機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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キラキラを知りたい少女

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「「あの……」」

 

 気まずい沈黙のあと、ふたりの声が偶然重なった。照れくささにお互い視線を逸らす。

 

「……その、本当に俺が選んだやつで良かったのか……? 自分の好きなもののほうが良かったろうに」

 

 フブキが珍しく戸惑いながら口を開く。アマテは頬を赤く染めながら、小さく首を振った。

 

「い、いいんだよ。……う、嬉しかったし……」

 

「それなら……まぁ……良かった」

 

 二人の間には、甘くてぎこちない沈黙がもう一度訪れた。

 

 気まずいような、嬉しいような──そんな微妙な距離感を抱えたまま、二人はなんとか買い物を終えた。

 

「……ちょっと、休憩するか」

 

 フブキの提案で、二人はモール内のカフェへと足を運んだ。並んで席に座り、ホッと息をつく。

 

 しばらくカフェで一息ついていると、ふと聞き慣れた声がした。

 

「あれ? マチュ?」

 

 振り返ると、そこにはニャアンが控えめに手を振っている。

 

「あっ、ニャアン! ニャアンも買い物?」

 

「うん。シュウちゃんがお腹空いてるかなって思って……」

 

「シュウちゃん……?」

 

 一瞬だけアマテは疑問を浮かべたが、すぐに気にしないことにした。

 

「まあ、いいや! それならちょうどいいや! フブさん、私たちもそろそろ行こっか!」

 

「ん? ああ……」

 

 フブキは軽く頷いて立ち上がる。3人はカフェを後にし、慣れた足取りであの『マンホール』へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

「相変わらずだな、ここは……」

 

 フブキがゲンナリした表情で周囲を見渡す。その傍らで、アマテは気密扉に近づき、元気よく声をかけた。

 

「おーい、はらへり虫〜! ご飯持ってきたぞ〜!」

 

 しかし、返答はなかった。

 

「あれ? おかしいな……ん〜?」

 

 気密扉に設置された小さな窓を覗き込む。

 その先には、見慣れた落書きだらけの部屋が広がっているだけだった。

 

 シュウジどころか、赤いガンダムの姿すらない。

 

「居ないなぁ……」

「イナイ! イナイ!」

 

 ハロもアマテのカバンから顔を出し、同じように同調する。 

 フブキも同じように確認するが相変わらずの落書きが広がっているだけ。

 

「もしかして、入れ違いだったか?」

 

 フブキがそう問いかけた直後──

 突然、通路の明かりが赤い警告灯に切り替わり、鋭いアラームが鳴り響いた。

 

「ぇ!? な、なに!?」

 

「なにこれ!? なにかヤバいの!?」

 

 少女二人は驚きと困惑を隠せない。だが、フブキは冷静な表情を保ったまま呟く。

 

「これは……エアロックのアラームか……」

 

 しばらくすると、気密扉の先、落書き部屋の奥にあるエアロックがゆっくりと開きはじめる。

 その暗い向こう側から這い上がるように、赤いガンダムが四つん這いの状態で姿を現した。

 

 赤いガンダムが這うように落書き部屋に入り込むと、仰向けの姿勢でその場にドサリと倒れ込んだ。すぐさまエアロックが静かに閉まり、警報音が止んだ。

 

「……?」

 

 アマテ、フブキ、ニャアンの3人は困惑した表情で顔を見合わせるが、意を決して気密扉の先へと踏み込んだ。

 

「シュウジ〜、ご飯持ってきたぞ〜!」

 

 アマテが明るく呼びかけると、赤いガンダムのコックピットがゆっくりと開いた。しかし、中から姿を現したシュウジは、力なくそのまま胸部ハッチから装甲に転がり落ちてしまった。

 

「え!?ちょ!」

 

「だ、大丈夫!? シュウちゃん!」

 

 ニャアンがすぐさま駆け寄り、慌てて彼のそばでしゃがみこむ。シュウジはなんとか上体を起こし、弱々しく微笑んでみせた。

 

「大丈夫……」

 

 しかしその顔色は明らかに悪い。フブキは腕を組んで静かに尋ねた。

 

「本当に大丈夫なのか、シュウジ君?」

 

 シュウジはフブキの問いかけに一瞬だけ目を泳がせ、力なく小さく笑った。

 

 フブキは軽く息をつくと、静かにシュウジの額に手を添えた。その手が触れた瞬間、シュウジは弱々しく微笑んだ。

 

「あ……フブキさんの手、冷たくて気持ちいい……」

 

 フブキは眉を寄せながら、ため息交じりに言葉を返す。

 

「あっついな……何が『大丈夫』だ。思いっきり熱があるじゃないか……」

 

 少しだけ責めるような口調になってしまったが、フブキの声には確かな心配が滲んでいた。

 

「いつから体調が悪いんだ?」

 

 シュウジはぼんやりと視線を泳がせ、ふわふわとした口調で答える。

 

「……分からない……起きたら、フワフワしてて……楽しくて外に出て……それから……」

 

