機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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GQuuuuuuX始まりましたね。
今後の狂犬がどうなるのか楽しみです。個人的には壮大に曇ってほしい。


UC.0079〜0081
鬼神と呼ばれた者


 

 U.C.0078

 

 月面にある地球連邦軍技術士官学校・分校。白く静かな施設の一角、第七工学棟の実習室では、午前の講義が終わったばかりの空気が、どこか乾いて流れていた。

 

「……な〜あぁ、フブキ〜今日も昼ここで食うつもりかよ〜」

 

 声をかけたのは、レイ・フェルラント。戦術科所属で、いつも気軽に誰とでも話す調子のいい男だが、妙にフブキには構いたがる。

 

「……わざわざ場所を移動する理由がないだろ」

 

 端末を閉じながらそう返すフブキは表情に起伏がなく、何かと「効率」を重んじる物言いをする。

 

「ほんと、変わんねぇよなあ……よし、じゃあ俺もここ!」

 

 レイは勝手に机をくっつけて、持ってきていた弁当箱を開ける。そこへもう一人、軽やかな足音が近づいた。

 

「あ、やっぱりいた。ほら、二人とも一緒に食べよ」

 

 そう言って笑顔で現れたのはカエデ・セレスタ。工学理論科に在籍する彼女は、いつも柔らかく、何気ない言葉で空気を和ませる。

 

「フブキくん、おにぎりだけじゃ味気ないでしょ? 今日ね、玉子焼き上手くできたんだよ」

 

「毎度聞くが、いいのか?」

 

「もちろん!」

 

 何も躊躇わず、笑顔で差し出される小さな切れ端を、フブキは受け取り、丁寧に口へ運ぶ。

 

「……美味い」

 

「お、言った! ここ最近ようやく美味いって言うようになったよなぁ」

 

「ほんとほんと。私達が面倒見ないとすぐ栄養食品で済まそうとするんだから!」

 

 レイが笑う。カエデも、ふふっと口元を緩める。

 

 2人が笑い、1人が静かに受け止める、そんな3人の空気は、ゆるやかに馴染んで過ぎていく。そんな3人がいる教室の窓の外、灰色の月面を越えて、遥か遠くには地球が浮かんでいる。

 

 ここにはただ、言葉少なに過ぎていく時間があった。静かで、穏やかで、ほんの少しだけ、寂しさを孕んだ日常。

 

 

 

 午後の実習時間。第七工学棟の演習室では、学生たちがそれぞれの端末に向かい、課題に取り組んでいた。

 

 今週の課題は、「旧式ワーカーの姿勢制御プログラムを、現行仕様に適応させる簡易モデルの設計」工学理論科では定番の課題だが、それだけに雑に済ませれば粗が目立つ。提出は夕方まで。

 カエデは、前髪をかきあげながら液晶に睨みをきかせていた。

 

「うーん……理論上はこっちが早いけど、フレームの耐性が足りないんだよねぇ……」

 

「逆転の関節動作を避けるなら、ここの遅延調整を下げるのが適切だろうな」

 

 フブキが隣から短く口を挟む。すでに自身の課題を提出済みなのか、彼は特に目的もなくカエデの画面をぼんやり見ていた。

 

「それじゃ関節に負担かかるでしょ?」

 

「許容範囲なら問題ない。目的は“転ばせない”ことだからな」

 

「……うーん。理屈は合ってるんだけど、なんか釈然としないなぁ……」

 

 そう言いつつも、カエデは彼の指摘に沿って数値を微調整していく。一方、戦術科のレイは──すっかり机を離れ、部屋の端で伸びをしていた。

 

「はぁ……俺にはさっぱりだね。この数字の海、溺れるぜ……」

 

「提出しないと単位はないぞ、レイ」

 

「わかってるよフブキ! だから今、極限まで精神を整えてるの!」

 

「……精神を整えるならまずちゃんと座りなよ……」

 

 レイは困ったような顔をしながら、椅子に戻ってきて肩をすくめる。三人のやり取りは、特別な事件もなく、ただゆるやかに流れていく。

 音を立てず、穏やかで、ささやかな余白の中で、それぞれが自分の“らしさ”を保っていた。

 やがて、実習室の時計が夕方のチャイムを知らせる。学生たちが端末を閉じ、ひとり、またひとりと教室を後にする。

 

 フブキ、レイ、カエデの三人も、人の流れとは逆に、校舎の裏手にある中庭へと歩いていった。白い石が敷き詰められた小さなベンチに並び、それぞれの手には、飲みかけの缶や紙パック。

 月面の静けさのなかに、まだほんの少しだけ太陽の光が残っていた。

 

 

 

 

 

「……なあ、艦長ってさ」

 

 レイが紙パックのストローをくわえたまま、遠くを眺めるように言った。

 

「でっかい船に乗って、航路決めてさ。何十人も指揮して、戦場を突っ切る。……なんか、それだけで生き様って感じするんだよな」

 

