機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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「eiL」さん誤字報告ありがとうございました!
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感想も励みになっております。
仕事が忙しくなり書く時間が確保できなくなってきました。まあチマチマ頑張っていきます!


軍人としての勘

 

 

 

 ──宇宙空間・イズマ宙域 クランバトル戦闘空域

 

 漆黒の機体──タナトスは、虚無のような宇宙空間にただ佇んでいた。コクピットの中、フブキはじっとモニター越しに前方宙域を凝視していた。

 

(……いた)

 

 直後、躊躇なく引き金を引く。タナトスの右腕に固定された大型ビームライフルが、鋭い光を放ち、真空を裂いて閃光を放つ。数秒後──

 

《撃破確認! 一機無力化!》

 

 ゼネラルリソースの管制が叫ぶ。

 

《距離座標、想定交戦範囲の遥か外です! どうやって……あの距離から狙撃を!?》

 

 フブキはライフルを確認しながら、独り言のように呟いた。

 

「……過大火力だな。戦艦並みの粒子密度とは……。しかも、近接用の“散弾”まで使えるとは」

 

 表示されたデータには、「エネルギー収束射撃モード」「高出力散射モード」の切り替え可能な構造が映し出されていた。

 

《そのライフル、本来は狙撃専用として開発されていたんです。でも、ロイドさんが“フブキさんには近接火力も必要だ”って開発部に提案して──それで今の形になったんです》

 

「……よく、理解しているな。ロイドは」

 

 真っ黒なガンダム──タナトスの隣に並ぶのは、グールズ所属の旧ザク。そのパイロットは通信越しに口を開いた。

 

《おいおい、報告上がってきたぞ。今の一撃、何しやがった? まだ敵影すら視認してねぇ段階だったろ》

 

「……たまたまだ。それよりもう一機。東側宙域。……アンタ、俺より先に堕とせなかったら、ジェーンにどやされるんじゃないのか?」

 

《うぐっ……勘弁してくれよ。っつーか、姉さんに睨まれるのが一番こえぇんだっての!》

 

 そう言ってザクはスラスターを吹かし、目標宙域に急行していく。

 フブキも少し遅れて後を追う。冷静に、だが確実に獲物を仕留めるために。

 

 ──その様子を、モニター越しに腕を組んで眺めるジェーン。

 

(……バカだね。詰めが甘い。突っ込めば良いってもんじゃないんだよ。敵の反応も見ないで)

 

 ジェーンが小さく息を吐く、その直後。

 

 モニターに映ったのは、ザクの頭が吹き飛ぶ光景だった。

 

 真っ黒な機体が、その機体の間合いに入り込んだことすら気づかせずにビームサーベルの一閃で、敵の視界を絶った。

 

 表示される文字。

 

《VICTORY – GHOULS –》

 

(……ほら見たことか)

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 タブレット端末を叩きながら、ジェーンと呼ばれる女帝は苦々しく呟いた。

 

「まったく……帰ってきたら、ヤキを入れてやらないとね。あのバカ、詰めが甘すぎるよ」

 

 それを聞いていた副官の一人が、端末を覗き込みながら報告を続ける。

 

「それより、件の傭兵について調べがつきました。彼の所属企業はイズマコロニーに法人登記されているようです。表向きは独立系の複合会社。ペーパーカンパニーではありません」

 

「ほう……?」

 

「少なくとも、ジオンや連邦とは現在のところ繋がりは見られません。資本関係、契約履歴ともに確認しました」

 

 ジェーンは小さく鼻を鳴らした。

 

「……そうかい。だが油断は禁物さ。アタシらがクランバトルに本腰を入れ始めた途端に接触してきた企業だ。しかも、あんな──見たこともないようなガンダムもどきを用意してきた。普通じゃないね。どこかと繋がってると見るべきだよ」

 

「引き続き、調査を進めます。“シーマ”様」

 

「……それと、“Dr.”に伝えな。“次はアタシが直々に出てやる”ってね。それとジャックにも」

 

「了解です」

 

「で? 赤いガンダムは?」

 

「いえ、軍警が指名手配はしているようですが、未だ捕捉されていません。コロニー周辺に何度か姿は確認されているようですが……」

 

「まったく、軍警ってのは役立たずばかりだねぇ。たかだかモビルスーツ一機でこのザマとは」

 

「ですが、もし乗ってるのが本物の“赤い彗星”なら……それも当然じゃないでしょうか?」

 

「バカ言うんじゃないよ。ニュータイプだ、赤い彗星だ、そんなもんは所詮プロパガンダさ。どんな英雄だって、結局は血の通ったただの人間なんだよ」

 

 シーマの瞳は鋭く細められ、暗い色を帯びていた。クランバトルの熱が引いていく静寂の中、彼女の言葉だけが、冷たく空気を切った。

 

 そう言って立ち上がるが、ふと鼻をひくつかせて表情をしかめた。

 

