機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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歴史は繰り返す

 

 

 それは、もはや作戦とは呼べない代物だった。冷徹な計算すら超越した、“破壊”という名の暴力に他ならなかった。

 

 作戦名は存在しない。ただ命令書に記されたのは、「月面宙域に浮かぶ小惑星要塞ソロモンを、グラナダへ落とす」という一文のみ。

 

 その目的は、敗色濃厚な戦局の中で、連邦の“戦後の発言力”を確保するために、ジオンの拠点が存在する月面都市グラナダごと抹殺するという暴挙だった。

 

 それでも──その作戦に参加することを命じられた者の中に、ひとり、異を唱える者がいた。

 

 フブキ・アルジェント。命令を受けた直後、彼は上層部に対し書面ではなく、言葉で異議を申し立てた。

 

「──申し訳ありませんが、この命令には従えません」

 

 フブキ・アルジェント"大尉"は、言葉を選ぶように、しかし決して退かぬ声音でそう告げた。整えられた制服の胸には、彼の異例の昇進を物語る階級章が煌めいていた。

 

 本来であれば、彼はいまだ士官学校の生徒であるはずだった。だが戦争が始まり、才能を買われて繰り上げ召集され、試作機・01ガンダムに乗り、幾多の戦場を駆け抜けた──

 

 連邦にとって、その貢献は計り知れない。だが同時に、彼の存在は“扱いづらい”という意見もあった。戦場で生き延び、英雄視されながらも冷静に物を言う若き兵士。上からの命令に疑義を挟む士官は、組織にとってあまりに異物だった。

 

「……あそこには、ジオンの兵士だけではありません。民間人も…技術者も、子供だっています。月にソロモンを落とすなど、もはや戦いではない。ただの虐殺です」

 

 凍りつくような空気の中で、彼は言葉を重ねた。

 

「ジオンがやったコロニー落としと、何が違うというんです。ただそこに居たというだけで、簡単に関係のない人の命を奪っていいことはありません。我々がジオンのやった事をなぞれば、──正義は、どこにあるんです」

 

 ──だが、軍上層部は聞く耳を持たなかった。

 

「大尉、戦局は既に崩壊している。我々地球連邦は、敗北するだろう。……ああ。認めよう。我々の負けだ。だが──“敗北のあとの世界”を、ジオンの好きにさせるわけにはいかんのだ。だから、我々が死ぬのなら、奴等も道連れにする」

 

 冷たく、そして決定事項として下されたその判断は、人道ではなく、政治と保身の言葉で成り立っていた。

 

「──大尉。我々は君のこれまでの働きを評価している。だからこそ、こうして意見を述べる場も設けた。……だが、これは“命令”だ。必要な犠牲だ。君にも、それが分かるはずだろう? 多くのジオンを葬り、"鬼神"とまで呼ばれた君ならば」

 

「それでも、承知しかねます…っ!」

 

「君が何を言おうとこれは決定事項だ。下がれ」

 

「……失礼いたします」

 

 勝つための戦争ではない。生きるための戦争でもない。それは、ただ“誰かの正しさ”を押しつけるための、破壊の儀式だった。

 

 命令は覆らなかった。どれほど理を尽くして訴えようとも、どれほど言葉を選んでも──結局のところ、一軍人でしかない俺はまた“ガンダム”に乗って出撃するしかなかった。

 

 機体は、いつも通り反応した。ビームライフルのカートリッジは正常に装填され、機体の挙動に不備はない。何度も繰り返してきた手順だ。何ひとつ違わない。

 

 違っているのは、──俺の心だけだった。

 

 モニターに映る敵影。ジオンのMS。かつてなら、それを見つけた瞬間、脳と指が直結していた。撃つべき対象、倒すべき相手、“正義”のために殺すべき敵。

 

 トリガーを引く。ビームが走る。敵機の胴体が爆ぜる。光の粉塵が宇宙に散った。

 

 もう、どれだけ倒しても、どれだけ破壊しても、何の意味もない。俺は、ジオンを、ただ“憎しみ”だけで撃ち続けてきた。多くの命が、都市が、街が、仲間が、あいつらの手で失われたから。

 

 だから俺は、戦ってきた。時に命を削ってでも。だが今や、俺たち地球連邦がやろうとしていることは、あのジオンのコロニー落としと何が違う? 月面の都市ごと、小惑星を叩きつけるだと? 

