機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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白い少女

 

 翌朝。

 フブキはベッドに腰掛け、タブレット端末でタナトスの機体データを開いていた。

 しかし、画面の文字や数値は頭に入らない。昨夜見たあの記憶が、ずっと頭の奥にこびりついて離れない。

 

 誰かの記憶。

 そこには確かにタナトスがあり、そしてその周囲には連邦軍の人間がいた。

 つまり──この機体は、少なくとも出自は連邦にあるということか。

 

「……サイコフレーム、か」

 

 フブキは無意識にその名を口にする。

 正直、危険極まりない代物だと感じていた。サイコミュと同等の機能を、金属粒子レベルでフレームに封じ込めるなど常軌を逸している。

 だが、それがタナトスには当然のように使われている。そして恐らく、それは背中のあのビットを運用するために不可欠な要素だったのだろう。

 

 ──では、なぜ作った? 

 あの異常なまでの技術力を、どういう理由でここまで投入したのか。

 戦争のためか、それとも……。

 

「……はぁ」

 

 ため息とともに、端末を閉じる。

 

「なあ、ロイド」

 

「ん? どうしました?」

 

「マチュのクランバトル、今日だったな?」

 

「……ああ! そうでしたね。確か、ランキングトップの《トゥエルブズ》だったはずです」

 

「トゥエルブズ?」

 

「はい。正確には《トゥエルブ・オリンピアンズ》ですね。オリンポス十二神……地球の神話で言えば“ティターンズ”といったところでしょうか」

 

「大層な名前だな。……《ポメラニアンズ》がふざけてるのがよくわかる」

 

 フブキは鼻で笑いながら皮肉を口にすると、ロイドは小さく笑った。

 

「ふふ。しかし、そんなふざけた名前の弱小クランが、今やトップと戦おうとしているんです。凄い快挙ですよ」

 

「……俺としては、あまり嬉しくはないな」

 

 フブキは視線をタブレットに落とし、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「背を押してやるとは言っても、限度がある。俺のせいであの子が死んでしまったら……俺は……」

 

「──大丈夫ですよ」

 

 ロイドは遮るように、しかし落ち着いた声で言った。

 

「アマテさんは、強い子です。貴方と同じように。──今日はシミュレーションでタナトスに慣れてもらおうと思いましたが……お休みにしましょう」

 

 唐突なロイドの言葉に、フブキは目を瞬かせた。

 

「……どういう風の吹き回しだ?」

 

 呆気に取られたような問いかけに、ロイドは瞳を細め、鋭くフブキを見据える。

 

「……実は、嫌な噂を耳にしまして」

 

「何だ?」

 

「ジオンの船がこのイズマに入港したのはご存知ですね?」

 

「ああ。反対運動が起きていたからな。いやでも目につくさ。それが?」

 

「どうやら、重要人物がこのイズマで会合をするらしいのです。その護衛として来たとか」

 

 フブキは端末を机に置き、腕を組んで考え込む。

 

「重要人物……ね」

 

「ひとまず、その会合が終わるまでは大人しくしておいた方が良いでしょう」

 

「ふ。だから休暇か……呑気なもんだな」

 

 ロイドは肩をすくめ、口元に悪戯めいた笑みを浮かべる。

 

「ふふ。アマテさんとどこかへ行かれては? ここ3日、会っていないでしょう?」

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 アマテは公園のベンチに腰掛け、足を組みながらスマホの画面を眺めていた。

 表示されているのは、つい先ほどまでのフブキとのやり取りだ。

 

『フブさん、今日会える?』

 

『ああ。ちょうど休みにもなった』

 

『よかった。じゃあ久しぶりにあの公園で会おうよ。待ってる』

 

 ここは──フブキと初めて出会った場所。偶然が縁を結び、アマテの人生が動き出した始まりの地。

 ベンチに背を預けたまま、アマテは小さく息を吐く。

 

(……ニャアンには話した。今夜のクランバトルで、どうにかしてシュウジを地球に逃すって)

 

 アンキーたちがシュウジを軍警に売った。金のために。

 胸の奥に走ったのは怒りというより──「ああ、やっぱりそうか」、という諦めに似た感覚だった。

 

(シュウジは言っていた……「ガンダムは薔薇を探している。だから、地球に行く」って)

 

 その「薔薇」が何を意味するのかは分からない。けれど、シイコさんが言っていた「自分と同じ望み」という言葉が頭をよぎる。

 もしそれが、シュウジがガンダムと共に地球へ行くことで叶うのなら──私はそれを叶えてあげたい。……フブキさんが、私にそうしてくれたように

 

 小さく握りしめた拳を、膝の上でそっと開く。

 視線を上げれば、あの日と同じ木漏れ日がベンチの足元を照らしていた。

 

 

 

 

「あの日とは逆だな。アマテ」

 

 背後から掛けられた声に、アマテは振り返る。

 木陰から現れたのは、黒いジャケット姿のフブキだった。

 

「……ふふ。女子高生に話しかける黒い人は、不審者じゃない? フブさん」

 