「……それと、あんたたち煙草くさいんだよ。さっきから鼻につくったらありゃしない……あまり寄るんじゃないよ、まったく」

 

 そう言って手で払い除けるような素振りを見せる。

 

「すみません……」

 

「ひ、酷いっすよ、シーマ様〜! 俺たちの愛と忠誠とエネルギーが煙草なんっすよ〜」

 

「うるさいよ。愛と忠誠は無臭でお願いしたいね」

 

 部下たちが苦笑しながら肩をすくめるなか、シーマは再びタブレットに視線を戻し、黒いガンダムの戦闘記録を無言で再生する。

 その瞳は、かつての戦場で研ぎ澄まされた女の勘を、今もなお鋭く光らせていた。

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 クランバトルを終え、ゼネラル社に帰投したタナトス。格納庫で機体が固定されるとハッチが開き、静かにフブキが降り立つ。その黒い巨体に整備員たちが一斉に駆け寄り、点検と補給作業に取り掛かる。工業的な喧騒とツールの電子音が格納庫内に満ちる中、ロイドが静かに歩み寄ってきた。

 

「お疲れ様でした、フブキさん」

 

「……ロイドか」

 

 フブキはヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭う。その瞳はまだ、戦いの緊張感を残していた。

 

「あのビームライフル、あれも回収された物か?」

 

 ロイドは笑みを浮かべて首を振る。

 

「いえ、あれは我々が独自に設計・開発したものです。通常の機体ジェネレーター出力を基軸に、状況に応じてEパック方式に切り替える仕様になっています。弾数制限があるとはいえ、Eパックさえ交換すれば再射撃も可能です」

 

「……よく出来ている。あの火力でロングレンジ、散弾も使えるとは、実に扱いやすい」

 

「それはなによりです。フブキさんを想定した仕様でしたから。ああ、それとジェーンさんから連絡が入っています」

 

 ロイドが端末を軽く掲げ、通信ログを表示する。

 

「“次はアタシが直接出てやる”──とのことです」

 

 フブキは小さく目を細め、乾いた息を吐いた。

 

「……大将自ら、か。思い切ったな」

 

「ええ。しかもここ最近、嗅ぎ回るものたちが増えています。流れを“掌握する”為にリーダー自ら。それだけ緊張感が高まっている、ということでもありますね」

 

 整備ドックの奥で、タナトスの装甲が静かに音を立て、冷却ガスが白く噴き出していた。整備員たちがタナトスの脚部に集まり、補給や冷却作業にあたる中、フブキはノーマルスーツ姿のまま、ツールラックへと歩を進めていた。ヘルメットを外し、前髪を指で払いながら、ロイドとの会話をしていたその時──

 

「フブさ〜ん!!」

 

 甲高くも朗らかな声が格納庫内に響き渡ったかと思うと、視界の隅に赤い髪が勢いよく駆け込んできた。

 

「ん? ──ぐっ……!?」

 

 反射的に身構える間もなく、アマテが全力で飛びつき、そのままフブキの胸元に抱きつく。フブキはバランスを崩しかけながらも、咄嗟にその細い体を受け止めた。

 

「おいおい……急に飛びつくな。死ぬかと思った……」

 

「へへっ、だって会いたかったんだもん!」

 

 アマテは無邪気に笑いながら、腕に力を込める。フブキは困ったように小さく息を吐き、仕方なく背中を軽く叩いてやった。

 

 そんな二人の様子を見ていたロイドが、淡々とした声で言葉を挟む。

 

「……あ、そうでした。フブキさん、アマテさんが来てましたよ」

 

 そのあまりに乾いた口調に、フブキは静かに顔を上げた。目の端には、内心楽しんでいるようなロイドの表情。

 

「……ああ、見て分かるッ」

 

 心底呆れたような声音でそう返しながらも、フブキはアマテを優しく抱き返していた。

 アマテはフブキの胸元に顔を埋めたまま、スーッと深く息を吸い込んだ。

 

「んっ……ふひひ……」

 

 控えめながらも満ち足りた笑みを浮かべ、もう一度くんくんと彼の匂いを嗅ぐ。柔らかな髪がフブキの顎に触れ、少しだけくすぐったい。

 

「……お前なぁ、何でここに……。関係者以外、立ち入り禁止のはずだろう?」

 

 困惑した表情を浮かべながらフブキがロイドの方へ視線を向ける。

 

「おい、ロイド。セキュリティはどうなってるんだ」

 

 しかし、ロイドはどこか愉快げに肩を竦めた。

 

「ふふふ。アマテさんは、私にとって“もう一人の娘”のようなものですから」

 

「……答えになっていない……」

 

 フブキが呆れたように嘆息する一方で、整備員たちはというと、微笑ましいものを見るような視線で二人を見守っていた。温かな空気が格納庫を包んでいる。

 

 抱きついていたアマテはふいに身体を離し、興味を引かれるようにゆっくりとタナトスの方へ歩みを進める。

 

