機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

45 / 70
初めてのキラキラ

 

 

「ニャアン!!! くそっ! 動いてくれ! ガンダム!!」

 

 フブキは応答しないオーバーヒート寸前のガンダムをなんとか無理やり動かし、ニャアンが手放してしまったビームライフルを拾い上げて、ドムへ向けて射撃する。

 

(くそっ……あの動き方……本物の三連星だな……。だとしたらまずい……ニャアンは素人だ……。あれだけのダメージを負っていながら戦えるはずがない……)

 

 ドムが一時的に距離を取った隙を見て、フブキはジークアクスに急接近し、コックピットへ必死に呼びかける。

 

「ニャアン!! 聞こえているか!? 聞こえるなら返事をしろ! ニャアン!!」

 

 ジークアクスのコックピットでは、ニャアンの体は痙攣し、息も絶え絶えだ。赤いガンダムからの無線からはフブキの切迫した声、そして──

 

「ニャアン! イチドヒクンダ! ニゲロ! ニゲロ!」

 

 必死で警告を続けるハロ。

 

 だが、ニャアンはハロの声に苛立ち、怒りと痛みに満ちた叫び声をあげてハロを蹴り飛ばす。

 

「──うるさい……うっるさいっ!! 舐めんなよぉっ!!! くそがぁああああ!!!!」

 

 涙と汗と、痛みに濡れた顔で、ニャアンは叫びながら再び操縦桿を握りしめた──。

 

 ニャアンの怒りに呼応するかのように、コックピットの足元──オメガ・サイコミュデバイスが「UNLOCK」と確かなロック解除音を響かせる。

 

「ッ! ロックガハズレル! オチツケ! ニャアン!」

 

 ハロが警告を発する中、ジークアクスの頭部ではフェイスガードが展開し、ツインアイが眩い光を放つ。その姿はどこか獣じみた迫力さえ感じさせた。

 

 ニャアンは震える手でアームレイカーをしっかりと掴み、目に浮かぶのは怒りと憎しみ、そして、なによりも──生への執着。

 

「ニャアン!! 俺の声が聞こえるか!! 落ち着くんだ!!」

 

 必死なフブキの叫びも、今は届かない。

 

「……これ……これが……シュウちゃんやマチュの言ってたキラキラ……?」

 

 ニャアンの意識は、夜空のような、無数の光が瞬く不思議な空間に浮かんでいた。まさに“キラキラの世界”。だが、その空間に現れたのは、禍々しいオーラを纏った二機のドム。じりじりと間合いを詰めてくる。

 

「んあ……? イヤなニオイ……っ!」

 

 ニャアンはドムへ向かって手を伸ばし、握り潰すように指を閉じる。

 

 そのイメージに呼応して、現実のジークアクスが一瞬で動く。赤いガンダムが持っていたビームライフルを素早く奪い取り、ためらいもなくドムへと連射した──! 

 

 ビームの閃光が戦場を裂き、凄まじい火花と爆発があがる。

 バズーカの砲身が爆発したドムは、一瞬怯むも、すぐさまヒートサーベルを抜いてニャアンのジークアクスに襲いかかる。

 

「ニャアン!!! やらせるかぁ!!」

 

 フブキの赤いガンダムがドムの攻撃に割って入り、ヒートサーベルをビームサーベルで受け止めた。激しい火花が二機の間で飛び散る。

 

 しかし、その背後──もう一機のドムがバズーカを構え、ガンダムを狙い撃とうとする。

 

 だが、その瞬間。ジークアクスがガンダムの背後から高速で接近し、ガンダムのバックパックからビームサーベルを引き抜いた。

 

 一閃──

 ニャアンの放ったビームサーベルが、敵ドムのコックピットを斜めに切り裂く。距離があったことが幸いし、かすり傷で済んだものの、たまらず二機のドムは後退し、距離を取った。

 

 コックピット内で荒い呼吸を繰り返しながら、ニャアンはまだ興奮が冷めやらない。

 

(これが……“キラキラ”……私にも見えた……!)

