機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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「片桐陽」さん「まーろん」さん誤字報告ありがとうございました。


シャロンの薔薇

 

 

 

 

……ねぇ……ねぇ……起きて

 

「……ん……?」

 

 まぶたを開けると、ぼんやりとした光が視界に揺れた。

 ランタンの灯。その向こうに、小間使いの女の子たちが立っていた。

 

「……今夜のうちにアンタを逃がす。お姉様の指示だ」

 声を潜めながらも、その瞳は強い意志を宿している。

 

「手筈はこっちでやるから大丈夫。まかせて」

 

 アマテは身を起こし、彼女たちを見返した。

 

「……ララァさんの指示って……大丈夫なの?」

 

 小間使いの一人が、強く頷く。

 けれど、すぐに唇を噛み、言葉を継いだ。

 

「でも……一つ頼みがあるんだ」

 

「……頼み?」

 

「お姉様を一緒に連れ出して欲しい」

 

 その声は必死だった。

 

「お姉様には、こんな館なんかじゃない……もっと相応しい居場所がある。館の女の子みんなが、ずっとこの日を待ってたんだ。……アンタなら──お姉様を宇宙へ連れて行けるはず」

 

 アマテは言葉を失った。

 ララァの姿が脳裏に浮かぶ。ブランコに揺られながら「自由」と語ったあの表情。

 あの悲しげな笑みの裏にある、少女たちの想い。

 

「……でも、お姉様に直接話しても、多分納得しない。それでもお願い……いっしょに連れていってあげて」

 

 アマテは深く息を吸い込み、彼女たちを見据える。

 

「……わかった。できる限りのことはするよ」

 

 その言葉に、少女たちの顔がぱっと明るくなった。

 

「ありがとう。すぐにお姉様が来ると思うから、着替えて」

 

 アマテは素早く畳んであった服を身にまとい、靴を履いて窓の外を見た。

 赤く揺らめく光。館の方角が、炎に照らされている。

 

(……火事……?)

 

 耳を劈くように、非常ベルが館中に鳴り響く。

 背筋に冷たいものが走ったその時──

 

「……っ!」

 

 背後でガチリと扉が開いた。

 アマテが振り向くと、そこには少し息を切らしたララァが立っていた。

 ララァは迷いなくアマテの手を掴み、走り出した。

 

「ララァさん……!」

 

「急いで! あの飛行機の場所を知っているのは、私を含めて数人だけ! 

 私が姿を消したと知れば、追っ手は必ずこっちに向かってくるはず!」

 

 二人は暗闇の中をひた走る。

 森に入ると足元は不安定で、道と呼べるものもない。

 枝が顔に当たり、泥が跳ねる。だが立ち止まることはできなかった。

 

「……っ、はぁ……!」

 

 アマテの胸は激しく上下する。

 それでもララァの手は決して離れず、前へ前へと導く。

 

 遠くに見える館──

 つい先ほどまでアマテが眠っていたその場所は、今や紅蓮の炎に包まれていた。

 

 轟々と燃え盛る音が、夜の森にまで届く。

 それはまるで、彼女たちを閉じ込めていた運命そのものが焼き払われていくかのように。

 

「はぁっ……はぁっ……あっ!」

 

 暫く走って、開けたところに出た。そして目の前に現れたのは、白い機体。

 土に汚れ、ところどころ擦り傷がついていたが、そのシルエットを見間違えるはずがない。

 

「……ジークアクス……?」

 

 ララァが指差した。

「急いで! すぐ追っ手が来るわ!」

 

「貴女も一緒に来るんです!」

 

「……え?」

 

 アマテは振り返り、強く言い切った。

 

「これ……ただの飛行機じゃなくて! モビルスーツの一部なんです! 

