機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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「 雪火/雪音」さん脱字報告ありがとうございました!
お気に入り登録も1000件突破!ついに一つの峠を越えましたね!本当に感謝です!
何故かアクセス数が増大して疑問に感じていたところ、ありがたいことに日間ランキングでも7位を記録しました!
やっぱり皆さんガンダム好きなんですなぁ。


一つの賭け

 

 

 教室の窓から射す朝の光が、机に突っ伏すアマテの髪に柔らかく差し込んでいた。

 隣の席では数人の生徒が雑談を交わしており、前の方では教師が黒板に板書をしている。

 しかし、彼女の意識は今、この教室にはなかった。

 

(……なんで、こんなにも昨日のことが、頭から離れないんだろ……)

 

 アマテは腕を枕代わりにしながら、昨晩の光景を反芻するように思い出す。

 

 ジークアクスと呼ばれた、あの白いモビルスーツ。それはただの兵器じゃなかった。まるで呼応するように、彼女の想いに応え、動いた。

 

 そして──

 

「お嬢ちゃん、あんたクランバトルやらない?」

 

 アンキーと名乗った女の言葉が脳裏をよぎる。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 突然の申し出に、アマテは思わず声を漏らしていた。

 だがそのすぐ後に、別の、もっと大きな声が飛び込んできた。

 

「……なにを言っている……?」

 

 それはフブキの声。低く、鋭く、まるで彼らしくないほど怒気を孕んでいた。

 

「このモビルスーツに初めて乗って軍警を退けるその実力、あたしは買ってるんだよ?」

 

 アンキーは軽く言った。

 だが、それはフブキに火をつけるには十分すぎる言葉だった。

 

「……ふざけるな……!」

 

 その一言に込められた怒りと、苛立ちと、そして──焦燥。

 

「まだアマテは子供なんだぞ!! 子供を、大人の身勝手で戦いに巻き込むな!!」

 

 怒鳴るフブキの声は、普段の彼からは想像もできないほど大きくて、強かった。そして次の瞬間、手を掴まれたかと思うと──

 

「マチュ! 帰るぞ!」

 

「い、いた! 痛いよ! フブさん!」

 

 思わず抗議の声を上げたが、その背中には一分の迷いもなかった。

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 ──あんなフブさん、初めて見た。

 

 思い出しただけで、アマテの頬が微かに熱を帯びる。何も言わずに自分を引っ張っていった手の強さ。誰よりも自分を守ろうとしてくれた気持ち。

 

(ちょっと……よかった)

 

 ぽつりと、心の中でそう呟く。だが──

 

(……でもなぁ……)

 

 彼女の心には、もう一つの感情がくすぶっていた。

 あの時、確かに怖かった。だけど、それ以上に、“あの感覚”を忘れられなかった。

 

 自分の意志が機体に伝わり、それが動いた瞬間。目の前の危機を乗り越えた時、ただ怖いだけじゃなかった。

 

 ──フブキさんのように、自分が誰かを守れたという確かな手応え。

 それが今、胸の奥で小さな火のように燻っている。

 

(……あのキラキラ……)

 

 白と赤のモビルスーツが宙を舞い、火花を散らし、やがて溶け込むように消えていった、あの光の世界。

 緑に包まれた暖かい空間に、知らない記憶が流れ込んできた。

 それは──戦い、祈り、叫び、そして、誰かの願い。

 

(もう一度……ジークアクスに乗れば、あれが見られるかもしれない……でも、フブさん……)

 

 アマテは少しだけ俯く。フブキの、あの激しい怒り。自分を守ろうとした、真っ直ぐな手。だからこそ、その想いに背くような行動は、罪悪感に繋がる。

 

「赤いモビルスーツ……あれ、ガンダムって……」

 

 ふと、胸の内に浮かんだ疑問が指先を動かす。スマホを取り出し、「ガンダム」と検索をかける。

 

 画面に浮かぶ文字。

 

 RX-78 ガンダムはジオン独立戦争時に地球連邦軍によって開発された戦闘用モビルスーツ。戦争中期にジオン公国軍より鹵獲、運用され「赤いガンダム」の通称で大きな戦果を上げた。

 ガンダムはジオン公国軍のモビルスーツであるという認識が一般的であるが、元は地球連邦軍が開発したモビルスーツであり──

 ──ジオン独立戦争でガンダムに撃墜された戦闘艦は10以上、モビルスーツは60機以上とされ、搭乗者であった"シャア・アズナブル"大佐は「赤い彗星」の異名で恐れられた

 

「これが……ガンダム……」

 

 そして──

 

「乗っていたのは……赤い彗星の、シャア……?」

 

 スクロールした先に表示された写真。異様な形のマスク、どこか不気味なまでの気品。

 

「変なマスク。…………はっ!」

 

 その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。──電流のような閃光。

 昨日見た景色が、再び脳内に押し寄せてくる。

 

 白と赤の激突。橋の下で見つけた、誰も気に留めなかった落書き。

 

(……あれ……あの模様……)

 

 ザラついたコンクリートに描かれたアート。

 一瞬だけ目に入ったあの落書きは、あのキラキラした緑の光と重なる気がした。

 

(まさか……偶然? いや、違う。きっと、何かある……!)

