機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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今月でGQXが終わってしまいますね…2期あるのかなぁ、あってほしいなぁ。あるとしたら暫く、この物語もストップになるかもですね


運び屋と仮初

 

 

 模擬戦から数日が経った。

 

 あの一戦以降、明らかに軍警内の空気は変わった。冷ややかな視線や距離を置くような態度は消え、今では隊員たちがちらりとフブキを見ては「若いのによくやる」と小声で囁き合う姿すら見受けられるようになっていた。

 

 フブキ本人は特に態度を変えることもなく、今日も訓練施設内のカフェテリアで静かに昼食を取っていた。

 

 トレーの上には温められたレーションと淡白なスープ、そしてタブレット端末。午後の訓練プログラムを指先でスクロールして確認していると、突然、ポケットの中で携帯が震えた。

 

 画面を覗くと、そこには見慣れた名前である「アマテ」の文字。

 

《パイロットの仕事どう?》

 

 文面に特別な意味はない。ただの近況報告——そんな気配をまとった、自然な一通だった。

 

 フブキは少し口元を緩めて、端的に返す。

 

《問題ない》

 

 すると、数秒も経たぬうちに通知音が鳴った。

 

《私は午後から体育。めんどくさい》

 

 その投げやりな一文に、フブキは小さく息を吐くように笑った。ふと、戦場の緊張が遠く感じられる。

 

《体を動かすなら水分補給を忘れるな》

 

 そう返すと、またすぐに返信が来た。

 

《なんか先生みたい》

 

 その言葉を見て、フブキは少しだけ画面を見つめたまま動きを止めた。

 

「……先生、ね」

 

 呟くように声を漏らし、携帯を伏せてスープに口をつけた。鉄と硝煙の世界にあって、たった数行のやり取りが、思いのほか胸に残っていた。

 

《ちゃんと準備運動しろよ。俺も今から仕事だ》

 

《うん。フブさんも頑張って》

 

《ああ》

 

 そう打ち込んで送信すると、フブキは手元のトレーを静かに片付け始めた。箸を戻し、スープカップを重ね、無言のまま返却口へと向かう。

 

 本来の業務は、モビルスーツ操縦の訓練指導。それだけのはずだった。

 

 だが——

 

「フブキ君、せっかくだから、巡回警備にも出てくれないか?」

 

 先日、そう頼まれたのが発端だった。当然フブキは反論した。

 

「それは、契約内容に含まれていません。私はモビルスーツの運用に関する技術支援のために派遣されたはずでは」

 

 しかし、派遣元でありこの人事の根元でもあるロイドは——

 

「良いじゃないですか! 何事も経験ですよ」

 

 と、あの無邪気な笑顔で答えたのだ。

 

 それはもう、とてもぶん殴りたい程の良い笑顔だった。

 

(……なぜ、こうもズレているのか)

 

 トレーを返却しながら、フブキは頭を押さえて嘆息した。

 

(モビルスーツの設計理論やシステム構築では舌を巻くほどの天才なのに、何故……何故こういう方面になると……)

 

 どうにもならない。抗議はした。納得はしていない。だが、現場はもう動いている。

 

(……諦めるしかないか)

 

 フブキは短く息を吐くと、制服の上着を整え、通信端末を確認して立ち上がった。

 

 午後の訓練プログラム——“モビルスーツ部隊の実地訓練”と、“第二地区巡回任務”の二本立てが、しっかりとスケジュールに組み込まれていた。

 

(ロイドめ……あとで詰める)

 

 そう心の中で決意しつつ、フブキは静かにその場を後にした。

 

 

 ブリーフィングを終え、フブキは軍警の巡回用制服に袖を通して外へと出た。陽光を浴びつつ街を歩きながら、彼は自分が「視線を集めている」ことをはっきりと自覚していた。街路を行き交う市民たちの目。ある者は露骨に目を逸らし、ある者は敵意すら帯びた視線を投げてくる。

 

