機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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赤いガンダム

 

 

 

 イズマコロニー外縁宙域。

 静寂な宇宙の中を、二機のザクが慎重に進行していた。コロニーの外壁から散らばる工業デブリや、古い衛星残骸などが漂う中、その隙間を縫うようにして機体は進む。

 

「……どこだ? そっちはどうだ?」 

 

《こっちも見えない。……でも今回はミノフスキー粒子は散布されていないはずだ。多分、遮蔽物に隠れてるんだろうな》

 

「……忘れるな? 互いにカバーし合いながら行くぞ」

 

《ああ。わかってる》

 

 慎重さと緊張感を携え、二機の機体は最小限のスラスターを噴かしながら、クリアリングを進める。通信は常時開放、レーダーの感度も最大まで上げられていた。

 

 だが——次の瞬間、搭載ディスプレイに表示された「撃墜判定カウント」が点灯し、数値が進み始めた。

 

「なにっ!? ……レーダーには何も映ってないぞ!」

 

《落ち着け! とりあえず、デブリに隠れろ!》

 

 動揺を押し殺しつつ、2機のザクは即座に遮蔽物に身を滑り込ませる。しかし、その数秒後——

 

「……っ!? 来るぞ!」

 

 デブリの陰に転がり込んだ金属片。その形は手榴弾。

 遅れて閃光が爆ぜ、シミュレーション用のダミー爆風が機体を包む。ディスプレイには、二機とも“撃墜判定”の文字が点灯していた。

 

 ……それを、さらに遠く、太陽の方向から光を背に静かにこちらを見下ろしているザクがいた。黒く塗装された機体は、静止しつつも観察していた。

 

《──遮蔽物にすぐ身を隠すのは正しい。だが、すぐに移動しなければ、せっかくの優位性が失われてしまう。……“隠れた”だけでは、狩られるだけだ》

 通信越しに聞こえるその声に、撃墜された二人の若いパイロットたちは息を呑んだ。

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

「くっそ〜!! また負けたぁ!!」

 

 訓練用のザクから戻ってきた若いパイロットが、コックピット内でヘルメットを脱ぎつつ叫ぶ。

 

「どうやってレーダーから隠れてたんですか? 全然見えませんでしたよ」

 

 フブキは機体から降りながら短く答えた。

 

「ザクのレーダー範囲は把握している。特にデブリ帯では“あそこに隠れてるだろう”という思い込みが先行しやすい。だからこそ、範囲を分担して探るべきだったな。これでは何のためのMAVなのかわからないぞ」

 

「マジかよぉ……今回は勝てると思ったのになぁ……」

 

 若いパイロットが項垂れながら、苦笑を浮かべる。一方、観戦室では別の隊員たちがモニター越しの戦闘ログを見ながらぼやく。

 

「相変わらず強いなぁ」

「指導が適切すぎて、文句言えないんだよな……」

「心折れるよ……でも、悔しいけど納得だよな……」

 

 その空気を切り裂くように、署内に警報が鳴り響いた。

 

 ──ピピピピ──

 

「またクランバトルかよ……?」

「ジャンク屋たちも飽きないねぇ、まったく……」

 

 通信機越しにオペレーターが呼びかける。

 

《フブキさん! デブリーフィングはどうしますか?》

 

 フブキは少し考え、しかしすぐに切り替えた。

 

「……いや、デブリは後にしましょう。それより、待機していた人員は?」

 

《すでに現場に急行中です》

 

「戦闘用の武装に切り替えてください。……今日が最後ですからね。しっかり仕事を終えてから、ここを離れます」

 

 整備員が敬礼で応じる中、フブキはザクの脚を登り、再びコックピットへと戻る。そして静かにハッチが閉じられた。 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 宇宙空間——コロニー外壁軌道。

 

 3機のザクが慎重に編隊を組み、コロニーの外周を沿うように進行していた。フブキは先頭機のコックピット越しに周囲の景観を眺める。

 

