機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
ちょっとドロドロするものがあるので、苦手な方はブラウザバックです
ジェーンは手元の端末を操作しながら、ワイングラスに視線を落としたまま、問いかけた。
「──で? アンタの機体は?」
フブキはわずかに肩をすくめて答える。
「バトルの開始前には、モビルスーツで現地に向かう。終了後も、自分で撤収するつもりだ。この拠点の位置情報は洩らさない」
ジェーンはグラスをくるりと回し、赤い液面に映る男の表情を見た。
「ふっ……殊勝じゃないか。だが、もしこの場所が外に漏れたら──最初に疑われるのはアンタだよ?」
「分かってるさ」
即答したフブキの声音に、迷いはない。
その反応に、ジェーンは口角をほんの僅かに上げてみせる。
「いいね。──なら、明日からよろしく頼むよ。連絡は、“Dr.“って奴でいいんだね?」
「……ん? ああ? そうだ……な。(ドクターって……安直すぎだろ、ロイド……)」
フブキは心中で皮肉を呟きながらも、顔には出さなかった。ジェーンはその様子をじっと見据えた後、立ち上がり、軽く片手を振る。
「じゃあ、“ジャック”。アタシたちのクラン、“グールズ”にようこそ」
⸻
ジャンク屋とはいえ、有能な人間が揃えばここまで環境が変わるものか──
そう思いながら、フブキは雑踏の中を歩いていた。
薄暗く油の匂いが漂う工業区の路地。さっさと帰ろうと帰路につこうとしたその時、誰かが勢いよく彼にぶつかってきた。
「……ぐおっ」
不意の衝撃に息が漏れる。バランスを崩しかけた身体を立て直し、目を向けた先にあったのは──
「……マチュ?」
見慣れた赤い髪、特徴的な制服。間違いない。
目の前に立っていたのは、アマテ・ユズリハだった。
「お前っ……こんなところで何してるんだ?」
問いかけに、アマテはほんの一拍、口を噤む。そして、やや伏し目がちに言った。
「……病み上がりじゃないの? なんでまた軍警の仕事なんか……」
「言ってなかったか……いや、軍警はもう辞めた。今回はまた別の仕事だ」
アマテの眉がぴくりと動く。
「……それも、モビルスーツ関係?」
「……ああ。まあな」
一言、肯定しただけなのに、なぜかアマテの表情が強ばった。
フブキは気づかないふりをせず、少し真顔になる。
「……どうした。顔色が悪いぞ」
アマテは言葉を探すように視線を泳がせたのち、そっぽを向きながら吐き捨てるように言った。
「……別に」
その「別に」には、数え切れないほどの感情が詰め込まれていた。
不安、悲しみ、苛立ち──いや、怒りか?
フブキは、そんな彼女の揺れる声を受け止めながらも、深く追及しない。
戦場を知る者の目に映る、戦場を知らぬ者の苦しみ。
その距離が、どれほど近くても、触れてしまえば壊れてしまうものがあると知っていた。
フブキはアマテのそっけない態度を見ながら、ふっと小さく笑った。
「……まだ子供だな」
ぽつりと呟くと、その頭に手を伸ばし、くしゃくしゃと、グリグリと撫でる。
抵抗もなくされるがままのアマテを見て、調子に乗りすぎたか──と手を離そうとしたその瞬間だった。
「──女の匂い」
かすかに、しかし確かに、アマテの唇が動いた。そのまま強い力でフブキの手を掴んで離さない。
「……ん?」
咄嗟に手を引こうとしたが、アマテの力は思いのほか強かった。顔を上げた彼女の目──そこにあったのは、これまで見たことのない、どこか影を孕んだ瞳。
(…な…なんだ?)
