機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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「片桐陽」さん誤字報告ありがとうございました!


衝突と迫る危機

 

 

 

 コロニー拡張工事現場。

 重機の駆動音と資材が積み降ろされる喧騒が、空気を重たく振動させていた。足元には昨日から造られたばかりの新しい区画が広がり、あちこちで作業員が忙しなく動いている。

 

『昨日より、3番工区のバッチャープラントが稼働しております。これに伴い、ヤードへの出入りにはIDのチェックを受けるようご協力──』

 

 機械的なアナウンスがスピーカーから繰り返される。

 その現場を、アンキーはコートの襟を立てて歩いていた。重機の警告灯がちらちらとアンキーの表情を照らし出す。

 

 ──頭の片隅では、昨夜のカネバンでのやり取りが何度も再生されていた。

 

 

「どう考えたって危ないっすよ!」 

 

 ケーンが声を荒げ、ナブですらも「俺も行く!」と同調する。

 それでもアンキーは首を振る。

 

「一人で、という約束だ」

 

「絶対罠だろ!」

 

 すぐさまジェジーが否定するが、アンキーの瞳は静かに現実を見据えていた。

 

「そんな必要もない。──あいつらは今すぐここにビームをぶち込めるんだよ?」

 

 仲間を巻き込む訳にはいかない。そう悟って、アンキーは現場の一角へと足を進めていた。

 

 その「指定された場所」には、自分と同じくコートの襟を立て、こちらを見下ろす男が一人──無骨な雰囲気を纏い、まるでここが自分の縄張りであるかのように仁王立ちしていた。

 

「……再開発でシェルターを拡大しているんですね」

 

 緑の髪にビジネスマンのような装い、無駄な物は一切ない。

 男の声には、どこか寂れたような響きがあった。

 

「……戦争の準備さ。このコロニーだって築70年を過ぎた。当時の連中が夢見た未来はもう消えちまったよ」

 

 アンキーは上を見上げながら、コロニーの天井へと視線を送る。そこには、“空”と呼ばれたスクリーンが運ばれている。今は工事中であり、鉄骨と補強装甲に覆われ、青空の再現などまだ先だろう。

 

「申し遅れました」

 

 男はゆっくりとアンキーの方へ向き直り、眼鏡を外す。

 

「私はシャリア・ブルと申します」

 

 その名を聞いた瞬間、アンキーの背筋が反射的に強張った。

 一拍の沈黙の後、低く呟くように言葉を吐く。

 

「……!! 灰色の幽霊っ!」

 

「やはりご存知でしたか」 

 

 シャリアはわずかに目を細めて頷いた。

 

「以前はジオン国籍だったとか」

 

「……チッ」

 

 アンキーは舌打ちすると、コートのポケットに手を入れた。

 

「今はもう、ジオンもサイド6も信用しない」

 

 その手から取り出されたのは、今どき珍しいアンティークな携帯端末だった。

 無骨なフォルムに、剥げかけた塗装。何年も使い続けた跡が残っている。

 

 アンキーはそれをシャリアの目の前に掲げる。

 

「こいつを押せば、あのモビルスーツは──どっかぁ〜んだ!」

 

 脅しの言葉とは裏腹に、シャリアは微動だにしなかった。

 むしろ穏やかな表情で、両手をゆっくりと上げて見せる。

 

「慌てないでください。私はむしろ──感謝を伝えに来たんです」

 

「……?」

 

 アンキーは眉をひそめ、警戒を緩めない。

 

「これまでに得られたガンダム・クァックスの実践データは、大変貴重なものです。あなたが意図したかはともかく、結果として私たちは多くの情報を得ることができた。……何事もなく返却していただけるなら──謝礼をお支払いしてもいい」

 

 シャリアの声は途切れず、まるで契約書を読み上げるかのように続けられる。そんな言葉に、アンキーの目が細くなる。

 

「……意味がわからない」

 

 シャリアは、まるでそれを予期していたかのように口角をわずかに上げた。

 

「──あのような素晴らしいマヴなら、何度だって見たい」

 

 そう言ってシャリアは微笑み、ポケットからスマートフォンを取り出した。その背面には、ポメラニアンズのロゴステッカーが、丁寧に貼られている。

 

「私も、ポメラニアンズのファンなのです。是非、ランキング1位になるところを見せてください」

 

 アンキーはそのスマホに一瞥をくれたあと、ふっと鼻を鳴らす。

 

「……モビルスーツを壊さず返せる保証はないよ」

 

 シャリアはスマホを片手に持ったまま、涼しい顔で問い返す。

 

「……ん? 何か問題でも?」

 

「──次の対戦相手は“トゥエルブオリンピアンズ”だ」

 

 その名に、シャリアの眉がかすかに動く。

 

