機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
もう最近は暑すぎて大変です…もうアクシズ落としたいくらいです…
多く人に評価して頂き、大変感謝しております。
今後ともよろしくお願いします。
シュウジは、まるで何かに導かれるように無言で歩き出した。
目指すは、道路脇にひっそりと存在していた古びたマンホールの蓋。
彼は迷いもなくそれを開け、下へと続く闇の穴を見つめたのち、静かに口を開く。
「──着いてきて」
その一言に続いて、彼の頭に乗っているコンチも小さく「ピコピコ」と音を鳴らしながら、小さなアームで手招きをするような仕草を見せる。
アマテとニャアンは顔を見合わせたが、すぐにその後を追って地下道へと足を踏み入れた。
階段を下ると、そこには生活排水が流れる狭いトンネルが伸びており、かすかに鼻を突くような異臭が漂っていた。
完全な闇の中、唯一の明かりはコンチの額から発せられる小さなライトだった。
アマテは自身のスマホを取り出し、ライトを点けて足元を照らしながらシュウジの背中を追う。沈黙の中、ぽつりと声を漏らした。
「ねぇ、ニャアン。この先……何があるのかな。シュウジ、何も言わないし」
ニャアンはやや不安げに眉をひそめた。
「わ、私に聞かないでよ……わかんないよ……」
そのまま数分ほど歩いただろうか。やがてトンネルの先に、微かに暖色の灯りが滲む重厚な金属の扉が見えてきた。
シュウジはその前に立ち止まり、錆びた取っ手に手を掛け、ゆっくりと扉を押し開く。
ギィィ……
鈍い音とともに開かれた扉の先は、ほとんど廃墟のような薄暗い空間だった。しかしその部屋の奥に、2人は見覚えのある“影”を見つける。
それは昨日──コロニーの中で凄まじい戦いを繰り広げていた機体。
赤く、そして威圧的なその機体は、今は静かに両膝をつき、両手を地に伏せたような姿勢で佇んでいた。
「……こ、これ……昨日の……」
ニャアンが息を呑みながら呟くと、シュウジは部屋の奥からゆっくりと振り返った。
そして、ただ一言。
「──戦え、とガンダムが言っている」
静寂に包まれた部屋の中、シュウジの言葉はまるで預言のように響いた。
彼の背後にある「赤いガンダム」は、光の差さない地下室でなお、異様なまでの存在感と重圧を放っていた。
──
「……フブキさん、今少しお時間よろしいですか?」
画面に集中していたフブキは一度手を止め、ロイドを見て短く応じた。
「どうした」
「前回の件ですよ。アマテさんがいらっしゃったため中断した、例の──“タナトス”の改修案です」
「……ああ。あれか」
フブキが頷くと、ロイドは向かいの席に腰を下ろし、手に持っていたタブレットを回転させて差し出す。その画面には、改修後とおぼしきタナトスのフレーム構造とデバイス接続図が表示されていた。
「入手そのものはスムーズでした。本体と同じくアナハイムでしたし、管理も甘かったようです。ただ……物が物ですから、タナトス本体との調整は不可避です」
「やはり、そうなるか……」
フブキは肩を落とすでもなく、ただ端末を見つめながら小さく呟いた。
「ええ。しばらくタナトスは使えませんが、ザクがありますから。予備として保管しておいたのが功を奏しました。……シーマ、いえ、“ジェーン”との次のクランバトルには、そちらでの出撃をお願いします。こちらで改修作業を急ぎますが、なにぶん双方とも由来不明の技術群ですから」
フブキは、やや乾いた笑みを浮かべた。
「……よくよく考えると、訳のわからないブツを、訳の分からない機体に載せて戦わせる。しかも、それが普通に感じる自分にも嫌気が差すな」
「──人間は進化するものですよ。貴方にとってはそれが普通と感じるように進化したという事でしょう。フブキさん」
ロイドの声には、軍を離れて久しい者ならではの達観と、どこか父性にも近い温もりが混ざっていた。しかしそんな中、メンテナンス作業員の1人が、作業中にも関わらず声を上げる。
「ロイドさん! フブキさん! ちょっと見てくださいよ!」
作業員が持っていたタブレット端末の画面には、現在進行中のクランバトルのライブ映像が映し出されていた。ロイドは眉をひそめる。
「……? 今日、クランバトルの予定など入っていましたか?」