 詰めれば二人乗れるし──貴女には、もっと相応しい場所がある!」

 

 そう叫ぶと、アマテはコックピットへよじ登り、シートに乱暴に座り込む。

 

「よっ──!」

 

「ッ! マチクタビレタゾ! マチュ!」

 待ちかねたように、ハロの声が響いた。

 

 その直後、森の奥から怒声が飛ぶ。

 

「お前ら! 何をやっているんだ!!」

 

 銃を構えた白スーツの男が現れ、驚愕の表情で叫んだ。

 

「っ! ララァ! お前なのか!」

 

 コアファイターのエンジンが唸りを上げ、青いスラスターが火を噴く。

 木々が激しく揺れ、地面が吹き飛ぶ。

 

「乗って! ララァさん!」

 

「動くなッ!」

 

 白スーツの男は銃口をアマテに向け、引き金に指をかけていた。

 その瞳には怒りの感情が渦巻いている。

 

「客人もだ! そこを降りろ!」

 

 ララァはコアファイターを背に庇うように立つ。

 

「……私は行かない」

 

「な、なんで!? 宇宙に行きたんじゃないんですか!?」

 

「私は……“彼”を待たなきゃ」

 

「彼って……それは夢の話でしょ!? 早く一緒に──」

 

早く行って!!

 

「ララァ! 言うことを聞けッ!」

 

 銃声が夜を裂いた。

 白スーツの男が放った弾丸はララァの肩を掠め、火花を散らしながらコックピット脇に着弾した。

 アマテはシートに叩きつけられる。

 

「うっ……!」

 

 その瞬間、コアファイターのエンジンが咆哮を上げた。

 スラスターの光が強く輝き、キャノピーが自動的に閉まる。

 

「ララァ! 待ってよ!!ジークアクス! あなたがここへ連れて来たんじゃないの!?」

 

 ララァは叫ぶアマテを見つめたまま、一歩も動かなかった。

 その眼差しは悲しみに満ちていたが、揺らぐことはなかった。

 

「薔薇のところへ行きなさい!! 貴女には……やるべきことがある!」

 

「ララァさん!!!」

 

──ララァ、ゲンキデ

 

 次の瞬間──

 コアファイターはふわりと浮かび上がり、轟音を残して夜空へ舞い上がった。

 

 ララァは最後まで視線を逸らさなかった。

 その姿が小さくなるまで──アマテの瞳に、焼きついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……助けられなかった……約束したのにな……」

 

 アマテはシートに項垂れ、両手で顔を覆った。

 胸の奥に重たい塊が居座っている。

 

 その時──横から差し込む光に顔を顰める。

 視界の端で、水平線から太陽が昇っていた。

 夜を追い払うような、暖かな黄金の光。

 

「……ウミダゾ、マチュ」

 

「……本物の海……」

 アマテはかすかに笑った。

「泳ぎたかったなぁ……」

 

 だが、ふと脳裏をよぎる記憶。

 ──大気圏突入の後、海に叩きつけられたジークアクス本体。

 巨大な水柱を上げながら、深く沈んでいった光景。

 

(そうだ……! 今、私が乗ってるコレと本体は分離したまま……じゃあジークアクスは──)

 

「ねぇ、ハロ。ジークアクスって……今、海の底に沈んでるんだよね? どうすんの?」

 

 ハロはくるりと振り返り、陽気に答えた。

 

「スイリクリョウヨウ! ウチュウモバンノウ! モンダイナイ!」

 

「……なんか……嫌な予感しかしないんだけど……」

 

 アマテが眉をひそめた瞬間。

 

「えぁ!? ──うわぁあああ!!」

 

 コアファイターは勝手に旋回し、海面へ向かって急降下した。

 水しぶきが弾け、機体はそのまま蒼い海の中へと突入する。

 

 瞬く間に、周囲は泡と水流で視界を奪われた。

 機体は轟音を響かせながら、どんどん深くへと沈んでいく。

 

「う、嘘でしょ!? 行くなら行くって、一言くらい言ってよ!!」

 

 ギシギシと、金属が軋む音がコックピットを包む。

 水圧が増していくのを肌で感じ、アマテの胸が締めつけられた。

 

 プールの授業で泳いだことはある。

 だが、こんな深海に放り出されたら──ひとたまりもない。

 

「ほ、本当に……大丈夫なの……かな……」

 

 ハロの目が赤く点滅し、機械的に告げる。

 

