機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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ニュータイプの世界

 

 

 

「アマテ・ユズリハ……それとも、"マチュ"がいい? ……電磁ロックの開錠を。それと手錠も外して」

 

 コモリは営倉の格子窓からアマテを覗き込み、同伴していた下士官に指示を出す。

 重い扉が開き、アマテの両手を縛っていた金属の拘束が外された。

 

「こちらはお返しします」

 

 コモリはベッドの上にパッケージングされたスマートフォンと、ハロを置いた。

 

「マチュ! マチュ! ダイジョウブカ!」

 

 ハロが跳ねるように声を上げる。

 

「このお喋りロボット、本当はダメなんだけど……中佐が特別に許可するって」

 

 コモリは肩をすくめ、わざとらしくため息をついた。

 

 アマテは手首をさすりながらも黙ったままだ。

 スマホを手に取って電源を入れると、立て続けに通知音が響き出した。

 画面には同級生からの連絡も混ざっているが、大半は母からのものだった。直近では数時間前──。

 

「お母さんに連絡してあげたら? ……こんだけ迷惑かけたら、私なら出来ないけど」

 

 コモリは皮肉を込めて言い放つ。

 

「小遣い稼ぎのお遊びだったのに、取り返しのつかないことになっちゃったわね。それと……はい。こっちは着替え。サイズは我慢して」

 

 コモリは紙袋を差し出した。

 

「……ジオンの軍服なんか着ない。ダサいし」

 

 アマテは一瞬だけコモリをチラリと睨み、吐き捨てるように言った。

 

「ダサイダサイ!」

 

 ハロも同調するように跳ね回る。

 

 その態度に、コモリは深々とため息をついて肩をすくめた。

 

「あのねぇ……民間人の貴女に官品である正規の制服を支給するわけないでしょ? これは私の私物。感謝しなさい」

 

 コモリはそう言いながら呆れ顔を崩さない。

 

「着替えたら着いてきて。貴女に会いたい人がいるから。……じゃ、終わったら扉叩いてね」

 

 アマテは渋々、紙袋を受け取るとベッドに腰を下ろした。

 袋の中身を取り出しながら、小さくぼやく。

 

「……何で、私がこんな……」

 

 それでも仕方なく、アマテは服を着替え始めた。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

(……反抗的なところも含めて、やっぱり普通の子供よね。何でこんな子供がジークアクスを動かせたの?)

 

 コモリは営倉の外で腕を組みながら待っていた。

 そのとき、扉の内側から「トントン」と小さな音が響く。

 

「着替え終わった?」

 

「あの……ちょっと……」

 

「? なに?」

 

 首をかしげながらコモリが中を覗くと、そこには紙袋から渡した服に着替えたアマテの姿。

 しかし服はサイズが合わず、特に胸元がきつく、窮屈そうに布地が引っ張られていた。

 

「……う、ウソでしょ……」

 

 思わずコモリの口から素の声が漏れた。

 アマテは顔を真っ赤にしてそっぽを向くが、ハロは漂いながら喋る。

 

「キツイキツイ!」

 

「……貴女まだ学生よね? どうやったらそんなに育つのよ……」

 

 コモリは呆れ半分でため息を吐きながら腕を組んだ。

 

(どうしよう……パイロットスーツのままじゃ営倉から出せないし、この服でダメなら私の手持ちなんて全部アウトでしょ……。ちょっとムカつく。なんでこんなに胸が……。胸が……でかい……)

 

「……」

 

 コモリは黙ってアマテを見ていたが、アマテも気まずそうに視線を逸らす。

 

「……あ、そうだ。セファの服借りればいいや。あの子ならサイズ合うはず。──ごめん、ちょっと待ってて」

 

 コモリはクルッと踵を返して営倉から出て行った。

 扉が閉まり、残されたアマテはハロを抱きながら顔を真っ赤にして呟いた。

 

「……胸のこと、二度も言わなくてもいいでしょ……!」

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

「シャリア・ブル中佐、容疑者を連行しました」

 

 扉が重々しく開き、暖色のランプで照らされた室内が現れる。

 中央には椅子が一脚。アマテは無言のまま座らされ、目の前に立つ髭面の男を一瞥すると、すぐに視線を逸らした。

 

「……では、尋問を始めましょうか」

 

 シャリアは深く腰掛け、穏やかな口調で語り始める。

 

「マチュくん。貴女は、たまたまサイド6に生まれた幸運に感謝すべきです」

 

(……この声……ジークアクスの中で聞こえた……あのときの──)

 アマテは僅かに眉を動かしながら、改めてシャリアを見つめた。

 

