機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
「おい! 今日も遅ぇぞマチュ!!
「う、うるさいな! 間に合ったんだから良いじゃんか!」
ジェジーはマチュに怒号を浴びせるが、当の本人であるマチュは顔を赤くしながらジークアクスのコックピットに乗り込んでいく。
その様子を横目に、ケーンは電子音が鳴り響いた端末を覗き込み、思わず驚きの声をあげた。
「あ、あれ? 何これ? ジェジー! 見てこれ!」
「あん? なんだ……? なんでスポーン位置が変わってんだよ!」
ケーンは慌てた指先で画面をスクロールさせる。
マップ上の表示は確かに、いつもの宇宙空間からは明らかに外れている。
「う〜ん……直前にスポーンが変更されるのは前にもあったけど……コロニーの中ってのは初めてだよ……」
「馬鹿じゃねぇのか……? コロニーの中ってのは。ケーン! 運営に問い合わせろ!」
モニターの光に照らされた二人の表情は、明らかに動揺を隠せていなかった。
マチュはジークアクスのコックピットを閉じると、機体ごと地下トンネルへと降下していく。
その様子を見ながらアマテが通信越しに問いかけた。
「なに? なんか問題あったの?」
モニターを見ていたケーンの横で、ジェジーが明らかに苛立った声で返す。
《意味がわからねぇ! 待ち伏せしてくる軍警の裏をかくって運営は言ってるけどよぉ! おいマチュ! コロニー中での戦闘になんぞ! お前のビームライフルは使うんじゃねぇぞ!》
「分かってるよ。……そろそろか」
アマテはジークアクスをトンネル内で停止させ、コックピットを解放した。
「ん? どうしたのマチュ? なんで立ち止まった?」
ケーンはジークアクスのシグナルがトンネル内で停止したことに眉をひそめた。だが、返ってきたマチュからの無線は、雑音と断片的な音声にかき消され、まともに聞き取れるものではない。
「なんだよ今日は! 隔壁にもミノフスキー粒子が撒かれてんのか?」
アマテは深く息を吐くと、ジークアクスのコックピットから出て機体の手のひらに乗る。
自動制御で手のひらが地面に降ろされると、その先にはジャージ姿のニャアンが静かに立っていた。
「マチュ……」
「ニャアン、話した通り。お願いできる?」
「……わかった」
短く応えると、ニャアンは少し顔を伏せたままジークアクスの手に乗り、ゆっくりとコックピットへと運ばれていく。
アマテはジークアクスのコックピットが閉まっていくのを見届けながら、数時間前の出来事を思い出していた。
──
「ニャアン! シュウジの隠れ家がバレた! 明日……いや、今日のクランバトルが終わる頃には、軍警に捕まっちゃう! その前に、なんとかシュウジを地球へ逃がしたいんだ!」
焦燥を隠せない声で叫び、アマテはニャアンの両肩を強く掴んだ。
しかし、ニャアンは視線を逸らし、小さな声で問い返す。
「……マチュって、シュウちゃんのこと好きなの……?」
一瞬、アマテは言葉を失った。それでも、まっすぐに彼女の目を見て答える。
「……大切な友達だよ」
「……」
──
ゲーツは紺色のノーマルスーツに身を包み、モノアイが光る機体の上で苛立ちを隠さず悪態をついていた。
「なんでスポーンが変更されたんだ? リーク情報で軍警を外に誘い出して、中に残るのは俺たちだけのはずだったのに……! 運営も余計なことをするっ!」
その時、無線が入る。
《何か問題?》
「ドゥー、コロニー内にミノフスキー粒子が散布された。通常のアビオニクスは使えなくなるぞ」
《ふ〜ん。どうでもいいな。サイコガンダムなら問題ないでしょ。んっ》
ドゥーは装着していたマスクを外し、大きく息を吸い込む。
「……はあ。ふふ。僕はこのミノフスキー粒子の匂いが大好きだよ」
《ドゥー? 大丈夫なのか?》
「アイツを倒せば……お兄ちゃんも出てきてくれるのかな?」
《おい、無視するなドゥー》
──
赤いガンダムとジークアクスは、普段は地下高速道路として利用されているルートから歩み出て、コロニー内部へと姿を現す。
《今日も彼に乗っているのはニャアンなんだね。まあ、面白いからいいけど》
シュウジの操る赤いガンダムと、ニャアンが乗るジークアクスは、周囲を慎重に見回しながら索敵を続けていた。しかし、ニャアンの表情はどこか浮かない。
(シュウちゃん……マチュと合流したら、そのまま三人で地球へ行く……私も、もうこのコロニーには居られない……)
「シュウちゃん! 今日はバトルが終わっても私から離れないで」
