機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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まさかのカイさんとミハルの話が聞けるとは…終わってしまったけどまだまだ熱が引かないGQX!


UC.0085
覚悟と災難と


 

 

 

「あ、シーマ様! おはようございま……す」

 

 朝のブリーフィングルームに入ってきた部下の声が、途中で止まった。

 

「なんだお前? どうし……た……」

 

 部屋の中央、椅子に腰掛けたシーマ・ガラハウ。その顔には、見慣れた笑みと──切り揃えられた髪。

 

「ん? なんだい、アンタら」

 

 部下たちの顔が驚愕に染まる。

 

「シ、シーマ様! その髪、どうなさったんです!?」

 

 短くなった髪。乱れもなく整えられたその姿は、彼女のこれまでの姿とはまるで別人だった。

 

「ああ……ちょっと、思い切りよくね」

 

 彼女はそう言って、軽く肩をすくめた。

 

「ど、どうして……!? まさか、ジャックの野郎が何か──」

 

 部下が怒気混じりに言葉を続けかけた瞬間、シーマが苦笑してそれを遮る。

 

「ふっ。まあ、アイツの影響もあるね。でも……これはアタシのケジメなんだよ。あんだけ真正面から発破かけられちゃ、知らん顔もできやしないさ」

 

 その声音は清々しく、どこか吹っ切れたものだった。

 

 部下たちは呆気に取られていた。

 あの、かつて地獄のような戦場を渡ってきた“女帝”──忌まわしき過去を背負いながら、怒りと悔恨の中で生きてきた彼女が、今、穏やかな笑みを浮かべている。

 

「まったく、傭兵如きに……真正面から殴られるとはね」

 

 苦笑まじりにそう呟いたシーマの瞳には、どこか懐かしい光が灯っていた。

 

「──あの下衆野郎どもが言ってたことも、あながち間違いじゃなかったのかもね──アタシも……腕が鈍ったもんさ」

 

 静かに語るその姿には、悔しさや後悔ではなく、

 ──「再び、立ち上がろう」とする者の気概が宿っていた。

 

 そして今、その表情は──

 

 かつて、「ジオン将兵」として戦場を駆けた、あの誇り高き“戦士の顔”に戻っていた。

 

 

 

 

 

 それからというもの、グールズはクランバトルへの積極的な参戦を控えるようになった。

 挑戦を受ける形──つまり、敵からの指名試合のみを選んで参加する姿勢が定着したのである。

 

 そして、何よりも周囲を驚かせたのは──

 クランバトルに出る際は必ず、"女帝"が"黒いガンダム"とMAVを組むようになったことだった。

 

 本来は攻撃を主軸とするシーマのゲルググが、タナトスとの連携時には攻守に渡って鋭い間合いを保ちつつ戦場を制圧していく。

 その連携は、言葉すら不要な「阿吽の呼吸」であるかのように機能し、

 二人は戦場で未だ無敗の記録を刻み続けていた。

 

 そして──U.C.0085──

 ジオン軍所属・強襲揚陸艦「ソドン」、サイド6・イズマ・コロニー外周宙域へ現着。

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「禁止信号です。サイド6・イズマ管制より、入港拒否を通達されています」

 

 オペレーターのセファが冷静に報告する。

 その報を受けて、艦橋の正面窓から宙域を見やっていたコモリはふと目を細めた。

 

「……モビルスーツ。ジャンク屋のザクが、航路に入り込んでいます。アレわざとですか……?」

 

 艦長席で眉間に皺を寄せていたのは、ジオンの現場たたき上げ軍人、ラシット中佐であった。

 座ったまま軽くため息をつきながら、コモリに問いを投げかける。

 

「……はぁ……だから言ったんだ、民間にモビルスーツなんて払い下げるべきじゃないって……」

 

「でも、インストーラーデバイスは外してありますから武装は使えませんよ?」

 

「当然だろ。はぁ……サイド6に抗議を入れておけ。航路にモビルスーツが侵入するなんて、軍艦相手に一歩間違えば外交問題だぞ」

 