「シンドヒャク。 キョヨウハンイナイ」

 

 アマテは不安げに息を呑んだ。

 暫く落下を続けたその時、大きな音と共にコックピット外が照らし出され、ヘッドライトが水中を切り裂いた。

 

 目の前に浮かび上がったその姿──

 

「……いた! ジークアクス!」

 

 フェイスガードを閉じ、沈黙する白き巨影。

 だが、アマテの胸にざわめきが走った。

 

「……ん?」

 

 違和感。

 ただ沈んでいるのではない。

 ジークアクスは、まるで何かに背を預けるように、寄りかかっていた。

 

「……な、なにあれ……でか……」

 

 ジークアクスの背後に佇む、異様に巨大な影。

 無機質な装甲と曲線が目立つ輪郭。

 

「バラ! バラ!」

 

「……これが……! シャロンの薔薇……!?」

 

 その名を口にした瞬間。

 アマテの頭の中に、映像が走った。

 

 ──ノーマルスーツを着た少女。

 その顔立ちは……ララァに、あまりにもよく似ている。

 

(い、今の……誰……? ララァさん……? いや……どういうこと……? 

 薔薇ってじゃあ……シュウジは……!?)

 

 理解が追いつかない。

 そんなアマテを無視して、自動制御が作動しジークアクス本体へと接近する。

 

 機体とドッキングし、ジークアクスはフェイスガードを展開し、カメラアイに光が走る。続いて、バルーンが展開。

 浮力に押し上げられ、ジークアクスはゆっくりと浮上を始める。

 

「……」

 

 アマテはただ、遠ざかっていく巨大な影を凝視していた。

 水の揺らめきの中、静かに佇んでいた

 

 ──シャロンの薔薇。

 

 海の底に根を下ろすように佇むその異形は、アマテにとてつもない違和感を抱かせていた。

 

「……どういうことなの……」

 

 アマテの理解は追いつかないまま、

 ジークアクスはゆっくりと水面を目指していった。

 

 

 

 

 

 

 

 静かに水飛沫を巻き上げながら、ジークアクスは海面へ浮上した。

 バルーンが波間に揺れ、機体を必死に支えている。

 

「……っ、眩しっ……!」

 

 アマテは思わず腕で顔を覆う。

 そこにあったのは、コロニーの人工光とは比べものにならない、本物の太陽の輝きだった。

 目に突き刺さるほどの光は、生まれて初めて体感する“地球の朝”そのもの。

 

 だが──その輝きは、すぐに遮られる。

 

「……っ」

 

 太陽を覆い隠すように、巨大な影が頭上に迫っていた。

 グワングワンと不気味な低音を響かせながら、影はジークアクスの上へと降下してくる。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

「──ジークアクス発見しました!」

 

 オペレーターの報告に、モニターが切り替わる。

 そこには、波間に漂うジークアクスの姿が鮮明に映し出されていた。

 バルーンと共に海に揺られながら、漂流物のように。

 

「……何でこんな海の真っ只中に……」

 

 タブレットを抱えたコモリは首を傾げ、眉を寄せる。

 不可解さが拭えない。

 

 だが、その横でシャリアは微かに笑った。

「……やはり、彼の予想は的中しましたね」

 

 すぐに視線を鋭く戻すと、指揮官としての声を響かせた。

 

「ラシット艦長。海岸警備隊の状況は?」

 

「すぐに到着します。……中佐は?」

 

「ふむ」

 シャリアは短く頷き、わずかに口角を上げる。

 

「──迎えに行きましょうか。ジークアクスと……彼女を」

 

「ミノフスキークラフトの出力を下げろ! 着水準備! 腕が問われるぞ!」

 

 ブリッジに号令が飛ぶ。

 艦はゆっくりと回頭し、海上の一点──ジークアクスの漂う場所へ降下していく。

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

「……何で本国の連中がわざわざ地球に来てんだ? 連邦への牽制か?」

「しらねぇよ。……まあ、仕事があるだけマシだろ。ここ最近はゴッグの整備ばっかりで一日が終わってたからな」

 

