機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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下劣なハイエナ

 

 

 出撃前のハンガー。静かな格納庫には、タナトスの起動音と整備員たちの小さな声が微かに響いていた。ノーマルスーツ姿のフブキがタラップを上り、コックピットへと歩を進めようとしたその時──

 

「フブキさん、今日のクランバトルは──油断しないようにしてください」

 

 背後から声をかけてきたのは、ロイドだった。だがその声には、いつになく警戒と慎重さが滲んでいた。

 

「……どうした。珍しいな、お前がそんなことを言うなんて」

 

 立ち止まり、フブキは片眉を上げてロイドを振り返る。

 

「……相手は、元ジオンのモビルスーツ部隊。しかも“ドズル・ザビ”の直轄部隊に所属していたという噂があります」

 

「……なるほど。つまり、筋金入りの"武闘派"というわけか」

 

「はい。一年戦争を生き抜いた歴戦のエース。数多の戦場を渡り歩き、今もなお現役でモビルスーツに乗っています。貴方なら問題はないとは思っていますが──念の為に、警告しておきます」

 

「……了解した。なら今日は、慎重に行かせてもらおう」

 

 フブキは静かに言い残し、コックピットへと身体を滑り込ませる。

 

 数秒の後、パシンという密閉音と共にコックピットが閉じられ、内装に光が灯る。起動シーケンスが進むたびに、視界を包むメインモニターが点灯し、360度全方位の映像がコクピットを包み込んでいく。

 

 静寂の中、タナトスの“心臓”が鼓動を打つ。

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 イズマ宙域・クランバトルエントリー前、偽装船モビルスーツデッキにて──

 

 薄暗いハンガーで、1機の緑色に黄色の差し色のザクへと乗り込もうとしていた男が、不機嫌そうに口を開いた。

 

「おい。今日の相手、“グールズ”とか言ったか? 黒いやつは……どうでもいい。問題はエントリーされてたもう1機……あれなんだっけか?」

 

 それを聞いたもう1人の男が、ヘルメットを被りながら鼻で笑った。

 

「はッ ゲルググだろ。あのガンダムとかいう奴の量産型って言われてたヤツ。俺らには回ってこなかったやつだよ」

 

 男の顔に、一瞬だけ険しい表情が浮かぶ。

 

「そうだそうだ、思い出したぜ。中将もビグ・ザムがあれば何とかなるとか言って配備してくれなかったもんなぁ。結局おっ死んじまったけど。んでよ、あのゲルググのカラーリング……あれ、戦犯の雌犬じゃねぇか?」

 

 しばらく考えるような間を置いてから、男は乾いた音を立ててヘルメットを叩いた。

 

「ああ! 思い出した! アレだ。コロニー落としの首謀者。自分と同じスペースノイドを毒ガスで殺した狂人。頭おかしいとしか思えねぇ」

 

 眉をひそめ、心底嫌そうに吐き捨てるような声音。

 

「まったくだ。だがな……その雌犬の首でも持って帰りゃ、ジオンにまた戻れるかもしれねぇぞ」

 

「ハッ、んなうまくいくか?」

 

「行くって。連邦に売っても、少なくとも何百万単位で金が動くと思うぜ? ……だったら狙いは決まってんだろ?」

 

 男たちは互いにニヤリと顔を見合わせ、コックピットに入ると通信チャンネルを開く。

 

「……決まりだな。ゲルググを仕留める。黒いヤツは無視だ」

 

《よっしゃあ!》

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 格納庫内に響く、機体の駆動音と警告灯の点滅。

 ツートンカラーに塗装されたゲルググのコックピット内で、シーマ・ガラハウがヘルメットをかぶり、無線を受信する。

 

《──シーマ様。ジャック機はすでに出撃したようで。現在、指定宙域へ向かっています。敵クラン側はまだ展開していない模様です》

 

 モニターを見つめたまま、シーマは低く息を吐いた。

 

「指定エリアは特に問題無し多少デブリはあるが……ふん、逃げ場はあるってわけだ。なら、少し暴れても問題はないね」

 

 操縦桿を引き、ゲルググをカタパルトへ滑らせながら無線を返す。

 

「アタシも出るよ。準備できてるかい?」

 

《もちろんです、シーマ様! ──大漁を!》

 

 その言葉に、シーマは一瞬だけ目を細めて笑った。

 

「……フッ。それ久しぶりに聞いたね。──あいよ! 狩りの時間だ」

 

 暗い、しかし星々が煌めく宇宙へ、ツートンのゲルググが弾かれるように飛び出す。

 

 暫く飛行し、クランバトル指定宙域が視界に入ったとき、無線から軽口が飛んだ。

 

《少し遅かったんじゃないか? 道に迷ったのかと思ったぞ》

 

 ジャックの声だった。相変わらずの調子に、シーマは鼻で笑う。

 

「ふん、そっちがすぐに片づけちまうんじゃ退屈だろう? 少し宇宙遊泳でもしてたのさ」

 

《敵は……アンタと同じ“元ジオン”のパイロットらしい。油断は禁物だ》

 

