機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

31 / 70
お気に入り登録900件!ありがとうございます!
ここ最近は本当に暑いですね……皆様も熱中症には十分注意してくださいね。


温かくも悲しい記憶

 

 

 フブキたちは金髪の少年に続いて外へ飛び出した。瓦礫の舞う薄暗い空間の中、耳を劈くような轟音が反響する。

 

 コロニー内部とは思えぬほどの爆風と衝撃──眼下の地面を突き破って現れたのは、真紅の装甲を纏うモビルスーツ、赤いガンダムと、白を基調とした、見知らぬ機体。

 

 金属がぶつかる凄まじい衝突音と共に、二機は激しく取っ組み合いながら、空中を飛行していた。

 

 機体が起こす暴風で目を細めながら、男が叫んだ。

 

「どっちもガンダムじゃないのか!? くそっ! どこの馬鹿野郎だ!!」 

 

「なんでこんなとこでやりあってんだよ!! ナブ! もっとこっち!」

 

 金髪の少年も同様に、身を屈めながら怒鳴った。

 

 だが、フブキだけは黙っていた。爆音と風に晒されながら、視線は一瞬たりとも戦場から逸れない。

 

 アマテが不安そうにその袖を引いた。

 

「……ガンダム? ね、ねぇフブさん、あれってガンダムなの?」

 

 フブキの目が細められたまま、かすれた声が返る。

 

「──赤い彗星……」

 

 咆哮のようなブースト音と共に、一機のビットが赤いガンダムの背から軌道を外れ、弧を描きながらアマテたちの頭上に降り注ぐ。

 

「っ、来る──!!」

 

 鋭い音と熱風。ビットのスラスターが間近で噴射され、焼けた空気が肌を焼く。アマテが顔を覆ったその時、熱風で瓦礫が宙を舞い、身体が吹き飛ばされそうになる。

 

「何やってんだ! お前ら! 死にたいのか!!」

 

 ナブが叫ぶ。だが声が掻き消されるほどの爆音。

 その刹那──

 

 白と青の機体が滑るように射線に割り込み、突っ込んできたビットを掴んでもう一機のビットを破壊。

 閃光と衝撃音が鼓膜を叩き、砕けた金属片が火花となって散る。

 そして、再び始まる取っ組み合い。

 赤い機体と白青の機体は、怒りに任せたような格闘戦で、建物に突っ込む。

 

 ──轟音。

 ──振動。

 ──そして、飛んできた赤いガンダムのシールド。

 

「っ……!!」

 

 反射よりも早く、フブキはアマテとニャアンを抱き寄せ、背を向けて庇うように覆いかぶさった。

 眼前に迫る巨大な赤い鉄塊。もう避けられない──と思ったその瞬間。

 

 風を裂く音と共に、シールドは寸前で停止した。

 いや、回収されたのだ。赤い機体の腕が、まるで引力に吸い寄せられるようにシールドを引き戻していた。

 

 そして──そこに立っていた。

 

 赤。深い紅。その装甲から漂う威圧感、そしてただならぬ気配。

 フブキたちの真正面に佇み、見下ろすその機体。

 

「赤い……ガンダム……」

 

 目の前には、赤いガンダム。その頭部センサーが、まるで感情を持つかのように、こちらをジッと捉えている。

 

 フブキの全身に、嫌な汗が伝う。

 

 ──赤い彗星。

 

 もう一機の白い方が煙幕を貼り、黄煙がコロニー内にゆっくりと広がっていく。

 赤いガンダムは一瞬上を見上げたかと思うと、白い機体が放った煙幕の中へと、するりとその姿を消した。

 

 ──静寂。

 戦闘の余波が空気の中に残る。振動、金属の焦げた匂い、そしてただならぬ緊張の残滓。

 

 数秒遅れて、軍警のザク部隊が到着した。地響きを立てて路地に進入してくると、周囲の難民が暮らすバラックや簡易住宅に構わず、躊躇なく踏みつぶしていく。

 

「……っ、酷い」

 