 

 そんな彼女の様子に、隣の席の同級生が声をかける。

 

「アマテ〜? 進路希望の紙もう出した? ……あり? どしたの? お〜い、アマテ〜?」

 

 アマテはピクリと肩を動かすと、まるで何かに取り憑かれたように立ち上がった。

 

「……ごめん! 私、早退する!」

 

 教室を飛び出し、廊下を駆けるアマテの背に、慌てた声が追いかける。

 

「ちょっ! アマテ!? カバン! カバン忘れてるって〜!」

 

 彼女は振り返らなかった。

 今はただ、昨日の場所へ戻らなければならない。

 自分が見たもの、自分の中に響いたもの。それが何だったのかを確かめるために。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 アマテは必死に駆けていた。放課後の街はざわついていたが、彼女にとってはどうでもよかった。ただ、確かめたかったのだ。自分が見たものが、幻ではなかったと。

 

 ──橋の下。昨日、フブキとニャアンと歩いた道の途中。

 

「はぁ……っ、はぁ……あった……!」

 

 壁に描かれた落書きは、昨日と同じ場所に、変わらず存在していた。

 しかし今、その絵は昨日よりも鮮やかに感じた。

 キラキラと幾重にも重なり合う光の粒子。緑、青、紫……無数の色が滲み、揺れながら、まるであの空間を模しているかのよう。

 

 ──あの時、ジークアクスに乗った瞬間に広がった、不思議な“内なる宇宙”。

 

 アマテは息を整えながら、その絵に指を伸ばした。触れれば、またあの感覚が甦るような──

 

「すん……すん……」

 

 突如として、背後から聞こえる不審な嗅ぐ音。

 

「っ!?」

 

 反射的に身体が動いた。腰を落とし、肘を振り抜く。

 

「ぐほっ!」

 

 見事にヒットしたその人物は、背後に倒れ込んだ。驚いてアマテが身を乗り出すと、そこには青い髪の少年が転がっていた。

 

 服はくたびれ、頬にかすれた塗料。どこか浮浪者のような雰囲気だが、目だけが不思議に澄んでいた。

 

「な、なにアンタ……!」

 

 アマテの警戒心が剥き出しになる。

 

 だがその少年は、お腹を押さえながら静かに言葉を紡いだ。

 

「……うっ、うう……君も、“向こう側”見えた?」

 

「……は? な、なにそれ……」

 

 聞き返したアマテの中に、一瞬だけ冷たい風が吹いた気がした。

 ──向こう側。

 その言葉が、昨日自分が見たあの“光”と“争い”の情景と繋がった気がして、背筋にぞわりと電流が走る。

 

「それ……ジークアクスで見た世界のこと……?」

 

 アマテは無意識に口にしていた。

 

 少年は、起き上がりつつ、壁に描かれた光のアートを見つめながら呟いた。

 

「僕は、シュウジ」

 

 その声音は静かで、どこか現実感の薄い、不思議な響きを纏っていた。

 アマテは一瞬躊躇いながらも、応じるように名乗る。

 

「……私、アマテ。ねぇ、アンタ──」

 

 そう問いかけようとした瞬間、シュウジは腰に下げていたカラースプレーの缶を手に取ると、カシャカシャと音を立てて振り始めた。そして何の前触れもなく、アートの上に新たな線を描き加え始めた。

 

 描かれたのは、赤い光の隣に重なるような白と緑の軌跡。

 アマテは、はっとして目を見開く。

 

(……これ……間違いない。昨日、ジークアクスに乗ったときに見た、あの“キラキラ”と全く同じ……!)

 

 何かを知っている──確信に近い直感がアマテの胸を刺した。

 

「ねぇ!」

 

 一歩踏み出そうとした瞬間、チリン、チリンと軽やかなベルの音が辺りに響いた。

 アマテが振り返ると、一台の自転車が止まり、その後ろには見慣れた小さな姿があった。

 

「コンニチハオイソギデスカ……」

 

 無表情で機械的に合言葉を口にしたのは──ニャアンだった。

 

 アマテは目を見開き、思わず叫ぶ。

 

「ニャ、ニャアン!? 昨日どこ行ってたのよ!」

 

 ニャアンは慌てたように自転車から降り、手をバタつかせながら釈明する。

 

「マ、マチュ!? その、昨日は……フブキさんが逃がしてくれて……」

 

 その名が出た瞬間、アマテの表情が曇る。

 

(……フブさん……)

 

 噛み締めるように、アマテの奥歯が音もなく軋む。

 

(──あの人が? なんでよ……私だって、あの時……)

 

 静かな怒りと、自責にも似た感情がアマテの中で渦を巻いていく。

 