 だが、ふと——目に入った“異物”に目を細めた。

 

「……なんだ、これは……?」

 

 そこには、コロニーの外装部分に直接描かれた、色とりどりのスプレーアートがあった。幾何学模様、文字のような形、動物か人間のようなものもあるが、全体としては意味を掴みにくい。

 

《フブキさん、どうかしましたか?》

 

 後方の僚機から通信が入る。

 

「ああ……外装に描かれてる、これ。何の絵だ?」

 

《……ああ、それ、最近ジャンク屋連中が描いてるって噂の“アート”っすよ》

 

「……ジャンク屋が? わざわざ、こんなところに?」

 

《ええ。夜間に忍び込んで描いてるらしいです。消すのも大変みたいで、総務がブチ切れてました》

 

「……趣味にしては目立ちすぎるな。牽制か、隠されたサインか……」

 

 フブキがそう呟いた瞬間、ザクの通信パネルが赤く点滅。警告音とともに、緊急回線が開かれる。

 

《こちら第3巡回区隊、報告! 先遣隊が㋲に接触、交戦の末、撃破された模様! “エリア8”地点! 直ちに救援に向かわれたし!!》

 

「……来たか」

 

 フブキの眼差しが鋭さを増す。

 

「全機、武装解除チェック セーフティ外して即応。推進剤は戦闘出力に回せ」

 

《了解!》

 

《ラジャ!》

 

 フブキは操縦桿を握り直し、再び前方を睨んだ。

 その先にあるのは、撃破された味方、そして——正体不明の武装モビルスーツ。

 ザクのスラスターが閃光を放ち、3機は一斉に戦闘宙域へと突入していった。

 

 

 

 ⸻

 

 

 

「2人はMAVを組みながら味方の直掩へ。目標は——俺がやる」

 

 そう言い残して、フブキのザクが推進剤を最大出力に切り替え、閃光と共に前線へと突入した。

 通信は切らず、レーダーをフルレンジへ拡張しながら、周囲のノイズを視覚と聴覚、そして皮膚感覚に近い何かで探っていく。

 

 その時だった。音ではない。だが何かが頭に感じた。

 脳裏を針でなぞられたようなあの感覚。

 

「……っ!?」

 

 次の瞬間、鋭い残光を引きながら、一機の機体がフブキの目前を通過する。

 

 マズルフラッシュ——

 

 遅れて発射されたマシンガンが直撃する寸前に砲身ごと叩き折られ、火花とともに武装が爆散する。

 

「っ……コイツか!」

 

 フブキはすぐに気配の方向を反転し、敵影を追った。

 そこには、凄まじい速度で宇宙を旋回するモビルスーツの姿。光の死角を巧みに利用し、物理的な軌道を完全に無視するかのような急加速・急停止を繰り返している。

 

「……コイツ……ザクじゃないな」

 

 すぐさま腰のヒートホークを抜き、戦闘姿勢へと移行。だが次の瞬間、ザクのセンサーが2つの物体が接近中と警告を発した。

 

「……!?」

 

 視界を遮るように飛来してきた謎の2ユニット。ドローンか? 分離兵装か? 

 それを紙一重で回避したフブキが反転した刹那、太陽の逆光から飛び出してくる一機のモビルスーツ。

 

「ッ!!」

 

 咄嗟にホークで受け止める。金属が軋む。ビーム刃とヒート刃がせめぎ合い、火花を散らす中で、相手の姿が露わになる——

 

 ——それは、赤いガンダムだった。

 

 かつてソロモンで消失したはずの、ジオンの赤い彗星の乗機であり、連邦から恐れられた機体。

 

「……まさか、なぜ……!」

 

 全身の神経が総毛立つ。鍔迫り合いの最中、フブキは咄嗟に脚部スラスターを逆噴射し、距離を取る。

 目の前の“赤いガンダム”は、何も語らず、ただ戦場を滑るように追いすがってきていた。

 