 アマテが絞り出すように呟いたその声は、怒りとも悲しみともつかない。

 その声に、横にいたアンキーは応えた。

 

「ジオンが戦争に勝ったって……スペースノイドは自由になれない。どこまで行っても、苦しいままだよ」

 

 彼女の目は、今まさに自分たちの生活を潰しているザクを見ていた。

 砕かれる壁、散る衣類、走り出す子どもたちの叫び。

 

 アマテはその言葉を聞きながら、ふとニャアンの横顔に目をやった。

 

 ──この子も、あの中の一人だ。

 

 誰からも守られずに、"生きる"ために、法に触れることも厭わず、それでも懸命に──それしか術がないから。

 

(……あたし、何にも知らなかった)

 

 学校に通い、毎日安全な場所で目覚めていた。

 フブキやロイドに守られていた。それが「普通」だと思っていた。

 でも目の前で、軍警が生活を踏みつぶしていく音が、それを打ち砕く。

 

「……どうして、こんなのおかしいよ……」

 

 フブキは黙ったまま、破壊される家々と、それを逃げ惑う人々をただ見つめていた。

 その手には、まださっきアマテを庇ったときの体温が残っていた。

 

……結局、変わってないんだな

 

 フブキの低く絞り出すような声は、誰に向けられたものでもなかった。

 それは過去に派遣といえど、自らが属していた軍警という存在、そして己の無力さへの深い自己嘲笑だった。

 

 視線を逸らすように地面を見つめ、彼はただ立ち尽くしていた。

 

 一方で、軍警のザクがこちらを向き始める。

 巨大なモノアイが、無機質な光を放ち、威圧感を与える。

 

 こちらを見られているかもしれないと気づいたアンキーは声を荒げる。

 

「まずい! ジェジー! ザクを隠せ!」

 

「はあ!? 隠せったって……っくそ!」

 

 ジェジーは苛立ちを込めながらも扉の向こうに消えていった。

 

「……戦わないの?」

 

 アマテの声は震えていた。

 軍警の暴力に何もせず逃げるこの場所の現実に、声を押し殺すように、けれど確かに問う。

 

「はぁ? 軍警とやり合うバカがいるか」

 

「そもそもデバイスが壊れてんだ! バトルできねぇんだよ! だから注文したんだろうが!」

 

 呆れるアンキーと怒鳴り返すナブの言葉に、アマテの体はビクリと震えた。

 

 それは恐怖ではなく、怒りと、どうしようもない無力感への反発だった。

 

「……っ」

 

 唇を噛んで、彼女はぐっと拳を握ると、くるりと背を向けて事務所の中へと走っていった。

 

「お、おい!? マチュ! どこに行く!」

 

 フブキが叫ぶが、彼女は振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

「今は使われていない整備用トンネル……一応気密はあるみたいだけど……これなら隠したことになるのかな……」

 

 白いモビルスーツ──ジークアクスのパイロットであるエグザベは、わずかに額を拭いながら、外壁に身を預けていた。

 この静かな空間でなら、しばし軍警からの追跡も躱せるし、機体も隠せる。そう思っていた──その瞬間までは。

 

「……っ!!」

 

 奥の方で、鋼の音が反響する。

 

 見れば、トンネル上部から隔壁を突き破って1機のザクが墜ちてくる。間を置かず、軍警のザクも降下してくる。

 

「っ嘘だろ!」

 

 軍警のザクのモノアイがこちらを捉えたその瞬間、トンネル内にザクからのオープンチャンネルの声が走った。

 

《おい!! ジオンがコソコソと何してんだ!》

 

 エグザベは両手をわざと誇張して広げるようにし、敵意のなさをジェスチャーで示す。

 

「ま、まあ待てよ! サイド6とはお仲間だろ!」

 

《さっきの白いやつのパイロットだな! モビルスーツから離れろ!!》

 

 怒鳴り声と同時に、マシンガンを構える動作。

 

(クソッ、まずい……! この状況でジークアクスが軍警に押収されたら、作戦自体が瓦解する……!)