「先の戦争では全人口の半分が死に、生き残った者も住んでいた土地を失い、難民となりました」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アマテの脳裏にはニャアンの姿が浮かんだ。

 彼女もまた、難民だ。戦争が奪った生活の犠牲者。生き延びるために、罪に手を染めざるを得なかった少女。

 

「スペースノイドが自立するには大きすぎる犠牲でしたが、だからこそ二度とあのような戦争を起こしてはいけない」

 

「……自立?」

 

 アマテは小さく吐き捨てるように呟き、そして顔を上げ、鋭く睨みつけた。

 

「何言ってんの? 地球にコロニーを落として、無関係な人を巻き込んで……勝手に戦争を始めたのは、あんた達じゃない……」

 

「貴女っ……!」

 

 コモリは思わず声を荒げたが、シャリアの手が制した。

 

「マチュくん……君は“向こう側”を見たのですか?」

 

「……向こう側?」

 

「いえ、知らないならそれでいいのです」

 

 シャリアは軽く首を振ると、今度は真正面から問いを投げかけてきた。

 

「では──赤いガンダムのパイロットについて聞かせてください。

 シュウジ・イトウ。彼と、シャア・アズナブルの関係について何か知っていますか?」

 

 アマテは視線を落とし、胸の奥がざわつくのを感じた。

 あの場所に残っていたのは、ジークアクスだけ。赤いガンダムも、シュウジも、ニャアンもいなかった。

 

(……捕まってない? じゃあ……どこにいったの?)

 

「行方不明です」

 

「……っ!」

 

 言葉にする前に悟られた。フブキやシイコと同じだ。心を覗かれる感覚。

 

「彼は赤いガンダムと共に、サイド6から姿を消しました。行き先に、心当たりはありませんか?」

 

「中佐! それは機密事項です!」

 

 コモリが咎めるように声を上げるが、シャリアは手を上げて静止した。

 アマテは思い出していた。あの時の食事の席で、シュウジが言った言葉を。

 

 ──ガンダムは薔薇を探している。

 

「そうです。彼は“シャロンの薔薇”を探している」

 

「っ!? 中佐! その件は──!」

 

 コモリの叫びも、シャリアは受け流すように微笑む。

 アマテは困惑しながら、その言葉を繰り返した。

 

「……シャロンの……薔薇?」

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 営倉の扉が重苦しい音を立てて開いた。

 鉄の匂いに混じって、冷たい空気が流れ込む。

 

「中佐、手錠はどうしますか?」

 

 コモリが小声で問いかける。

 

「外してあげてください。マチュ君もいるので、下手なことはできないでしょうし」

 

 シャリアは淡々と告げる。その声には一切の揺らぎがない。

 

 カシャン、と手錠が外れる音。

 フブキは腕を擦ることもせず、ただ鋭い視線でシャリアを睨みつけた。

 

「……俺の処分が決まったか? シャリア・ブル中佐殿」

 

「こうして会うのは久しぶりですね。……少年。ソロモン以来ですか」

 

 穏やかに言うシャリア。その目は、あの戦場で幾千の光を見た男の目だった。

 

「……マチュは?」

 

「彼女なら営倉に戻っています。危害は一切加えていません。安心してください」

 

 営倉の空気はひどく重い。

 鉄の匂い、閉じ込められた圧迫感。フブキはパイロットスーツのまま椅子に座り、正面にはシャリア・ブルが穏やかに腰を下ろす。その隣でコモリが、緊張した面持ちで立っていた。

 

「今から貴方を尋問します。返答によっては……彼女の未来を左右すると言うことを、忘れないでください」

 

 シャリアの声は淡々として冷たく響くが、フブキは鼻で笑った。

 

「ふっ。お前らジオンの常套句だな。人質を取らねば戦えぬ、情けのないやつ」

 

 コモリの眉がぴくりと動くが、シャリアは動じない。

 

「……マチュ君に、戦争のことを教えたのは君なのですか?」

 

「お得意の読心で読んでみたらどうなんだ?」

 

 挑発するように吐き捨てるフブキ。

 

「君の中はあまりよく見えませんから。それに──君とは対等に接したいのですよ」

 

「よく言う」

 

 フブキは鋭い眼差しで睨み返す。

 シャリアは軽く目を伏せると、話題を切り替えた。

 

「……君は、ガンダム・クァックスがジオンの機体だと知っていましたか?」

 

 フブキは黙り込む。答えないことで答えを濁す。

 

「では、君の機体──黒いガンダム。あれは何なのですか? 連邦の新型ですか? 技術班が頭を抱えています。あの機体に関して、何もわからないと」

 

 シャリアの声はあくまで柔らかいが、その背後には鋼の圧力があった。

 