 フブキは肩をすくめると、アマテの隣に腰を下ろし、手にしていた缶のカフェオレを差し出した。

 

「ほら」

 

「ありがとう」

 

 プルタブを開けた音と共に、甘い香りが立ちのぼる。アマテは一口飲んだ後、少し視線を逸らして口を開く。

 

「フブさん、答え……決めてくれた?」

 

「ぶふっ!! げほっ……んんっ! それを聞くためだけに?」

 

 不意打ちに盛大にむせるフブキ。その様子を見て、アマテは小さく笑った。

 

「ふふ。冗談だよ」

 

 缶を両手で包み込みながら、ふっと真剣な眼差しに変わる。

 

「──フブキさん。私、地球に行こうと思う」

 

「……唐突だな。何があった?」

 

 アマテは少し黙り、唇を噛む。その沈黙を破るように、フブキが低く問いかけた。

 

「……シュウジくんか?」

 

「──さすが……」  

 

 アマテは息を吸うと、静かに喋り始める。

 

「アンキーにシュウジの居場所がバレた。……私のせいで」

 

 アマテの出した声は、かすかに震えていた。

 

「……ガンダムもってことか……」

 

「そう。アンキー達は今夜のクランバトルの最中に軍警に通報する。クランバトルが終わってシュウジが隠れ家に帰ったら……」

 

「……待ち構えていた軍警が、ガンダム諸共確保って訳か」

 

 フブキの言葉に、アマテは小さく頷いた。

 

「そう。だから今日しかないの……シュウジを逃す。クランバトルが終わったら地球へ……」

 

 フブキは顎に手を当て、視線を宙に泳がせる。

 

「スペースグライダーを買っている余裕はないか……」

 

 フブキは溜め息を吐くと、空を睨みながらアマテに問いかけた。

 

「アマテ、それはお前がやりたいことなんだな?」

 

「うん。そうだと思う」

 

 フブキは深く息を吐き、視線を逸らす。

 

「正直、俺には理解できない。何でお前はシュウジに対してそこまでできるんだ? ……冷たい言い方にはなるが、彼はどこまで行っても他人だろうに」

 

「……フブさんのせいだよ?」

「は?」

 

「フブさんが私にしてくれたように、私もシュウジにしてあげたいの」

 

 アマテはまっすぐフブキを見つめながらそう呟くが、フブキは視線を逸らしてしまう。

 

「──俺は、何もしていない」

 

「ううん。フブキさん、貴方は貴方が思っている以上に多くの人を救ってる。その最たる例が私だよ。フブキさんが自分を否定することは、私を否定することと一緒」 

 

 胸に手を当てながら自信満々にそう謳うアマテ。フブキはバツが悪そうにジトっとした目を向ける。

 

「……少し意地が悪くないか?」

 

 アマテは唇を吊り上げ、どこかいたずらっぽく笑った。

 

「ふふ。女はこれくらいが可愛いって、シイコさんに教えてもらったから」

 

「──お前の覚悟はわかった。俺も出来る限り協力する。やれるとこまでやってみろ」

 

「うん。ありがとう、フブさん。地球について落ち着いたら、また連絡するよ」

 

 アマテは少しだけ名残惜しそうに微笑み、缶を置いて立ち上がった。

 

 ──アマテは立派だ。俺なんかよりもずっと。

 子供というのはそういうものだ。少し目を離した隙に大きくなって、気づけば自分の立っていた場所からずっと先へ進んでいる。

 

 俺は、もうこれ以上は進めない。

 アマテのような可能性は、とうの昔に捨て去った。

 

 俺にできることは──大人として、その背を守ってやることだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、お兄ちゃん!」

 

 そんな二人の間に、突然白い髪の少女が勢いよく飛び込んできて、フブキの胸に抱きついた。

 

「な、なんだ?」

 

「ちょっ! 誰!?」

 

「ふふふ。お兄ちゃん!」

 

 白い髪の少女は、フブキの胸に頬を擦りつけながら、スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。

 

「ちょっと!! フブさんから離れて! フブさんも何で固まってんの!」

 

 アマテの声でフブキは我に返り、少女の肩をそっと掴んで優しく引き剥がそうとした。

 

「す、すまない! 離れてくれないか!」

 

 しかし少女は、その華奢な身体からは想像もつかない力で、がっしりとフブキにしがみついたままだ。

 

「い〜や〜。ようやく会えたんだもん。少し堪能させてよ、お兄ちゃん」

 

「お兄ちゃんって……! フブさん! 兄妹いたの!?」

 

 アマテが鋭い視線を向けて詰め寄るが、フブキは困惑を隠せぬまま、はっきりと首を振った。

 

「い、いない! 俺は孤児院育ちだ! 家族はいない!」

 

 少女はフブキの言葉を聞いて、微笑む。

 

「へぇ〜お兄ちゃん孤児院育ちなんだ! 僕も同じようなものだよ! やっぱり僕達はなるべくして一緒になったんだよ!」

 