思わず息を呑む。普段見せる感情豊かでまっすぐな眼差しではない。どこか……暗く、深く、沈んだ色をしていた。
「マチュ。どうした?」
それでも彼女の手は離れず、フブキは仕方なく、そのまま優しく頭を撫で続けた。
撫でるたびに、アマテの指先の力が少しずつ緩んでいく。だが、掴んだ手は最後まで離さなかった。
(まったく……なんなんだ、お前は)
そう思いながらも、フブキはそれ以上、何も言わなかった。ただ静かに、温かく、彼女の存在を受け止めるように、撫で続けた。
しばらくそのままでいたが、思い出した。ここは女子高生が来ていい場所ではない。いまだくっついているアマテに穏やかに声をかけた。
「そろそろ行こう、マチュ。ここはあまり長居する所じゃない」
アマテは何も言わず、フブキの隣に並んで歩き始めた。二人は路地を抜け、静かな通りを進む。
ふと気になり、フブキは横目でアマテを見た。
「そういえば、お前……今日学校だったんだろう? 何であんなところにいたんだ?」
アマテは視線を逸らして小さく答える。
「……いや? 別に?」
「……なんだ、その下手くそな嘘は」
フブキは苦笑するが、アマテは素知らぬ顔で会話を逸らす。
「別にいいじゃん。それよりも今日は、このまま帰るの?」
「ああ、まあな。仕事の打ち合わせも終わったし、特にやる事もない」
すると、アマテは急に顔を輝かせる。
「じゃあさ! 私もお母さんに連絡するから、2人でご飯食べに行こうよ!」
フブキは驚いて眉をひそめる。
「おいおい……お前明日の学校はどうするんだ?」
だがアマテはニッコリと笑い、無邪気に答えた。
「大丈夫! 明日、休みだから!」
嬉しそうな彼女を見ていると、フブキはそれ以上言葉を続ける気にはならなかった。
彼は「やれやれ」とでも言うように、微かに肩をすくめながら、笑顔のアマテのあとをついて歩き始めた。
⸻
偶然だったのかもしれない。
けれど、心のどこかで分かっていた気がする──今日は、彼がこの辺りに居ると。
あの日、病室で頭を撫でられてから、ずっと落ち着かない。……いいや、多分それ以前からも。
手のひらの感触、静かな呼吸、人の温もり──すべてが、どうしても頭から離れない。
私は普段来ることのない、薄暗い工業地区の路地を意味もなく彷徨っていた。
(……いるはず、絶対いるはず……)
胸の鼓動が高まった、その時──視界に彼の姿が入った。
見つけた。
自分でも驚くほどの勢いで彼にぶつかり、そのまま強く抱きついていた。
温かな体温、そして確かな感触。安心感が一瞬だけ心を包んだ。
でも、その直後──
(──煙草の匂い?)
フブキさんは煙草なんて吸わない。記憶を探る。最近彼が関わっていたのは……
(……軍警)
心がザワつく。不快感が喉の奥をかすめ、思わず唇を噛んだ。
(余計な匂い……)
フブキさんの背中に顔を埋めたまま、静かな怒りと嫉妬が胸の底で渦巻いているのを感じていた。
それに……まだ病み上がりなのに、どうしてロイドさんはまたフブキさんを軍警に送り込んだんだろう。
ずっと、それが気になっていた。
でも、聞けば軍警での仕事はもう終わったらしい。
だったら──この煙草の匂いは何なのだろう。
考えるほどに心がざわついてしまう。
そんな私の沈んだ表情を見て、フブキさんはまた頭を撫でてくれる。
──ああ、気持ちいい。やっぱりこの人は優しい。
私が欲しいと思うものを、いつだって"言葉にする前"にくれる。
穏やかな呼吸、優しくて綺麗な青い瞳、温かな掌。すべてが特別で、私だけのもの。
なのに──
──女 の ニ オ イ
香水だろうか。微かだけれど確かに匂う。
それは、私ではない女の匂い。
急激に心の奥が冷えていくのがわかった。
気に入らない。彼を見つけたのは、私が先だったのに。
胸の奥で、何かが黒く渦巻く。
フブキさんは、私の特別なのだ。誰にも渡したくない。誰にも触れさせたくない。
──いやだ、絶対に渡さない。
握った拳が震えるのを必死で抑え、私はもう一度彼にしがみついた。
(フブキさんは、私だけのもの)
この想いを邪魔する者は、許さない。誰であっても──。
──
ジオン軍、強襲揚陸艦・ソドン 艦内にて
静かに電子機器の駆動音が鳴る中、スマホのモニターに映るのは、非公式戦闘記録。
モビルスーツ同士が無秩序に火花を散らす映像が連続して流れていた。
「成程。これが“クランバトル”ですか」
記録映像を一瞥した後、落ち着いた声でそう呟いたのは、シャリア・ブル"中佐"だった。
「ジャンク屋が主導しているにしては、よく出来ている……感心すべき民間技術ですね」