 シュウジは壁に最後のひと塗りを加えると、カラースプレーの缶を無造作に腰へと収めた。そして振り返りざま、唐突に口を開いた。

 

「ベツニイソイデイマセンヨ」

 

 その抑揚のない機械的な口調に、ニャアンは眉をひそめながらも応じる。

 

「……本当にアンタが? 5000ハイトも払えるの?」

 

 まるで商談の続きを始めるかのように、ニャアンはアマテを差し置いてシュウジと会話を交わし始めた。

 

 その様子にアマテは唖然とし、眉を吊り上げながら一歩踏み出す。

 

「ちょっと! 私が先に話してたんだけど!? 割り込まないでよ!」

 

 声を荒げながら身を乗り出したアマテの肩が、背後にいたシュウジの身体に不意にぶつかる。

 

 ──チャリン……ポチャン。

 

「「「あ」」」

 

 三人の声が重なった。橋の下の浅い川面へ、金色の硬貨が落ちてゆく。

 シュウジはしばらく川を見つめたまま、ゆっくりと呟いた。

 

「……僕、お金もうない」

 

 そして、頭の上の橙色の機械がピコピコッと鳴きながら小さなアームを左右に振った。

 

「……コンチ、どうしよう……全財産だったのに……」

 

 アマテとニャアンは、その呆然とした表情のままのシュウジを見つめていた。

 

「え? お金……ないの?」

 

 呟いたアマテの言葉に、ニャアンは目を見開く。

 

「──っ! あれが全財産って!? じゃあ取引はどうすんのよ!!」

 

 怒りとも困惑ともつかぬ声をあげるニャアン。その声に呼応するように、「ぐぅ〜……」と橋の下に間の抜けた音が響いた。

 

 その音の主は、他でもないシュウジだった。

 

「お腹……減った……」

 

 そう小さく呟いた少年は、先ほどまでの不思議な雰囲気をどこかに置いてきたかのように、しょんぼりと肩を落としていた。

 

 頭の上のコンチも、ピコピコと光を弱めながら、アームをしおしおと下げていた。

 

 アマテは少しの沈黙ののち、視線を泳がせながら口を開いた。

 

「ご、ごめん。えっと……シュウジ」

 

 さっき硬貨を落としたこと、その反射的な怒り──すべてを詫びるように、静かな声だった。

 

 しかし、アマテの脳裏には別のことが渦巻いていた。

 

 ──昨日、アンキーが言っていた「クランバトル」。ジークアクスを解析していた金髪の青年が言っていた「賞金は山分け」と言う言葉。

 

 ロイドさんやフブさんが言っていた。クランバトルとは、モビルスーツ同士の戦闘による非合法の賭け試合。

 そこに、シュウジを巻き込んでいいのかどうか──ほんの一瞬、迷いが過った。だが。

 

(……勝てば、シュウジのお金くらいは取り戻せる──かも? 私が原因で、なくなっちゃったんだし)

 

 アマテは顔を上げ、静かに、そしてはっきりと言った。

 

「ねぇ、シュウジ。私と──クランバトルに出ない?」

 

 シュウジは目を瞬かせながら、困ったように答える。

 

「でも、デバイス……この間壊れたし……」

 

 それを聞いたアマテはすぐに、ニャアンの方へ視線を向けた。

 

 ニャアンはその意図に気づいたのか、慌てて自分の腕に抱えていた紙袋──デバイスが入っている袋を抱きしめ、警戒するように身を引いた。

 

「ニャアン」

 

 名前を呼ばれると、ビクッと肩を揺らしながら叫ぶ。

 

「む、無理無理っ! そもそも勝てるかどうかすら分からないんだし!」

 

 それでもアマテは一歩も退かず、強い眼差しを向けて言い切る。

 

「勝つよ。私は絶対勝つ。それに──スマホ、弁償してもらってないし。……お金、欲しいでしょ?」

 

 ニャアンは唇を噛むように黙り込み、内心で思考を巡らせていた。

 

(無理無理無理……! 明らかにコイツは素人! クランバトルなんてできるわけがない! それに、あっちの男は……貧乏そうだったし、まともなモビルスーツを持ってるとも思えない。どのみち勝てないし、リスクが……)

 

 考えがまとまりきらないその瞬間──

 

 すん……すん……

 

「ひゃっ!?」

 

 ニャアンは突如、首筋を嗅がれた感触に飛び跳ね、思わずアマテたちから距離を取った。

 

 驚きに目を丸くするニャアンとは対照的に、シュウジはどこ吹く風といった様子で淡々としていた。

 

 アマテは呆れ混じりの声で彼に注意を向ける。

 

「ねぇ、シュウジ……人の匂い嗅ぐのって……よくないよ」

 

「そうなの? あんまり気にした事なかった……」

 

 それに対してシュウジはどこか申し訳なさそうに、しかしどこか天然めいた表情で静かに答えた。彼の「感覚」は普通とは少し違うようだ。

 

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