機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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「アンティーク」さん「まーろん」さん「柚子乃葉」さん誤字報告ありがとうございました。


大気圏突入

 

 

 

 

「仲のいい友達だったんですね……羨ましい」

 

 ジフレドを見上げながら、ニャアンはぽつりと呟いた。

 エグザベとミゲルが語る思い出は、どこか遠くの世界の話のように聞こえた。

 

「羨ましい?」

 

 ミゲルが首を傾げる。

 

「……友達の手作りケーキなんて、食べたことないから」

 

 その言葉には、飾り気のない素直さと、どこか寂しさが混ざっていた。

 

 ミゲルは少し目を細め、彼女を見た。

 そして軽く肩をすくめて笑う。

 

「ふーん……ニャアンだっけ? じゃあ、焼いてあげるよ。ケーキ。"歓迎"の印にね」

 

「え……?」

 

 ニャアンは少し驚いたように目を見開くが、ミゲルはすぐに視線をエグザベへと向けた。

 

「さて──少しだけエグザベを借りてもいいかな? 久しぶりの再会だから、積もる話もあってね」

 

「……あ、はい。大丈夫です」

 

 ニャアンが頷くと、ミゲルは満足げに笑みを浮かべる。

 

「よし、じゃあエグザベ。ちょっと話そう」

 

「……ああ。 すまないニャアン。すぐ終わるから待っててくれ」

 

 それだけ言い残すと、二人はジフレドから少し離れた格納庫の奥へと歩いていき、すぐに声は聞こえなくなった。

 

 ニャアンは取り残されたように一人、巨大なモビルスーツの前に立つ。

 その静かな空間には、機械の駆動音と風のような循環気流の音だけが満ちていた。

 

 再びジフレドを見上げる。

 

 そのフォルムはジークアクスと同じく無骨だが、所々は2号機らしく形状が違う。

 

(……このモビルスーツ、なんだろう……誰かに似てる……?)

 

 記憶の中で何かが引っかかる。

 目の前のジフレドは、ただの機械ではなく、

 まるで「誰かの姿」を再現したような錯覚を抱かせる。

 

 だが、それが“誰”なのか──

 

 コンチがピポピポと小さく鳴き声をあげ、ニャアンの腕をかすかに掴んだ。

 ジフレドの緑色の瞳が、まるで感情を宿すように鈍く光っていた。

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

「……それにしても」

 

 エグザベは小さな声で吐き出すように言った。

 

「ジフレドのパイロット候補に選抜された途端、続けて死ぬなんて──」

 

「……そうは言うがな、エグザベ。軍の捜査本部も、不審な点は見つけられなかった。どちらも、訓練中の心臓発作としか……」

 

 エグザベの声は沈んでいたが、ミゲルの言葉には納得がいかなかった。

 

「……とても、偶然とは思えない」

 

「暗殺か? まぁ、あり得なくもない。「2号機のパイロットはギレン派から選抜されるべきだ」──最近は、総帥府がそんなことまで言い出してる」

 

 ミゲルはポケットからタブレット端末を取り出し、ジフレドの選抜資料を指で滑らせる。その目には、明らかな不信が宿っていた。

 

「……はぁ、同じジオンだっていうのに……」

 

 エグザベが吐き捨てるように言ったその時──

 

「──万が一、彼女が死んだりすれば、確かに偶然とは言えなくなるな……」

 

 その瞬間だった。

 二人は、背後に微かな気配を感じて反射的に振り向く。

 そこには、ニャアンがこちらを覗き込むように立っていた。

 

「うわっ……!」

 

 ミゲルが思わず声を上げた。

 

 ニャアンは目を細めながら、静かに口を開いた。

 

「……あの……私、殺されちゃいますか?」

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「……すまないな」

 

 エグザベがハンドルを握ったまま、視線を前方に向けたまま、ぽつりと言った。

 

「もっと……ミゲルとも交流して欲しかったんだが……」

 

 その声には、どこかバツの悪そうな響きがあった。

 だが、助手席のニャアンはまるで気にしていない様子で、コンチの頭を軽く撫でている。

 

「……少尉は悪くないですよ」

 

 それだけを言って、また窓の外に視線を戻す。

 月面の都市景観が流れる。クレーターの中に作られた建築群が青白い光が都市を染めている。

 

 エグザベは少しだけ目を細め、重い口を開いた。

 

「……キシリア様とギレン総帥は、戦勝以来、一度も顔を合わせていない。──どちらも暗殺を警戒しているからだ」

 

「……どちらも?」

 

 ニャアンが問い返すと、エグザベは短く頷いた。

 

「ああ……総帥は、サイコミュ技術をキシリア様が独占しているのが面白くないんだろう。

 だから対抗して──クローン強化人間を密かに開発している。そして──間もなく実戦に投入されるという噂だ」

 