 

「ま、まて! コイツに触るな!」

 

 焦燥の汗が伝うその刹那──崩れ倒れていたもう1機のザクが、突如スラスターを噴射して跳ね起きた。

 

《なっ! こ、こいつ!!》

 

 軍警のザクは完全に虚を突かれた。体勢を崩した軍警ザクが壁に激突し、マシンガンが滑り落ちる。

 

 そして、倒れていたザクのコクピットから、ひとりの少女が飛び出す。

 

「な、なんだ!」

 

 制服姿の少女。

 少女は機体外装を滑り落ちるように走り、ジークアクスのコックピットへと跳び乗った。

 

 彼女が乗った瞬間、ジークアクスが震える。

 

「う、嘘だろ……!?」

 

 パイロットである自分でさえ、起動出来なかった「オメガ・サイコミュ」。

 

 それが──今、見知らぬ少女によって起動され、ジークアクスが動いた。

 

 ゆっくりと、だが確かに、その機体は立ち上がり、フェイスガードのロックが外れ、展開されると、緑色の光を放つツインアイが姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 軍警のザクに追いかけられて宇宙に飛び出したら、何だか頭に光が走って……

 

(なに……これ……キラキラしてる……)

 

 まるで、水の中にいるみたいな──浮遊感と柔らかな光。

 意識が拡がっていくのを、アマテははっきりと感じていた。

 

 ほのかに香るのは、フブさんの匂い? お母さんの匂い? 温かさ、安心感が、この不思議な空間にも残っているような気がしている。

 

 閃光。

 

 突然、頭の中に何かが「流れ込んできた」。

 

 それは、誰かの記憶。

 

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

 

「なんでこんなものを地球に落とす!! これでは地球が寒くなり人が住めなくなる! 核の冬が来るぞ!」

 

「地球に住む者は自分たちのことしか考えていない! だから抹殺すると宣言した!」

 

「っ! 人が人に罰を与えるなどと!!」

 

「私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ! アムロ!!」

 

「エゴだよ、それは!」

 

「地球が持たん時が来ているのだ!」

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

 

 モビルスーツだろうか、互いに切り合い、戦いながらの言葉の応酬。誰かが、怒っている。誰かが、悲しんでいる。

 ぶつかり合う信念。世界を変えようとした意志。そして、それを否定する叫び。

 

 ──でも。

 

(なに……?)

 

 アマテにはその全てが、ただ悲しいものに感じられた。

 

 目の前に広がる光の空間。断片的な記憶と記録が流れ込む。

 

 ……言い争ってる……誰かが、何かに必死で……でも……どうして……こんなに、苦しいの……

 

 両手を胸元に当てると、心臓が強く打つ。まるで、それが“共鳴”しているかのように。

 

 アマテの目の前には、二つの影が立っていた──

 

 そして──全てが光に包まれ──目を開けると、そこにはキラキラとした空間はもうなかった。

 

 静かで、どこまでも暗い宇宙が広がっている。

 無重力の浮遊感と、どこか乾いたエラー音が耳を打つ。

 

「……ここ、モビルスーツの中……」

 

 手のひらのような形をした、少し不気味な操縦桿。

 この形、似ている。一度だけ触れたことのある、フブさんの機体、タナトスの物と似ていた。

 

(よくわかんないけど……なんか、わかった気がする)

 

 目を細め、アマテは操縦桿にそっと手を伸ばす。そして頭の中でひとつの映像を強く思い描いた。

 

 ──追ってきた軍警のザク。

 

 威圧的な姿。無差別な破壊。人々の家を壊した、悪い存在。

 

(やっつけなきゃ──)

 

 その瞬間、機体が静かに唸るように駆動音を変える。

 

 エラー音はぴたりと止み、ディスプレイは落ち着きを取り戻し、デブリや脅威になるものが浮かび上がる。

 

 追ってきた軍警のザクが、マシンガンを構える。

 宇宙の無音の中、火花が走り、弾が高速でアマテの機体に向かって放たれる。

 

 しかし。

 

 アマテは目を細めると、操縦桿を撫でるように操作する。

 

「──そこ」

 

 機体が滑るように“思った方向に動いた”。

 