 

(……ふざけている)

 

 口には出さず、呟いた。撃ちながら、壊しながら、進みながら──自分自身に絶望していた。

 

(止めようとした。けど、止められなかった。結局、命令に従って出撃してる)

 

(だったら……ジオンと何が違う?)

 

 一体、どこで間違えた? いつから俺は、“正しさ”を待てなくなった? ──もう、自分がどこへ向かっているのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 

 月面、グラナダ上空。

 

 ソロモンは、その軌道を保ったまま、惑星内部のスラスターによって月の重力井戸へと沈みつつあった。しかし、その落下を許すまいと、ジオンはルナツー攻略に投入されず、グラナダで待機していた戦力を、そこに注ぎ込んできた。

 

 宇宙を埋め尽くす程の閃光や爆発。MS、戦艦。既知のモビルスーツだけでなく、見たことのないシルエットさえ混じっている。

 

 その中に、一際異質な艦影があった。白い艦体。独特なフォルム。間違いない。あれは、連邦が建造した新造艦──ペガサス級。だが今、その船体はジオン軍の識別色に塗り替えられ、堂々と敵陣の中心に立っていた。

 

 3ヶ月前、V作戦と共に奪取された艦。それが敵として再びこの宙域に現れた。その艦のハッチが開き、そこから赤い光が飛び出す。

 ──赤い彗星。あまりの速さ故に、連邦が名付けた敵のエースであり、ジオンの象徴。

 

 彼は、恐れも迷いもなく、連邦の船を撃破しつつ、ペガサスと共にソロモンの外壁へ取り付き、そのまま侵入を開始した。フブキは、それを遠くから見ていた。モニター越しに、あの赤き光の軌跡を。

 

 ミノフスキー粒子が強く、ノイズ混じりのレーダーの向こう、ただ一つ、確かに残る鮮烈な存在。

 

(……やっぱり、あんたか)

 

 一瞬、息を飲んだ。心臓が鼓動を早めるわけではなかった。

 

「──あんたも、俺も。時代が違えば、こんなところには……いなかったのかもしれないな」

 

 誰に届くでもなく、そう呟いた。言葉の先に、赤い機体が小さくなっていく。友でも、味方でもない。ただ、戦場のどこかで、同じものを見ていた気がする“誰か”。

 

 スラスターが爆ぜる。高出力推進が、機体を前へと押し出す。敵がどれほどいようと関係ない。赤い彗星を落とす。全ては小惑星を月に落とすために。そんな思いを抱きつつ、ビームサーベルを抜いて敵機を切り飛ばす。

 

「邪魔だよ……くそ」

 

 敵機との白兵戦を制し、フブキは次の敵影へと向かおうとしていた。だがその瞬間──頭の奥に、光が走った。

 

 紫電のような閃き。耳の奥を直接掻きむしるような、感覚のない衝撃。

 

「……っ、またか……!」

 

 歯を食いしばり、操作桿に力を込める。しかし、この得体の知れない感覚は、追い払おうとしてもなお、しつこく脳裏に残り続ける。

 

 その時──警告灯が赤く点滅した。

 

 ビーム。高出力の光線が、フブキの機体に向かって一直線に飛来する。だが、それを避けるのに苦労はしなかった。意識よりも先に、身体が反応していた。

 

「……どこだ?」

 

 レーダーを巡らせ、索敵系を切り替える。だが、敵影はどこにも映っていない。次の瞬間、再びビームが飛来。今度は斜め上から。続けて、左後方。右側面。真下。

 