 ニャアンの瞳がわずかに揺れる。

 

「……だから、暗殺……」

 

「そうかもしれない」

 

 エグザベは眉間に皺を寄せた。

 

「ジフレドのパイロットが決まってしまう前に潰したい。そう考えている人間がいても──不思議じゃない」

 

 会話が途切れる。

 車内には、タイヤが滑らかに舗装路を滑る音だけが流れている。

 

 エグザベが小さく息を吐いた。

 

「……このグラナダでさえ、どこに暗殺者が潜んでいるか分からない。

 だけど──」

 

 彼はハンドルを握る手に力を込めた。

 

「心配しなくていい。君の安全は、僕とミゲルで守る。……キシリア様も、いろいろ手を回してくださるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日から選抜テストが始まる。今夜はゆっくり休むといい。それじゃあ」

 

 エグザベはそう言って、静かに車を発進させようとした。──だが。

 

「……少尉」

 

 ニャアンの声が、ペダルを踏むよりも早く、エグザベの手を止めさせた。

 

「……ん? 何か忘れ物か?」

 

 エグザベが振り返ると、ニャアンは少し俯きながら、腕の中のコンチを優しく抱きしめていた。

 

「……彼のケーキ──美味しかったですか?」

 

「……?」

 

 エグザベは一瞬きょとんとした顔をし、それから僅かに目を細める。

 

「何が言いたいんだ……まさか、ミゲルを疑ってるのか?」

 

 ニャアンは何も言わない。

 ただ静かに、コンチを撫でながら俯いていた。

 

 エグザベの声が、少しずつ強くなる。

 

「どうして! なぜ答えない!? 理由もなく、僕の友人を侮辱するなんて──」

 

「……聞こえたから」

 

 その声は小さかったが、鋭く、エグザベの言葉を断ち切った。

 彼の肩が、ピクリと震える。

 

「……確かに聞こえた。“私を殺す”って。あの時、はっきりと」

 

 エグザベは、何かを否定しようとした。

 だが──

 口を開きかけた瞬間、ソドンにいた頃のコモリの言葉が頭の中で交錯する。

 

 

 

 

 

 

「なあ、コモリ──中佐はどうして、このイズマコロニーに“赤いガンダム”がいるって分かったんだ?」

 

 エグザベの問いに、コモリは首をかしげながら答えた。

 

「……私もよくわかんないよ。でも……なんか楽しそうだったんだよね。

 “赤いガンダムで間違いない”とか、"あれは大佐ではない"とか……黒いガンダムに興奮してるし……本人は、"老兵の勘"だって言ってたけどさ……」

 

「老兵の……"勘"……」

 

 

 

 ──君は人が良すぎる。あまり人を信用しすぎるな。

 

 

 

 

 

「……私を、嫌いになりましたか? エグザベ少尉」

 

「──」

 

「……別に構いません。慣れてますから」

 

 その言葉が、エグザベの胸を刺す。

 

「でも、もし……私が死んで、少尉が選ばれたら──」

 

「……」

 

「……ケーキは、食べないでくださいね」

 

 一瞬、車内が静まり返った。

 エグザベは視線を逸らし、ドアを勢いよく閉めて走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺は

 

 ニャアンの言葉が脳裏に蘇る。

 

 ──聞こえたから。私を殺すって──あの時、はっきりと──

 

 ──ニャアンの言うことなんて信じたくない。……ミゲルが、ニャアンを殺す? そんなの──思いたくない

 

 

 ──あまり、人を信用しすぎるな──

 

 

「っ……くそっ!」

 

 激しくブレーキを踏む。

 タイヤが路面を擦り、甲高い音を上げて車体が止まる。

 

 エグザベは勢いよく車を旋回させ、ニャアンを下ろした場所へと急いで戻った。

 そこにスマホを耳に当てて、立ち尽くしていたニャアンの姿を見つける。

 

 車が近づくと、ニャアンは驚いた様子で身を引いた。

 エグザベはドアを開け、勢いよく怒鳴る。

 

「乗れっ! 研究所に戻るんだろう!?」

 

「……で、でも、少尉……」

 

「いいから早く乗れ!!」

 

 その声に、ニャアンは肩をびくつかせる。

 躊躇いがちに助手席へと乗り込むと、扉が閉まると同時に、車は再び発進した。

 

 ──車内に、再び沈黙が落ちる。

 

 エグザベは前を見たまま、拳を握りしめていた。

 

「……あの、ありがとうございます……」

 

 ニャアンが小さな声で礼を言う。

 

「か、勘違いするな!」

 

 エグザベは顔を背けたまま叫んだ。

 

「様子を伺うだけだ! 俺は──俺は、ミゲルを信じてる!!」

 

 言い訳のように、そして自分自身に言い聞かせるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

「ジークアクスに乗れたのはいいんだけど……この先、どうすればいいんだろ……」

 