 苛立ちを隠さず命じるラシットに、オペレーターが素早く反応する。

 

「了解しました、艦長」

 

「……コモリ少尉、本当にこのサイド6に”赤いガンダム”が居るのか?」

 

「保証はできません。ただ、中佐が行くと仰いましたし……」

 

 そんなやり取りをよそに、艦橋右側で窓外の星々を見つめていた男──シャリア・ブルが、皮肉気に言った。

 

「連邦軍の“敗残兵”への食い扶持斡旋でしょう。……まあ、これも戦勝国の責務というやつですよ、艦長」

 

「でも、中佐。サイド6は一応、主権国家です。ジオンがそこまで面倒を見る義務はありませんよ」

 

 やや不満げに、そう口にしたのはコモリ。その言葉には、戦後の外交バランスへの配慮だけでなく、連邦との火種を避けたいという意思もにじんでいた。

 

 しかし、そのやり取りの最中、シャリアが突如として動きを止めた。

 眉間に指を当て、静かに顔をしかめるような仕草──

 その表情には、何か見えざる気配を捉えたかのような鋭さが宿っていた。

 

「……っ。ガンダム……! 

 

「え……? どうして、分かるんですか?」

 

 シャリアの呟きに、コモリは一瞬、目を見開いた。艦長席で聞いていたラシットも、疑問視するように身を乗り出しながら聞いた

 

「……木星帰りの勘ってやつですか?」

 

 だが、シャリアはその冗談を無視するかのように、静かに言い切った。

 

「……間違いない。赤いガンダムだ」

 

 その声音は、確信に満ちていた。あくまで静かに、淡々と──しかしその胸中では、明らかに“何か”が共鳴している。

 

「……艦長、すぐに索敵を開始してください。赤いガンダムは、確かにこの宙域にいます」

 

 シャリアの命令に、ラシットは目を細めながらも黙って頷く。

 

「各セクションに通達。広域索敵を開始──サイド6の軍警にも連絡しろ!」

 

 ブリッジが一気に騒然となる中、シャリアはすぐさま振り返り、コモリに向き直る。

 

「コモリ少尉は引き続き通信傍受と各艦船の動向確認を。サイド6の民間データも掘り下げてください。“兆候”はどこかにあるはずだ」

 

「り、了解しました!」

 

 その背後で、オペレーターたちが次々に索敵モジュールを展開していく。静まり返った宇宙に、確かな予感が広がっていた。

 

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

 

 

 ゼネラルリソース本部

 フブキはロイドと静かにタナトスについて話していたが、ふと何かに気を取られたように、言葉を止め、視線を宙に漂わせる。

 

「……ん?」

 

 ロイドが静かに尋ねる。

 

「どうかしましたか、フブキさん?」

 

「……いや、なんでもない。(気のせいか……?)」

 

 言いながらも、胸の奥に残る奇妙なざわつきが消えない。何かに呼ばれたような……

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 駅のホーム。

 人混みのなか、アマテは不満げに腕を組みながら、停止した電光掲示板を睨みつけていた。

 

「……も〜っ、なんで電車止まってんの? これじゃフブさんのところ行けないじゃん!」

 

 彼女のスマホが、ブルっと震える。

 

「ん?」

 

 画面を見ると、差出人は見覚えのない名前──Unknown。

 そして、表示されたメッセージはこうだった。

 

 “Let’s get the beginning.

 

「……なにこれ。イタズラ? キモ……」

 

 そう呟いた瞬間、アマテの胸に、得体の知れない不安が流れ込んでくる。

 しかし今ここでこうしていても始まらない。

 

「……しょうがない……別路線で行こ」

 

 アマテはスマホをバッグにしまいながら、ため息混じりに改札へと足を向けた。

 だが、そのとき駅構内が急にざわつき始め、ざわざわと人々の声が広がっていく。

 

「ん……? なに……?」

 

 反射的に振り返ったアマテの視線の先で、数人の軍警が怒声を上げながら構内を走っていた。明らかに誰かを追っている。

 

(また軍警が面倒なことしてる?)

