機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
「ニャアン!!! くそっ! 動いてくれ! ガンダム!!」
フブキは応答しないオーバーヒート寸前のガンダムをなんとか無理やり動かし、ニャアンが手放してしまったビームライフルを拾い上げて、ドムへ向けて射撃する。
(くそっ……あの動き方……本物の三連星だな……。だとしたらまずい……ニャアンは素人だ……。あれだけのダメージを負っていながら戦えるはずがない……)
ドムが一時的に距離を取った隙を見て、フブキはジークアクスに急接近し、コックピットへ必死に呼びかける。
「ニャアン!! 聞こえているか!? 聞こえるなら返事をしろ! ニャアン!!」
ジークアクスのコックピットでは、ニャアンの体は痙攣し、息も絶え絶えだ。赤いガンダムからの無線からはフブキの切迫した声、そして──
「ニャアン! イチドヒクンダ! ニゲロ! ニゲロ!」
必死で警告を続けるハロ。
だが、ニャアンはハロの声に苛立ち、怒りと痛みに満ちた叫び声をあげてハロを蹴り飛ばす。
「──うるさい……うっるさいっ!! 舐めんなよぉっ!!! くそがぁああああ!!!!」
涙と汗と、痛みに濡れた顔で、ニャアンは叫びながら再び操縦桿を握りしめた──。
ニャアンの怒りに呼応するかのように、コックピットの足元──オメガ・サイコミュデバイスが「UNLOCK」と確かなロック解除音を響かせる。
「ッ! ロックガハズレル! オチツケ! ニャアン!」
ハロが警告を発する中、ジークアクスの頭部ではフェイスガードが展開し、ツインアイが眩い光を放つ。その姿はどこか獣じみた迫力さえ感じさせた。
ニャアンは震える手でアームレイカーをしっかりと掴み、目に浮かぶのは怒りと憎しみ、そして、なによりも──生への執着。
「ニャアン!! 俺の声が聞こえるか!! 落ち着くんだ!!」
必死なフブキの叫びも、今は届かない。
「……これ……これが……シュウちゃんやマチュの言ってたキラキラ……?」
ニャアンの意識は、夜空のような、無数の光が瞬く不思議な空間に浮かんでいた。まさに“キラキラの世界”。だが、その空間に現れたのは、禍々しいオーラを纏った二機のドム。じりじりと間合いを詰めてくる。
「んあ……? イヤなニオイ……っ!」
ニャアンはドムへ向かって手を伸ばし、握り潰すように指を閉じる。
そのイメージに呼応して、現実のジークアクスが一瞬で動く。赤いガンダムが持っていたビームライフルを素早く奪い取り、ためらいもなくドムへと連射した──!
ビームの閃光が戦場を裂き、凄まじい火花と爆発があがる。
バズーカの砲身が爆発したドムは、一瞬怯むも、すぐさまヒートサーベルを抜いてニャアンのジークアクスに襲いかかる。
「ニャアン!!! やらせるかぁ!!」
フブキの赤いガンダムがドムの攻撃に割って入り、ヒートサーベルをビームサーベルで受け止めた。激しい火花が二機の間で飛び散る。
しかし、その背後──もう一機のドムがバズーカを構え、ガンダムを狙い撃とうとする。
だが、その瞬間。ジークアクスがガンダムの背後から高速で接近し、ガンダムのバックパックからビームサーベルを引き抜いた。
一閃──
ニャアンの放ったビームサーベルが、敵ドムのコックピットを斜めに切り裂く。距離があったことが幸いし、かすり傷で済んだものの、たまらず二機のドムは後退し、距離を取った。
コックピット内で荒い呼吸を繰り返しながら、ニャアンはまだ興奮が冷めやらない。
(これが……“キラキラ”……私にも見えた……!)
