機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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強化人間

 

 

 

 

 僕は1人だった。気づいた時には、もう研究所の中にいた。

 名前も家族もなく、僕にとっての“家”は──ムラサメ研究所だった。

 

 仲間は大勢いたけれど、日ごとに数は減っていった。

 昨日まで隣にいた子が、翌日には消えている。

 ガラスに頭を打ちつけて死んだやつ。

 食事の食器で喉を掻き切ったやつ。

 容姿がいいからと職員に乱暴されて、ベッドのシーツで首を吊ったやつ。

 

 そして──

 

《被験体2号、指定目標を倒せ》

 

「む、むりです! だって……ひとがのってるんでしょ!」

 

《? ……何を言っている? これは命令だ。拒否する権利はない。目の前のオリジナルを倒せば、お前こそがニュータイプだ》

 

 地獄だった。

 互いに殺し合った。

 生き残った者だけが、ニュータイプになる。ただそれだけのために、同じご飯を食べて同じ部屋で寝た仲間たちが死んでいった。

 

 僕は生き残り、残りは廃棄された。

 

 それからはサイコガンダムの前身──サイコミュ搭載機に乗せられ、毎日のように訓練。

 乗るたびに頭に流れ込む声や映像で吐き、体はボロボロになっていく。

 投薬、調整槽、手術。繰り返すうちに成長は止まり、髪は真っ白になった。

 余計なものは削られ、残されたのは"戦う"ために必要なものだけ。

 

 僕の中には、もう何もなくなった。

 

 

 僕はただの実験体だ。

 ニュータイプを倒す為に造られ、仲間を殺して、命じられるままにニュータイプを殲滅する。それだけの存在。だったのに──

 

 

 

《ドゥー、今日はメニューを変える。相手が違うぞ。貴重なニュータイプの実戦データらしい》

 

 最初は同じだと思った。どうせまた殺すだけだと。

 けれど、あの日出会った黒い機体は違った。一度も勝てなかった。

 

 ただのデータのはずなのに、まるで宇宙を泳ぐように、流れるように、僕の攻撃をすべて避ける。何度挑んでも勝てない。

 

 何度挑んでも、何度やっても、届かない。

 それは恐怖でもあったけれど、同時に息を呑むほど美しかった。

 "キラキラ"と黒い機体が緑色の尾を引いて輝く姿が。

 

 ──戦うたびに、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

 いつものサイコミュ搭載機に乗っても、もう吐かなくなった。

 頭に押し寄せていた“声”も、不思議と消えた。

 

 目標が黒いモヤに覆われて、倒すたびに視界がキラキラと光で満たされる。

 その瞬間を求めて、僕は戦うことが楽しくなった。

 

 あの黒い機体みたいに、宇宙を自由に泳ぎたい。

 あの黒い機体に乗っている人と一緒に、“キラキラ”を見てみたい。

 

 そう思った時、地獄のように苦しかった日常が、苦しくなくなった。

 むしろ温かくて、楽しいものにさえ思えた。

 

 ──僕に光をくれた人。

 黒い機体のパイロット。

 

 僕のお兄ちゃん。

 

 ──だから

 

 

「僕を救ってくれた光! 誰にも奪わせはしない!」

 

 ドゥーはサイコガンダムの腕を振り上げ、キケロガへ向けてビームを撃ち放つ。

 だがシャリアはヒラリヒラリと舞うように躱していく。一旦距離を取ると、有線式メガ粒子砲を伸ばして反撃。

 

「っ! なんと……!」

 

 しかしサイコガンダムからパージされたフレームビットがそれを遮り、軌道を逸らしてしまう。

 残った2本の有線を背後に回して撃ち込むも、サイコガンダムはその光を読んでいたかのように躱していく。

 

「あはは! 後ろからなんて通じないよ! 僕は何度もお兄ちゃんと戦ってきたんだから! それくらい分かるよ!」

 

「っ! 少年! 聞こえますか!」

 

 シャリアが焦りの声を飛ばす。

 

「私が注意を引きます! その間に──!」

 

「…………」

 

「少年っ!」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 ──あの子の中を見た。普通の人間なら、まともに直視することは出来ないものだった。

 地獄の記憶。絶望の断片。

 ……それを背負いながら、ドゥーは「生き残ってしまった」。

 

 あの子が、ドゥーがああなったのは──俺にも責任がある。

 

 ドゥーはある意味、完成されたニュータイプなのだろう。

 もしそれがただの悪意の塊であれば、どれだけ良かったか。

 だが違う。あれは「人としての感情」が歪められた結果だ。

 

