機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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魔女とガンダム

 

 

 警備会社「ドミトリー」、地下格納庫内に設置された大型シミュレーターから機械音が響き渡り、スタッフのアナウンスが流れる。

 

《訓練終了。訓練終了。データ収集急げ。現在の状態はFREE。排熱状況、問題なし。ハッチ、開きます》

 

 金属の軋む音が空気を満たす中、コックピットがスライドして開く。

 

 そこから現れたのは、かつての地球連邦軍制式のノーマルスーツに身を包んだ人物。作業員の手を借りて、ゆっくりとハッチから降りる。

 

「よっこいしょっと……! さすが、“魔女”だ! まだ衰えちゃいないね!」

 

「んっ」

 

 短く返事をしながら、彼女はヘルメットを外す。顔を覗かせたのは──カネバンで見せていた穏やかさとは正反対の、鋭く冷たい目をした女。

 

 少し汗に濡れた髪が額に張り付き、無造作に跳ねていた。

 

 シイコ・スガイ──その目は、まるで機械のように無感情だった。

 

「……確かに、連邦の軽キャノンとは大違いね」

 

 乾いた声で呟くと、目の前にいた老技術者──モスク・ハンが、腕を組んでニヤリと笑う。

 

「ふっ。そうだろうとも。あんたが乗る機体はアナハイムからのデータ収集用に提供された機体だ。しかも、ジオンにもまだない“新技術”を導入してるんだ。そんじょそこらの量産型とは比べ物にならんよ」

 

「……どうでもいいわ」

 

 シイコはふっと目を細め、吐き捨てるように言う。

 

「で? 赤いガンダムに勝てます?」

 

 モスクはその問いに、一瞬だけ表情を曇らせた。だがすぐに苦笑交じりで答える。

 

「うむ……“サイコミュ”とかいう、ニュータイプ専用兵器……あれが気がかりかね?」

 

「ニュータイプなんて、方便です」

 

 シイコの声がぴしゃりと空気を裂いた。

 

「ジオンのプロパガンダに過ぎませんよ。都合の良い未来像を押し付けてるだけ」

 

 モスクはその言葉に対し、ただ穏やかな目で彼女を見つめる。

 

「…そうはいっても、君にもその“素養”がありそうだと思うがね」

 

 その言葉に、シイコの表情がわずかに崩れる。

 

(また、それか……)

 

 唇を噛みしめるように、顔を背けた。

 

「……それ以上はやめてください」

 

 その声には明らかな拒絶と怒気が込められていた。モスクはそれ以上は追及せず、静かに視線を落とす。

 

「ふむ……了解したよ、“魔女”くん」

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 アマテは自室の床に手をつき、逆立ちの姿勢で静かに呼吸を整えていた。

 血が頭に昇るのを感じながらも、心の中では別の声が渦巻いていた。

 

 ──彼の居場所は、“戦場”だけよ。

 

(……フブさんは、私にいろんなものをくれた。どんな時でも背中をを押してくれて、誰かの為に動くことができる、優しい人……なのに、“戦場”にしか居場所がないなんて……そんなの、悲しすぎるよ……)

 

 否定したかった。あの言葉を、はっきりと、強く。

 

(“そんなことない”って、私……言いたかったのに……)

 

 思考が絡まりそうになった瞬間、机の上に置かれたスマホがブルッと震えた。

 

(……?)

 

 逆立ちのまま軽く跳ねて着地し、机に手を伸ばす。画面に表示されたのは、ジェジーからのメッセージだった。

 

【明日のクラバ、相手が変更された。エントリーネームは『魔女』だぞ】

 

「……うそ……」

 

 ぽつりと、アマテは呟いていた。

 

 その言葉の意味を理解したとき、手がわずかに震える。“魔女”──それは、他でもない。今日、あのカネバンで対峙した女性。

 

(シイコさん……やっぱり……)

 

 “魔女”という名がただの噂話ではないことを、アマテはすでに知っていた。

 

(本当に、出るつもりなんだ……なんで、こんなことに……)

 

 戦いは、戦争終わったはずなのに。シイコ自身が納得しない限り、それは終わらないのだ。

 

 アマテは、胸の奥がひどく重くなるのを感じていた。シイコの言葉が、再び脳内で木霊する。

 

 ──彼は“火種”であり、“影”なのよ。戦いという名の光がある限り、彼は生涯を通して戦う運命なのよ。

 

 そんな言葉を残した彼女が、明日自分たちの前に現れる。敵として。

 

(なら……私は──)

 

 アマテは迷うことなくスマホを弾き、メッセージアプリを開いた。すぐに、フブキの名前をタップして、短く打ち込む。

 

【フブさん】

 

 画面に「既読」が表示されるまでの数秒が、やけに長く感じられた。

 

【こんな時間にどうした?】

 

 すぐに返ってきた淡々とした返信。でも、そこに隠された“気遣い”をアマテは知っている。

 