「ニャアン! 敵が突っ込んでくるぞ! 警戒するんだ!」
フブキが叫ぶが、ニャアンはまるで恐れを知らぬように、微かに笑い声を漏らす。
「はは……あはは!!」
距離を取ったドムたちはコロニーの外壁を滑るように加速し、再びフブキとニャアンへ高速接近。そして──またもや胸部から強烈な閃光を放ち、視界を奪おうとする。
「またそれか……馬鹿の一つ覚えだなっ!」
フブキのガンダムはためらいなくシールドを投げつけた。ドムの一機は閃光をやめ、ヒートサーベルを構えるが──
「汚い手を使っても勝つ。間違ってはいない。だが、──ガンダムの敵ではない」
ガンダムはビームサーベルを一閃。ドムの頭部が吹き飛ぶ。
「ニャアン!!」
光る世界を見上げながら、ニャアンはガンダムに乗るフブキを一瞬見て微笑む。そして、そのままガンダムの背を足場に、頭部を切断されたドムの後方へ回り込み──
もう一機のドムを、真横から両断した。
戦場には、キラキラと爆炎が舞い、静寂が訪れる。勝者は──ジークアクスと、赤いガンダムだった。
──
画面には「VICTORY: POMERANIANS」の表示。
だが、ソドンの艦橋で観戦していたコモリは苦々しい表情を崩さない。
「……こんなの……マヴとは言えませんよ! こんな……マヴのことを考えない一方的なものなんか……! 中佐! やはりあれは危険です! 実力行使してでも、即時回収すべきです!」
シャリアは淡々と、そして穏やかに応じる。
「……人の関わり方には色々あります。私は、ああいうマヴも嫌いではありませんよ」
「でもっ!」
「コモリ少尉は、少々直線的すぎるきらいがあります……もう少し楽に考えることも必要ですよ?」
諭すように助言をして、シャリアはオペレーターへ命じた。
「グラナダのシムス大尉に連絡してください。──『キケロガ』が必要になりそうです」
──
ジークアクスと赤いガンダムの連携に思わず興奮を隠せないエグザベ。
「ジークアクスの動きに、赤いガンダムがピッタリ合わせられるなんて……これは……すごいマヴだ……こんなの見たことがない……」
だがその横でアマテは顔をしかめ、低く鋭い声を放った。
「…………邪魔、どけ」
「な、なんd──」
「──邪魔って言ってるじゃん」
ドゴッ!!
エグザベの股間を蹴り上げ、アマテはロッカーの扉をバン、と開けて堂々と歩き出す。
「おいっ! ちょっ……まっ……うぐううう……」
駅を出ると、しとしとと雨が降っていた。アマテの制服は雨で濡れ、髪も頬に張りつく。曇り予報だったはずなのに──。
アマテの顔は陰り、濡れた制服も気にせず、そのまま歩みを進める。
「……なんで」
胸の奥には、言葉にできないモヤモヤが渦巻いていた。
(今日、赤いガンダムにはフブさんが乗っていたはず──)
──
「シュウジは出られないだろう? 赤いガンダムの代わりは、誰が出るんだ?」
「「あ……」」
「どうしよう!! そうじゃん! シュウジ風邪なんだからクラバ出れないじゃん!」
アマテは頭を抱えて慌てた。ニャアンも顎に手を当てて首を傾げる。
「じゃあ、棄権になるってこと……?」
「それじゃあ、違約金でちゃう! 今まで稼いだお金がパーだよ! あ! フブさん! フブさんのザクは!!」
「急には無理だ……。それに、あのザクは仕事で使う機体だからな……」
フブキは顔を顰めながら答える。シュウジが出られない以上は棄権しかない……しかしシュウジは、フブキにコートを掛けられながら、穏やかに答えた。
「フブキさんなら乗れる。ガンダムがそう言っている……」
──
(フブさんとの初めての“キラキラ”は私のものだったのに──)
雨がアマテの身体を打つ。それでもアマテは、ゆっくりと、そして次第に走り出していた。息が上がり、足元が濡れるのも構わず、アマテは悔しさを噛みしめながら、雨の中を走る。
向かう先はジャンク屋カネバン──ジークアクスのパイロットが誰だったのか、確かめるために。
──
「ニャアン……どうして……」
赤いガンダムのコックピットの中で、フブキは歯を食いしばっていた。
先ほどのクラバで、年端もいかないニャアンがドムの一機を撃墜した。ビームサーベルで機体をジェネレーターごと真っ二つに。
パイロットが無事ではないことは明らかだった。
(また……俺は、子供に手を汚させてしまった……)
アルジェントさん!! 機体をうまく動かすコツとかないんですか!