 

 そう思った瞬間だった。

 

「どいてっ!!」

 

 ──ひょいっ、と改札を飛び越えてきた少女が、アマテに向かってまっすぐ突っ込んできた。

 

「えっ、わっ!? きゃっ!!」

 

 アマテはまともに体当たりを喰らい、その勢いで転倒。バッグが開き、スマホや小物が床へと飛び散る。

 ぶつかった少女も尻もちをつき、痛そうに呻いた。

 

「いっちち……」

 

「って、アンタ……っ、なに急に!!」

 

「っごめんっ!」

 

 学生服を着た少女はそれだけ言い残すと、すぐに体勢を立て直して再び走り出した。

 

「ちょっ、待ってよ! あんた……!」

 

 アマテが追いかけようと手を伸ばした、その瞬間──

 

「どけっ!」

 

 軍警の一人がアマテを力任せに押しのけ、彼女は再び倒れ込む。

 床に滑り込んだ拍子に、投げ出されたスマホの画面に軍靴が降り落ちた。

 

 バキィッ。

 

「あ……」

 

 ひび割れる画面。破片が散る。

 軍警たちは謝ることもなく、追跡対象の少女を追ってそのまま駆け抜けていった。

 

「な、なにして……っ、ちょっと!!」

 

 怒鳴っても誰も振り返らない。駅員も傍観するばかり。アマテは呆然と、破損したスマホを手に取った。

 

 画面のひび割れた向こうに、さっきの通知──

 

 Let’s get the beginning.の文字が光り続けていた。

 

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

「……ったく、最悪……っ!」

 

 アマテは不満げに舌打ちしながら、ゼネラルリソースのエントランスに足を踏み入れる。受付にいる職員が顔を上げて微笑む。

 

「おや、アマテちゃん。今日はもう学校終わったの?」

 

「うん。補習だけだったから早く終わったの。……で、フブさんは?」

 

「ふふふ。フブキさんなら、いつもの場所にいるわよ。たぶんロイドさんも一緒ね。一応、私のほうからも伝えておくわね」

 

「ありがとう!」

 

 アマテはさっきまでの苛立ちが嘘のようにぱっと表情を緩め、軽やかに廊下を進んでいった。

 

 ──数分後。

 施設の中庭に面したテラスエリア。モニター付きのタブレットを片手に資料を確認しているロイドと、その向かいで何か話しながら端末に目を落とすフブキの姿があった。

 

 アマテの目がきらりと光る。

 

(よし、いつもの……!)

 

 彼女は助走をつけて走り出す。

 そして──

 

「ふ・ぶ・さぁ〜〜んっ!!」

 

 声と同時に跳躍。

 その身を空中に躍らせると、フブキは一瞬タブレットから視線を上げ、無言でロイドの方からくるりとアマテの方へ向き直る。

 次の瞬間──飛びついてきたアマテを、ドサッと胸元で受け止めた。

 

「んふふ〜♪ 成功〜!」

 

 アマテはそのまま手足を器用に絡めるようにして、フブキに密着。図鑑で見た地球の“コアラ”という生き物のように、しがみついたまま笑顔を見せた。

 

「……重いぞ、マチュ」

 

「失礼〜女子にそれ言う〜?」

 

「良識ある女子はそんな飛び蹴りみたいな抱きつき方はしない」

 

「ふふっ、フブさんだけ特別だもんっ!」

 

 そんなやりとりに、向かいのロイドが呆れつつも苦笑いを浮かべるのだった。

 

「どうした? 今日はえらく早いな」

 

「まあね。私くらいになれば補習なんて楽勝よ」

 

 そう言ってどや顔を見せたアマテだが、すぐに表情を切り替えて、思い出したように話し出した。

 

「──あ、そうそう! 聞いてよ! さっき駅でさ! 軍警に追いかけられてる子がいてさ」

 

「……軍警に追われてた子? ……女の子か?」

 