 ──作られた命であっても、傷を残す。“分からない”からと、“悲しいこと”が多すぎるからと、感じる心を止めてしまうことはしてはいけない

 

 タナトスがいた空間で聞いた言葉。

 その意味が、今なら理解できる。

 

 ……これは、俺にとって癒えることのない傷になるだろう。

 

 

 6基のビットが光を放ち、サイコガンダムの攻撃を必死に受け止める。

 フブキはその隙にタナトスを加速させ、サイコガンダムの頭部へ肉薄した。

 

「……ドゥー、先に行っていろ。俺も、いつかそこに行くから」

 

 振り抜いたビームサーベルが、サイコガンダムの頭部を貫いた。

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 視界の中で、ドゥーの世界は白く染まり、煌めいていた“キラキラ”は音もなく消えていく。

 

「お兄ちゃん! キラキラが……! キラキラが消えちゃう……!」

 

 ──おい、相変わらず無視するなお前は。

 

「……?」

 

 ──まったく。これだからムラサメ研は……。

 

「ゲーツ……? なんで?」

 

 ──? 俺は一応お前のマヴだからな。それに、どうせお前迷子になるだろ。

 

「……待っててくれたの?」

 

 ──お前を置いていくわけないだろ。……満足したか? 

 

「僕…死んだんだ……結局、一度も勝てなかったなぁ……。これからどこにいくの……?」

 

 ──そんなこと俺が知るわけないだろ。……まあ、このままずっと歩いていけば、いつか分かるかもしれん。

 

 ──そうだね。僕たち、頑張ったよね。

 

 ──ふっ。俺はお前に引っ掻き回されたがな。

 

 ──ちょっと! なんでそんなこと言うの! 

 

 ──最後まで人の命令聞かなかったのはお前だろ!上官の命令には──

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 頭部からビームサーベルを抜き取ると、火花がばちばちと散り、発光していたボディはパイロットを失ったことを理解したかのように光を失っていく。

 巨体は轟音を響かせながらを沈黙し、やがてコロニーの地面を震わせて倒れ込んだ。

 

 これで……もう、コロニーに被害が出ることはない。

 彼女の犠牲で、大勢の命は守られた。

 

 フブキはコックピットの中で拳を握りしめ、低く呟いた。

 

「ああ……本当に嫌になるな……」

 

 

 

 ──

 

 

 

 ジークアクスは片腕を庇うように機体を傾けながら、必死に飛行を続けていた。

 背後から迫る軍警のザクが、近接信管弾を浴びせるように撃ち込んでくる。

 

「ガンダムはどこに行ったの!? シュウジは!? ジークアクス! ニャアンはどこに行ったの!?」

 

 アマテは震える声で叫びながら操縦桿を握り締める。しかし何発も至近弾が炸裂し、機体は揺さぶられ続けていた。

 金属が軋む音。弾ける火花。

 押し寄せてくるのは、これまでに味わったことのない「死の気配」。

 

「はっ……はっ……はっ……! フブさん……フブさん! 私、死ぬの!? 怖いよっ! フブキ……!」

 

 呼吸が荒くなり、視界が滲む。過呼吸で胸が苦しい。

 そのとき——。

 

 閃光のように、頭の奥に走る光。

 一瞬、白い世界に包まれた感覚。

 

 だが同時に、ジークアクスの装甲を焼き裂くビームが突き抜け、警告音が鳴り響く。

 

「があっ!!」

 

 コックピットに響いた自分の悲鳴。その直後、頭の中に低く落ち着いた声が響いた。

 

 ──心を鎮めろ。ジークアクスのパイロット。

 

 その声に届いた途端、アマテの意識はプツンと切れ、闇に飲み込まれていった。

 

 

 

 ──

 

 

 

 

『緊急速報です。コロニー内に侵入したテロリストのモビルスーツ2機は、ジオン軍所属のモビルアーマーによって撃墜された模様です。

 現在、事態は収束し、被害状況の確認が進められています。

 一方で、“クランバトル”と呼ばれる違法賭博行為に関与したとされる容疑者一味が、このテロに協力した疑いが浮上。容疑者らは現場からモビルスーツと共に逃走しており、警察当局が行方を追っています』

 

 

 

「これって……アマテと、あのお兄さんじゃない?」

「マジか……」

「……駆け落ち?」

 

 

 

『容疑者は未成年と、元軍警に在籍した経歴を持つ民間警備会社の人物です。今回の事件の重大性を鑑み、実名報道に切り替える措置が検討されています。

 さらに、未成年容疑者の父親は外交官、母親は監査局職員との情報もあり、サイド6政府に対して確認作業が進められています』

 