《なんで? でもまあ、わかった》
「今日はずっと一緒にいて……」
その小さな呟きが通信の片隅に消えた直後、コロニーの天井付近で白い閃光弾が炸裂し、クランバトル開始を告げる合図が響き渡った。
──
「これは……モビルアーマー……!」
「ちょっ! フブキさん!?」
フブキは整備区画を駆け抜け、息を切らしながらモニタールームへ飛び込む。室内ではロイドと数名の整備員が、大型モニターに映るクランバトルの映像を凝視していた。
「ロイド!」
「! フブキさん。ちょうどお呼びしようと思っていました」
「これはどういう事なんだ!」
ロイドは腕を組んだまま映像を見つめ、低い声で応える。
「……クランバトルの運営は、一線を超えましたね。まさかコロニー内部で戦闘を行うとは」
「それだけじゃない! トゥエルブズの機体、あれは──」
「十中八九、モビルアーマーでしょう。魔女の件と同じく、アナハイムが関与している可能性があります」
ロイドの言葉に、整備員たちはざわめきを隠せない。フブキは画面越しに、異様なシルエットを持つ巨影を睨みつけた。
モニターには、四角い形状をした巨大モビルアーマーが映っていた。ゆっくりと装甲が開き、内部フレームがせり上がる。やがて胴部が引き伸ばされ、四肢が展開──頭部からは二本のアンテナが立ち上がる。
「ガンダムっ! あのモビルアーマー……ガンダムなのか?」
ロイドは一瞬だけ息を呑み、低く呟く。
「……完成していたのですね」
「……どういうことだ?」
「実は、連邦が極秘裏に建造していたモビルスーツがあったのですが……開発計画は中止になったはずでした。しかし──」
フブキはモニターの中で立ち上がる巨体を睨みつける。
「だがそれは今ここにある……連邦は、どうにかして作り上げたってわけか」
──
マチュは金庫の前に立ち、迷いなくボタンを押し込んでいく。その手つきは、押すべき位置を完全に理解しているかのように正確だった。
カチリ──ロックが外れる音。
「開いた……」
「ドロボウダゾ!」
「どうせ私とシュウジが稼いだお金だし。有意義に使わせてもらう」
アマテは金庫から札束をつかみ取り、カバンへと詰め込む。バサバサと紙幣が重なる音が響く中、一刻も早くニャアンたちと合流しなければと焦りを募らせる。しかし──
「……なるほどね」
「っ!」
「そういうことかい。──今ジークアクスに乗っているのは、あの運び屋だな?」
アマテは金庫の奥にあった銀色の拳銃を掴み取り、そのまま背後で腕を組んでいたアンキーに向ける。
「どいて、アンキー」
「それは出来ない相談だね」
銃口を向けられているにもかかわらず、アンキーは眉ひとつ動かさず、むしろ笑みすら浮かべていた。
「いいかい? カバンに入れたもんを全部戻して、お家に帰るんだ」
「無理。私は約束を果たす。シュウジのために……何よりフブさんのために」
アマテの瞳は一切逸れず、銃口は真っ直ぐアンキーを捉えている。
「お前に撃てっこないよ。モビルスーツで戦うのと、自分の手で直接汚すのは、全然別のことだよ」
アンキーは肩をすくめ、呆れたように視線を外す。
「……男で身を滅ぼすなんて、ダサすぎるんだよ」
「……アンキーがそうだったから?」
その問いに、アンキーは口を閉ざした。
アマテはふっと笑い、少しだけ力を抜く。
「優しいね。自分と同じ轍を踏まないように、わざとそう言ってくれる。……私は銃なんか撃ったことない。素人だよ。そんな素人に、ちゃんと話をしてくれるんだから」
「ごちゃごちゃ言ってないで、カバン置いて帰りな!」
「やっぱり、アンキーは優しいよ」
アマテはカバンを拾い上げ、銃を床に落とした。そのままアンキーの横を、堂々と歩き抜ける。
「色々ありがとう。アンキー達とのクラバ……ちょっと楽しかったよ」
アマテの背中が視界から消えるまで、アンキーは動かなかった。
握りしめた拳に、爪が食い込む。
「……馬鹿な女……もう後戻りできないよ……」
その声は届かない。届くこともない。
だが、アンキーの視線はなおも遠く、歩き去った方向に釘付けになっていた。
──
フブキは画面の中で、被弾しながら必死に逃れるジークアクスを見つめ続けていた。
胸の奥が焼けるように熱い。指先が無意識に握りしめられる。
(どうする? どうする? 俺には何ができる? ──あの子を守ると言ったのに、見ているだけか……)
額から流れ落ちる汗の感触と同時に、脳裏にかすかな旋律が流れ込む。
ラ……ラ……
「この歌……」
一瞬で視界が緑の輝きに覆われる。
