機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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「霧空」さん、「儚木倖一」さん、「白金」さん、誤字報告ありがとうございました。


灰色の幽霊

 

 

 

「アマテ……! どこだ……! どこにいる!」

 

 フブキはタナトスを操りながら周囲を警戒する。崩れた建物、立ち昇る炎。その中で、モビルアーマーが頭を抱えて無差別にビームを乱射していた。

 

(……殺意が無邪気すぎる。コロニー内でも容赦なくビーム兵器を……! っ!)

 

 

 ラ……ラ……

 

 

 次の瞬間、フブキの頭の奥に歌声が響き渡る。

 同時に、コロニー内部でひときわ赤く輝く光が広がっていった。

 

「あれは……ソロモンの時の……! アマテ!」

 

 ソドンがメガ粒子砲を放ち、トゥエルブズのガンダムへと襲いかかる。しかしそのビームは拡散され、建物をも巻き込みながら辺りに散乱していく。

 

「ちぃ! どいつもこいつも! ……ジークアクスは!? アマテはどこだ! ──はっ!」

 

 

 ──こっちだ──

 

 

 耳ではなく、頭に直接響く声。

 混乱の渦に焦るフブキの中で、確かに何かが灯った。

 まるで誰かが隣で導いてくれるかのように、タナトスのモニターが一点を指し示す。

 

「……そこに居るんだな? ガンダム」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……っ!」

 

 アマテは肩にカバンを背負ったまま、震える手でスマホを確認する。しかし画面には無情にも「ネットワークエラー」の文字が点滅していた。電波が死んでいる──連絡も、待ち合わせも、全て不可能。

 

「デンシャガトマッテル! スマホモ、ツウジナイゾ!」

 

「わかってるよ!これじゃ…!」

 

 ハロが走るアマテの横で不安げに鳴く。

 

 遠くで爆破音が木霊する。

 人気の途絶えた通りには、非常事態を告げるように、エンジンがかかったまま放置された車が無数に並んでいた。

 胸の奥で焦燥が渦巻く。

 

(何が起きてるの? ……クランバトルは?)

 

 無我夢中で走り抜けたその先。

 視界に広がったのは、地面が抉れ、黒煙を吐き出す巨大な穴。

 

「……っ」

 

 息を呑むアマテ。その向こう側に、横たわる機影があった。

 

「ジークアクス……? なんでこんなところに……」

 

 アマテはジークアクスへ駆け寄った。

 コックピットは開きっぱなしで、そこにあるはずの姿──ニャアンがいない。

 

「ニャアン……? どこに……? シュウジは……?」

 

 視線を巡らせる。しかし辺りに人影はなく、赤いガンダムすらも見当たらなかった。

 不安が胸を締めつけたその瞬間──

 

 眩い光が全身を焼く。

 

「動くな!!」

「持ってる物を……ゆっくり置け!」

 

 鋭い声が飛ぶ。

 アマテが振り返ると、軍警がライフルを構えていた。その背後には武装したザクが鎮座し、無機質なライトでアマテを照らしている

 

『照合開始します! ──アマテ・ユズリハ! 学生です!』

 

「よーし、モビルスーツから離れろ! テロリストめ! 抵抗するなよ!」

 

 ライフルの銃口が、冷徹な光を宿してアマテを狙う。

 テロリスト? 私が……? 

 目の前のクレーター、そして倒れたジークアクス。その構図が、彼らの誤解を補強してしまう。

 

「ち、ちがう! 私はテロリストじゃっ──」

 

「黙れ! 動くなと言ってるだろ!」

 

 必死の訴えは虚空に吸い込まれる。

 絶望しかけたその時──

 

 ──ガキィィン!! 

 

 背後で金属が弾けるような音が鳴り響いた。反射的に振り返ると、ジークアクスのフェイズガードが展開し、緑のツインアイが妖しく点灯していた。

 

「……っ! 総員、撃て!」

 

 軍警の号令と同時に、無数の銃口から閃光が迸った。

 アマテは反射的に目を瞑り、顔を手で覆う。死を覚悟した刹那──

 

 轟音と足元が揺さぶられる衝撃、金属が弾ける音。

 

 恐る恐る目を開いた彼女の視界には、黒い機体が膝をつき、背で庇うように立ちはだかる姿があった。

 

「タ、タナトス……フブさんっ……」

 

 震える声で呟いた瞬間、機体の外部スピーカーから力強い声が響く。

 

『ジークアクス! ──マチュを守れ!』

 

 その命令が雷鳴のように響いた途端、横たわっていたジークアクスが唐突に動き出す。

 巨大な鋼の手がアマテの身体を容赦なく掴み、コックピットへと投げ入れた。

 

「きゃっ──! ちょっと待って! ジークアクス!」

 

 シートに叩きつけられる衝撃。

 視界がぐらりと揺れる中、コックピットが閉まり、スラスターの唸る音がアマテの鼓膜を震わせた。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 ジークアクスはアマテを乗せたまま、スラスターを噴かして夜空へと飛び去っていった。