「な、なにをいって……?」

 

は? 黙って聞いてればふざけたこと言って……頭湧いてんの?」

 

 アマテが眉間に皺を寄せて詰め寄ると、白い髪の少女は露骨に不機嫌な顔をした。

 

「……さっきからうるさいなぁ。なんなの、お前? お前がいたらキラキラしないんだよ」

 

「は? こっちのセリフなんだよ。突然現れて何言ってんの? フブさんは私のなんだよ。お前のじゃないの。自称兄妹」

 

「……ほんとにムカつくなぁ。誰だよお前」

 

 二人の間に、ピリピリとした空気が漂う。フブキは間に割って入ろうと一歩踏み出したが、どちらも譲る気配はなかった。

 

「ま、待て! 二人とも! まずは互いに落ち着いてだな!」

 

お兄ちゃんは黙ってて

フブキさんは黙ってて!

 

 二人から同時に突き放され、フブキは思わず肩を落とす。

 

「私はフブキさんに、自分の“初めて”をあげたの! フブキさんも私を受け入れてくれた! 私たちは本当の意味で繋がってるんだよ!」

 

「ふーん……? ま、僕はお兄ちゃんの“全て”を与えられて僕が造られたし? 僕がお兄ちゃんで、お兄ちゃんが僕っていうか? マヴ、だっけ? 僕が一番上手くできるよ。お前とは違うね」

 

 白い髪の少女は唇の端を吊り上げ、あからさまに挑発する。

 二人は互いに顔を近づけ、視線をぶつけ合いながら、火花を散らすように罵り合った。

 

「……あんた、突然現れて何様のつもり?」

「ん〜?お兄ちゃんの“一番”様かな?」

 

 空気がきしむような沈黙が、2人の間を満たしていった。しかし、

 

「二人とも! やめろ!」

 

 フブキは声を荒げながら二人の肩を掴む。

 その力に押され、二人は渋々と距離を取った。

 

「チッ!」

 

 アマテは舌打ちをし、まだ視線だけで少女を射抜くように睨み続ける。

 

「あ〜あ、いいところだったのに。お兄ちゃんは甘いなぁ。……まあ、そんなところも好きだけど」

 

 白い髪の少女は、あくまで挑発するように軽い調子で言い、わざとらしく肩をすくめてみせる。

 アマテは歯をギリギリと噛み鳴らし、怒りを堪えながらも一歩も引かない。

 しかし当の少女は、まるで面白がっているかのように、わざとふざけた口調でやれやれといった仕草を見せていた。

 

「まあいいや。今夜のクラバが楽しみだよ」

 

「!? どういう意味!」

 

 アマテが即座に食ってかかる。

 

「ん? 今日のクラバの相手だよ。……ポメラニアンズだっけ? 白い方に乗ってるのお前でしょ?」

 

 白い髪の少女は口の端を吊り上げ、ゆっくりと言葉を重ねる。

 

「本当に楽しみだよ。──惨めに捻り潰してあげる」

 

 ニヤニヤとアマテを見据えるその視線は、まるで獲物を前にした捕食者のようだ。

 アマテは額にビキビキと血管を浮かべながら、殺気を隠そうともせず睨み返す。

 

「はっ! 言ってろ!」

 

「落ち着け! マチュ!」

 

 フブキは慌ててアマテを制し、少女の方へ向き直る。

 

「何があったのかは知らないが、どうして君のような子供が……!」

 

「ん? 子供が乗っちゃいけないの?」

 

 少女は首を傾げ、何も気にしていないような顔で笑う。

 

「まあいいや。任務だし。……そろそろ帰らないと。ゲーツに怒られちゃう」

 

「君は──」

 

「ふふ。会えて嬉しかったよ! お兄ちゃん。僕はドゥー。ドゥー・ムラサメ。覚えてね? お兄ちゃん! んっ……」

 

 そう言うや否や、ドゥーは一歩踏み出し、フブキに抱きつく。

 そしてためらいもなく、その唇を奪った。

 

「…………っ!?」

 

 あまりに突然のことに、フブキは声を失う。

 間近でその光景を目にしたアマテは、全身を震わせ、ワナワナと拳を握りしめた。

 

「な、ななな……!」

 

 アマテはギリッと奥歯を噛み締め、そのまま一気にフブキへ詰め寄った。

 そして、勢いよく彼の襟を掴み──

 

「……んっ!」

 

 唇を重ねた。

 

 不意を突かれたフブキは目を見開くしかなかった。

 強い口付けの後、アマテは荒い息を吐き、睨みを利かせたまま言い放つ。

 

「──ぷちゅ、はぁ、はぁ……フブさん! 帰るよ!」

 

「あ……? あ、ああ……」

 

 その背後で、ドゥーはケラケラと楽しそうに笑っている。

 だが、アマテは一切振り返らず、フブキの腕を引いてその場を離れた。

 

 




もうGQX本編では7話。終わりが近づいてますね。
ここまで来れたのも読んでくださる皆様のおかげです。
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