 

 

 

「ガンダム……」

 

「ん? クリス、どうした?」

 

「な、なんでもないよ!」

 

 

 

 

『容疑者のフブキ・アルジェント氏は、元連邦軍所属であり、現在は民間警備会社ゼネラルリソースの社員でありました。

 ゼネラルリソースは今回の事件への関与を全面的に否定。

 さらに同社は、軍警の対応を強く非難しています。

 ネット上で匿名公開された映像には、未成年である容疑者に対して軍警察が実弾を発砲する様子が映されており、これについて代表取締役であるロイド・V・マクシミリアン氏は、『丸腰の市民に対する過剰かつ不当な越権行為である』とコメントを発表しました。

 

 これに関し、サイド6政府は『再発防止に努め、該当職員は厳しく対処する』と声明を出していますが、市民からは『責任の所在を曖昧にしている』との不満の声が相次いでいます』

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 ニュース映像が流れる中、ソドン格納庫で沈黙した黒いガンダムの前でコモリとコワルが声を潜める。

 

「中佐が回収したこの黒いガンダム……どうするつもりなんです?」

 

「さぁ……。パイロットは営倉行き、中佐にも機体の解析を頼まれてるが……」

 

 コワルはコックピットを叩きながら顔をしかめる。

 

「まるで意思があるみたいだ。プロテクトが厚すぎる……パイロットなら……あるいは解けるかもしれんが」

 

「ご苦労様です」

 

 不意に背後から声がして、2人は飛び上がった。

 

「ひっ、中佐……!」

 

「ふふ、すみませんね。驚かせてしまって。──中尉、状況は?」

 

「システム面でほとんどアクセスできません。ですが、パイロット本人からの情報があれば……」

 

「ふむ……。ちょうどいい機会ですね……地球方面へ行くことになりました。時間はありますから、回収したジークアクスのパイロットも一緒に尋問しましょう。コモリ少尉、あなたも同伴してください」

 

「え、えぇっ!? ど、どうして私が!?」

 

「ジークアクスのパイロットは女の子ですし、この機体のパイロットも、あなたと同年代くらいです。それに──」

 

 シャリアは顎に手をやると、コモリを見て軽く笑った。

 

「エグザベ少尉は、閣下のチベでグラナダへ戻ってしまいましたからね」

 

「えぇぇっ!? エグザベくん帰っちゃったんですか!? 私聞いてませんよ!」

 

 わずかな期間では合ったものの、同じ船に乗り同じ釜の飯を食べた中なのに、別れの言葉一つ言わずに出ていったエグザベに多少の怒りを持ち、コモリはタブレットを握りしめながら爪を噛む。

 

「ではコモリ少尉。ジークアクスのパイロットのお世話を頼みます」

 

「了解です……」

 

 コモリはにこやかに言ってのけたシャリアに多少苛つきながらも返事をするしかなかった。

 

「コワル中尉。あなたは引き続きこの黒い機体の解析を。出来る限り、ですよ」

 

「了解しました……ですが中佐、期待しないでくださいよ?」

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

「今回、規模は小さいですが──戦闘中にゼクノヴァの反応を観測しています」

 

 シムスはワインを傾けながら、淡々と報告を続けた。

 

「前回のデータも見せていただきましたが、それとは別物です。今回のものは……過去、ソロモンで発生した反応に近いものでした」

 

 シャリアはグラスを傾け、一口ワインを口に含むと、静かに吐息を漏らす。

 

「ふむ……それで赤いガンダムは、またどこかへ消えたというわけですか」

 

「はい。それに今日は、あやうくキシリア様が命を落とされるところでした」

 

「……まったくです」

 

 シャリアの声色は冷たく沈んでいた。

 

「今のジオンは、危うい均衡の上に成り立っている。──バランスが崩れれば、あっという間に戦争がはじまってしまう……

 ようやく手に入ったこの平和を保つには──ギレン総帥とキシリア閣下、お二人を同時に始末しなくてはなりません」

 

 

 

 

 

『速報です。軍警察当局は、アマテ・ユズリハ容疑者並びに、フブキ・アルジェント容疑者の公開捜査に踏み切りました。繰り返します──軍警察当局は、アマテ・ユズリハ容疑者並びに、フブキ・アルジェント容疑者の公開捜査に踏み切りました』

 

 

 

 




夏風邪が辛い…鼻水止まんないです。まだだ!まだ終わらんよ!
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