 フブキはわずかに息を吐き、胸を撫で下ろす。だがすぐに、視線を前へと戻した。

 そこにはライフルを構え、なおもこちらを睨みつける軍警たちがいる。

 

(……本当に何も変わっていないんだな……軍警。だが今はお前達に構ってる暇はないんだ)

 

 怒りを噛み殺し、タナトスをゆっくりと立ち上がらせる。

 鉄の巨体が影を落とすと、軍警の一人が叫んだ。

 

「お、おい! 動くな!!」

 

 軍警のザクが慌ててマシンガンを構え、タナトスに向けて射撃する。しかし撃たれた弾は装甲に弾かれるだけであり、ダメージが与えられることはなかった。

 

 フブキの声が低く響く。

 

「……邪魔だ」

 

 そしてタナトスの頭部バルカンが閃光を吐く。

 

 その瞬間、ザクの頭部が砕け、火花と煙を吹き上げて視界を失った。

 軍警の動揺の声が無線に飛び交う。

 

 アマテの乗るジークアクスは無事に飛び去った──そう信じて、フブキは一切振り返らず、タナトスを加速させて例のガンダムへと向かう。

 

 そしてそれはすぐに現れた。崩れたビルの外壁に、巨大な影がよじ登っていた。

 

(……なんだ、あれは……!)

 

 それはガンダムの姿をした“巨人”だった。通常のモビルスーツをはるかに凌駕する質量が、コロニーの街並みを歪ませるかのようにのしかかる。

 巨大な腕が振り下ろされる。フブキは即座にビームサーベルを抜き、構えを取った。

 

「これ以上、コロニー内で戦闘は……!」

 

 辺りには無数のビットが舞い、タナトスの行く手を遮る。光の網が迫り、反応速度の限界を試すかのように、幾筋もの光線が奔った。

 

「よくも……こんな化け物を……!」

 

 舌打ちしながら、フブキは機体を跳躍させる。

 

《あははは! 来たんだね、お兄ちゃん!》

 

 タナトス内部に響くような、無邪気で幼い声。

 だがその明るさは状況と噛み合わず、むしろ異様な恐怖を生む。

 

《いいよっ! 一緒に遊ぼう! お兄ちゃんとなら、いつまでもキラキラできるよ!』》

 

「この声……! ドゥーなのか!? 何故そこにいる!」

 

 フブキの脳裏を、少女の面影が過ぎる。しかし眼前にいるのは、あまりに歪んだ“ガンダム”に乗る少女だった。

 

「鬼神! 本当に存在したのか! ドゥー! 黒いガンダムを排除しろ!」

 

 ゲーツの声は焦りに震えていた。

 

《うるさいなぁ、ゲーツ! 僕とお兄ちゃんの間を邪魔しないで!》

 

 ドゥーの無邪気な声が、サイコガンダムの外殻から響き渡る。だがその声音は、むしろ狂気を孕んでいた。

 

「ドゥー! ……くそっ、これだからムラサメ研は!」

 

 ゲーツが警告を飛ばす間もなく、自身の機体であるハンブラビが警告音をならす。

 

「──っ! 上か!」

 

 サイコガンダムの装甲に弾かれたビームが爆炎を巻き起こし、ゲーツを襲う。視界を炎で覆われながらも、彼は必死に機体を制御する。

 

 だが、その目に映ったものに凍りついた。

 

「こ、こいつ……! 灰色の幽霊……!」

 

 軍歴を積んだ者なら誰もが噂に聞いた存在。その機体から広がるのは、恐怖と畏敬の混ざり合った圧だ。

 

「気をつけろドゥー! オールレンジ攻撃が来るぞ!」

 

 灰色のモビルアーマー、キケロガ。そのコクピットに座するのは、ジオン最強のニュータイプ、シャリア・ブル。

 圧倒的な存在感を放ち、ゆっくりと戦場に降臨する。

 

「人の造ったニュータイプか……!」

 

 シャリアは驚愕を抑えつつ、キケロガの有線メガ粒子砲を射撃したが、サイコガンダムのフレームビットに遮られ虚空に散る。

 

「っ……! これ程とは……! 少年!」

 

「下がっていろ! シャリア・ブル!」

 

 フブキのタナトスが疾駆する。次の瞬間には、サイコガンダムの頭部に張り付き、必死に呼びかけていた。

 

「ドゥー! やめろ! これ以上コロニーで暴れるな!」

 

《キラキラ! キラキラだよ! お兄ちゃん!》

 

 その声は無邪気に響き渡る。だが、破壊の閃光と共に吐き出されるその言葉は、狂気と紙一重だった。

 

「少年! 離れなさい! 彼女は正気ではありません!」

 

「黙っていろ! シャリア・ブルッ! ぐっ!」

 

 フブキの叫びと同時に、サイコガンダムは取り付いていたタナトスを力任せに引き剥がし、その掌から灼熱のビームを吐き出した。

 

「貴様こそ邪魔をするな! 鬼神!」

 