 

「ニャアン! 敵が突っ込んでくるぞ! 警戒するんだ!」

 

 フブキが叫ぶが、ニャアンはまるで恐れを知らぬように、微かに笑い声を漏らす。

 

「はは……あはは!!」

 

 距離を取ったドムたちはコロニーの外壁を滑るように加速し、再びフブキとニャアンへ高速接近。そして──またもや胸部から強烈な閃光を放ち、視界を奪おうとする。

 

「またそれか……馬鹿の一つ覚えだなっ!」

 

 フブキのガンダムはためらいなくシールドを投げつけた。ドムの一機は閃光をやめ、ヒートサーベルを構えるが──

 

「汚い手を使っても勝つ。間違ってはいない。だが、──ガンダムの敵ではない」

 

 ガンダムはビームサーベルを一閃。ドムの頭部が吹き飛ぶ。

 

「ニャアン!!」

 

 光る世界を見上げながら、ニャアンはガンダムに乗るフブキを一瞬見て微笑む。そして、そのままガンダムの背を足場に、頭部を切断されたドムの後方へ回り込み──

 

 もう一機のドムを、真横から両断した。

 

 戦場には、キラキラと爆炎が舞い、静寂が訪れる。勝者は──ジークアクスと、赤いガンダムだった。

 

 

 

 ──

 

 

 

 画面には「VICTORY: POMERANIANS」の表示。

 

 だが、ソドンの艦橋で観戦していたコモリは苦々しい表情を崩さない。

 

「……こんなの……マヴとは言えませんよ! こんな……マヴのことを考えない一方的なものなんか……! 中佐! やはりあれは危険です! 実力行使してでも、即時回収すべきです!」

 

 シャリアは淡々と、そして穏やかに応じる。

 

「……人の関わり方には色々あります。私は、ああいうマヴも嫌いではありませんよ」

 

「でもっ!」

 

「コモリ少尉は、少々直線的すぎるきらいがあります……もう少し楽に考えることも必要ですよ?」

 

 諭すように助言をして、シャリアはオペレーターへ命じた。

 

「グラナダのシムス大尉に連絡してください。──『キケロガ』が必要になりそうです」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 ジークアクスと赤いガンダムの連携に思わず興奮を隠せないエグザベ。

 

「ジークアクスの動きに、赤いガンダムがピッタリ合わせられるなんて……これは……すごいマヴだ……こんなの見たことがない……」

 

 だがその横でアマテは顔をしかめ、低く鋭い声を放った。

 

「…………邪魔、どけ」

 

「な、なんd──」

 

「──邪魔って言ってるじゃん」

 

 ドゴッ!! 

 

 エグザベの股間を蹴り上げ、アマテはロッカーの扉をバン、と開けて堂々と歩き出す。

 

「おいっ! ちょっ……まっ……うぐううう……」

 

 

 

 駅を出ると、しとしとと雨が降っていた。アマテの制服は雨で濡れ、髪も頬に張りつく。曇り予報だったはずなのに──。

 アマテの顔は陰り、濡れた制服も気にせず、そのまま歩みを進める。

 

「……なんで」

 

 胸の奥には、言葉にできないモヤモヤが渦巻いていた。

 

(今日、赤いガンダムにはフブさんが乗っていたはず──)

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

「シュウジは出られないだろう? 赤いガンダムの代わりは、誰が出るんだ?」

 

「「あ……」」

 

「どうしよう!! そうじゃん! シュウジ風邪なんだからクラバ出れないじゃん!」

 

 アマテは頭を抱えて慌てた。ニャアンも顎に手を当てて首を傾げる。

 

「じゃあ、棄権になるってこと……?」

 

「それじゃあ、違約金でちゃう! 今まで稼いだお金がパーだよ! あ! フブさん! フブさんのザクは!!」

 

「急には無理だ……。それに、あのザクは仕事で使う機体だからな……」

 

 フブキは顔を顰めながら答える。シュウジが出られない以上は棄権しかない……しかしシュウジは、フブキにコートを掛けられながら、穏やかに答えた。

 

「フブキさんなら乗れる。ガンダムがそう言っている……」

 

 

 

 ──

 

 

 

(フブさんとの初めての“キラキラ”は私のものだったのに──)

 

 雨がアマテの身体を打つ。それでもアマテは、ゆっくりと、そして次第に走り出していた。息が上がり、足元が濡れるのも構わず、アマテは悔しさを噛みしめながら、雨の中を走る。

 向かう先はジャンク屋カネバン──ジークアクスのパイロットが誰だったのか、確かめるために。

 

 

 

 ──

 

 

 

 

「ニャアン……どうして……」

 

 赤いガンダムのコックピットの中で、フブキは歯を食いしばっていた。

 先ほどのクラバで、年端もいかないニャアンがドムの一機を撃墜した。ビームサーベルで機体をジェネレーターごと真っ二つに。

 パイロットが無事ではないことは明らかだった。

 

(また……俺は、子供に手を汚させてしまった……)

 

 

 

 

 

 

 

 アルジェントさん!! 機体をうまく動かすコツとかないんですか! 