「分かった、分かった。……全く、熱があるなら安静にしないとダメだろうに……」

 

 フブキは呆れたように肩を落とした。するとシュウジの肩に貼り付いていたコンチが小さく機械音を立てて動き出し、そのアームから赤外線レーザーをシュウジの額に照射した。

 

 コンチの頭部パネルが開き、表示された数字は──『38.7』。

 

「……やっぱり熱があるな。しかもかなりの高熱だ」

 

 フブキは小さくため息を漏らすと、アマテとニャアンを振り返った。

 

「シュウジ君をすぐ寝かせてやろう。お前たちも手伝ってくれ」

 

 アマテとニャアンは慌てて頷き、シュウジを支え起こした。アマテは落書きだらけの壁を見回しながら、呆れたように言った。

 

「てかシュウジ、また落書きしてたの? その体で?」

 

 ニャアンも頷いて続ける。

 

「どうせすぐ消されちゃうのに……」

 

「シュウジ、もしかしてクラバの賞金、全部ペンキ代に使ってるの? いくらペンキでもバカになんないでしょ?」

 

 フブキは天井の鮮やかな絵を見上げて、半ば感心しながらも、呆れたように言葉を投げかけた。

 

「まあ、こんなに描くのは大変だろう? いつもこんな絵を描いているのは、有名になりたいからなのか?」

 

 シュウジは小さく首を振る。

 

「……そうじゃない……」

 

「じゃあ、誰かに見てほしいとか?」

 

 ニャアンがぽつりと呟くと、シュウジは横たわったまま、ゆっくり顔だけをこちらに向ける。

 

「フブキさんとマチュは、わかってる……」

 

「……? なんのことだ?」

 

 フブキとアマテは首を傾げ、ニャアンもきょとんとする。

 

「もしかしてキラキラのこと? 確かに綺麗だったけど……」

 

「キラキラ……?」

 

 フブキは、一瞬だけ沈黙し──

 部屋の奥、壁に描かれた不思議な色彩のモチーフに、静かに視線を向けた。

 

(キラキラか…あの“現象”のことを言っているんだろうが……)

 

「あ〜……えっと……宇宙って、本当は光ってるっていうか……うまく言えないけど、朝日が海一面を照らしてるみたいな……そんな感じ」

 

 フブキがふっと笑う。

 

「ふっ、詩人だな、マチュ」

 

「バカにしてない!?」

 

「海……マチュ、海見たことないのに?」

 

 ニャアンが不思議そうに首をかしげる。

 

「まあ、そうなんだけど……。でも……ジークアクスに乗ってると、なんていうか……世界の方が私に応えてくれてる……みたいな?」

 

 アマテの言葉に、シュウジが穏やかに微笑む。

 

「それは、彼がそうしろって言ってるんだよ……」

 

 そのやりとりを聞いていたフブキは、少し困ったような顔をする。

 

(……正直、何言ってるのか、さっぱりだ……)

 

 フブキは気を取り直して、シュウジに声をかける。

 

「ほら、安静にしてろ、シュウジ君」

 

「ふふ……冷たくて気持ちいい……」

 

 シュウジが赤みがかった顔で呟くと、突然ニャアンがせわしなく服を脱ぎ始めた。

 

「っ!? ニャアンちゃん!?」

 

「あっ!? な、なにして──!? っ見るなあ!! フブさん!!」

 

「うおっ!!」

 

 アマテはとっさに、フブキの後ろから手を伸ばして彼の視界を塞いだ。

 

 しかしその隙に、ニャアンは無邪気にシュウジの隣へ移動し、ガンダムの装甲の上に仰向けになる。

 

「あ……ほんとだ……気持ちいい……」

 

「な、なに言ってんのニャアン!?」

 

「お兄さんと、マチュ、シュウちゃんが見たっていうキラキラ……私も見れるかなって……」

 

「だ、だからって男の人の前で下着になるなんて! その……不用心っていうか!!」

 

 フブキはアマテの両手で目隠しされたまま、困ったように声を漏らした。

 

「マ、マチュ……その、ちゃんと目を瞑ってるから、そろそろ離れてくれないか?」

 

「……ほんとに!? そう言って見るつもりなんじゃないの!?」

 

「……見ないから……その、それより、当たってるんだ……」

 

「…………へっ?」

 

 アマテはふと自分の体勢に気づく。

 

(え……私、今……背中からフブさんに、抱きつくみたいに……)

 

 咄嗟だったとはいえ、体をぴったりとフブキの背中にくっつけていて、しかも自分の胸の一部がしっかりフブキの背中に──

 

「…………!!」

 

 顔が一瞬で真っ赤になるアマテ。慌てて手を離し、バタバタと距離をとった。

 

「ご、ごめんっ!!」

 

 フブキも振り返らずに小さく咳払いをする。

 部屋の空気が妙な緊張感でいっぱいの中、アマテが声を張り上げた。

 

「ほ、ほら!! 早くニャアンは服着て! シュウジもちゃんと暖かくして!!」

 

「?なんでそんなに怒ってるの、マチュ?」

 

「だ、誰のせいだと……///」

 