 二人の整備兵が煙草をふかしながらぼやき合う。

 だが、その会話はすぐに別の方向へと逸れていった。

 

「てかよ、あの“ソドン”だっけか? 見れば見るほど嫌になるぜ。あの白いヤツを思い出す」

「ああ……射程距離外からコックピットを正確に撃ち抜くって噂の、あの白い軽キャノンだろ? ……あれ、ただの噂じゃねぇのか?」

 

 シャリアは少し離れたところからその声を聞き、誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。

 

「……まったく。地球に長くいると余計な思考が目立ちますね」

 

「なんです? 中佐?」

 傍らのコモリが首を傾げる。

 

「……いや、なんでもありません」

 シャリアは首を振り、視線を目の前へと戻した。

 

 そこには、海から回収されたばかりのジークアクス。

 バルーンを切り離され、甲板に固定されていく機体のハッチがゆっくりと開いていく。

 

「おかえりなさい、マチュくん。短い地球旅行は楽しかったですか?」

 

 からかうように笑みを浮かべるシャリア。

 だが、返ってきたのは刺のある声だった。

 

「……性格悪いって言われない? おっさん」

 

「ふふ……」

 シャリアは軽く肩をすくめると、後ろへ振り返った。

 

「コモリ少尉。彼女を営倉に戻してください」

 

「……了解しました」

 コモリはタブレットを抱えたまま歩み寄り、アマテの肩に手をかける。

 シャリアの目はどこか楽しげな様子だ。

 

(……やっぱり楽しそうだよな)

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャロンの薔薇が……こんな所にあったなんて……」

 

 海風に髪をなびかせながら、コモリが小さく呟く。

 その横で、シャリアはわずかに微笑みを浮かべていた。

 

「マチュくんには礼を言わなければなりませんね。おかげで──探し物が見つかりました。……キシリア様にも良い報告ができる」

 

(……やっぱり。最初からその目論みで、好きにさせていたのか)

 コモリはタブレットを抱えたままジトーっとシャリアに睨む。

 

 眼前では、ソドンの艦底部から伸びたワイヤーが海面を切り裂くように沈んでいる。ギシギシと軋みながら、巨大なものを引き上げていた。

 

 やがて──轟音と共に水飛沫が舞い上がる。

 

「……っ!」

 

 現れたのは、緑色の巨大な装甲。

 滴り落ちる海水が太陽に反射し、まるで宝石のように煌めいている。

 

「これが……シャロンの薔薇……」

 

 だが、コモリの目には違和感が映った。

 

「……あれ? 屈折して見えます」

 

 シャリアは静かに頷く。

「ええ……この宇宙では“不安定”な状態なのでしょう」

 

「……薔薇っていうより……チューリップみたい。これって宇宙船なんですか?」

 

「いいえ。我々が作ったものではありません。正式には“開発中止”となり、建造されなかったはずの特殊モビルアーマー。……それが、何故こうして我々の目の前に存在しているのか」

 

 シャリアの声には、抑えきれない興奮が混じっていた。

 

 コモリは思い出したように口を開く。

「あの子は、“誰が乗っているのか”って尋ねていました」

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、マチュ。どうやって独房から出たの? ロックはしてたはずよ?」

 コモリが問いかける。

 

「……知らない。勝手に外れたの」

 アマテはぶっきらぼうに答えた。

 

「だからって……もし兵に見つかってたら発砲されてたかもしれないのよ? ……今後は軽率な行動は慎んで!」

 

「ねぇ、コモりん。……シャロンの薔薇には誰が乗ってるの?」

 

「コ……コモりん……?」

 コモリは思わず眉をひそめたが、問いの意味を考える。

「……薔薇に“誰が”って言われても……私だって分からないわよ」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

「……さすが新世代のニュータイプ。そこにも気づいていましたか。──時間凍結されたままのシャロンの薔薇の内部には、今も一人の少女が眠っている」

 

「少女……ですか……」

 

「……あれは恐らく、“向こう側”からやってきたニュータイプ」

 

 ──ソロモンで、貴方も同じ少女を見たのでしょう? 大佐。

 

 

 

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