機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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鬼神の教え

 

 

 

「マチュ、難しいか?」

 

 フブキは腕を組み、モニター越しにシミュレーターで悪戦苦闘するアマテに声を掛ける。

 

《っ! 動きが重いぃっ!》

 

 アマテはシミュレーターの中で必死に操作し、悲鳴のような声を上げる。フブキは微かに口元を緩めながら、優しく指示を出した。

 

「ふっ、無理に大きく動こうとするからだ。最小限の動きで避ければ、機体への負荷も最小限になる」

 

 その様子をロイドは楽しげに眺めつつ、隣のフブキへ小さく問いかけた。

 

「フブキさん、いきなりどうしたんです? アマテさんがモビルスーツに乗ること、反対してたんじゃないんですか?」

 

 フブキは少しだけ間を開け、複雑そうに微笑んで答えた。

 

「……今でも認めてないさ。でも、あの子が自分で自分のケツを拭こうとしているのなら、後押ししてやらなきゃいけないと思っただけだ」

 

 ロイドはその言葉を聞いて、穏やかに微笑み返した。

 

「ふふ、変わりましたね、フブキさん」

 

 フブキはそれに対し軽く肩をすくめて苦笑する。

 

「さあ、どうだか……」

 

 ロイドは笑みを浮かべたまま、モニターの中で懸命に操縦するアマテを見つめるフブキの横顔を眺めていた。

 

「マチュ、落ち着け」

 

 フブキの低く響く声が、シミュレーションルームに反響する。

 

「今は所詮シミュレーターだが、実戦──クラバでは宇宙空間で武器を所持した奴が相手だ。機体の挙動ひとつでGが発生し、それがそのままお前の体に襲いかかる。現実は、お前の悲鳴に構ってる暇なんてない」

 

 フブキの視線は鋭く、だがどこかアマテへの信頼も感じさせている。

 

「──感覚を研ぎ澄ませろ。全方位を“知覚する”ようなイメージで操縦しろ」

 

《そ、そんなこと言ったってっ!!》

 

 アマテは涙目で叫びながら、シミュレーター内のコクピットで必死にザクを動かす。だが、訓練用AIとして登録されているのはデータ化された“フブキの黒いザク”。的確に、無駄なく、容赦もない動きで、またもアマテのザクを撃墜する。

 

《も〜おぉ! また負けたぁ!!》

 

 モニターを見ながら肩を落とすアマテに、ロイドが揶揄うような口調で告げる。

 

「ふふ。フブキさんがリアルで乗るならともかく、あれはデータ上の再現ですからね。手加減なしです」

 

《ロイドさぁん!! もうちょっと……こう、初心者向けの相手とか用意してよぉ! フブさん相手に勝てるわけないじゃん!》

 

「甘えるな、マチュ」

 

 フブキは淡々と言い放つ。

 

「俺ぐらい倒せなければ、クランバトルなんてやれるか。お前は、シュウジ君のために戦うんだろ? ──なら、歯を食いしばれ」

 

《っ! お、鬼! 悪魔! え〜っと…… 朴念仁!!》

 

 両手で頭を抱えて叫ぶアマテ。だが、それすらもフブキは見透かしている。

 

「……ふっ。そんなに言える余裕があるなら、まだいけるな?」

 

《ま、待って! 待ってってば! ごめん! ごめんってばあああ!!》

 

 悲鳴を上げるアマテの声が、再起動されたシミュレーターの作動音にかき消されていく。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 室内の空気には薄暗くも張り詰めた緊張が漂っていた。ソドン艦内の一室、壁面に固定されたモニターには、先ほど終了したばかりのクランバトルの映像がループ再生されている。部屋にはシャリア・ブルとコモリ、二人きりだ。

 

「これで4勝目……負けなしです」

 

 コモリが手元の端末を操作しながら、静かに報告する。彼女の眼差しは真剣だ。

 

「ふむ。素晴らしいですね」

 

 そう応じたシャリアは、椅子にもたれかかりながら、優雅に指を組んでいた。だが、眼だけは、モニターの中の“ジークアクス”を見逃さなかった。

 

「このパイロット──完全にガンダム・クァックスを使いこなしている。それに、以前と比べて動きが洗練されています。赤いガンダムとMAVを組む。単なる偶然なのか……それとも……まあ何にせよ、あれは“戦い慣れた者”の動き方です」

 

「……ポメラニアンズとかいうクランについては、裏ルートを通じて調査を続けていますが、正直なところ、めぼしい情報は得られていません」

 

「ふむ、そうですか。しかしまあ──」

 

 シャリアの視線がわずかに鋭くなる。

 

「赤いガンダムは、依然としてガンダム・クァックスのMAVをしている……もし同時に2機、確保できるのならば、好都合ですよ。コモリ少尉」

 

 その言葉に、コモリは一瞬言葉を詰まらせた。

 