「一時は解散寸前だった古参クラン。でも最近オーナーが変わった。……アマラカマラ商会って名前の、素性の知れない会社だ」

 

「…………」

 

 シャリアは無言で耳を傾けている。

 

「嫌な予感がする」

 

 そして、アンキーは一歩前へ出て、シャリアの目を真っ直ぐに射抜いた。

 

「……まさか。あんたと繋がってるんじゃないだろうね?」

 

 シャリア・ブルはしばし沈黙した後、口角をゆっくりと上げる。

 

「面白い推察です」

 

「……まあいい。勝てば賞金はうちが頂くよ。それでいいね?」

 

 シャリアの返答はあくまで穏やかだった。

 

「勿論。──ところで、ガンダム・クァックスを動かしているのは、どのような方なのですか?」

 

「……お嬢ちゃんさ」

 

「──二人とも?」

 

「……?」

 

 シャリアの意味深な問いに、アンキーは首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

 

 イズマコロニー貨物搬入港ドーム。

 

 まだ朝焼けの残る時間、降り立ったばかりのシャトルのハッチから現れたのは、風になびく長い銀髪の少女と、その後ろに続くサングラスの男だった。

 

「ドゥー、あんまりキョロキョロするな。……ただでさえ、お前は目立つんだ」

 

「うるさいなぁ、ゲーツは」

 

 少女──ドゥーは、不満そうに頬を膨らませる。

 

「ようやくイズマに来れたんだから、ちょっとは噛み締めさせてよ」

 

「……何なんだってこんなコロニーがお気に入りなんだ? ドゥー」

 

 ゲーツの問いに、ドゥーは小さく笑いながら、空を見上げて答える。

 

「ここには──お兄ちゃんが居るから」

 

「……お兄ちゃん? お前兄妹いたのか?」

 

「楽しみだなぁ……早く“お兄ちゃん”とキラキラで遊びたい」

 

 その無垢で天真爛漫な笑みとは裏腹に、背後でゲーツの目だけが冷たく鋭く光る。

 

 

 

 

 

 ⸻

 

 

 

 

 

「アマテさん! 今日の三者面談なんだけど、保護者の方は来れそう?」

 

 担任の先生が明るく声をかけてくる。

 

「あ、はい。母が来ると言ってました」

 

「そう! じゃあ先に教室で待ってましょうか」

 

 そう言われ、アマテは先生と共に静かな教室へと向かう。

 空気は穏やかで、時間もまだ余裕がある。だが──

 

 教室の椅子に腰を下ろしても、アマテの頭の中では、三者面談のことなど一切なかった。

 

 ──そこは私の場所だろ!! 

 

 ニャアンを責めた言葉──あの時、頭に血が上って、思わず口にしてしまった。

 

(ちゃんと謝らないとなぁ……)

 

 ニャアンがいなかったら、違約金が発生していたかもしれない。

 クラバに勝てたのも、あの子の頑張りがあったからだ。

 

(それに、フブさんも──)

 

 ──アマテ、その……まだ返事はできないが、必ず答えは出すから……それに加減できなかったと思う。すまん……。

 

 思い出すだけで、顔から火が出そうになる。

 

(あああ〜……)

 

 返事は保留。自分が襲ったのに、途中で動けなくなったのは私だけ。

 

(恥ずかしくて顔も見れなかったし……やっぱり、私も体鍛えたほうがいいのかな……?)

 

 深いため息。教室の時計の針だけが静かに進む。ドアの外から、足音が近づいてくる気配がした。

 

「すみません! 遅れました!」

 

 ガラガラと勢いよく扉が開き、アマテの母──タマキが深々と頭を下げながら教室に入ってくる。

 担任が少し安心した表情で声をかける。

 

「あ、お母様、実は進路希望のアンケートがまだ……」

 

 しかしその言葉が終わるより早く、タマキは手にしていた出席票を机の上に叩きつけた。

 

「これ! 説明しなさい! 塾行ってないわね? 毎晩一体何やってるの? ──父さんになんて言えばいいのよ!」

 

 机に置かれた出席票には、ほとんどの欄に大きく赤いバツ印。

 そこにはアマテが授業や補習に出ていない事実がはっきりと記されていた。

 

「進路のことは真剣に考えてってお願いしたでしょ!」

 

 タマキの声が教室に響く。

 担任は慌てて間に入ろうとするが、アマテは視線を落としたまま、何も言えなかった。

 

「お、お母様、今はちょっと……」

 

 担任が困ったように視線を交わす。

 

「アマテさん? そんなに具体的でなくてもいいから、何かやりたい事とかないの?」

 

 タマキも少し声を和らげる。

 

「希望があるなら話してみてよ。お母さん、ちゃんと聞くから」

 

 アマテはしばらく黙っていたが、ぽつりと呟いた。

 