 ゲーツのハンブラビが割り込み、タナトスに襲いかかる。

 だがフブキは即座に機体を捻り、胴を蹴り上げて弾き飛ばした。

 

「テロリストに成り下がるとは! 連邦も落ちたものだ!」

 

 フブキの声に応じ、タナトスのバックパックにマウントされていたビットが一斉に飛び立ち、機体の周りを浮遊しだす。

 

「行けっ、ビット!」

 

 黒きガンダムの背から飛び立った板のような物が変形し、閃光を引きながら襲いかかる。ビームを撃つことはできないが、質量があるビットそのもので攻撃すればいい。赤いガンダムもやっていた方法だ。

 鋭い衝撃音と共に、次々とハンブラビに突き当たり、装甲を剥ぎ、関節を砕く。

 

「くそっ! なんで黒いガンダムまでオールレンジ攻撃が……! これじゃキシリアまで辿り着けない! ドゥーは使い物にならないし……せめて俺だけでも!」

 

 ゲーツは必死に機体を反転させ、屋上にいるキシリアへ突進を試みる。

 だが、その進路を塞ぐかのように、タナトスのビットとキケロガの砲口が重なる。

 

「くそっ、くそっ! ドゥー! 遊んでいる場合か! 任務を忘れるな!」

 

 怒号が響く。だが、その刹那──。

 

「……怨んでもらっても構いませんよ。作られしニュータイプよ」

 

 静かな声が響いた瞬間、キケロガの有線メガ粒子砲が火を吹き、ゲーツのハンブラビは貫かれ、爆炎と共に崩れ落ちていった。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 フブキは機体を揺さぶられる。

 サイコガンダムのフレームビットが次々とビームを反射し、光の奔流が縦横無尽に襲いかかる。

 

「ぐっ……!」

 

 避ければ、背後のコロニー市街に直撃する。

 だから防ぐしかない。だが、全てを受け止められるほどの余裕はない。

 

 タナトスのビットが展開したビームシールドが幾度も輝き、致命傷だけは阻んでくれている。しかし、光が散るたびに警告音が機内に響き渡った。

 

(いくらジェネレーターが桁外れでも、無限に動けるわけでは……!)

 

 じりじりと削られていく──防戦一方。

 フブキの背を冷や汗が伝った。

 

 ──やるしかないのか

 

 フブキは何度もドゥーが乗る巨大なガンダムに語りかけているが、帰ってくるのは狂気に満ちた声。

 フブキの視界が白く塗り潰される。

 気づけばそこは、煌めく光粒がキラキラと瞬く空間。

 

「お兄ちゃん!」

 

 振り返った瞬間、小さな腕が飛び込んでくる。

 抱きついてきたのは、公園で出会った少女──ドゥー。

 

「やっとだよ! 五年……僕がお兄ちゃんを知ってから五年! 長かった……会いたかった! 一緒に、この“キラキラ”を見たかったんだ!」

 

 満面の笑み。無垢な喜び。

 だがフブキは答えられない。俯き、胸の奥が締めつけられる。

 

「ドゥー……もうやめるんだ。ガンダムに、乗るのは……」

 

「ダメだよ!」

 

 ドゥーは強く首を振る。

 

「サイコガンダムに乗らないと、お兄ちゃんとキラキラできない! 見て、足下のやつら!」

 

 指差した先──そこに広がっていたのは、無数の黒い影。

 禍々しいオーラを纏ったものたちが地平を埋め尽くしている。

 

「ほら! あいつらを消さないと、キラキラは見られないんだ!」

 

 フブキは目を見開いた。

 彼女には、サイコガンダムの下に広がる“地獄”が、“美しい世界”に見えているのだ。

 

「研究所でもそうだった! 用意された奴らを倒せば、喜んでくれた! “キラキラ”が見られたんだよ!」

 

 ドゥーの声は震えていたが、その瞳は狂気に染まっていた。

 

「だから……お兄ちゃんと“キラキラ”を見るためには、消さなきゃならないんだ!」

 

「違う……それはやっちゃいけないことだ。そんなことをすれば……心が壊れる。人間ではなくなってしまう……」

 

 フブキは声をなんとか絞り出し、楽しそうに笑うドゥーを引き止める。しかし、ドゥーは小首を傾げて笑うだけ。

 

「……? 何を言ってるのお兄ちゃん? 私はただの人間じゃない! 自分の意志で進化した! 新しい人類の形! “ニュータイプ”なんだよ! お兄ちゃんと僕こそが、ニュータイプに相応しいんだ!」

 

「ドゥー! お前は……マシンに呑まれているだけだ……」

 

 フブキは彼女の肩を掴み、必死に言葉をぶつける。

 

「やめてくれ、ドゥー……!」

 

 しかし、少女は首を振り、さらに強くフブキに抱きついた。

 その笑顔は幸福に満ちているのに、なぜか底知れぬ恐怖を孕んでいた。

 

 

 




また仕事が始まります。盆明けは忙しくなるので大変です。早く暑い季節が終わってくれたらなぁ…
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