機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
ここ最近は本当に暑いですね……皆様も熱中症には十分注意してくださいね。
フブキたちは金髪の少年に続いて外へ飛び出した。瓦礫の舞う薄暗い空間の中、耳を劈くような轟音が反響する。
コロニー内部とは思えぬほどの爆風と衝撃──眼下の地面を突き破って現れたのは、真紅の装甲を纏うモビルスーツ、赤いガンダムと、白を基調とした、見知らぬ機体。
金属がぶつかる凄まじい衝突音と共に、二機は激しく取っ組み合いながら、空中を飛行していた。
機体が起こす暴風で目を細めながら、男が叫んだ。
「どっちもガンダムじゃないのか!? くそっ! どこの馬鹿野郎だ!!」
「なんでこんなとこでやりあってんだよ!! ナブ! もっとこっち!」
金髪の少年も同様に、身を屈めながら怒鳴った。
だが、フブキだけは黙っていた。爆音と風に晒されながら、視線は一瞬たりとも戦場から逸れない。
アマテが不安そうにその袖を引いた。
「……ガンダム? ね、ねぇフブさん、あれってガンダムなの?」
フブキの目が細められたまま、かすれた声が返る。
「──赤い彗星……」
咆哮のようなブースト音と共に、一機のビットが赤いガンダムの背から軌道を外れ、弧を描きながらアマテたちの頭上に降り注ぐ。
「っ、来る──!!」
鋭い音と熱風。ビットのスラスターが間近で噴射され、焼けた空気が肌を焼く。アマテが顔を覆ったその時、熱風で瓦礫が宙を舞い、身体が吹き飛ばされそうになる。
「何やってんだ! お前ら! 死にたいのか!!」
ナブが叫ぶ。だが声が掻き消されるほどの爆音。
その刹那──
白と青の機体が滑るように射線に割り込み、突っ込んできたビットを掴んでもう一機のビットを破壊。
閃光と衝撃音が鼓膜を叩き、砕けた金属片が火花となって散る。
そして、再び始まる取っ組み合い。
赤い機体と白青の機体は、怒りに任せたような格闘戦で、建物に突っ込む。
──轟音。
──振動。
──そして、飛んできた赤いガンダムのシールド。
「っ……!!」
反射よりも早く、フブキはアマテとニャアンを抱き寄せ、背を向けて庇うように覆いかぶさった。
眼前に迫る巨大な赤い鉄塊。もう避けられない──と思ったその瞬間。
風を裂く音と共に、シールドは寸前で停止した。
いや、回収されたのだ。赤い機体の腕が、まるで引力に吸い寄せられるようにシールドを引き戻していた。
そして──そこに立っていた。
赤。深い紅。その装甲から漂う威圧感、そしてただならぬ気配。
フブキたちの真正面に佇み、見下ろすその機体。
「赤い……ガンダム……」
目の前には、赤いガンダム。その頭部センサーが、まるで感情を持つかのように、こちらをジッと捉えている。
フブキの全身に、嫌な汗が伝う。
──赤い彗星。
もう一機の白い方が煙幕を貼り、黄煙がコロニー内にゆっくりと広がっていく。
赤いガンダムは一瞬上を見上げたかと思うと、白い機体が放った煙幕の中へと、するりとその姿を消した。
──静寂。
戦闘の余波が空気の中に残る。振動、金属の焦げた匂い、そしてただならぬ緊張の残滓。
数秒遅れて、軍警のザク部隊が到着した。地響きを立てて路地に進入してくると、周囲の難民が暮らすバラックや簡易住宅に構わず、躊躇なく踏みつぶしていく。
「……っ、酷い」
アマテが絞り出すように呟いたその声は、怒りとも悲しみともつかない。
その声に、横にいたアンキーは応えた。
「ジオンが戦争に勝ったって……スペースノイドは自由になれない。どこまで行っても、苦しいままだよ」
彼女の目は、今まさに自分たちの生活を潰しているザクを見ていた。
砕かれる壁、散る衣類、走り出す子どもたちの叫び。
アマテはその言葉を聞きながら、ふとニャアンの横顔に目をやった。
──この子も、あの中の一人だ。
誰からも守られずに、"生きる"ために、法に触れることも厭わず、それでも懸命に──それしか術がないから。
(……あたし、何にも知らなかった)
学校に通い、毎日安全な場所で目覚めていた。
フブキやロイドに守られていた。それが「普通」だと思っていた。
でも目の前で、軍警が生活を踏みつぶしていく音が、それを打ち砕く。
「……どうして、こんなのおかしいよ……」
フブキは黙ったまま、破壊される家々と、それを逃げ惑う人々をただ見つめていた。
その手には、まださっきアマテを庇ったときの体温が残っていた。
「……結局、変わってないんだな」
フブキの低く絞り出すような声は、誰に向けられたものでもなかった。