「……どうした突然……悪い物でも食ったのか?」

 

「喧嘩売ってんのか……買うぞこらフブキ」

 

 本気で心配そうにするフブキにわざとらしく怒るレイ、そんな2人を見てカエデは微笑む。

 

「生き様って……またずいぶん古風な言い回しするね」

 

「最近ちらっと聞いたんだ。連邦軍が新しい大型艦を建造してるって。長期任務向けで、宇宙でも地球でも“どこでも行ける”くらいのやつ。名前はまだ聞かないけど、ありゃたぶん旗艦クラスだろうな〜」

 

 茶化すように言ったあとで、レイは少しだけ真面目な声で続けた。

 

「俺、そういうのを動かす側にいつか立ってみたいんだ。俺の命令で全てが動くって、すごくね?」

 

 その言葉に、カエデは小さく微笑む。

 

「ふふっ、似合うかもね。レイ・フェルラント艦長!」

 

「でしょ? ふん、くるしゅうない!」

 

 レイは胸を張って、誇らしげに敬礼してみせる。そしてふと、隣に座るフブキに視線を移した。

 

「なあ、フブキ。お前の夢は? なんかあるのか?」

 

 フブキはベンチの背にもたれ、空の紙パックを指先で静かに押し潰していた。

 

「夢……」

 

「カエデは“まだこれから探す”って言ってたけどさ。お前はどうなんだよ?」

 

「あ、それ私も知りたい。いつも難しそうな顔してるフブくんの夢」

 

 そう言ってカエデが、そっとフブキの顔をのぞきこむ。しばらくの間、なんとも言えない空気が三人を包んでいた。

 

 そして、フブキが静かに口を開いた。

 

「……空を」

 

「空?」

 

宇宙()を……自由に、駆けてみたい」

 

 その言葉に、レイは一瞬驚き──やがて、ふっと笑った。

 

「──パイロットかぁ……意外だよなぁ、俺てっきり「技術者になる!!」って言うのかと」

 

 返事はなかったが、フブキの目元がほんのわずかに和らいだ。

 その沈黙が、彼なりの肯定だった。その空気のなかで、カエデがふと声をあげた。

 

「じゃあさ、私も決めた」

 

「ん?」

 

「オペレーター。私、それになる。今決めた!」

 

「お、艦長・パイロット・オペレーター。完璧じゃん、三位一体チームってやつ?」

 

「だからそのネーミングセンスなんとかしてよ」

 

「フッ。お前が艦長になるなら、俺は意地でもお前の船には乗りたくないね」

 

「んだと! フブキてめぇ〜!」

 

 レイのテンションと、カエデの冷静なツッコミ。そして、何も言わずに微かに笑うフブキ。

 

 その静けさのなかで、三人はひとつの未来図を描いていた。

 不確かで、現実味はなくとも、そこにある何かはたしかに本物だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 U.C.0079

 

 星々が瞬く漆黒の空間に、一つの“闇”が潜んでいた。そこにあったのは、全身を艶のない黒で覆った一機のモビルスーツ。

 輪郭すら闇に溶け、可視できるのは、時折バーニアから吐き出される淡いスラスターの光だけ。その機体は、戦場における「影」そのものだった。

 フブキ・アルジェントの瞳が、無音のモニターに映る敵影を射抜いていた。

 

「……2機か……機体型式からザクⅡだな。チッ……ミノフスキー粒子が濃い……」

 

 彼の機体は、ノイズを最小限に保ちつつ、後方から接近する。宙域のわずかな金属反応や噴射熱まで計算に入れたルート取り。

 その行動は、まるで“既に倒した相手の背中を見ている”かのようだった。最初の一撃は、何の予兆もなかった。背後30メートルの距離で急加速。

 死角から飛び出すと同時に、ビームサーベルを引き抜く。

 

 闇の中、唯一の発光──紅い光刃が閃き、ザクのコックピットを一突きに貫いた。爆発も、断末魔もない。ただ、命だけがそこから抜け落ちる。

 気付いたもう一機が回頭。マシンガンを構える。だが遅い。

 フブキは攻撃を誘導するように機体をひねり、火線の外を滑る。反転しながら推進を上げ、回避と同時に2機目の背面に回り込む。

 ビームサーベルの光は、再び点となって浮かび──正確で無駄のない一撃が、2機目の命を絶つ。

 どちらの機体も、装甲損壊は最小限。稼働系はほぼ生きている。つまり──回収可能。

 フブキは静かに、捕獲ワイヤーを展開。両機の反応を確保し、母艦へのレーザー通信回線を開く。

 

「こちら01。敵機2機を制圧、損壊軽微。パイロットは排除済み。鹵獲終了。これより帰投する」

 

 応答の確認すら待たず、スラスターを再点火。黒き影が、母艦の待つ座標へと向けて走り出す。

 