「誰に向かって言ってんだい。ジオン育ちってんなら、MAV戦術も承知の上……こっちに分があるさ」

 

 モニターの端にジャック機の識別信号が映るのを確認しつつ、舌を巻くように言う。

 

「いつも通り動きな、ジャック。アタシはアタシで、好きにやらせてもらうよ」

 

《……了解した、ジェーン》

 

 カウントダウンが始まる。

 3…… 2…… 1……

 

 ──0。

 

 その瞬間、戦闘開始の合図として指定エリアに緑色の閃光弾が打ち上げられた。無音の宇宙に、炸裂する閃光が戦場の幕開けを告げる。

 

 ツートンカラーのゲルググを駆るシーマは、即座に周囲へ警戒を向け、マシンガンを構える。増設されたスラスターがかすかに火を吹き、機体が揺れる。

 

 そのとき、無線が入った。

 

《──居た》

 

 その一言に、シーマの眉がわずかに動く。

 

「……は? 何だって? まだ索敵範囲外のはずじゃ──」

 

 言い終わる前に、ジャックの声が割り込む。

 

《こっちだ。行くぞ》

 

 その声に応じて、視界の端に黒い残光が閃く。

 漆黒のガンダム──ジャックの駆るタナトスが、凄まじい加速で宙域を駆け出していた。

 

「……なるほどね。こうして近くで見ると分かるよ」

 

 不規則な挙動。スラスターの噴射を予測不可能な角度に切り替え、狙撃に対して致命的な射線を断ち続ける動き。

 それでいて速度は緩まない。並のパイロットならば機体制御どころかGで意識を失うレベルだ。

 

「本当に、上手いねぇ……まったく」

 

 シーマもまた、ゲルググの増設スラスターを吹かし、機体を前に躍らせる。タナトスの風圧を感じ取るかのように、その背中を追う。

 

 やがて、彼女のモニターにも一瞬だけ敵機のスラスターの閃光が映った。

 

「──ッ、いたッ! 本当にいたじゃないか!」

 

 無意識に吐き出された言葉に、自嘲の笑みがこぼれる。

 

「何だい……これが“ニュータイプ”ってヤツなのかい?」

 

 その問いに、ジャックが淡々と返す。

 

《……そんなものじゃない》

 

 タナトスの背中から、淡くしかし確かに響く声。

 

《……長く戦場にいると、分かるようになる。ただ、それだけのことだ》

 

 その声を聞き、シーマは肩を揺らす。

 

「まったく……妙に説得力のあるセリフじゃないの……」

 

 そう呟きながら、シーマはスラスターを最大出力に移行し、ジャックと並ぶように前線へ突き進んでいく。

 

「まあいい! アンタはアタシの援護だよ! そのライフルで撹乱しな!」

 

 シーマのゲルググから、張り詰めた声が飛ぶ。

 

《了解した》

 

 ジャックのタナトスが応じると同時に、過大出力のビームライフルが火を噴く。照準などお構いなしに放たれる無造作な連射。だがその放射線の乱れがまるで陽炎のように戦域を歪ませ、敵の判断を一瞬遅らせる。

 

 だが、敵は恐れなかった。

 射線の海を物ともせず突っ込んでくるザク。その突進力にシーマはすぐさまマシンガンを乱射。

 弾幕は厚く、迎撃の手は一切抜かない。

 

「はっ、いい肝の座り方じゃないか……!」

 

 ──だが。

 

 ザクは重装型のシールドを斜めに構え、弾丸をはじきながら突進。そのままビームトマホークを振り下ろし、ゲルググの上腕を狙ってくる。

 

「っ、甘く見るんじゃないよ──!」

 

 シーマも咄嗟にビームサーベルで受ける。

 

 火花が散る。スラスターがうなり、機体が互いに押し合う。

 その瞬間、通信が混線し、敵のパイロットの声が割り込む。

 

《ははぁ!! 腕が落ちたみたいだなぁ! 戦犯野郎!!》

 

 ──“戦犯”。

 

 その一言に、シーマの時間が止まった。

 

 脳裏に蘇る光景。かつて所属したジオンに与えられた作戦。

 あの時、コロニー内に充満したガス。住民の悲鳴、咳き込み、そして、静寂。

 

 自分は、知らなかった。だが──結果は、変えられなかった。

 

「っ……ち、ちが……」

 

 無意識に、反論の声が漏れた。

 

《ジェーン! 何をしてる!!》

 

 ジャックの怒声が無線に響いた。

 

 その声と同時に、敵のザクが一気に攻め立てる。ゲルググのガードが一瞬遅れ、腕が切断された。

 

「──ぐッ!!」

 

 浮遊感と共に、左腕が宇宙に弾け飛ぶ。

 直後、ザクの蹴りが機体を弾き飛ばし、距離を取られる。

 

 だが、そこに飛び込んでくる黒い機影。ジャックのタナトスだ。

 

 タナトスは前に出ながら、すぐさまライフルを乱射し、敵機を無理やり後退させる。

 腕を切り飛ばされシーマの機体は損傷しているが、まだ戦える。

 