フブキは一瞥をくれるだけだったが、次の瞬間──目を見開いた。
「……っ!? それは……!」
画面に映し出されていたのは、昨日コロニー内に現れた、白いモビルスーツ「ジークアクス」だった。
「ジ、ジークアクス……!? なぜ……誰が乗っている!!」
「これが……話に聞いた機体ですか」
ロイドが冷静に画面を操作する。エントリー情報が表示され、そこには明確に《Machu》と文字が表示されていた。
「……まずは落ち着いてください、フブキさん。どうやら“ポメラニアンズ”というクランのようです。……確かランキング下位の弱小クランだったはず……」
その名を聞いた瞬間、フブキの記憶に昨日の出来事が焼き戻る。──犬を抱いた、あのメガネの男。
「ジェジー」──そう名乗っていた。あの男が、抱えていた犬は確か……
「……っアイツら……!」
タブレットに映る映像。ジークアクスのすぐ隣には、あの“赤いガンダム”がいた。
「……マチュ……なんでお前が、そこにいる……!」
──赤いガンダム。鎖付きのハンマーを構え、ジークアクスと呼吸を合わせるように動く機体。
映像の中では、アマテの操るジークアクスと赤いガンダムが、驚異的な連携を見せていた。
バトル序盤、敵の遠距離攻撃に対し苦戦を強いられながらも、両機は一切の言葉を交わさずに戦術を合わせ、勝利をもぎ取った。
作業員たちはその鮮やかさに興奮気味に声を上げている。
「すげぇ連携……あの白いの、前に出て囮になって……ガンダムが裏から一撃かよ……!」
「ランキング下位とは思えない……!」
だが、フブキはその光景に「勝利」の歓声を返すことができなかった。
(なぜだ……昨日、あれほど言っただろうに……! しかも──なぜ“あれ”とMAVを組んでいる)
赤いガンダム──あの機体が持つ特異な存在感。──彼女は、それに魅入られてしまったのかもしれない……。
フブキは、自らの胸中に芽生える焦燥と不安を、言葉にできず、ただ端末を見つめるしかなかった。
──
クランバトルが終わり帰宅すると、アマテは自室の床に手をつき、逆立ちの体勢でスマートフォンの画面を見つめていた。
この姿勢は、彼女にとってのルーティンのようなもの。
床と平行になった逆さの視界。スマホに表示されているのは、つい先ほど送信したメッセージのログ──
その返信を、彼女は静かに、しかしわずかに胸の奥をざわつかせながら待っていた。
──ブッ、という短い振動。
指先で即座に画面をタップすると、通知が一件。
そこに表示されていたのは、たった一行の、簡素な文章だった。
──明日、話がある──
画面を見つめるアマテの表情に、微かな苦笑が浮かぶ。
「……今日のクランバトルのこと、だろうなぁ……」
分かっていた。怒られるかもしれないことも、驚かれることも──全部。
けれど、黙ってはいられなかった。自分がやった事の責任を取る。その為に自分が踏み出した一歩。──アマテは、覚悟を決めていた。
逆立ちの姿勢をほどくと、ベッドに潜り込み、スマホの画面を伏せる。
「……でも、ちゃんと言わなきゃ」
毛布をかぶり、静かに目を閉じた。
部屋は夜の静けさに包まれ、彼女の呼吸だけが、規則正しく響いていた。
──明日へ向かう、静かな決意とともに。
──
静寂な室内に、電子機器の微かな駆動音だけが響いていた。
アマテは小さく息を飲みながら、目前に座るフブキの視線を受けていた。彼の目は、いつものように穏やかではなかった。感情を抑えてはいるが、そこには確かな怒りと、何より深い憂いが宿っていた。
「──なんで呼ばれたか、分かってるよな? アマテ」
フブキの問いかけに、アマテは視線を逸らすことしかできなかった。
それ以上、何も言わず、ただじっと黙っていた。
フブキは静かにタブレット端末を手に取り、画面をアマテに向ける。
「これ……昨日のクランバトルの映像だ。白い機体──ジークアクスだったな。それに…表示されたエントリーネーム……」
画面の中、ジークアクスが力強く駆け、敵と渡り合う様が映し出されている。
そしてエントリー名には、はっきりと──“Machu”の文字。
「これ……お前だろ」
アマテは小さく、しかし確かな声で頷いた。
「……うん」
しばしの沈黙。フブキは深く息をつくと、声を落として言った。
「……なんでだ」
アマテの喉が、ごくりと鳴る。けれど何も答えられなかった。