「……あれは俺が、ある企業から強奪したものだ。何もわからなくて当然だ」

 

「サイド6ではゼネラルリソースに居たとか。公式に企業側から関与は否定していますが」

 

「……! だろうな。俺はクビにされた身だ。会社としても犯罪者とは関わりたくないだろう」

 

「では、シュウジ・イトウについては? 彼と、シャア・アズナブルについて……知っていることを教えてください」

 

「シュウジ・イトウね……ただの絵描きという事しか知らないな」

 

 フブキは淡々と答え、表情を動かさない。

 

「君は、彼が赤いガンダムに乗っていることを知っていた。そうですね?」

 

 さらに踏み込むシャリア。しかしフブキは肩をすくめただけだ。

 

「どうかな?」

 

 二人の会話を聞いていたコモリは、耐えきれずに進言する。

 

「中佐……これ以上の尋問は無意味では? 容疑者は何もしゃべりません」

 

 シャリアは小さく息を吐き、コモリへと視線を向けた。

 

「コモリ少尉、一旦退室してくれますか?」

 

「は!? 何言ってるんです!?」 

 

 コモリの声は思わず裏返る。

 

「お願いします。私と彼だけにしていただきたい」

 

「無理です! 彼はテロリストなんですよ!? 何をするか──!」

 

「大丈夫ですよ。何かあればすぐに連絡しますから」

 

 シャリアはそう言いながら、軽くコモリの背を押し、営倉の外へと追いやった。

 

「ちょっ! 中佐!」

 

 バタン、と扉が閉まり、ロックが掛かる。外から抗議の声が響くが、すぐに沈黙が戻る。

 フブキとシャリア。二人だけになった空間。

 

「……ふう。さて、これでようやく色々と積もる話もできますね」

 

 シャリアは柔らかな口調で言うが、フブキは腕を組みながら、真っ直ぐにシャリアを睨む。

 

「いいのか? 中佐殿。彼女に怒られるぞ?」

 

 フブキの皮肉混じりの声に、シャリアは口元だけで笑った。

 

「構いませんよ。それより、話を戻しましょう。──シュウジ・イトウに関して、貴方が知っていることを教えてください」

 

 フブキは視線を逸らさず、低く問い返す。

 

「知ってどうする? 彼を殺すか? それとも拷問か?」

 

「そんなことはしませんし、させません。約束します」

 

 落ち着いた声色で、シャリアは答える。

 

「……正直言って、アンタらを信用できない」

 

「何故ですか?」

 

 フブキの瞳が鋭く光る。 

 

「シーマ・ガラハウ。この名前に覚えは?」

 

「……ジオン公国における、B級戦犯ですね。彼女がどうかしたのですか?」

 

「──あの人はジオンに裏切られた。毒ガスと知らずに使わされ、罪のない人たちを殺させた。挙げ句、その全ての責任をなすりつけられて、捨てられたんだ」

 

「……」

 シャリアは一瞬だけ沈黙する。

 

「だから……俺は、アンタらを信用できない」

 

 わずかな光の中、そう言い切ったフブキの瞳は鋭く光っていた。

 

「……彼女が嘘を言っている可能性は?」

 

 シャリアは瞬き一つせず問い返す。

 フブキはわずかに目を伏せ、声を低くした。

 

「彼女の中を見た。……吐き気がした。手に残るスイッチの感覚、裏切ったやつの顔が浮かぶ。毎日毎日、悪夢に魘される。──あれは地獄だ」

 

「……成程。君がそう言うなら、それは事実なのでしょう」

 

 シャリアは静かに頷く。

 フブキは小さく吐息を漏らす。

 

「ジオンはジオン、そう思っていたんだがな。正直言って分からなくなった……人には人の真実がある。人は物事を自分の主観でしか見られない。だから戦争でやった事、やられた事が食い違う。言っている事が間違っていなくても、必ず食い違う」

 

 その言葉を聞いたシャリアの瞳に、強い光が宿った。

 

「だからこそ、私は作りたいのですよ。ニュータイプがニュータイプとして生きられる世界を」

 

「ニュータイプ……ジオンのプロパガンダだ」

 

 フブキは吐き捨てるように言う。しかしシャリアは頭を振ってまっすぐフブキを見る。

 

「ニュータイプの定義──お互いに判り合い、理解し合い、戦争や争いから解放される。宇宙に適応した新人類。そんな人の革新、ニュータイプがニュータイプとして生きられる世界であれば、そのような悲しい事は起こらない。私はそう思うのです」

 

 フブキは無言のまま、強く手錠を嵌められていた拳を握り締めた。

 

 

 

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