それは過去に派遣といえど、自らが属していた軍警という存在、そして己の無力さへの深い自己嘲笑だった。
視線を逸らすように地面を見つめ、彼はただ立ち尽くしていた。
一方で、軍警のザクがこちらを向き始める。
巨大なモノアイが、無機質な光を放ち、威圧感を与える。
こちらを見られているかもしれないと気づいたアンキーは声を荒げる。
「まずい! ジェジー! ザクを隠せ!」
「はあ!? 隠せったって……っくそ!」
ジェジーは苛立ちを込めながらも扉の向こうに消えていった。
「……戦わないの?」
アマテの声は震えていた。
軍警の暴力に何もせず逃げるこの場所の現実に、声を押し殺すように、けれど確かに問う。
「はぁ? 軍警とやり合うバカがいるか」
「そもそもデバイスが壊れてんだ! バトルできねぇんだよ! だから注文したんだろうが!」
呆れるアンキーと怒鳴り返すナブの言葉に、アマテの体はビクリと震えた。
それは恐怖ではなく、怒りと、どうしようもない無力感への反発だった。
「……っ」
唇を噛んで、彼女はぐっと拳を握ると、くるりと背を向けて事務所の中へと走っていった。
「お、おい!? マチュ! どこに行く!」
フブキが叫ぶが、彼女は振り返らなかった。
──
「今は使われていない整備用トンネル……一応気密はあるみたいだけど……これなら隠したことになるのかな……」
白いモビルスーツ──ジークアクスのパイロットであるエグザベは、わずかに額を拭いながら、外壁に身を預けていた。
この静かな空間でなら、しばし軍警からの追跡も躱せるし、機体も隠せる。そう思っていた──その瞬間までは。
「……っ!!」
奥の方で、鋼の音が反響する。
見れば、トンネル上部から隔壁を突き破って1機のザクが墜ちてくる。間を置かず、軍警のザクも降下してくる。
「っ嘘だろ!」
軍警のザクのモノアイがこちらを捉えたその瞬間、トンネル内にザクからのオープンチャンネルの声が走った。
《おい!! ジオンがコソコソと何してんだ!》
エグザベは両手をわざと誇張して広げるようにし、敵意のなさをジェスチャーで示す。
「ま、まあ待てよ! サイド6とはお仲間だろ!」
《さっきの白いやつのパイロットだな! モビルスーツから離れろ!!》
怒鳴り声と同時に、マシンガンを構える動作。
(クソッ、まずい……! この状況でジークアクスが軍警に押収されたら、作戦自体が瓦解する……!)
「ま、まて! コイツに触るな!」
焦燥の汗が伝うその刹那──崩れ倒れていたもう1機のザクが、突如スラスターを噴射して跳ね起きた。
《なっ! こ、こいつ!!》
軍警のザクは完全に虚を突かれた。体勢を崩した軍警ザクが壁に激突し、マシンガンが滑り落ちる。
そして、倒れていたザクのコクピットから、ひとりの少女が飛び出す。
「な、なんだ!」
制服姿の少女。
少女は機体外装を滑り落ちるように走り、ジークアクスのコックピットへと跳び乗った。
彼女が乗った瞬間、ジークアクスが震える。
「う、嘘だろ……!?」
パイロットである自分でさえ、起動出来なかった「オメガ・サイコミュ」。
それが──今、見知らぬ少女によって起動され、ジークアクスが動いた。
ゆっくりと、だが確かに、その機体は立ち上がり、フェイスガードのロックが外れ、展開されると、緑色の光を放つツインアイが姿を現す。
──
軍警のザクに追いかけられて宇宙に飛び出したら、何だか頭に光が走って……
(なに……これ……キラキラしてる……)
まるで、水の中にいるみたいな──浮遊感と柔らかな光。
意識が拡がっていくのを、アマテははっきりと感じていた。
ほのかに香るのは、フブさんの匂い? お母さんの匂い? 温かさ、安心感が、この不思議な空間にも残っているような気がしている。
閃光。
突然、頭の中に何かが「流れ込んできた」。
それは、誰かの記憶。
⸻
「なんでこんなものを地球に落とす!! これでは地球が寒くなり人が住めなくなる! 核の冬が来るぞ!」
「地球に住む者は自分たちのことしか考えていない! だから抹殺すると宣言した!」
「っ! 人が人に罰を与えるなどと!!」
「私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ! アムロ!!」
「エゴだよ、それは!」
「地球が持たん時が来ているのだ!」
⸻
モビルスーツだろうか、互いに切り合い、戦いながらの言葉の応酬。誰かが、怒っている。誰かが、悲しんでいる。
ぶつかり合う信念。世界を変えようとした意志。そして、それを否定する叫び。
──でも。
(なに……?)