「くそっ……どこから撃ってきてっ……!」

 

 まるで、見えない全方位から、機体そのものを包囲するような攻撃だった。

 

(これは……普通のモビルスーツじゃない)

 

 フブキの思考が、即座に戦術判断に切り替わる。

 

(射線、火力、発射間隔……あれに近い)

 

 頭の中に浮かぶのは、ジオンが誇る巨大兵器の一つ──ビグ・ザム。その異常な火力と射程、そして広範囲制圧性能。

 

(ここに投入されているのか?いや、ビグ・ザムのほとんどはルナツーに駆り出されているはずだ…では…)

 

 思考と共に、再び“光”が走った。どこからともなく、撃たれる瞬間の気配だけが、確かに感じ取れる。左──いや、少し上。少し、斜めに。

 

 理由はわからない。なぜそこから撃たれるとわかるのか、自分でも説明できない。だが──そいつは、確かにそこにある。

 

「……そこ!!」

 

 ビームライフルが閃光を走らせた。その軌跡は、何もない空間へ向かって放たれ──

 

(……いる)

 

 爆発もなければ光も見えない。しかし確信はあった。ただの偶然だ──しかしその偶然、戦場で培った「勘」というのは案外侮れるものではない。現にこうして敵を発見できたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 赤い閃光が、遠ざかっていく。ジオンが誇るエース──シャア・アズナブル大佐の赤いガンダムが、ソドンと共に、月面へ落下しつつある小惑星基地ソロモンへと取り付いた。

 

 シャリア・ブルは、静かにその背中を見送っていた。

 

「……どうか、ご無事で」

 

 その声に、熱はない。だが、それは冷淡という意味ではない。抑えきれぬ思慕と敬意を、胸の奥に沈めた声だった。シャア大佐──あの人だけが、自分を“理解してくれた”。──いや、似ていると言ったところだろうか。

 

 ニュータイプとして覚醒してからというもの、シャリア・ブルの周囲には、理解の及ばぬ恐れと、期待ばかりが渦巻いていた。

 

 だが、彼だけは違った。自身もまた“感応”の片鱗を持ちながら、決して過剰な期待も、侮りもせず、ただ静かに、自分の存在を必要としてくれた。

 

 その人が今、あの小惑星の中で戦っている。ならば自分がすべきことは──明白だった。

 

「……私は、あなたの帰る場所を守ります」

 

 キケロガの操作系が、思考と重なっていく。思考と砲塔が連結し、空間の揺らぎと気配が直接“触覚”として伝わってくる。

 

 そのとき、モニターに表示された味方機の識別信号が、ひとつ、またひとつと消えていく。

 

「……来たか」

 

 連邦軍のエース。明らかに通常のMS戦力ではあり得ない損耗速度。視界に敵影は映っていない。だが、そこにいる。

 

 空間がわずかにざわつく。粒子の密度の偏り、航跡の乱れ、意志の残滓。

 

「感じる。……まだ遠いが、いるな……」

 

 シャリアは微かに笑みを浮かべた。それはどこか哀しげで、美しかった。

 

「大佐が戻る道を、守ることが私の任務です。誰一人通しませんよ」

 

 砲塔が、思考と共に振れる。敵が姿を見せぬうちに、“そこにいる”と知覚した座標へ──

 

 粒子が収束し、キケロガの有線メガ粒子砲が、闇を貫いた。彼の一撃は、断じて迷わなかった。それは、大佐の帰還を迎えるための、確信と誇りに満ちた一射だった。

 

 メガ粒子砲が唸りを上げ、宇宙の暗黒を切り裂いた。キケロガの主砲、そして有線式の砲塔が正確に間合いを捉え、次々に火線を放っていく。

 

 狙いは外していない。この座標、動き、流れ──通常のモビルスーツであれば、回避は不可能なはずだった。

 だが。

 

「……避けた……?」

 

 一発目、空間を滑るように躱される。二発目、姿勢を崩すことなく軌道を逸らす。三、四、五──そのすべてが、まるで見透かされたかのように無効化されていく。

 

「これは……まさか」

 

 直感ではない。確信だった。この反応、この予測、この研ぎ澄まされた一瞬の読み。

 

(まさか……彼も、我々と“同じ側”なのか……?)

