公園には現れない。わかっているのに、気がつけばまた──
「──リハ。ユズリハ!」
その声で、現実に引き戻された。
「教科書の34pの二段落目、読んでくれるか」
教壇からの声に、アマテは小さく肩を震わせた。
「あ、はい……」
慌ててページを探し、目を走らせる。クラスメイトのいくつかの視線がこちらに向いている気がして、少しだけ背筋を伸ばす。
(……こうして、何も変わらない日常が続いてく)
読み始めた自分の声が、少しだけ震えていた。それでもアマテは、前を向いていた。
彼がそう言ったから。
「考えて、間違えて、また考えろ」と、そう言ってくれたから。
──
機体の各所は既に焼け焦げ、左脚のアクチュエーターは警告を上げ続けていた。機体内部には警報が鳴り響き、マニューバスラスターは断続的に息を吐く。ボロボロで、満身創痍。だが、それでも──
「まだだ……!」
軽キャノンのパイロットは、濁った息を吐きながら操縦桿を握り直した。装甲に走るクラック。点滅するアラート。だが、意識は敵を探すことに向けられていた。
「どこだ……どこにいやがる……っ! ジオン野郎!!」
コックピットのスクリーンに映るのは、暗い宇宙空間。無数のデブリと、友軍機の識別信号──その一つが、急激に消えた。
「は?」
仲間機。別の軽キャノン。数秒前まで通信していたMAVである僚機が、沈黙した。
「アレックス……?」
動揺とともにスクリーンを走査する。その視界を、何か“黒い影”が通り抜けた。
「いた!!」
その瞬間、仲間の軽キャノンが爆ぜる。ビームの切断面が赤く焼け、砕け散った機体の破片がフワリと舞う。
「なんなんだよッ!」
パイロットは恐怖と憤りの混じった声を上げながら、マシンガンのトリガーを引いた。無差別に、乱暴に、宇宙を薙ぐように銃火を撒き散らす。何も当たらない。
ソレは、既に目の前にいた。スクリーンに現れたのは、全身を黒く塗り直された一機のザク。戦時の制式塗装ではなく、黒。闇に溶け込み、デブリと同化するような、その姿。
しかし、確かに一つだけ──赤いモノアイだけが、目のように煌々と光っていた。
そして、そのザクの右手には、輝きを放つヒートホーク。重力など存在しない空間で、静かに振り上げられたその刃は、まるで時間ごと切り裂こうとしているかのようだった。
「──あ」
パイロットの口から漏れた声は、思考よりも早かった。声を出す暇も、逃げる余地も、そこにはなかった。
最後に彼が見たのは──宙に浮かぶザクが、ヒートホークを振り下ろす光景。紅く、直線的に走った残光が、彼の全てを塗り潰した。
通信が絶たれ、軽キャノンの識別信号が静かに消えたのは、それからわずか数秒後のことだった。
格納庫奥の作戦ブリーフィングルーム。巨大なスクリーンに映し出される戦闘ログと、モビルスーツの挙動データ。その全てが、興奮と熱気に包まれていた。
「……驚異的だ」
「軽キャノン三機を数分で沈黙させた……」
「しかも、あの動き……制御系を変えてるとはいえ、あれがザクだって思うか?」
技術者たちが口々に驚きと賞賛の声を上げていた。目を輝かせ、食い入るように映像を見つめる者、データを端末に打ち込みながら首を振る者、
そしてその中心に、ロイドがいた。
「…旧式のザクがここまでのパフォーマンスを出せるとは。やはり、彼に頼んで正解でしたね」
周囲が一斉に頷く。
「シミュレーターのデータとは段違いです」
「回避率、機動加速度、反応遅延……全てが予想の範囲を超えている」
「残骸の回収急げ! ザクのフレームにも異常が出ているはずだ。検証する価値はある」
報告と命令が飛び交う中、ロイドは腕を組んだまま、少し難しい表情で呟く。
「……流石ですね……しかし…残念でもあります」
──
宇宙空間をゆっくりと漂う、黒いザク。赤いモノアイは既に沈黙し、機体全体も姿勢制御を失って、微かに回転している。
そのコックピット内部。静かに立ち上がったディスプレイには、赤く表示された複数のエラーメッセージが点滅していた。
“第3姿勢制御系統エラー”“推力分配過剰警告”“右脚バランス制御、反応低下”
不協和音のように、どこかで軋む機械の音とエラーの警告音がしていた。
「……っはぁ……」
ヘルメットを外したフブキは、額ににじんだ汗を袖で拭い、わずかに息を吐いた。
全身が重い。久々の実戦、しかも宇宙。重力のない空間で、全身を締めつけるような機動。久しぶりとはいえ、こんなにも思うように動かないとは。Gスーツの補助がなければ、耐えられなかったかもしれない。
コンソールの隅に視線を落とすと、エンジンブロックの出力が不安定に脈打っていた。
「……悪かったな」
そう言って、フブキはゆっくりと手を伸ばし、操縦桿に手を添えた。
「無理させた。……お前は悪くない。あそこまでやれたんだ。……上等だよ」
言葉は静かだったが、その声には、どこか申し訳なさと、感謝の色があった。
過去に置いてきたはずの感覚。忘れたはずの、戦場の匂い。
ザクは勿論、何も言わない。ただ、ゆっくりと宇宙を流れていく。その静けさだけが、今のフブキを包んでいた。
お願い……もう戦わないで……フブキ君……
いや〜来週のGQが楽しみですなぁ。今思えばOPからZ要素はありましたが、まさかここまでZよりになるとは…。でもジオンが勝ってる事もあって色々と変わっている事は確かですね。とくにサイコなんてあれMk-Ⅱじゃありませんこと?
クランバトルとサイコを両立させるなんて 人の心がないのか。