アマテにはその全てが、ただ悲しいものに感じられた。
目の前に広がる光の空間。断片的な記憶と記録が流れ込む。
……言い争ってる……誰かが、何かに必死で……でも……どうして……こんなに、苦しいの……
両手を胸元に当てると、心臓が強く打つ。まるで、それが“共鳴”しているかのように。
アマテの目の前には、二つの影が立っていた──
そして──全てが光に包まれ──目を開けると、そこにはキラキラとした空間はもうなかった。
静かで、どこまでも暗い宇宙が広がっている。
無重力の浮遊感と、どこか乾いたエラー音が耳を打つ。
「……ここ、モビルスーツの中……」
手のひらのような形をした、少し不気味な操縦桿。
この形、似ている。一度だけ触れたことのある、フブさんの機体、タナトスの物と似ていた。
(よくわかんないけど……なんか、わかった気がする)
目を細め、アマテは操縦桿にそっと手を伸ばす。そして頭の中でひとつの映像を強く思い描いた。
──追ってきた軍警のザク。
威圧的な姿。無差別な破壊。人々の家を壊した、悪い存在。
(やっつけなきゃ──)
その瞬間、機体が静かに唸るように駆動音を変える。
エラー音はぴたりと止み、ディスプレイは落ち着きを取り戻し、デブリや脅威になるものが浮かび上がる。
追ってきた軍警のザクが、マシンガンを構える。
宇宙の無音の中、火花が走り、弾が高速でアマテの機体に向かって放たれる。
しかし。
アマテは目を細めると、操縦桿を撫でるように操作する。
「──そこ」
機体が滑るように“思った方向に動いた”。
弾丸は空を切り、ジークアクスは一気に接近する。拾ったヒートホークを構える。
ザクの反応が一瞬遅れた。
次の瞬間──紫電が走るように、ヒートホークの刃がザクの頭部を一閃する。モノアイがスパークを発し、機体がゆっくりと仰け反って崩れ落ちていく。
アマテは息を切らすでもなく、操縦桿に手を置いたまま、ぽつりと呟いた。
「……やれた、んだ」
手は震えている。でも、心はなぜか不思議なほど冷静だった。
あの赤いガンダムのこと。フブキのこと。そして、さっき見た“悲しい記憶”のこと。
いろんな感情が渦巻いていた。
それでも──
「今、私は……やれたんだ」
そう、アマテは静かに確信していた。
──
格納庫に響く金属の軋みと、微かな電子音。
そこに白く巨大な機体が機材に囲まれて静かに鎮座していた。
そのコックピットが開き、ゆっくりと出てきたのは、制服姿の少女──アマテだった。
彼女はコックピットから出ると、周囲を見回し、すぐにある人物の姿を見つける。
「フブさん──!」
次の瞬間、アマテはまるで抱きつくようにその胸に飛び込んだ。
驚くフブキ。だがそれ以上に、彼はアマテの行動に対して明確な怒りを露わにした。
「──マチュ! お前、コイツに乗ったのか!?」
彼の声には、今までにない切迫感が滲んでいた。
しかし、アマテは何も言わない。何も答えず、ただ強く、離れずに彼に抱きついている。
「……? マチュ? ど、どこか怪我したのか!?」
戸惑うフブキ。だがアマテは、彼の胸元に顔を埋めたまま、小さく首を振った。
──あの空間。
あの"キラキラ"した空間で見た、2人の対立。互いに理を説きながらも、分かり合えなかった争い。なのに、どこかフブキさんに似ていた。
他者のために怒り、悲しみ、そして自分を後回しにしている──そんな姿が。
言葉にはできない。けれど、アマテは確かに“何か”を見ていた。
彼女はただ、その温もりにすがるように抱きついていた。
一方その背後では、アンキーたちジャンク屋の3人が、機体の解析に取り掛かっていた。
「……何なんだコイツ……歯があるぞ。ケーン、何か分かったか?」
「うーん……セキュリティ自体は、そこまで強くないんだけど。あ、これかな。……いや、違うか……なんかギミックがありそうなんすけど」
ケーンはパソコン端末を指先で走らせながら呟き、ナブがパソコンを覗き込み、モニターに表示されている機体の情報を見る。
「“GQ”……? なんて読むんだ、コイツ……」
「ジー、クアクスかな? プログラム上のプレースホルダーっぽいから、本当の名前は別にあるんだろうけど……」
そう言ったケーンの手が止まる。次の瞬間──警告音が響いた。
「うおっと、これ以上やったら自爆プログラムに触るかも……!」
ナブはすぐに声を荒げた。
「アンキー! こんな換金もできない厄ネタ、持ってるだけでリスクだ! さっさと処分すべきだ!」
だが、アンキーは応じない。彼女はコックピットの内部をしばらく物色した後、ふいにアマテたちの方を見た。
未だフブキに抱きついたままのアマテを見て、一言。
「……よく動かせたね、嬢ちゃん」
その言葉に、アマテはようやく顔を上げた。
「……なんか、考えたら思った通りに、動いてくれた」
その言葉に、呆れたような声が返る。
「はぁ……? ジェジーにだって動かせないんだぞ? 何でお前が」
ナブの言葉には、軽蔑というより、本気の混乱と驚愕が混ざっていた。
ジークアクス。白き機体は沈黙したまま、その巨大な躯体を揺らぎもしない。フブキは機体を見ながらアマテを抱きしめるのだった。