 ——軍警の制服、それが意味するものは「抑圧」であり、「監視」であり、「力」そのものだ。

 

(……まあ、当然か)

 

 フブキは特に表情を変えず、淡々と歩を進める。

 

 だが、今日の任務はただの見回りではなかった。

 

 ここ最近、密輸されたインストーラーデバイスの流通が急増しているという情報が、内部でも共有され始めていた。しかもその内容が、尋常ではない。

 

(ザクに搭載するためのインストールデバイス……)

 

 本来、モビルスーツのOSや武装制御に関わる重要デバイスは、ジオニック社の厳重な管理下に置かれているはずだ。正式なルートを通さなければ、調達すら不可能な代物。ましてやそれを“複製”するとなれば、高度なリバースエンジニアリング能力と、相応の設備、知識が必要だ。

 

(正規品でなくても、劣化コピーを作れる時点で相当なレベルだ)

 

 それらのデバイスが、軍警の把握していない形で外部に出回り、しかもイズマコロニー外で武装したザクによる戦闘行為が確認されている、という噂もある。

 

 真偽は不明。だが、それを重く見た上層部は、コロニー外への巡回任務を急遽増加させた。結果として、外縁警備に配備されるザクの数も増え、操縦人員の不足を補うためにフブキのような“外部要員”も動員されているというわけだ。

 

(まったく……これでは戦争の準備でもしているようだな……)

 

 左胸付近のハーネスに取り付けられた無線機が、断続的にノイズ混じりの通信を吐き出している。

 

《第二区、通路Cの確認終了。異常なし》

《ステージングD班、軌道側へ移動開始》

《……車両確認、要注意対象ではない》

《軌道側、低出力ながら反応あり——再確認せよ》

 

 次から次へと飛び交う指示と報告。音量を絞っていても、耳に残る雑音のように意識を掠め続ける。

 

(巡回範囲が、広すぎる……)

 

 コロニーの外縁部、宇宙区画。そこからエアロックを通じて居住空間、都市通路、駅構内に至るまで。軍警の「巡回任務」は、まるで都市機能全体を人力で覆うような無茶なものだった。

 

 思わず、息がこぼれる。しかも巡回中、すれ違う他の軍警たちは警棒を抜いたまま歩いている者も珍しくなかった。無言で歩きながら、威圧的な構えのまま市民を見下ろすような視線を向けている。

 

(確かにストレスが溜まるのは分かるが……これじゃあ、市民に嫌われるのも当然だ)

 

 警備というより、ほとんど軍事的な示威行為だ。武装と制度が市民生活の上に直接乗っているようなもの。

 

 そんな中、ふと視線の先、通路の先端に奇妙な姿があった。

 

 ——黒い学生服。スカートに、サングラス。背中にはスクールバッグではない、配達用のメッセンジャーバッグのような鞄。

 

「……なんだ、あれは」

 

 その少女の格好は、明らかにその場の“空気”に馴染んでいなかった。学生らしき服装に、業務用のカバン。サングラスという選択も不可解だ。調和していない。

 

(……やれやれ)

 

 軍警の腕章を調整しながら、静かにその少女へと歩み寄る。無理に警戒させないように、足音をわずかに抑えながら。

 

「すみません。少しお時間をいただいても?」

 

 軍警特有の冷たさではなく、極力穏やかな声で。

 

 フブキが声をかけると、少女はすぐに立ち止まり、バツの悪そうな顔でわずかに眉をひそめた。大きめのサングラス越しでも、その視線が警戒と困惑に揺れていることが分かる。

 

 フブキはその反応に内心で「まあ当然だな」と思いながらも、表情には出さず、静かに問いかけた。

 

「どこの学生かな? ……まだ学校の時間じゃないか?」

 

 あくまで穏やかな声色。だが、少女は言葉を返さなかった。唇が僅かに動くが、何も出てこない。視線が彷徨い、その身に不自然な緊張が走っている。

 