【明日のクランバトル、相手の名前が“魔女”だって】

 

 送信ボタンを押して、既読がついた瞬間。スマホが震えた。

 

 ──着信。

 

 フブキからの通話だった。アマテはすぐに応答する。

 

《マチュ、それは本当か》

 

「……うん。バカ犬から連絡があった。間違いないと思う」

 

 電話越しのフブキの呼吸がわずかに乱れるのが、受話口から伝わってきた。

 

バカ犬……? ……まあいいや、どうする。嫌なら代わってやっても良い》

 

 その一言に、アマテの胸が熱くなる。

 

(こんな時でも、フブさんは私を気にかけてくれてる……相手は元軍人で、あなたの知り合いなのに……)

 

 それでも──アマテは言葉を詰まらせずに答えた。

 

「……ううん。私がやるよ。絶対に、勝つ」

 

 短く、強く、そして真っ直ぐな声だった。受話口の向こう、少しだけ沈黙があった。

 

《……大丈夫なのか? 向こうはその道のプロなんだぞ》

 

「任せて」

 

 その言葉とともに、アマテの顔にいつもの笑みが戻る。だがその目は、確かに燃えていた。

 

「フブさんに、ちゃんと鍛えてもらったもん。“魔女”には、シイコさんには──負けないよ」

 

 静かな夜の中、誓いのような言葉が、携帯越しに交わされる。それは、戦うことを選んだ少女の覚悟だった。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 翌朝。

 カネバンの格納庫には、いつもと違う緊張感が漂っていた。

 

 アマテは、静かに着替えを終えると、整備エリアへと歩みを進めた。

 白とピンクを基調にしたノーマルスーツに、いつものように深くニット帽をかぶっている。

 だが、その柔らかな見た目とは裏腹に、マチュの表情はいつになく引き締まっていた。

 

 ジークアクスがそこにある。暗く照らされた格納庫の中央で、静かに彼女を待っていた。

 

 ジェジーの声が飛ぶ。

 

「おい、マチュ! 早くしろ! 今回の相手は今までの雑魚じゃねぇ。……“魔女”だぞ!」

 

 わかってる。とでも言うように、マチュはただ無言でうなずき、ジークアクスのコックピットに乗り込んだ。

 操縦席に座り、そしてゆっくりと両手を操縦桿に添える。

 

「……ジークアクス」

 

 彼女はそっと呟く。

 

「お願い、力を貸して──シイコさんを、止めるために」

 

 その声と共に、ハッチが静かに閉じる。ジークアクスの全身が軽く震え、目覚めるような起動音が響いた。

 

 地下発進トンネルへのリフトが作動し、ジークアクスはゆっくりと降りていく。その頭部はまだ閉じたまま──戦闘形態へ変化する直前の、静かな“仮面”。

 

 白とピンクのスーツに身を包み、ニット帽をかぶった少女の瞳は、暗いコックピットの中で真っ直ぐに前を見据えていた。

 

 ジークアクスを固定しているロックが外され、ゆっくりと地下トンネルへと投下される。

 右手にはヒートホーク。左手にはシールドが装備されている。

 

 格納区画から延びる通路の先には、宇宙への扉──エアロック。その途中、コックピットの通信モニターが点滅した。

 

《マチュ、聞こえる?》

 

 声の主はケーンだ。

 

《今回の敵は、連邦系の“軽キャノン”。低圧ビーム砲を装備してる。出力は低めでも、精度と連射性が高い。遠距離からの攻撃に注意して!》

 

 すぐにナブの声が被さる。

 

《敵クラン“CRS”……軍事警備会社の宣伝クランってのは、まあ公然の秘密だ。中身はほぼ軍人。前みたいな貧乏クランとはワケが違うぞ》

 

 そして、ジェジーが吐き捨てるように言う。

 

《その上、元“ユニカム”まで引っ張ってきやがった……! 油断すんなよ!》

 

 だがアマテは、通信には一切動じなかった。

 

 エアロックの前にたどり着いたジークアクス。警告灯が点滅し、外部隔壁が解除されハッチが開く。

 

 宇宙が、そこにあった。無音の闇と星の海。マチュは、息を吸うように操縦桿を握り直し、そのままバーニアを開放する。

 

 ジークアクスが宇宙へと飛び出した瞬間──再び、脳裏にあの言葉が甦った。

 

 ──赤いガンダムは、私が倒すのよ。

 

(……シイコさん……)

 

 アマテは、静かに心の中で呟く。

 

(……あの人は、絶対に止めなきゃいけない。だって、あの人には……帰りを待ってる人がいるんだ。フブさんなら……きっと、そうする。なら、私もそうする。私が、あの人を止める。絶対に──シュウジを、倒させない)

 

 強く、強く、誓うように。ジークアクスは、そのまま主戦宙域へと加速していった。

 

 

 

 アマテはジークアクスの操縦桿を握ったまま、静かに呼吸を整える。しばらくすると赤いガンダムが接近し、無線が入る。

 