「……これが、フブさんの……乗ってるモビルスーツ……!」

 

 彼女の瞳に映るのは、黒と灰の装甲に包まれた、威圧的でありながらどこか孤高の気配を湛える機体──タナトス。

 

「おい、マチュ! 危ないからあんまり近づくな!」

 

 フブキが慌てて声をかけたが、それよりも早くロイドが提案を口にする。

 

「マチュさん。もし宜しければ、コックピットに座ってみますか?」

 

「おい! ロイド、何を言っている!」

 

「大丈夫ですよ。メインジェネレーターは完全にシャットダウンしていますし、そもそも──タナトスは貴方以外では起動しませんから」

 

「……そういう問題じゃないだろ……」

 

 フブキの抗議など意に介さず、アマテは吸い寄せられるようにタナトスの脚部へと向かい、整備員たちに小さく会釈をしてから、昇降ステップに手をかける。そして、迷いなくコックピットへと滑り込んでいった。

 

 静かだった。

 

 モビルスーツ「タナトス」のコックピットに足を踏み入れたアマテは、その暗さに一瞬だけ戸惑う。電源が落とされているため、内部は照明も機器表示もなく、外部から差し込む僅かな光だけが空間の輪郭を浮かび上がらせていた。

 

 そっと、メインシートに腰を下ろす。

 

 想像よりも柔らかかった。シートにはパイロットの身体を保持するためのクッションがしっかりと備わっており、包み込まれるような座り心地があった。

 

「……ん……」

 

 無意識のうちに、アマテは鼻を鳴らす。

 

 スンスン……スン……。

 

「……あ……フブさんの匂い……」

 

 彼の香りがした。洗い立ての制服? 整備用グリス? 形容し難いけど、なぜか心地がいい匂い。何より、あの病室でも感じた優しさの残り香。

 

「……ふふ……いい匂い……これに、フブさん乗ってるんだなぁ……」

 

 ふわりと目を閉じる。瞼の裏に、格納庫で笑うフブキの姿が浮かぶ。

 

 アマテにとって、それは「特別」だった。誰かの隣にいるのがこんなに心地よいと、そう思わせてくれたのは──彼だけだった。

 

 そのときだった。

 

 突如、正面モニターが青白く点灯する。

 

「……え……?」

 

 完全に電源が落ちていたはずのコックピットに、突如として浮かび上がる光。心臓がどくんと脈打つ。

 

 そして、モニター中央に浮かび上がる一文。

 

 > Who are you? 

 

 その一言だけが、冷たく、無機質に表示されていた。

 

「……え……なに……?」

 

 アマテは背筋を強張らせる。誰かが見ているような、触れているような、説明できない感覚に囚われていく。

 

 そのとき、外から声が飛んだ。

 

「おい、マチュ。もういい加減にしろ。ほら、早く出るぞ」

 

 フブキの声だった。現実に引き戻される。

 

 モニターはもう、ただの黒い板に戻っていた。反射したアマテの瞳だけが、そこに残る。

 

「う……うん、今行く……」

 

 彼女は何も言わず、フブキの差し出した手を握り、ゆっくりとコックピットから降りていった。

 

 コックピットから降りてきたアマテは、どこか気まずげに視線を逸らしていた。そんな様子に気づいたフブキは、パイロットスーツの胸元を整えながら、彼女に声をかける。

 

「ん? どうかしたか、マチュ」

 

 唐突な問いに、アマテはハッとしたように顔を上げた。

 

「えっ? あ……だ、大丈夫っ! 何でもないよっ!」

 

 声がわずかに上ずっている。けれどフブキは、深くは追及しなかった。

 

「……それならいいが」

 

 そっけなく答えるその声音に、アマテは微かに胸を撫で下ろす。

 

 ──けれど。

 

(あの文字……)

 

 彼女の思考は、コックピット内で見た“それ”に囚われていた。

 

 ──Who are you? 

 

(……あれって、私に向けてだったのかな? それとも……フブキさんかロイドさんが何か入力してたとか?)

 

 だが、そんな素振りはなかった。ロイドさんはタナトスのことを「フブキさんしか起動できない」と言っていた。ならば、あれはロイドさんの仕掛けた冗談ではない。

 

 じゃあ、あれは一体……? 

 

(……君は誰だ、って。……どうして、あんなことを……?)

 

 アマテは、心のどこかが冷たくなるのを感じていた。まるで、誰かが──彼女の存在を測ろうとしていたかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 アマテがフブキの手に引かれ、名残惜しそうにタナトスのコックピットから降りる。彼女の足が昇降ステップを離れたその瞬間、コックピット内部には再び、微かな電子音が静かに響いた。

 

 誰もいない暗がりに、淡い蒼白の光が一つ、モニター上にゆっくりと浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Your name is Machu, isn’t it? 

 

 

 




 次回は最終回後にお会いしましょう。どんな結末になるのか…皆で見届けようじゃありませんか。
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