「チキュウ! チキュウ!」

 

 ハロが丸い体をふわふわと漂わせながら、機械音声でそう繰り返す。

 アマテは苦笑しながらも、心の奥底では重く沈む思考を拭えなかった。

 

(……地球。シュウジも……もしかしたらもう地球にいる? でも──)

 

 ふと、背後に目をやる。

 そこには緑色の巨体──ジオンの戦艦が遠ざかっていく。

 つい先ほどまで自分が囚われていた艦。そこには、フブキもいる。

 

(フブさんのために戻るべき? ……それとも──)

 

 しかし、アマテの頭の奥に、優しい声が蘇った。

 かつて、彼女を導いた言葉。

 

 ──マチュ。自分のやりたいようにやれ──

 

「……行こう。地球へ」

 

 アマテは震える手でジークアクスの操縦桿を握りしめた。

 次の瞬間、機体は推進剤を吐き出し、青白い光を残しながら地球の重力へと引き寄せられていく。

 

 

 

 

 しばらくすると、コックピットが激しく揺れる。

 振動が全身を打ちつけ、警告音が連続して鳴り響く。

 

「う、うぅ……っ!! こ、これ! 本当に大丈夫なの!?」

 

 視界が赤とオレンジのアラートで埋め尽くされる中、

 ジークアクスのシステムが独自に反応を始める。

 

《ATMOSPHERIC ENTRY IN PROGRESS》

 

 ──正面モニターに冷たい電子文字が浮かび上がる。

 

 ジークアクスはオートパイロット・モードを起動し、シールドを構えて機体を盾に対してまっすぐになるように姿勢を整える。

 

「マチュ! パイロットスーツヲキロ!」

 

「無理だよ! 仕方ないじゃん! スーツどこかに持っていかれたし! そもそも着る時間なんかなかったし!」

 

 シールドを前面に構え、ジークアクスは大気圏へと突入していく。

 オートパイロットによってIフィールドは展開されていたが、機体を包む空気は灼熱の摩擦でみるみる赤く染まっていく。

 

「こ、これって……! 本当に大気圏突入なんてできるの!? めちゃくちゃ揺れてるんだけど!?」

 

「マチュ! オチツケ!」

 

 ハロの甲高い声がコックピット内に響くが、振動は収まらない。

 機体は激しい振動に晒され、モニターには警告が点滅を繰り返していた。

 

「だいたい、地球ってメッチャ広いんでしょ!? ちゃんと……シュウジ見つけられるの……!?」

 

 恐怖と不安を吐き出すように叫ぶアマテ。

 その手は無意識に、コックピットの外壁に縋るように伸びていた。

 

 ──そのとき。

 

 ジークアクスのアームレイカーが自動で展開し、まるでアマテの身体を抱き留めるように支えた。

 

「……ジ、ジークアクス……」

 

 驚きと共に、胸の奥にじんわりと熱が広がる。

 彼女は震える手でそのアームレイカーを掴み、

 伝わる振動に歯を食いしばって耐えた。

 

 時間の感覚が曖昧になるほどの揺れと轟音。

 だが──やがて。

 

 赤く燃え盛っていた外の景色は徐々に淡くなり、

 モニターの向こうには青が広がり始めた。

 

「っ……!」

 

 強烈な風切り音が機体を包む。

 炎の海を抜けた証拠だ。

 

 荒々しい大気の流れの中で、

 アマテは大きく息を吸い込んだ。しかし、安堵したのも束の間。

 ジークアクスが降下していく先に広がっていたのは──地球の象徴ともいえる蒼い海。

 

「……海……ん? ……海!?」

 

 アマテの頭を、嫌な予感が駆け巡る。

 この速度で海面に突っ込めば、鉄の塊であるモビルスーツといえど無事では済まない。

 

「待って待って待って!! パラシュートとかないの!? やばいって! 落ちちゃう!? 落ちちゃう!!」

 

 叫び声がコックピットに響き渡る。

 その直後、アマテを固定していたアームレイカーが格納され、金属音が乾いた響きを残した。

 

「な、なn──」

 

 言葉を飲み込む間もなく。

 

「うわああああああああ!!!」

 

 轟音と共に凄まじいGがアマテの体を押し潰す。

 視界がぶれ、コックピット内のアラートが赤く点滅する。

 

(──や、やばっ…い…!)

 

 意識が暗転していく。

 最後に目にしたのは、モニター越しに映るジークアクスの姿だった。

 その巨体が、どこか淡い緑の光を纏いながら蒼い海へと墜落していく光景。

 

 そして──アマテの意識は途切れた。

 

 




ちょっと休み明けで仕事が忙しくなったので、今後は週一投稿ですかね。もう今年もあと3ヶ月。早いですなぁ。
感想もしっかり見させて頂いておりますよ。今後もどしどしお待ちしております〜
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