機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
「……なんだ? どこなのだ? ここは……」
周囲を見渡すと、そこにはジオンのノーマルスーツを着た兵士たちが整列していた。
そして、自分自身も、その中の一人である。
ざわつく兵士たちのざわめきを沈めるように──「ブッ」という音と共にマイクのスイッチが入った。
壇上に立つ人物。その姿を見た瞬間、シャリアは息を呑んだ。
「大佐……!?」
──だが、そこにいたのは、自分の知るシャア・アズナブルではなかった。
髪は整えられ、ジオン? の赤い制服を身に纏っている。
しかし、仮面はつけていない。年齢も、最後に会った時より少し歳を重ねたように見える。
その人物──シャアは、堂々とマイクに口を近づけて話し出した。
『このコロニー、"スウィート・ウォーター"は、密閉型とオープン型を繋ぎ合わせて建造された、極めて不安定なものである』
シャリアは声を発しようとしたが、喉が凍りついたように動かない。
(……これは夢だ。夢でなければ説明がつかない。ならば今、私の目の前にいる“大佐”は──何なのだ? 私の認識が作り出した幻影か? それとも──)
だが、その問いに答えるように、壇上のシャアは続けた。
『私の父、ジオン・ダイクンが宇宙移民者──すなわちスペースノイドの自治権を地球に要求した時、父ジオンはザビ家に暗殺された。そしてそのザビ家一党は、ジオン公国を騙り、地球に独立戦争を仕掛けたのである』
会場は静まり返っていた。
兵士たちは息を殺し、ただ一人の男の声に耳を傾けている。
『その結果は、諸君らの知るとおり──ザビ家の敗北に終わった』
「……っ……」
シャリアの胸を冷たい衝撃が突き抜ける。
(ザビ家の敗北……? ジオンが戦争に負けただと……? どういうことなのだ……!)
彼の思考は混乱していた。
“ジオンの遺児”を隠すことなく語るシャア。そして、「敗北」を口にする彼の姿。
それは、シャリアが知る大佐とはまったく別の存在だった。
『それはいい。しかし、その結果──地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった! 』
兵士たちの間にざわめきが広がる。だがシャアは畳みかけるように声を張り上げた。
『これが! 難民を生んだ歴史である! ここに至って私は──人類が今後、絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと、確信したのである! 』
その声は雷鳴のようにシャリアの鼓膜を震わせる。
『それが──"アクシズを地球に落とす"作戦の真の目的である! 』
「アクシズを……地球に……!? 大佐!! 貴方はなんて恐ろしいことを!!」
シャリアは思わず叫んだ。
だがその声は、壇上のシャアには届かない。
いや、周囲の兵士たちにすら届いていない。
聞こえるはずがないのだ。
これは──夢。幻視。自分だけが閉じ込められた世界。
『これによって──地球圏の戦争の源である"地球に居続ける人々"を粛清する! 』
その瞬間、周りの兵士たちが一斉に拳を掲げ、歓声を上げた。
「「「ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!」」」
熱狂。狂気。
だがシャリアにはただの悪夢にしか見えなかった。
(……意味がわからない……! 地球に住む、戦争に関わりのない人々を──粛清するだと!?そんなのは…っ!)
シャリアの脳裏に、アマテの鋭い瞳が閃く。
尋問の最中、真正面から突きつけられた言葉。
──無関係な人を巻き込んで……勝手に戦争を始めたのは、あんた達じゃない──
「……大佐……! これでは一年戦争の再現どころか……いえ、それよりももっと酷いものになってしまう……!」
シャリアは震える拳を握り締めた。
だがその姿を、誰一人として顧みる者はいなかった。
壇上のシャアの姿と、兵士たちの歓声だけが、不気味なほど鳴り響いていた。
──
「っ……!」
シャリアはベッドの上で跳ねるように目を覚ました。
全身を嫌な汗が伝い、寝衣が肌に張りつく。
呼吸は荒く、胸の奥にまだ“誰かの感情”が残っているようだった。
「……久しぶりに見ましたね……いやにリアルなのがまた……」
額を押さえながら、独り言のように呟く。
こうして自分ではない、他者の記憶を垣間見る現象は初めてではなかった。
最初に経験したのは──キケロガに乗った時。
夢で見たのは、実際に自分が搭乗していた機体よりもはるかに巨大な“キケロガ”。
後になって、シムス大尉が「より強力なメガ粒子砲を搭載するために大型化しよう」としていたと知った時、背筋が凍った。
……あの時は、説得するのに骨が折れた……
ジークアクスのテストパイロットを務めた時も同じだった。
ただのバルーン相手の演習。
自分の照準よりも速く、見えない“誰か”が標的を捕捉し、射撃座標を修正してくる。
操縦桿の感触が、自分の意思ではない力に支配されていく。
「これが、ガンダム・クァックスですか……」
「ええ。グラナダの技術班から建造が依頼されました。何でも、次世代のサイコミュ技術を搭載しているとか……」
「次世代のサイコミュ……赤いガンダムに搭載されていたような?」