「……地球に行って、クラゲを見たい」

 

 一瞬、教室の空気が止まる。

 次の瞬間、タマキは眉をひそめて吐き捨てるように言った。

 

「そういうのは進路じゃないの!」

 

 アマテは小さく息を吐き、視線を落としたまま呟く。

 

「……ほら。結局聞いてくれないじゃん……」

 

 椅子が音を立て、アマテはゆっくりと立ち上がる。

 タマキの横を無言ですり抜け、そのまま教室の外へ。

 

「アマテ!」

 

 背後から母の呼び止める声が追いかけてくるが、アマテは振り返らなかった。アマテは瞳を暗くしながら、胸の奥で母への落胆を押し隠せなかった。

 

(やっぱりこうなった……。お母さんは私を見てくれない。なにが希望だ……言ったって、否定されるだけ。それなら……もう何も言わないほうがマシだ)

 

 頭の片隅に浮かぶのは、フブキの姿。

 しかし──あの夜のことが脳裏をよぎり、すぐに胸がざわつく。

 

(……顔、合わせづらいな)

 

 小さくため息をつき、アマテは足を止める。

 そして自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「……はあ。ジークアクス見にいこ」

 

 そうしてアマテは踵を返し、カネバンへ向かって歩き出した。

 

 

 

 ──

 

 

 

 カネバンの古びた鉄階段を、ギシギシと音を立てながら登っていく。

 埃っぽい空気の中、ふいにポケットのスマホがブルっと震えた。

 

「……?」

 

 画面を覗き込むと、そこに表示されたのは──ジークアクスに乗る前に、駅の中で謎のメッセージを送ってきた送信者名。

 “Unknown”

 そして送られてきた短いメッセージは

 

 Don’t make a sound.(音を立てるな。)

 Go in slowly.(ゆっくりと入るんだ。)

 

 一瞬で背筋が冷たくなる。

 

(な、なに? どういう意味?)

 

 アマテは息を詰め、足を止めた。

 階段の上、カネバンの扉はすぐそこ。しかしこのメッセージは警告のようなものを送ってきている。単なる悪戯だと思う。

 しかしアマテは胸の奥にざらつくような嫌な予感を抱きながら、そっと足を踏み入れた。

 薄暗い空間の奥から、アンキーたちの声がはっきりと聞こえてくる。

 

「やっとここまで来たってのに……なんで今なんですか!」

 

「お前だろ? 危険だから早く手放せと言ったのは」

 

「だからって……」

 

 足音を殺し、壁際に身を寄せる。

 その瞬間──耳に飛び込んできた一言が、アマテの血を凍らせた。

 

「赤いガンダムの隠れ家はもう見つけてある」

 

(……えっ)

 

 背中をつうっと冷たい汗が伝う。

 

「10年以上前に廃棄されたエアロックの跡だ。ハッチはジャンクヤードの陰にあって外からの探知も難しい──よくあんな場所を見つけて居着いたもんだ」

 

「まさか……マチュの後をつけたんですか?」

 

「世間知らずの子供だ。簡単だったよ。……コイツに懸賞金がかかってることは知ってるね? クラバの賞金よりも高く売れる情報だ」

 

 声は淡々としているのに、その内容は酷く冷たかった。

 

「いいかい? 明日のクランバトルの最中に赤いガンダムの隠れ家を通報する。で、金が振り込まれたのを確認したらここを引き払う」

 

 アマテの手が震える。

 ──聞いてしまった。絶対に知られてはいけない話を。

 

「今下手に騒ぐと──お嬢ちゃんにバレる。クランバトルが始まるまでは、何もするな」

 

「ジークアクスは?」

 

「勿論置いていく。……ジオンが本気で動き出した。これまでは福の神だったが、この先は疫病神になる。これ以上、関わらないほうがいい」

 

 短く言い切ると、アンキーは迷いもなく立ち上がった。

 その足音が近づき、アマテの隠れている場所のすぐ横を通り過ぎる。

 息を止めたまま、ただその背中を目で追うしかなかった。

 

 ドアが開き、冷たい外気と共に足音は遠ざかっていく。

 

 取り残されたアマテの耳には、重機の音よりも、自分の心臓の音のほうがうるさく響いていた。

 

 

 アマテはジークアクスのコックピットで、ハロを胸に抱きしめたまま俯いていた。

 コックピットは暗く、ただ自分の呼吸とハロの電子音だけが響く。

 

(……私のせいだ……シュウジの新しい隠れ家を見つけなきゃ……)

 

「ガンダムモイッショ!」

 

(……そうだ。シュウジは絶対に赤いガンダムを手放さない。だから……赤いガンダムごと隠せる場所が必要なんだ──どこにあるんだよ、そんな場所……)

 




ちょっとお仕事が忙しくなり、後遺症もあり大変です。
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