……そんなものはない。
何かあるでしょ? アルジェントさんに模擬戦で勝てた試しがないんですもん!
……強いていうなら……後ろにも目をつける……か?
……えっと……冗談っすよね?
苦い記憶。胸を締め付けるような後悔。しかし、その思考に浸る間もなく、機体の警告音がけたたましく鳴り響いた。
軍警察のザクが複数機、こちらに接近している。これ以上は危険だ。
フブキは迷いながらも、その場を離れるほかなかった──ニャアンを置いて。
(……すまない、ニャアン)
──
「はぁ、はぁ……はああっ……ゲホッ」
アマテは旧整備用トンネルにたどり着き、肩で息をしながら膝に手をついて激しく呼吸を繰り返す。全身ずぶ濡れで、足元から水がしたたり落ちていた。
だが、息を整える間もなく、トンネルの奥から重く響く足音が近づいてくる。
「っ……」
現れたのは──ジークアクス。
機体のコックピットハッチが開くと、ハロが弾むようにアマテの足元に転がってくる。
「スマナイ……マチュ……」
「ハロ……? あっ……」
コックピットから、ぐったりとした様子で這い出してきたのは──
「っ……ふうっ……」
ニャアンだった。アマテは、言葉を失った。目を見開き、手を握り締める。
「ニャアン……!」
「あっ! マチュ!!」
ニャアンは、疲れきった体でありながらも、目を輝かせて嬉しそうにアマテに話しかける。
「キラキラってすごいね! マチュの言った通りだったよ!」
嬉しそうな声。でも──アマテはその言葉を静かに、そして苦しげに遮る。
「……なんで、ニャアンが乗ってるの?」
ニャアンは一瞬、戸惑ったように目を泳がせる。
「え……? で、でも……」
しかし、アマテはその姿を見つめ、抑えていた感情を吐き出すように叫ぶ。
「そこは……私の場所だろ!!」
その声には、悔しさと悲しみ、そして譲れない想いが混じっていた。
「もういい……。早くどいて。見られたらヤバいでしょ」
アマテが低い声で言うと、ニャアンはしゅんとした様子でジークアクスを譲った。
「……うん……」
──
「おかえり〜! マチュ! めっちゃすごかったよ!!」
「いつあんな戦い方を思いついたんだよ! マジ興奮したぜ! ……あん? どうしたお前、ずぶ濡れじゃねぇかよ」
ケーンやジェジーは今までないほど嬉しそうにアマテの肩を叩いたり、労いの言葉をかける。
「手に汗握るバトルだったから汗だくだねマチュ」
「次の相手はクランランキングトップの『トゥエルブズ』だ! こいつらに勝ちゃあ! 俺らポメラニアンズが名実共に最強ってことだぜ!」
ジェジーが嬉しそうに話すその足元から、ポメラニアンがぴょんっと跳びつき、アマテの顔を舐める。
「へへ。気に入られたみたいだな」
しかしアマテは、無反応でポメラニアンを見つめるだけだった。
「……もう帰っていい?」
「ど、どうしたの? マチュ?」
「様子が変だぞ、マチュ」
ケーンが心配そうに声をかけ、ノブも少し気にかけるが、アマテは暗いままだった。
「別に……」
その声はどこか遠く、アマテの瞳は暗いままだった。
仲間たちの喧騒だけが、虚しく響いていた。
アマテは濡れた指でスマホを取り出し、無言で番号をタップする。何度かコール音が鳴った後、フブキが電話に出た。
「フブさん。今どこ」
『マチュ……? どうしt──』
アマテは食い気味に問いただす。
「今 何処」
『いや……k』
「会社だね? 今から行くから」
通話はそれだけで切れた。
アマテの声は濡れた服以上に、冷たく、重かった。
周囲の空気も一気に凍りつくような雰囲気のまま、アマテは黙ってカネバンを出ていった。