 

 ニュータイプ──それはもはや、ジオン内部では学術的にも軍略的にも議論され尽くした“存在”。シャリア・ブルは、その力において高い適性を示し、理解し、使いこなす者の一人である。

 

 だが今、視界の向こうにいる“敵”は──

 

(まるで、大佐と剣を交える時のような……)

 

 その思考の刹那。背筋に冷たい風が走った。

 

「──!」

 

 キケロガの機体の側面、わずか数メートルをかすめて、蒼白のビームが駆け抜けた。警告灯が瞬き、粒子の残滓がコックピットの窓越しに煌めきを残す。

 

「……見つかった……!?」

 

 視界に敵影はない。この座標から、こちらの砲撃を受けただけで──自分の位置を特定したというのか。

 

「……やはり、君もそうなのか」

 

 歓喜ではない。だが、明確な“出会い”の感覚があった。

 

(我々と同じだ。いや……それ以上かもしれない)

 

 思考が加速する。敵の次の動き、次の射線、次の思考を読む。彼はそのすべてを、冷静に、かつ研ぎ澄まされた精神で処理していく。

 

「しかし──」

 

 攻撃の手は緩めない。むしろ、有線砲塔の軌道を切り替え、全方向への包囲射撃へと切り替える。

 

「君が、大佐の帰路を脅かすというのなら!──容赦はしない」

 

 意識を一点に集中させ、思考が粒子と一体化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 ビームライフルが閃光を放った。赤い粒子が一直線に空間を貫き、その余波がわずかに宇宙の塵を舞わせる。だが──何も、感じなかった。

 

「……外したか」

 

 低く舌打ちを漏らしながら、フブキはライフルを一度引き戻す。直撃していれば何らかのリアクションがあるはずだった。爆散。閃光。警告波。何もない。

 

(手応えがない……ってことは、かすりもしてないか…)

 

 HUDには依然として敵影は映らない。それでもあの攻撃の応酬から見て、こちらの位置は確実に割れている。

 

 間違いなく敵はこちらを“見ている”。

 

(あのオールレンジ攻撃……通常のモビルスーツじゃない。あれは……)

 

 脳裏に浮かぶのは、過去の戦場の記憶。ジオンが誇る巨大兵器──ビグ・ザム。その距離、その火力、そして射角。

 

(……モビルアーマーだ)

 

 ライフルを構えたまま、フブキの思考が動く。今の距離は、奴の間合い。このまま遠距離で打ち合っても、反応され、撃ち負けるだけだ。

 

「やっぱり……近づくしかない、か」

 

 自らの距離、自らの武器、自らのやり方。それが通用するのは、至近距離──剣の届く間合いだけ。──だが

 

(あの攻撃を避けながら、接近戦まで持ち込む?)

 

 上下左右、あらゆる方向から迫る砲撃。それは単なる乱射ではなく、間断なく、意識を揺さぶるように配置された“狩り”の網。

 その中を抜けて接近するというのは、不可能に近い。

 

(正面突破はまず無理だ。回避に集中しながら接近軌道を描けるルート……あるか?)

 

 視線の端で、何かが揺らいだ。それはデブリか、壊れた機体の残骸か。いや──それも“障害”ではなく、“使えるもの”のひとつだ。

 

 スラスターの熱量、照射の明滅、爆散の方向──ありとあらゆる物全てが、この宇宙では“情報”になる。

 

「……なら、やるしかないか」

 

 苦笑のように、声が漏れる。自分が最も得意とする距離でしか、この勝負に勝ち目はない。そのためには、どんな策も使う。勝つために。

 




もういろんなところで「おっさんずMAV」って言われてて笑ってしまいます。え…──いやMAVってそういう?
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