(この子は本物の学生ではないだろう)

 

 配達用の業務鞄、異質な制服、偽装にしては目立ちすぎるサングラス。

 ——学生が配達業務を"制服"のまま行うなど、学校に通報されるリスクを考えれば常識的ではない。

 

 つまり、これは“学生”という記号を借りただけの偽装。おそらく難民か、その周辺の非正規層だ。

 

「……申し訳ないけど、IDを見せてもらってもいいかな?」

 

 フブキは静かに手を差し出した。少女は数秒迷った後、小さくため息をつくように目を伏せ、バッグのサイドポケットから一枚のIDカードを取り出した。

 

 名前:ニャアン

 住所:難民登録区域D-7709-206

 

 フブキはその情報を目にして、ほんの僅かに顔を曇らせた。

 

(やはり……難民か)

 

 どこのコロニーでも、一年戦争によって居場所を失った難民たちが少なくない。だが、居住区を与えられても生活の保障があるわけではなく、違法ギリギリの仕事に手を染める者も珍しくなかった。

 

 フブキはカードを返しながら、ためらいを抑え、言った。

 

「……ありがとう。返すね」

 

 そして一拍置いてから、さらに静かに続けた。

 

「……持ち物を、見せてもらえるかな?」

 

 その瞬間、少女の身体がぴくりと揺れた。

 

 ゆっくりと後ろ手を回し、背負っている鞄を——まるで“守る”ように押さえ込む。

 

 その仕草を見たとき、フブキは確信した。

 

(……ああ、やはりそうなんだな)

 

 非合法のインストーラーデバイス、武装ザク用の複製データ。ここ最近、密輸されている数々の“違法品”。

 この少女は、それを運ぶ“運び屋”なのだろう。

 

 目の前の細い身体。その肩に背負っているのは、ただの荷物ではない。彼女の生活でもあり、それを脅かすものでもあるのだろう。

 

 少女は背中の鞄をぎゅっと抱えるようにしながら、視線を泳がせた。サングラスの奥の目は、何かを取り繕うように動き続けている。

 

「こ、これは……その……学校の課題とか、です……。その、あまり他の人には見せられないものが、ある、ますから……」

 

 言い訳としては稚拙で、語尾も定まらない。だが、それでも少女は懸命に“子供としての自分”を演じていた。

 

 フブキはその姿をじっと見つめたあと、ふっと息を吐き穏やかな声で言った。

 

「……分かった。時間を取らせて悪かったね。協力ありがとう」

 

 少女の身体が一瞬、揺れる。

 

 あまりにあっさりと引き下がったフブキの態度に、彼女は目を丸くしていた。

 

「……えっ……」

 

 その表情を見てもなお、フブキは表情を変えなかった。ただ、静かにその場から立ち去ろうとする。

 

 制服に包まれた身体。肩に背負う鞄が、妙に大きく見える。

 本来ならば、教室で眠そうにノートを取っているべき年頃の少女が、こんな場所で、“運び屋”という役割を背負わされている。

 

(……こんな仕事をしなくちゃならない程とはな)

 

 フブキは一度だけ足を止め、背を向けたまま言葉を残した。

 

「君、その格好は——目立ちすぎる。特にこの時間帯ではね」

 

 少女は言葉を飲み込んだまま、静かに彼の背中を見ていた。

 

「残念なことに、他の軍警は俺みたいな対応はしてくれない。……怪しまれないようにしたいなら、学生服じゃなくて普通の格好にしなさい」

 

 少女は何か言いたげだった。けれどその言葉は形にならず、ただ微かに唇が震えただけだった。

 

『またお前は無責任に手を差し出すのか? それはただの偽善だ。お前の自己満足だろう? お前が人生を狂わせたうちの1人だろ?』

 

 ——そうだ。ただの偽善だ。だが、それでも──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は知ってる。

 

 私がやっていることは、違法だってことくらい。でも、それでも……やらなきゃ、生きられない。

 