「……しかし! サイコミュ同士の共振が“ゼクノヴァ”の発生要因という報告も上がっています! オメガ・サイコミュに関しても……あの共鳴現象が再発して─もしこのサイド6でゼクノヴァが起きたら、取り返しのつかないことになります!」

 

「──誰もがこのガンダム・クァックスを動かせるわけではありませんよ」

 

 シャリアはそう呟き、ふっと笑みを漏らした。

 

「──特に、“オメガ・サイコミュ”はね。ふふふ……」

 

 その笑顔はどこか妖艶で、どこか危うかった。まるで、崖の淵を覗き込みながら、楽しげに歩く者のように。

 

(……何で嬉しそうなんだ、中佐……)

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 コーヒーの湯気が立ち昇る静かな時間。

 モニターにはジークアクスが宙を舞い、マチュが操縦するその動きは、わずか数週間前とはまるで別人のようになっていた。

 

 フブキはその様子をじっと見つめながら、低く呟いた。

 

「……マチュの成長が目まぐるしいな。ついこの間まではろくに動かせなかったのに……」

 

 一口、苦いコーヒーを含む。

 

(──“考えたら動いた”か……ジークアクス。ジオンの最新鋭機。条約で禁じられたサイコミュを搭載した、条約違反の機体……)

 

 そして、視線を僅かにずらす。もう一つの異物──赤いガンダム。

 

「それに、赤いガンダム……」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 シュウジがペイントスプレーの整理をしていたところ、フブキが静かに声を掛けた。

 

「……シュウジ君。君に聞きたいことがある」

 

「なに?」

 

「“赤いガンダム”──あれを、どこで手に入れたんだ」

 

 その言葉に、シュウジの手が止まった。

 

「……」

 

「“赤いガンダム”は、一年戦争末期、ソロモン要塞で赤い光と共に消息を絶った。シャア・アズナブルを乗せたまま──にも関わらず、あれは今君の手の中にあって、君が動かしている。……なぜだ?」

 

 重苦しい沈黙。だが、フブキの声色に咎めはない。ただ、真実を求める意志があるだけだった。

 

「……答えられないか?」

 

 シュウジはゆっくりと顔を上げ、フブキを見た。

 

「……ガンダムは、シャアから譲り受けたんだ。僕の“願い”を叶えるために……」

 

 その言葉には、嘘も、誇張も、戸惑いもなかった。ただ、事実だけが淡々と告げられた。フブキは目を伏せ、わずかに溜息をついた。

 

「……願い、か」

 

 その言葉に、シュウジは真っ直ぐな目で頷いた。

 少年の眼差しは曇りなく、それでいて何かを背負っているような深さがあった。

 

「赤いガンダムが指名手配を受けていること、承知の上なんだな?」

 

「……うん」

 

 フブキはゆっくりと頷き返した。

 シュウジが嘘をついていないことは、その表情からも言葉の節からも明らかだった。

 

「そうか……わかった」

 

 そしてほんの一拍の間、言葉を選んだ後──

 

「だが、コロニー内で戦闘をしたことは、いただけないな」

 

「……あれは、向こうから……飛び込んできた。コロニー内に。あっちは最初からやる気だった」

 

 そう言いながら、シュウジは視線を逸らした。

 

「……まったく……」

 

 フブキは眉間を押さえながら立ち上がると、天井を仰ぐ。

 そのまま小さく呟いた。

 

「……君の願いとか、何を背負っているか知らないが……」

 

 そして、シュウジの前にしゃがみ込み、その目線に合わせる。

 

「コロニー内での戦闘は御法度だ。それをしてしまったら、君の願いどころか、すべてを壊す引き金になりかねない。モビルスーツに乗る以上、常に冷静に。分かったな?」

 

 シュウジは小さく、だが確かに頷いていた。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 コロニーの旧型倉庫を改装したその事務所は、決して広くもなければ綺麗でもない。だが、そこにはどこか居心地の良さがあった。

 

 金髪の少年、ケーンは、スピーディにパソコンのキーボードを打ち込みながら眉をしかめていた。

 

「うーん……この”腹減り虫”って誰なんすか?」

 

 モニターには「ポメラニアンズ」所属と記されたクランバトルの記録。そこにはジークアクスの名と共に、例の赤いガンダムの姿、そして「腹減り虫」という異様なエントリーネームが並んでいた。

 

 ケーンの問いに、部屋の奥でポメラニアンを抱いているメガネの青年、ジェジーが微笑みながら言った。

 

「俺らが勝ててるのはそいつのおかげだぜ。あの世間知らずのお嬢ちゃんじゃなくてな」

 

「……もしかして……」

 

 ケーンが声を潜めて囁く。

 

「本物の赤い彗星だったり……?」

 

 その言葉に、壁際で電卓を叩いていたナブが、領収書の束から顔を上げて呆れたように言い返す。

 