「赤い彗星、シャア・アズナブル……」

 

 フブキの喉が自然と名を呟いていた。脳が理解を拒む前に、記憶がそれを口に出していた。

 

「アンタは、ソロモンで——ガンダムと共に消えたはずだ。なのに……なぜ今になって現れた」

 

 目の前にいる“赤いガンダム”は、戦場の中で神出鬼没に動き、己をガンダムたらしめる圧倒的な挙動を見せていた。

 

「シャア!! なぜ……また現れた!」

 

 フブキの声がコックピット内に響く。

 

「一年戦争だけでは飽き足らず……今度はここを戦場にするのか!」

 

「そんなことは——させない!」

 

 怒気を帯びた声が喉を突き破った。

 

「アンタは、ここで堕とす!!」

 

 赤いガンダムが頭部のバルカンを乱射する。連射された実体弾がフブキのザクの装甲を掠め、センサー類にノイズを走らせる。

 

「っ……!」

 

 フブキは回避機動を取りながら距離を詰める。

 鍔迫り合いが再び起こる。ビームと熱の刃が交差し、振るうたびにザクの関節が軋む音が走る。

 

「っちぃ……!」

 

 何度目かの衝突の直後、ザクの腰部サーボが遅れた。動きが、わずかに“重い”。

 

「くそっ……! ザクの動きが……鈍い……!」

 

 怒声が漏れた。計器は軋み、システムは悲鳴を上げるようにエラーを表示していた。警報が鳴り響き、コックピット内は赤く染まっていく。

 

(……機体が……! だが、ここで引いたら……)

 

 刹那、赤いガンダムが再加速し、死角から回り込む。モニター越しに、冷たい視線が突き刺さるような錯覚。

 

 フブキは息を飲みながら、再びヒートホークを構え直す。

 

「……シャア・アズナブル……戦争の火種であるお前"も"、戻ってきてはいけない存在だ!」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 フブキは、ザクで出来うる限りの戦闘をした。

 

 姿勢制御を振り切るほどのスラスター挙動、精密な逆関節動作による回避、バーニアの爆圧を読んだ慣性打撃。

 目の前の“赤いガンダム”は、機体性能以上に、純粋な「殺意と精度」を備えていた。

 

 その中でなお、フブキは立ち続けていた。

 

「ッ……はあっ……!」

 

 肩で息をしながら、目の前に浮遊する2機のサイコミュビットを捉える。

 ビームが空間を斬り裂くたび、フブキは紙一重で回避しながら、ただ一つのヒートホークだけを武器に戦い続けた。

 

(……長い……)

 

 たった数十秒。だが、まるで一年にも感じる。赤い光と鉄の質量、極限の神経が引き裂かれる——そんな時だった。

 

《フブキさん! いたぞ! ㋲も一緒だ!》

 

 無線越しに叫び声が届く。

 ザクが2機、新たに宙域へ突入し、フブキのいる宙域へ向かって突撃してきた。

 

《この野郎ッ!!》

 

 だが、その声を聞いた瞬間、フブキの顔が歪む。

 

「——来るな!!」

 

 ザクの操縦桿を片手で押さえ込みながら、声を張る。

 

「コイツは普通じゃない! 退がれ! 来るんじゃない!!」

 

 その叫びは届かなかった。援軍の1機が赤いガンダムに向かって真正面から飛び込む——その瞬間、

 

「ッ!!」

 

 フブキの機体が一瞬目を離した瞬間、視界を失った。続くのは、断続的な衝撃音と、警報。

 

【メインカメラ損傷】

 

 ……赤い光が突き抜けていった直後、フブキのザクの頭部が斬り飛ばされていた。赤いガンダムは、その動作の一切を止めず、反転するとそのまま宙域の奥へと飛び去っていく。

 

 フブキはシステムの強制再起動を試みるが、メインモニターは反応しない。

 