 弾丸は空を切り、ジークアクスは一気に接近する。拾ったヒートホークを構える。

 

 ザクの反応が一瞬遅れた。

 

 次の瞬間──紫電が走るように、ヒートホークの刃がザクの頭部を一閃する。モノアイがスパークを発し、機体がゆっくりと仰け反って崩れ落ちていく。

 

 アマテは息を切らすでもなく、操縦桿に手を置いたまま、ぽつりと呟いた。

 

「……やれた、んだ」

 

 手は震えている。でも、心はなぜか不思議なほど冷静だった。

 

 あの赤いガンダムのこと。フブキのこと。そして、さっき見た“悲しい記憶”のこと。

 

 いろんな感情が渦巻いていた。

 

 それでも──

 

「今、私は……やれたんだ」

 

 そう、アマテは静かに確信していた。

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 格納庫に響く金属の軋みと、微かな電子音。

 そこに白く巨大な機体が機材に囲まれて静かに鎮座していた。

 

 そのコックピットが開き、ゆっくりと出てきたのは、制服姿の少女──アマテだった。

 彼女はコックピットから出ると、周囲を見回し、すぐにある人物の姿を見つける。

 

「フブさん──!」

 

 次の瞬間、アマテはまるで抱きつくようにその胸に飛び込んだ。

 驚くフブキ。だがそれ以上に、彼はアマテの行動に対して明確な怒りを露わにした。

 

「──マチュ! お前、コイツに乗ったのか!?」

 

 彼の声には、今までにない切迫感が滲んでいた。

 しかし、アマテは何も言わない。何も答えず、ただ強く、離れずに彼に抱きついている。

 

「……? マチュ? ど、どこか怪我したのか!?」

 

 戸惑うフブキ。だがアマテは、彼の胸元に顔を埋めたまま、小さく首を振った。

 

 ──あの空間。

 

 あの"キラキラ"した空間で見た、2人の対立。互いに理を説きながらも、分かり合えなかった争い。なのに、どこかフブキさんに似ていた。

 他者のために怒り、悲しみ、そして自分を後回しにしている──そんな姿が。

 

 言葉にはできない。けれど、アマテは確かに“何か”を見ていた。

 彼女はただ、その温もりにすがるように抱きついていた。

 

 一方その背後では、アンキーたちジャンク屋の3人が、機体の解析に取り掛かっていた。

 

「……何なんだコイツ……歯があるぞ。ケーン、何か分かったか?」

 

「うーん……セキュリティ自体は、そこまで強くないんだけど。あ、これかな。……いや、違うか……なんかギミックがありそうなんすけど」

 

 ケーンはパソコン端末を指先で走らせながら呟き、ナブがパソコンを覗き込み、モニターに表示されている機体の情報を見る。

 

「“GQ”……? なんて読むんだ、コイツ……」

 

「ジー、クアクスかな? プログラム上のプレースホルダーっぽいから、本当の名前は別にあるんだろうけど……」

 

 そう言ったケーンの手が止まる。次の瞬間──警告音が響いた。

 

「うおっと、これ以上やったら自爆プログラムに触るかも……!」

 

 ナブはすぐに声を荒げた。

 

「アンキー! こんな換金もできない厄ネタ、持ってるだけでリスクだ! さっさと処分すべきだ!」

 

 だが、アンキーは応じない。彼女はコックピットの内部をしばらく物色した後、ふいにアマテたちの方を見た。

 

 未だフブキに抱きついたままのアマテを見て、一言。

 

「……よく動かせたね、嬢ちゃん」

 

 その言葉に、アマテはようやく顔を上げた。

 

「……なんか、考えたら思った通りに、動いてくれた」

 

 その言葉に、呆れたような声が返る。

 

「はぁ……? ジェジーにだって動かせないんだぞ? 何でお前が」

 

 ナブの言葉には、軽蔑というより、本気の混乱と驚愕が混ざっていた。

 

 ジークアクス。白き機体は沈黙したまま、その巨大な躯体を揺らぎもしない。フブキは機体を見ながらアマテを抱きしめるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。