 フブキはそっと目を閉じたまま、控えめに声をかける。

 

「マチュ、ニャアンちゃんが着替えたら教えてくれ」

 

「わ、分かってるよ……///!」

 

 結局アマテに押し切られる形で、ニャアンとシュウジは素直に言う通りにした。

 

 

 

──

 

 

 

 しばらくして、ようやく室内が落ち着きを取り戻した頃。アマテはポケットからスマホを取り出し、みんなに画面を見せた。

 

「見てこれ! この間の中古のスペースグライダー。手付金払ってから仮契約済ませたんだ!」

 

 フブキは半分呆れながらも、アマテの行動力に苦笑いする。

 

「おいおい、金の使い道は考えろって言ったばかりだろうに……」

 

 しかし、ニャアンは驚いた表情でアマテを見つめていた。

 

「学生なのに、買えるんだ……」

 

 アマテは照れくさそうに笑いながら肩をすくめる。

 

「信用されたのは私じゃなくて“現金払い”~。あと2勝したら全額払える! そうすれば──」

 

 その先を、ぽつりと静かな声が受け継いだ。

 

「……地球に行ける……」

 

 シュウジが、かすかに消え入りそうな声で呟いたが、ニャアンとアマテは嬉しそうに手を挙げた。

 

「マチュもシュウちゃんも頑張ったから……!」

 

「今夜のクラバも気合い入れていこ!」

 

 フブキは少しだけため息をついてから、ふと気がついたように問いかける。

 

「はぁ……ん? でもシュウジは出られないだろう? 赤いガンダムの代わりは、誰が出るんだ?」

 

 

 

「「あ……」」

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 駅構内では、いつもより少し堅い口調のアナウンスが流れている。

 

『現在、軍警察と協力し、セキュリティ強化の防犯キャンペーンを行っております。市民の皆様におかれましては──』

 

 その声を遠くに聞きながら、エグザベはベンチに腰かけて項垂れていた。

 顔には殴られた跡もあり、疲労の色が滲んでいる。

 

「はあ……中古モビルスーツの管理謄本もないんじゃ、調べようがない……。こんなんじゃ治安が悪くて当然だ……」

 

(クランバトルが流行った理由がよくわかる……管理データに残らない、裏ルートを通じてモビルスーツが簡単に手に入れられるんだから……。──この事を中佐は知っていたのか……?)

 

 小さくため息まじりに愚痴をこぼしていると、ふと視界の先を二人の少女が歩いていくのが見えた。

 特に背の小さいほうの少女に、どこか見覚えがある気がする。

 ジークアクスを奪われた際にコックピットに乗り込んだ少女に。

 

(……似ている、よな?)

 

 エグザベは無意識に身を起こし、その少女たちの後ろ姿に目を凝らすのだった。

 

 

 

 ──

 

 

 

 駅前のざわめきの中、アマテがスマホを確認しながら小声で尋ねる。

 

「今夜のクランバトルって何時から?」

 

「あと一時間くらい。そろそろカネバン行かないと」

 

 ふたりが駅の改札へ向かおうとした瞬間──鋭い声が背後から響いた。

 

「そこ! 止まれ!」

 

 アマテとニャアンが振り返ると、制服姿の軍警が警棒を携えてこちらをじっと睨んでいる。

 

「こちら640から123どうぞ、繰り返す。640から123どうぞ──」

 

 無線のやり取りが静かに響く中、アマテは露骨に嫌そうな表情で溜息を吐いた。

 

(はぁ……またコイツらか……)

 

「あ〜、この子友達で──」

 

 アマテが説明しようと口を開いたが、軍警はアマテに目もくれず、ニャアンへと一歩近づいた。

 

「お前、難民だな」

 

「っ! ちょっ──」

 

 アマテが慌てて何か言いかけたが、ニャアンが静かに手を握って制止する。

 

「……いいから……」

 

 軍警は無表情でニャアンに対して高圧的に話した。

 

「ID、出せ。早くしろ」

 

 ニャアンは素直に従おうとするが、アマテは軍警の無遠慮な態度に歯を食いしばった。

 

「っ! ふんっ!!」

 

 次の瞬間、アマテは全力で軍警の股間を蹴り上げた。

 

「ぐおっ!!」

 

 軍警はたまらず股間を押さえ、悶絶する──だがアマテは容赦しなかった。

 

「ふっ……うん!!」

 

 さらに追撃の一撃を叩き込み、軍警は声にならない悲鳴をあげて床に伏せてしまう。

 

「かっ……かひゅ……こ、このガキぃい……」

 

「行けっ!」

 

 アマテはニャアンに叫び、二人はその場から散り散りに走り出した。

 

「待て! おい! ……お、おい! 大丈夫か!?」

 

 遠くから同僚の軍警が駆け寄る声が響く。

 

「だ……だいじょぶじゃ……っない……」

 

 床で悶絶する軍警の声が、駅に虚しく響いていた。

 アマテは必死に走りながら、後ろを振り返ることもなく人ごみに紛れ込んでいく──。

 

 

 

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