《マチュ、大丈夫?》

 

 優しく、どこか心配そうな声。シュウジだった。

 

「……うん、大丈夫」

 

 アマテは答えながらも、すぐに表情を引き締める。

 

「でも、シュウジ……気をつけて。今回の相手はプロの軍人かもしれないって……ジェジーやケーンが言ってた」

 

 しばしの沈黙。だがその直後、いつものように飄々とした声が返ってくる。

 

《大丈夫、バトルに集中……って、ガンダムが言っている》

 

「うん……」

 

 その何気ない一言に、少しだけ緊張がほぐれた。

 

(……そうだよね、私も集中しなきゃ……)

 

 視線を前方に向けた瞬間だった。

 

《は、はぁ!? ……いつもの軽キャノンじゃねぇ!! なんだよコレ!!》

 

 突然、ジェジーの怒鳴り声が無線を突き破った。

 

「……な、なに!?」

 

 アマテの胸がざわめく。ディスプレイに、敵影が急速に接近してきている。同時に、ケーンの混乱した声が続く。

 

《な、なんだこれ……!? 俺も見たことない……こいつ、連邦の新型!?》

 

 警告音が鳴り響き、静かに戦闘開始のカウントが始まる。

 

「シュウジ……離れないで!」

 

(……私が、あの人を止める)

 

 ──CLAN BATTLE START──

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

「ふふ……久しぶりの“プレッシャー”ね」

 

 モニター越しに映るシイコの目は、静かに笑っていた。その視線の先には、ジークアクスと赤いガンダムが並ぶ陣形──

 

「ボカタ、遅れないで」

 

《了解ッ!》

 

 すぐに背後から僚機の返事が飛ぶ。その瞬間、シイコの機体が一気に推力を解放。バーニアが炸裂し、凄まじい加速で突貫してきた。

 

「っ……! 突っ込んでくる!」

 

 アマテは思わず声を上げる。ヒートホークを逆手に構え、即座に迎撃態勢を取る。

 

 シイコの機体は、まさにその名の通り“魔”のようだった。戦術など無視したように見える突撃は、しかし……絶妙な角度と速度、完璧なタイミングで組み立てられている。

 

「シュウジは……やらせない!」

 

 アマテは機体を一気に前進させ、シイコとの距離を詰める。ジークアクスの肩装甲が陽光を跳ね返し、ヒートホークが振り上げられた。

 

 だが──視界に映ったその敵機の姿に、彼女は目を見開いた。

 

「 えっ……!ガ、ガンダムっ!?」

 

 明らかに“軽キャノン”ではない。

 シルエットはガンダムのもの。しかし、見たこともない装甲ライン。全身の一部には、連邦製とジオン製の技術が混ざったような異質な構造が見て取れる。

 

 頭部には、角のようなアンテナ。瞳が煌めくように黄色く光り、まるで──魔女自身の目がそこに宿ったかのようだった。

 

(あれが……シイコさんの……“魔女”のガンダム!?)

 

 アマテの心拍が跳ね上がる。

 

《……残念ね》

 

 シイコの冷たい声が、通信越しにアマテの耳を刺した。

 

《そんな大振りで当たるとでも思ってるの?》

 

 ジークアクスのヒートホークが唸りを上げるも──その刃は、空を切った。

 

 シイコのガンダムが、まるで重力から解放されたかのように軽やかに機体を滑らせ、回避。動きには一分の無駄もなく、まるで流体のように舞う。

 

「ボカタ、このバイトちゃんは任せるわ」

 

《は!? な、何を──!》

 

 僚機が困惑の声を上げるが──返答を待つことすらなく、シイコの機体は再加速した。

 

 狙うは──赤いガンダム、シュウジ。

 

「さあ、私と踊りましょう? “赤い彗星”さん」

 

 その声と共に、機体の前腕からアンカーが射出される。金属ワイヤーが伸び、まるで蛇のようにシュウジのガンダムの腰部に絡みついた。

 

「っ!?」

 

 不意を突かれたシュウジがバランスを崩す。

 

 カチリ、と内部機構が動く音が鳴り響く。シイコのガンダムがアンカーを巻き取りながら、自ら円を描くように宙を舞う。

 

 シュウジの機体を中心にシイコのガンダムは振り子のように不規則な動きをする。

 赤いガンダムも制御系が一瞬乱れ、姿勢を立て直す隙も奪われていく。

 

 まるで──本当に踊りのリードを奪われたかのように。

 

「私が全部壊してあげる。赤いガンダム……!」

 

 宙に描かれた二機の螺旋軌道は、獲物を仕留める蛇と、標的となった獣のようだった。

 

 その様子を目撃していたマチュは、思わず声を上げた。

 

「シュウジ!!」

 

 しかし声は届かない。

 赤と白の機体が、戦場の中心で舞うようにぶつかり合おうとしていた──

 

 

 

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