 誰かを殺した、という実感はない。命を選別することも、拒むこともなかった。

 

 

 ガイドビーコンが起動し、格納甲板に着艦灯が走る。黒塗りの機体が減速しながら姿勢を調整し、緻密な軌道で母艦のMSデッキへと滑り込んだ。艶のない黒。宇宙を切り裂いた影。バーニアの余熱だけが、その存在をかろうじて照らしていた。

 

 固定アームが展開され、静かに接地する。直後、鹵獲されたザク2機が遠隔制御によってゆっくりと運び込まれてきた。

 

「格納確認。両機とも稼働系統に異常なしっと。損傷も限定的……十分、再利用可能だな」

 

 格納庫の管制士官が淡々と読み上げたその声には、評価も驚きもなかった。だが、現場にいる整備兵たちの間には、明らかな“違和感”が漂っていた。

 機体ハッチが開き、フブキが現れる。ヘルメットを外した彼の黒髪が、無重力下でゆらりと揺れる。無言のままタラップを降りる彼に、整備長が近づいた。

 

「アルジェント少尉。機体チェックは後回しでいい。先にデブリーフィングだ」

 

「了解しました」

 

 抑揚のない声。誰もが“冷静な軍人”と受け取るだろう。だが、その背後では異変が広がっていた。

 牽引されてくるザク2機。どちらも外装は比較的整っている。しかし、近づいた整備員の顔が強ばる。

 

「……これ、中、コックピットだけ……うっ」

 

 最初に気づいた整備兵が、思わず吐き捨てる。

 

「うわ……こりゃひでぇ……完全に焼けてるな……」

 

「なぁ……これ、意図的にパイロットだけやったってことか?」

 

「……そうだろうぜ。試験用ビームライフル使わずにわざわざコックピット潰してんだから……正気じゃねぇよ……」

 

「うえ。俺、触りたくねぇわ……呪われそう……」

 

 整備クルーたちはどこか気分を悪くしたように顔を背ける。淡々と任務を遂行した結果が、却って“何かを踏み越えた”ことを物語っていた。

 

「流石は──鬼神様、ってか……」

 

 誰かが吐き捨てるように呟いたその言葉に、誰も反応しない。ただ一様に、視線がひとつの背中に注がれていた。

 

 歩き去るフブキ。視線を受けていることすら意に介さず、彼はまっすぐに通路を進んでいく。その足取りに迷いはない。だが、誰よりも遠くにいるように見えた。

 

 ──これは任務だ。それ以上でも、それ以下でもない。

 そう言い聞かせるように。そう、自分を納得させるように。

 

 

 

 

 

 艦橋区画に設けられた簡素な会議室。デブリーフィングの場には上官と数名の士官、そして記録係が同席していた。

 

「……実に見事な戦果だ。アルジェント少尉」

 

 中年の軍服を着た上官が、艦内の照明よりもなお鋭い目を向けて言った。

 

「敵機2機を損壊最小で鹵獲。パイロットのみを確実に無力化し、味方の被害はゼロ。これ以上の戦果は望むべくもない」

 

 無言のまま立つフブキに、上官は満足そうに続ける。

 

「貴官の戦闘ログと戦術判断は、今後のモビルスーツ運用において極めて重要な資料となる。V作戦における次世代機開発にも、大きく貢献することになるだろう」

 

 部屋に拍手はない。だが、賞賛の空気はあった。しかしフブキは何も言わなかった。目を伏せず、ただ真正面を向いたまま、微動だにせず立っていた。

 

 上官はそれを“沈着冷静”と受け取ったのだろう。一通りの質疑を終え、解散の指示が出される。

 

「ご苦労だった。今後に備えて十分に休みたまえ、少尉」

 

「ハッ。失礼します」

 

 フブキは敬礼を返すと部屋を後にする。誰も彼の背に声はかけなかった。

 

 部屋に戻ったフブキは、無音の中に立ち尽くしていた。誰もいない個室。白い壁と、ベッドと、備え付けの洗面台。

 軍靴を脱ぎ、上着を投げ捨てるように椅子へ置いた。洗面台の前に立つ。顔を洗うでもなく、水を出すでもなく、ただ鏡を見つめている。

 

「……どうでもいい」

 

 誰に向けたでもない、かすれた声が漏れる。賞賛も、未来も、技術資料としての自分も。──どうでもよかった。

 今日も誰かの命を奪ったという事実が、ただ心の奥に沈んでいく。戦いは正確だった。だが、心は静かに壊れ始めていた。

 

 それでも、フブキは戦場へ出ていくのだ。敵を殺すために今度こそは守るために。

 

(これが、俺の選んだ役目。最後までやり遂げる。──そうだろ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フム……V作戦。連邦の希望にして、我らが打ち砕くべき標的か。

 

 ……このコロニーに侵入し、V作戦が本当であるかを確かめねばな。……今回は私も出る。私のザクも用意しておいてくれ。




 
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