 フブキの言葉に、アマテはきょとんとする。

 

「え……? う、うん。そうだけど」

 

「……その子、黒髪で、髪は長かったか?」

 

「うん。そうだった……けど?」

 

「学生服を着てた?」

 

「えっ……うん、着てたよ? ……なんで知って──」

 

「……はぁ……やっぱりあの子か……」

 

「あの子って……」

 

 アマテの目が細くなる。その目は獲物を定めた肉食獣のような鋭さを帯びてフブキを睨む。

 

「──は?  なに? 知り合いなの? だれ? 私に黙って女の知り合いいたの? だれ? ねえ? フブさん、ちょっと」

 

「ま、待てマチュ。違う、そういうことじゃ──」

 

「違うってなにが? どうしてそんなに詳しく知ってるの? 髪の長さも服装も。追いかけられてた女の子でしょ? 何? ストーカー? 本当に不審者になっちゃった? フブキさん」

 

「してない! してないから!!」

 

 あまりの剣幕にフブキが一歩後ずさると、見かねたロイドが口を挟んだ。

 

「ま、まあまあ、アマテさん。落ち着いてください。フブキさんにも事情があるんですから……ね?」

 

「ロイドさんは黙ってて!!」

 

「……っは、はい……」

 

(……ロイド! なぜそこで素直に引く!)

 

 思わず心の中でツッコミを入れるフブキ。だがアマテの鋭い視線はまだ緩まない。

 

「で? 誰なの? その女。なんで知ってるの?」

 

「軍警での仕事の時、駅でたまたま見かけて……少し関わっただけだ。それっきりだ。誓って何もない」

 

 アマテはしばらくじっとフブキを見つめたまま、黙っていた。が──

 

「……ふん。分かった」

 

 小さく吐き捨てるようにそう言うと、腕を組み、ふてくされたようにそっぽを向いた。

 

(こ、これは……信じてくれた、のか? いや、これは……根に持ってるな……)

 

 一抹の不安を感じるフブキをよそに、ロイドは小さく溜息を吐きながら、天を仰いでいた。

 

「んんっ。で? その軍警がどうしたって?」

 

 話の主導権を取り戻すかのようにフブキが声を上げる。アマテが首を傾げると、思い出したように──

 

「あっ、そうそう! スマホ踏まれちゃってさ! 見てよこれ!」

 

 アマテは制服のポケットからスマホを取り出し、テーブルにドンと置いた。画面には蜘蛛の巣のような亀裂が走っており、なんとか表示はされているが、表示は揺れて不安定そうだ。

 

「……あらら。これはまた見事に割れてますねぇ」

 

 ロイドが少し顔をしかめると、フブキも苦笑を浮かべながらスマホに目をやる。

 

「ああ……これはひどいな。マチュ、手は切ってないか?」

 

 そう言いながら、フブキはアマテの手元へそっと手を伸ばし、スマホをテーブルに置いていた手を取る。

 

「へ? だ、大丈夫だよ! 心配しすぎだってば!」

 

 慌てたように言いながらも、アマテはフブキに手を取られるのを拒まなかった。フブキはその小さな手の指先、甲を丁寧に確かめる。

 

「俺も昔、メットのバイザーで切ったことがあってな……脱いだら頭が血まみれだったなんてこともある。いいか? ガラスは思った以上に切れ味があるんだ」

 

「う、うん……わかった。気をつけるよ……」

 

 少ししおらしくなるアマテに、フブキはふっと目を細める。

 

「素直で結構。切り傷は場合によっては跡が残るからな。女の子の肌には似合わんよ」

 

「……っッ!!」

 

 その一言に、アマテはビクンと肩を震わせる。

 

(……なっ、なにさらっと言ってんのよこの人はッ!!)

 

 顔を真っ赤にして目をそらすアマテを横目に、ロイドは静かに笑みを浮かべた。

 

……青春ですねぇ

 

「ロイド、黙ってろ」

 

「はい、申し訳ありません」

 

 




 
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