その中心に──タナトスが佇んでいた。
だがそれは、自分の知る姿ではない。装甲は白く、縫うように緑の光が走っている。初めて見るのに、懐かしいような。
同時に、誰かの激しい言い争いが響き渡った。
「馬鹿な真似はやめろ!」
「やってみなければ分からん!」
「正気か!」
「貴様ほど急ぎすぎもしなければ──人類に絶望もしちゃいない!」
最後の一言は、なぜか酷く悲しい響きを伴っていた。そして同時に、自分のやるべきことを理解した。
「──ロイド」
「……分かってますよ。こういう時のために、準備は終わらせています」
フブキは静かに立ち上がり、扉へと歩き出す。取っ手に手をかけ、振り返らずに言った。
「アンタとは長かったな。最初は胡散臭いやつだと思ってたが」
「……私もですよ。クソ生意気なガキだと思ってましたがね。長く関われば色々と見えてくる。──餞別です。ノーマルスーツも持って行って構いません。あれはあなたに必要なものですから」
「……感謝する」
そのまま、フブキはモニタールームを後にした。
フブキは全力で格納庫へ駆け込んだ。
床を響かせる足音に気づいた作業員たちが、手を止めて一斉に振り向く。
「フブキさん? どうしたんです!?」
「……はぁっ、はぁ……タナトスを出す」
「え!? でもまだ終わっちゃ──」
フブキはその言葉を聞き流し、梯子を駆け上がってコックピットへ飛び込む。
その瞬間、モニターが淡く光を放ち、まるでこの時を予期していたかのように起動音が響いた。
「無理ですよ! まだビットとの調整が……!」
「命令だ」
短くも鋭い声に、整備員は歯を食いしばる。
「……っ! 知りませんよ!」
コックピットハッチが閉じられ、全天周囲モニターに格納庫の景色が映し出される。
フブキは操縦桿に手を置き、低く呟いた。
「すまないな。……これは俺の我が儘だ」
油圧音と共にタナトスが昇降リフトで地下トンネルへと降下。
固定アームが次々と外され、自由を得た機体がわずかに前傾する。
──行くぞ、ガンダム。
「……フブキ・アルジェント、出る」
──
「良いんですか!? 今出たらフブキさんでも狙い撃ちされますよ!」
整備員やスタッフたちの声が次々とロイドの耳に届く。
だがロイドは答えず、腕を組んだままモニターをじっと見つめていた。そこには、格納庫を後にするタナトスの姿と、外で荒れ狂う戦火が映っている。
やがて、彼は静かに口を開いた。
「……皆さん、現時刻をもってフブキ・アルジェントを解雇処分とします」
その場にいた全員が息を呑む。
「並びに、タナトスに関してのデータを全て抹消。いいですね? 我々は、あんなモビルスーツは知らない」
ロイドの視線は鋭く、そしてどこか決意を秘めていた。
「え……? なんでいきなり……」
誰かが戸惑いを漏らす。
「手が空いている者はすぐに避難・救助に回ってください」
ロイドは声を荒げず、それでいて誰も逆らえない口調で告げた。
「なるべく急いでください。コロニーでの戦闘で民間の人に被害が出ています」
──
…………いつかは、この日が来るとは思っていた。
「ねぇ、お父さん」
「ん?」
「私……好きな人ができたの」
この時の衝撃は、今でも忘れない。
「へぇ〜…………ん? な、なんだって?」
「えへへ……」
見たこともないような恥ずかしそうな顔でそう話す娘。
好きになった男に、少しだけ腹が立った。
「……だ、誰だ?」
「えっと、同じ士官学校の子なんだけどね……? 私の大好きな人。無口で表情が固いけど、それはただ感情の表現が苦手なだけ。
そんな子が、私の作った卵焼きを食べて『美味しい』って笑ってくれるの。
……私はね、そんな彼の笑顔を見るのが、すごく好きなんだ……」
「くっ! 羨ましい。我が娘に、そんな風に思われるなんて──」
「な、何言ってるのお父さん!」
「だってぇ!」
あの子は君のことが好きだった。多分、この世界で誰よりも。
だからこそ、最初は気に入らなかった。
何にも考えてないような子供が、あの子に相応しいのか、否なのか。
──でも、それは間違いだった。
あの子の言う通り、感情表現が苦手なだけだった。
モニターの向こうで、黒いモビルスーツが静かに動き出す。
ロイドは拳を軽く握り、誰にも聞こえない声で呟いた。
「行きなさい、フブキくん」
私に出来ることはここまでです。フブキくん。
──これでよかったかい? カエデ。
お盆ですねぇ。皆様はいかがお過ごしでしょうか?
私も祖母の初盆に行きましたよ。暑い夏、ゆっくり過ごして帰っていただきたいものです。