「……前言ったはずだ。モビルスーツに乗るってことは、殺す覚悟と──死ぬ覚悟を持たなきゃいけないって」
その声には怒りはない。ただ、静かに、沈むような悲しみが滲んでいた。
その静けさこそが、アマテの胸を強く締めつけた。
失望しただろうか……
自分を最も見守ってくれていた人が、そう思っているかもしれないという恐れが、身体を鈍く痛ませる。
「──マチュ」
不意に、フブキの声が柔らかくなった。アマテは反射的に顔を上げる。
「……な、なに……?」
フブキは、タブレットを伏せ、ふぅと静かに息を吐くと──
「……無事で良かった」
その言葉は、怒りでも、咎めでもなかった。
それは、ただ一人の少女を心から案じる、大人の祈りのような声だった。
アマテは、知らず目元が滲んでいた。俯いて唇を噛む。
「……なんで……?」
小さな声だった。
アマテは、目を逸らしながら問いかけた。けれど、その震える声音には、戸惑いと罪悪感、そしてどこか救いを求めるような響きがあった。
フブキはしばし沈黙した後、静かに口を開いた。
「……お前とは長い付き合いだからな。お前が何も考えずにこんなことをするような子じゃないってことくらい、俺にも分かる」
彼の声は穏やかで、しかしその内にどこか痛みを滲ませていた。
「……何があったんだ?」
その言葉に、アマテの中で堰き止めていた感情が揺れる。
「っ……実は……」
少し詰まりながら、アマテは昨日の出来事を語り出した。
川に落としてしまったコイン。シュウジが持っていた、たったひとつの全財産。
ニャアンの取引を結果的に邪魔してしまったこと。そして──自分がその責任を負いたいと願ったこと。
話し終える頃には、アマテの声は掠れていた。
フブキは一度だけ深く息を吐くと、呆れたように目を閉じて小さく頭を振った。
「……なるほどな。つまりお前は、自分のしでかしたことを──自分で処理しようとして、昨日のジャンク屋どもの話に乗ったってわけか」
そして、ぽつりと付け加える。
「……はぁ、まったく……」
アマテは思わず身を縮めた。
「……怒ってる?」
恐る恐る尋ねるアマテに、フブキは少しだけ間を置いた後、真っ直ぐに彼女の瞳を見た。
「……当たり前だろ」
その一言には、怒りというよりも、情けなさと心配の念が詰まっていた。
だがその直後、フブキはふっと力を抜いて、椅子の背にもたれた。
「……まあ、とにかく理由が分かってよかったよ」
「……ごめん……」
アマテの言葉に、フブキは俯く赤い髪をクシャクシャと撫でながら言葉を続ける。
「お前はまだ子供なんだ。……少しは、頼るってことを覚えろ。何でもかんでも一人で抱え込むな」
その声は静かで、どこまでも優しかった。
責めるでもなく、否定するでもなく、ただ導こうとするような、柔らかな叱責だった。
アマテは唇を噛みしめ、目の奥に熱を感じながら、ようやく小さく頷いた。
「ん? そういやアマテ、賞金はどうした。昨日勝ったんだろう?」
アマテは一瞬はっとして、小さく頷いた。
「昨日は遅くなっちゃって……ニャアンにしか渡せてないの…今日、シュウジに渡すつもり」
「シュウジ?」
フブキの声色がわずかに変わる。
「……そいつが、お前のMAVだった赤いガンダムの──?」
「う、うん……」
フブキは無表情のまま少し目を細める。
(シュウジ……? シャアが名を変えた? いや、アレだけ目立つ容姿は世間に割れている。つまりは全くの別人。だとして、なぜ“赤いガンダム”がその手に? シャアが手放した? だが、あの機体の所属は今もジオンのはずだろうに)
フブキの思考の一端は顔に出さず、静かに言葉を繋いだ。
「──よし、じゃあ賞金の受け渡し、俺も行こう」
「えっ、ほんと? ……あ、でもその前にちょっと買い物していい?」
「買い物?」
「うん。シュウジ、昨日ずっと“お腹減った”って言ってて……ちゃんとお礼したいなって」
その一言に、フブキは眉をひそめた。
「……一緒に戦った仲間が腹減ってんのに、1日放置か……」
「う……」
アマテは肩をすくめ、少し居心地悪そうに笑った。
「……反省してます」
「まったく……」
フブキは小さく息を吐いて立ち上がる。
「行くぞ。赤いガンダムのパイロットが餓死する前にな」
「──うん」
アマテはその後ろ姿に、少しだけ安心したように微笑みながら頷いた。