 だが彼女の内面は、震えていた。そして、小さく呟く。

 

「……アタシは……戦犯なんかじゃ……ない……」

 

《どうした……! 機体に何かトラブルでもあったのか……!》

 

 ジャックの声が、焦りと困惑を滲ませながら無線に走る。

 

 しかし──返答は、無い。

 

 シーマのゲルググは損傷した腕部を抱えながら、敵が後退した方向へと、ふらつくように、されど確かな意志で進んでいく。

 

《待て! 損傷しているんだぞ! ジェーン! 後方で援護に回れ! 聞こえているのか! ジェーン!!》

 

 ジャックの叫びも空しく、彼女の姿は音の無い宇宙へと滲んでいく。

 敵の逃げ道など、関係ない。彼女はただ──あの言葉に突き動かされていた。

 

 ──戦犯野郎──!! 

 

(ちがう……違う……アタシじゃ……私じゃない……!)

 

 思考は焦燥と後悔に絡め取られ、軌道は感情に委ねられる。その時だった。

 

 バズーカの砲弾が、すぐ脇を掠めて通過。わずかに逸れた衝撃波がゲルググの装甲に鳴り響く。

 

《シーマ様! 落ち着いてください! 敵はデブリ帯に誘き寄せようとしています! 罠です! シーマ様!!》

 

 グールズの仲間たちが、必死に通信を送る。だが、──沈黙。

 

 それは彼女の意思によるものだった。彼女自身が無線回線を遮断している。それほどまでに、彼女の内面は崩れかけていた。

 

(私のことを──知っている。あのザクの男……一体、どこでッ……)

 

 その声、その言葉。その罵声が、魂にまで突き刺さって抜けない。

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

「……まずいな」

 

 フブキは短く呟くと、即座に無線チャンネルを切り替えた。

 

「こちらジャック。グールズ管制、聞こえるか? ジェーンに何があった? そちらから通じるか?」

 

《無理だ! シーマ様は無線を封鎖してしまった! 俺たちの声が届かないんだよ!》

 

「……」

 

 フブキの瞳が険しさを増す。バイザー越しでも分かるほど、強い決意が瞳に宿る。

 

(シーマ様か……)

 

「分かった。なら、こちらで対処する。お前たちの“姫さん”は──俺が、必ず生きて戻す」

 

《……頼む……! ジャック……!》

 

(シーマ・ガラハウ……国を追われた戦犯、だからジェーン・ドゥか……)

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 ──金属片と残骸が漂う、沈黙の墓場。

 その静寂を切り裂くように、高速で突入する漆黒の機影。

 

 シーマのゲルググ、その機体の周囲には、ただならぬ緊張が漂っていた。

 

「……いた!」

 

 敵影を捉えた刹那、ドムがデブリの影から突如飛び出す。

 

 ゴォッ!! 

 

 推進剤を撒き散らしながら、振りかぶられたヒートサーベルが赤熱を帯びて迫る。

 

「──ッ!!」

 

 シーマは咄嗟にマシンガンを手放し、腰のビームサーベルを抜刀。

 鍔迫り合いが閃光とともに炸裂する。

 

 その直後、オープンチャンネルに通信が割り込む。

 

《ははァ! わざわざ狩場にひとりで突っ込んでくるとはなァ!! 雌犬は鼻が効くんじゃなかったのか? こんな簡単に釣れるとはよぉ!!》

 

 ──耳障りな、低く唸るような男の声。

 通信越しに、それが“獲物”を嬲る捕食者の歓喜に満ちていた。

 

「うるさい……!!」

 

 声を荒げるシーマだが、声が震えていることに、自分でも気づいていた。

 

《威勢はいいなぁ! だがオレは嫌いじゃねぇぜェ!! 売る前に──オレたちで楽しんでやるか!! コロニーを毒で満たした、“大量虐殺の女”の身体──悪くないだろォ!?》

 

「……ッ!!」

 

 ──再び脳裏に蘇る。

 

 あの日の“命令”。あの日の“沈黙”。あの日、コックピット越しに自分が見た“死屍累々”。の映像。

 

「やめろ……!」

 

 ドムがさらに踏み込み、鍔迫り合いの力でゲルググを押し込む。

 

 その瞬間、ドムの前腕部から射出されたワイヤーが、シーマ機の胸部ユニットに取り付く。

 

《つかまえたァ──!》

 

 ゲルググに電撃が奔り、機体の制御系が一瞬バグを起こす。同時にコクピット内、シーマの身体にも衝撃が走る。

 

「なっ!──ああああア"ア"ぁ"っ!!」

 

 全身を駆け巡る激痛。視界が瞬き、神経が焼かれるような錯覚。

 

《おいおい、かんたんに気絶すんなよォ? これからが本番だぜェ?》

 

 敵パイロットの声が、嗜虐に歪む。

 

 

 




 やはり──多くの世界を生み出し、その果てで、ララァが出した"答え"が、自分が…ってことだったんだね。
 貴女は"大切な人を守る"ために、その選択を選んだんですね。
 

 来週からは何もない。でも、きっと、いつかは──
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