 荷物を運んで、渡して、金をもらう。ただ、それだけ。会話なんてない。視線も交わさない。取引が終われば、すぐに消える。

 

 だから、仕事の為に偽の学生服を着るようになった。本物みたいに見えるし、制服の子供を、誰も疑いはしない。少なくとも、普通の人たちは。

 

 ——だけど、軍警は違う。

 

 あいつらは、難民──私を何度も見つけてくる。どれだけ人混みに紛れても、どれだけ裏路地を使っても。

 

 見つかれば逃げる。咎められれば睨み返す。それが、どうしようもなく狂ってしまったこの世界で"生きる"ってことだった。

 

 でも——

 

 今日の“あの人”は、違った。

 

 話しかけてきたときも、睨まれたり、殴られる覚悟をしてた。IDを出した時は、いつものように「また難民か」と吐き捨てられ、非難されると思ってた。

 

 でも——彼は、何も言わなかった。私の嘘も、誤魔化しも、たぶん全部分かっていたはずなのに。

 

「ありがとう」だなんて、どうかしてる。私の“仕事”を見逃して、しかも、

 

「目立ちすぎる。普通の格好にしなさい」

 

 あんな風に言われたのは、初めてだった。

 

 心配してくれた? 軍警が……私みたいな“難民”を、心配なんてするはずないのに。

 

 ──なんだろう。助かったって笑いたいのに、泣きたくなる。

 

(……なんなの、あの人)

 

 私と同じ黒い髪に青空のような青い瞳。もしも私に兄がいたらああいう人なんだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから——俺は、毎日地道に「パイロットの指導」と「巡回警備」を続けていた。

 

 特にこれといったことはしていないのに、街では「妙に優しい軍警がいる」なんて話題になってしまい、半ばマスコットのような扱いを受けている。

 しかしながら軍警内部の腐敗。末端の隊員がどれだけ真面目でも、上がそれではどうしようもない。

 

 市民の不信と諦め。街を歩く声なき声が聞こえてくる。制服を見るだけで視線を逸らされるあの感覚。思っていたより、ずっと深く根が腐っていた。

 

 横行する密輸、情報の隠蔽、記録の改竄、容疑者の暴行。

 俺が見てきたものとは違う、別種の、しかし確かに戦場と呼べるものがここにあった。

 

 ロイドからは相変わらずの調子で、「もうしばらくしたら軍警の契約も終わりますから、頑張ってくださいねぇ」と笑いながら言われた。

 

 アイツならモビルスーツのデータ収集に俺を軍警から取り戻すくらいはしそうなのだが……

 

 あれほどの技術者でありながら、社会常識に欠け、倫理観に抜けがある。

 天才には違いないが、……困った人間だ。

 

 

 

 アマテとも、あれからちょくちょく連絡は取り合っている。

 主に向こうからの連絡だが、それでも以前とは違って、確かな距離の近さを感じていた。

 

 あの時、あの公園で見せられた進学先、ハイバリー女学院。

 正直、心のどこかで"無理だろうな"と思ってしまったのは事実だ。あの自由奔放な彼女に、規律と実力が求められる名門校など合うまいと。

 

 ——だが、アマテはそれを「成績表」という実力で叩きつけてきた。

 

 素直に驚いた。全教科、ほぼトップクラス。

 まるで、自分に出来ることを全て、誰かに証明しようとするような勢いだった。

 

 そのせいか、つい昔の癖で頭を撫でてしまった。アマテは俯いていたが……

 

(多感な女子高生の頭を撫でる俺は、側から見たら完全に事案だろうな……)

 

 気をつけなければ、と心から思った。

 ——いや本当に。

 

 ……こうして思い返すと、俺はもう随分と「こちら側」に馴染んでしまったのかもしれない。あるはずのない、作れるはずのない──居場所を作ってしまっている。

 

 でも今は、それでも構わないと思っている。この場所でしか見えないものが、確かにあると思うから。

 

 

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