 

 ……そんなものはない。

 

 何かあるでしょ? アルジェントさんに模擬戦で勝てた試しがないんですもん! 

 

 ……強いていうなら……後ろにも目をつける……か? 

 

 ……えっと……冗談っすよね? 

 

 

 

 

 

 

 苦い記憶。胸を締め付けるような後悔。しかし、その思考に浸る間もなく、機体の警告音がけたたましく鳴り響いた。

 軍警察のザクが複数機、こちらに接近している。これ以上は危険だ。

 フブキは迷いながらも、その場を離れるほかなかった──ニャアンを置いて。

 

(……すまない、ニャアン)

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……はああっ……ゲホッ」

 

 アマテは旧整備用トンネルにたどり着き、肩で息をしながら膝に手をついて激しく呼吸を繰り返す。全身ずぶ濡れで、足元から水がしたたり落ちていた。

 だが、息を整える間もなく、トンネルの奥から重く響く足音が近づいてくる。

 

「っ……」

 

 現れたのは──ジークアクス。

 機体のコックピットハッチが開くと、ハロが弾むようにアマテの足元に転がってくる。

 

「スマナイ……マチュ……」

 

「ハロ……? あっ……」

 

 コックピットから、ぐったりとした様子で這い出してきたのは──

 

「っ……ふうっ……」

 

 ニャアンだった。アマテは、言葉を失った。目を見開き、手を握り締める。

 

「ニャアン……!」

 

「あっ! マチュ!!」

 

 ニャアンは、疲れきった体でありながらも、目を輝かせて嬉しそうにアマテに話しかける。

 

「キラキラってすごいね! マチュの言った通りだったよ!」

 

 嬉しそうな声。でも──アマテはその言葉を静かに、そして苦しげに遮る。

 

「……なんで、ニャアンが乗ってるの?」

 

 ニャアンは一瞬、戸惑ったように目を泳がせる。

 

「え……? で、でも……」

 

 しかし、アマテはその姿を見つめ、抑えていた感情を吐き出すように叫ぶ。

 

そこは……私の場所だろ!!

 

 その声には、悔しさと悲しみ、そして譲れない想いが混じっていた。

 

「もういい……。早くどいて。見られたらヤバいでしょ」

 

 アマテが低い声で言うと、ニャアンはしゅんとした様子でジークアクスを譲った。

 

「……うん……」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

「おかえり〜! マチュ! めっちゃすごかったよ!!」

 

「いつあんな戦い方を思いついたんだよ! マジ興奮したぜ! ……あん? どうしたお前、ずぶ濡れじゃねぇかよ」

 

 ケーンやジェジーは今までないほど嬉しそうにアマテの肩を叩いたり、労いの言葉をかける。

 

「手に汗握るバトルだったから汗だくだねマチュ」

 

「次の相手はクランランキングトップの『トゥエルブズ』だ! こいつらに勝ちゃあ! 俺らポメラニアンズが名実共に最強ってことだぜ!」

 

 ジェジーが嬉しそうに話すその足元から、ポメラニアンがぴょんっと跳びつき、アマテの顔を舐める。

 

「へへ。気に入られたみたいだな」

 

 しかしアマテは、無反応でポメラニアンを見つめるだけだった。

 

「……もう帰っていい?」

 

「ど、どうしたの? マチュ?」

 

「様子が変だぞ、マチュ」

 

 ケーンが心配そうに声をかけ、ノブも少し気にかけるが、アマテは暗いままだった。

 

「別に……」

 

 その声はどこか遠く、アマテの瞳は暗いままだった。

 仲間たちの喧騒だけが、虚しく響いていた。

 

 

 アマテは濡れた指でスマホを取り出し、無言で番号をタップする。何度かコール音が鳴った後、フブキが電話に出た。

 

「フブさん。今どこ」

 

『マチュ……? どうしt──』

 

 アマテは食い気味に問いただす。

 

今 何処

 

『いや……k』

 

「会社だね? 今から行くから」

 

 通話はそれだけで切れた。

 アマテの声は濡れた服以上に、冷たく、重かった。

 周囲の空気も一気に凍りつくような雰囲気のまま、アマテは黙ってカネバンを出ていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。