「アホか。指名手配の身だぞ? そんな奴が堂々とクランバトルなんてやるかよ。あの赤いガンダム、今あれに乗ってるのは別人だ。間違いない」

 

 ケーンは唸りながら背もたれに体を預けた。

 

「でもウチらにも正体明かさないなんて……アンキー、やっぱ変じゃないっすか?」

 

 話を振られたのは、部屋の片隅で外の喧騒を見ていたアンキー。冷めた目をした女は言葉少なく答えた。

 

「……何だっていいさ。勝ってくれればな」

 

 その目には、何かを見透かすような冷静さと、かつて何かを「見限った」ような虚無が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

「よっ……ほっ……」

 

「おい、マチュ、危ないぞ」

 

「平気だって、これくらい」

 

 ボロボロの階段を、フブキとアマテは軽快に降りていた。だが、その足を止めさせたのは、途中から聞こえてきた女性の切迫した声だった。

 

「きゃっ…… ど、どうしましょ……! だ、だれか!」

 

 即座にフブキが目線を向ける。少し先の通路で、黒い犬が一人の女性に飛びかかろうとしているのが見えた。

 

「あれ……!」

 

 アマテはすぐさま階段を駆け下り、勢いよく手を振りかざしながら犬の近くへ駆け寄った。

 

「ん! はいはい〜っ!」

 

 犬は女性から注意を逸らし、アマテに視線を移す。そして、アマテが握った拳をゆっくり開いて中身を見せると──

 

「ばぁ! 何もないよ〜」

 

 犬はそれを見て、「くぅん……」と気の抜けたような声を出し、しょんぼりと座り込んだ。

 

 アマテはその様子を見て、ふっと鼻で笑った。

 

「フッ。バカ犬め」

 

 すると──

 

「て、てめぇ! バカ犬はねぇだろ!」

 

 怒声と共に現れたのは、メガネをかけた男・ジェジーだった。彼は、ポメラニアンを抱きかかえながら、アマテを睨みつけている。

 

「何かお困りですか?」

 

「無視すんなよ!」

 

 しかし、アマテはジェジーの怒りをさらりと受け流すように振る舞う。その時、助けられた女性が口を開いた。

 

「え、えっと……入り口が分からなくて……「カネバン」って事務所なんですけど……」

 

「……それ、ジャンク屋ですよ?」

 

 アマテが指摘すると、女性は目を見開いた。

 

「……! そう、それです! ジャンク屋さん! ご存知?」

 

 フブキとアマテは顔を見合わせて、頷く。

 

「……ご案内しましょうか?」

 

「……っ! 貴方……」

 

 女性は、アマテの隣に歩いてきたフブキの姿を見て、思わず足を止めて声を漏らした。

 

「失礼……どこかで会ったことが?」

 

 フブキは少し眉をひそめ、立ち止まり彼女に視線を向ける。その目には、過去の記憶を探るような曇りがあった。

 

「あれ? フブさん、知り合い?」

 

 アマテが不思議そうに尋ねるが、フブキは一瞬考えたのち、小さく首を振った。

 

「……いえ、良いんです」

 

 女性は何かを飲み込むように言い、表情を取り繕った。フブキもそれ以上は何も言わず、前を向いて歩き出す。

 

「……? まあいいや。こっちですよ」

 

 アマテが先導し、女性を含めた4人はカネバン事務所へと歩を進めていった。

 

 

 

 ──

 

 

 

 

「え〜と……その……あ! バイトなのよ? ね?」

 

 アンキーは苦し紛れの笑みを浮かべ、アマテにそう問いかけた。その表情からは「空気を読め、合わせろ」という無言の圧力がにじみ出ている。

 

「え? あ〜……はい」

 

おい、マチュ……

 

 アマテは一拍遅れて返事をし、フブキは呆れたようにその様子を見つめながら肩をすくめる。

 

「ふふふ……こんなに可愛いバイトさんがいるなんてね。ジャンク屋だなんて聞いたから、もっと油臭くてむさ苦しい場所かと思って覚悟してたのに。ふふふ」

 

 事務所のソファに優雅に座り込んだ女性は、艶やかな微笑を浮かべていた。その気配には、どこか只者ではない雰囲気がある。

 

……どなた? 

 

 アマテが警戒を込めて尋ねるが、

 

しらねぇよ……

 

 ジェジーが首を振る。ナブも同様に困惑している。そんな中、アンキーが頭を掻きながら渋々と紹介を始めた。

 

「アンタら、彼女は「シイコ」。えっと、今は「スガイ」だっけ? 一年戦争じゃ「魔女」って呼ばれてたユニカムよ。……見えないでしょ?」

 

 そう言ってアンキーは肩をすくめる。

 

 ジェジーとノブは思わず顔を見合わせた。「魔女」という異名の重みに対して、その場に漂うのは想像と異なる優雅さと静けさだった。だが、それがかえって彼女の異質さを際立たせていた。

 

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