「中佐、クランバトルもそうですが、あの……“赤いガンダム”も確認されたという報告がありました」
困惑したように応じたのは、同艦所属のコモリ・ハーコート少尉。
若く、軍務に忠実な彼女は、シャリアの態度にわずかな苛立ちを滲ませていた。
「ですが、どうせガセでしょう。あんなもの、素人を釣る為の作り話に決まってます」
そう続ける彼女の指先には、データパッドに映し出された匿名投稿の報告書が握られていた。
「それより問題なのは、我が軍のゲルググがそのクランバトルとかいうものに出ていることです。払い下げの記録はありませんし、現行モデルが民間の手に渡るなど──ありえません……誰が流したのか……」
口調にわずかに憤りをにじませたコモリがふと隣を見ると、シャリアはスマートデバイスを片手に、映像を静かに見つめていた。
彼の視線の先には、黒と灰のツートーンに彩られた“黒いガンダム”と、その隣で躍動するゲルググの映像。
その双影が放つ空気は、戦場の記憶を呼び覚ますに十分だった。
シャリアは、低く、ほとんど独り言のように呟いた。
「──黒い……ガンダム……やはり、彼なのでしょうか……」
その声音には、懐かしさと焦燥、そして一抹の哀しみすら感じさせる響きがあった。
コモリは眉をひそめた。中佐が誰のことを指しているのか──聞くまでもない。一年戦争時、ジオンで囁かれた噂だ。曰く、相対したものは生き残れない。曰く、シャア・アズナブルが唯一堕とせなかった敵機。そんな噂ばかりが一人歩きした存在が「黒いガンダム」なのだ。そして、同時に思った。
(中佐は……なぜ、あんなにも嬉しそうなんだ?)
データを見終えたシャリアは、しばらく無言で座り尽くしていたが、やがて思案するように言葉を紡ぎ出した。
「──コモリ少尉。この“クランバトル”というのは、具体的にどこで行われているのですか?」
突然の問いに、コモリは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにデータパッドを確認しながら答える。
「たしか、サイド6のイズマコロニー周辺だったかと。現地の自治区域は非武装を原則としていますが、コロニーと民間の治安維持のために軍警に武装モビルスーツが配備されているとのことですが……」
「ふむ……“赤いガンダム”の目撃も、その周辺ですね」
そう言ったシャリアは、顎に手を当て、思索を巡らせるように目を細める。
「……丁度いい。行きましょう」
「……え!? サイド6に、ですか!? 中佐、本気で!? “赤いガンダム”の情報だって、所詮はネット上の……」
「──それでも、です。たとえ誤情報であったとしても構いません」
静かな口調ながら、そこには抗いがたい“確信”のような響きがあった。
シャリアはコモリ少尉の方を振り返り、柔らかく微笑んだ。
「黒いガンダムと赤いガンダム。彼らが“同時に”現れた──それを偶然だと思いますか?」
問いかけに、少尉は一瞬言葉を失った。だが、どうにか言葉を絞り出す。
「……まさか、“木星帰りの勘”だとでも?」
その軽口に、シャリアは珍しく声を漏らして笑った。
「ふふ……。老兵の勘と言うべきかもしれません」
彼の笑みの奥にあるもの。それが哀惜なのか、希望なのか、あるいは──執着なのか。
コモリには、まだ分からなかった。
「……ラシット艦長に何て言えばいいんですか……」
コモリは、疲れたように肩を落とし、額を押さえる。そのまま、ため息をついて部屋を後にした。
残されたシャリアは一人、手元の端末を見つめていた。
その画面には、クランバトルで撮影された黒いガンダムの戦闘映像が静止画で映し出されている。
彼は親しみと一抹の憂いを含んだ表情で、ぽつりと呟いた。
「……少年。君なのですか?」
その声には確信と共に、どこか願うような響きがあった。
画面の中の“黒いガンダム”を見つめながら、シャリアは続ける。
「次こそは──話をしましょう。できることなら、私は君のようなニュータイプと戦いたくはない」
淡く揺れる微笑とともに、彼の指が画面をそっとなぞる。それはまるで、過去の幻影に触れようとするかのようだった。
静寂が支配する室内で、ただ艦の微細な振動だけが、時の流れを告げていた。
すぐにプレイリストから探し出してかけたよね。そらね。
やはりシュウジが乗っているのか?つまりシュウジがってことなのか?それとも…
たが確信はある。来週で終わってしまうという確信が。なぜならガンダムだからだ。それは揺るぎない事実だと思う。最終回によっては……
──また描き換えなきゃ