「くそっ……!」

 

 咄嗟に手動でコックピットハッチを開き、外の視界を確保した。視界いっぱいに広がるのは、逃げ去っていく赤い残光の尾。

 

 ……既に、遠い。

 

 その姿が完全に光の彼方へと消えていくのを見届けたフブキは、脱力するようにコックピットシートに身体を預けた。

 

「っ……く……」

 

 視界が滲み、鼓動が遅れて届く。

 

(……気持ち、悪い……)

 

 過度な神経の酷使。繰り返された加速。異常な緊張による脳への血流障害。

 

 フブキは、目を閉じた。——そしてそのまま、静かに意識を手放した。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 医務室。

 無機質な白が壁を覆い、消毒液の匂いが静かに漂っている。どこまでも質素で、誰かの痛みすらも呑み込んでしまうような場所。

 

 その部屋の中央で、フブキは静かに横たわっていた。

 

 点滴スタンドに繋がれたチューブ、皮膚の色を失ったような白い手の甲。

 穏やかすぎるその呼吸は、まるで——死んでいるのではないかと錯覚するほどに静かだった。

 

 ベッドの傍らに座るアマテは、視線をフブキの顔から逸らせなかった。

 

(……どうして)

 

 普段は、分からない難しい問題もフブキさんに聞けば簡単に解いてしまう。

 買い物に付き合ってくれるときは文句を言いながらも、気づけば一番荷物を持ってくれている。

 “誰にでも優しい”わけじゃないと思う…自分をちゃんと見てくれる。だから「特別」だと感じていた。

 

 その“特別な人”の瞳が、綺麗な空色の瞳が、閉ざされている。……アマテの脳裏に、あの日の会話が蘇る。

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

「やっぱり、モビルスーツの操縦って難しいの?」

 

 アマテはウキウキとしながらコーヒーを飲むフブキに尋ねる。

 

「いや、慣れれば誰でも動かせるさ。特にザクは操縦系が簡単だからな」

 

「じゃあ! 私でも?」

 

「ああ。動かせるだろう」

 

「そうなんだぁ……ねぇ!」

 

 フブキはとても嫌な顔しながら即答した。

 

「ダメだぞ」

 

 アマテはじっとりとした目をフブキに向けながら不機嫌そうに呟いた。

 

「……まだ何も言ってないんだけど」

 

「どうせモビルスーツに乗せてくれって話だろ? ダメに決まってる」

 

「なんで!」

 

 フブキはカップを置くと溜息を吐きながら、呆れたように頬杖をついて目を伏せた。

 

「……あのなぁ、乗りたいならもうちっと大人になってから言え。それに……」

 

「ん?」

 

「モビルスーツに乗るってことは、死ぬ覚悟、殺す覚悟を持つってことだ。お前にそれができるか?」

 

「それは……」

 

「……そうだ、お前は正しい。俺みたいにはなるな」  

 

 

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

 

 

 アマテは言葉を失ったまま、目を伏せた。

 

 彼の言葉を、ただの“過保護”だと思っていた自分がいた。そして自分を心配してくれることに優越感を感じて、その意味を流してしまっていた。

 でも今——ベッドの上で動かない彼の姿を目の前にして、あの言葉の意味が痛いほど分かった気がした。

 

 モビルスーツに乗るということ。それは戦場に立つということ。そして、命を懸けるということ。

 その覚悟を背負って、フブキさんはずっと戦っていた。

 

 アマテは小さく俯くと、震える声で、かすかに呟いた。

 

「……私じゃ…信用できなかったのかな……」

 

 震えたのは声だけではなく、彼女の心だった。

 




ソーラレイという名前で、「グリプス2はやっぱり作られるのかぁ…」と思ってたのに全然別物のトンデモ兵器で草。ギレン様ぁ〜!?

 ヒゲマン…お前…本当にニュータイプのことを…
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