「それが分からないんですよ。仕様書には“オメガ・サイコミュ”と記載されていますが……コードでは“エンディミオン・ユニット”ってなってますし」
「……そもそも、サイコミュは公的に禁止された技術では? しかも正体が分からない。……ゼクノヴァが発生する可能性を考えれば、あまりにも危険だ」
シャリアの声には、抑えきれない苛立ちが混じっていた。あのソロモンを呑み込んだ異常現象──ゼクノヴァ。
その再現を恐れる心は、彼の中で決して消えていない。
対する技術士官は、肩をすくめて答えた。
「……私らも分かりませんよ。ですが、このプロジェクトはキシリア様お付きの技術班が直接監督しています。恐らく、キシリア様ご自身が指揮をとっておられるのでしょう」
「……!」
シャリアは息を呑んだ。
上層部の意向であれば、現場が拒否する余地はほとんどない。
「まあ、何にせよ──」
士官は淡々と告げた。
「中佐にはこの機体のテスト運用をお願いしたい」
静かな沈黙。
やがて、シャリアは深く息を吐き、覚悟を固めた声で応じる。
「……分かりました」
《それでは中佐──バルーンを展開します。オメガ・サイコミュを使いつつ、目標を破壊してください》
オペレーターの声が冷静に響く。
正面モニターには〈ENEMY〉の文字と共に、風船状の標的が浮かんだ。
「……了解」
シャリアは深く息を吐き、ビームライフルを構えた。
狙いを定め──スイッチに指をかけた、その瞬間。
──もっと下だ──
「っ!?」
頭に直接流れ込むような“声”。
思わず手が動いた。照準が自動的に修正され、引き金が引かれる。
ビームが閃光となり、バルーンを正確に貫いた。
「……!」
《す、凄いですよ中佐! 初めて乗るのにど真ん中です! ど真ん中!》
オペレーターの歓声が管制室に響く。
しかし、シャリアの表情は硬直したままだった。
「……今のは……」
額にじっとりと汗が滲む。
自分の意思よりも早く、より正確に──“何者か”が介入しているような……
得も言えぬ恐怖が、背筋を冷たく撫でていくのを覚えている。
あの試験以降……私でオメガ・サイコミュは起動しなかった。
エグザベ少尉が乗っても同じことだ。
……彼女だけなのだ。マチュ君──アマテ・ユズリハだけが、ジークアクスを、オメガ・サイコミュを使いこなしている。それが彼女自身の資質なのか、それとも──ジークアクスが彼女を“選んだ”のか……
シャリアは額に手を当て、ゆっくりと瞳を閉じる。
思考の奥底に広がるのは、あの恐ろしい光景。
何にせよ……私がこの夢を見たのは、“シャロンの薔薇”に接触したことが関係している可能性が高い。
あの時間凍結の空間にいる少女が……私に“向こう側”を垣間見せたのだろう。
心臓が強く脈打つ。
胸に残るのは、夢で垣間見た“誰かの記憶”──そして、赤い制服に身を包んだ男の姿。
「──大佐。貴方は、やはり」
言葉はそこで途切れた。
部屋に沈む静寂の中、シャリアは己の疑念を胸に押し込めるしかなかった。
──
「ねぇ、マチュ」
「ん? 何コモりん」
コモリは少し言い淀みながらも、思い切って口を開いた。
「その……ストレートに聞くんだけど、あの黒いガンダムのパイロットとどういう関係なの?」
「フブさんとの関係か……」
するとすかさず横から声が飛んだ。
「あ、それ私も気になります」
セファが身を乗り出し、目を輝かせている。
「ほら、セファも気になってるみたいだし」
アマテは少し頬を染め、言葉を選ぶように唇を尖らせた。
「う〜ん……まだ答えもらってないしなぁ……」
「そ、その……マチュさんは……」
セファがもじもじと指を絡めながら尋ねる。
「彼と……どこまでいったとか……」
一瞬の沈黙。
そしてアマテは、さらりと爆弾を落とした。
「……ま、まあ? やることはやった……かな」
「……え?」
コモリの目が飛び出そうになる。
「嘘でしょ!? マチュまだ学生でしょ!? あいつ、学生のあんたに手を出したっての!?」
「手を出したっていうか……無理矢理……」
「無理矢理!?」
「うん……意識が飛ぶまで……その……」
セファの顔は一気に真っ赤になった。
「す、凄いですね……いやいや! 無理矢理なんて良くないですけど!」
コモリは椅子を蹴るように立ち上がった。
「ちょっとアイツのところ行ってくる!!」
アマテは慌てて手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待ってコモりん! 誤解だから!!」
だが、コモリの足は既にドアへ向かっていた。
「──というわけでして、貴方の所感が聞きたいんです」
「成程。この配置なら、こことここを対処すれば一点突破で──」
フブキが資料に指を走らせた瞬間、扉が勢いよく開いた。
肩で息をするコモリの姿に、シャリアは目を丸くする。
「おや? コモリ少尉? どうしt──」
「ちょっと! アンタ! まだ未成年の子供になんてことしてんのよ!」
「な、何だ突然? 何の話だ?」
「コモリ少尉、ひとまず落ち着いてくd──」
「とぼけんな! マチュから聞いたのよ! 無理矢理マチュと……そ、その……やったそうじゃない!」
「は……? ……あ、ああ。確かにそうだな……」
「何考えてんのよ!」
「……アマテには、少し悪いことをしたと思っている」
「"少し"どころじゃないでしょ!? 女にとって“初めて”は重要なの! それをアンタは……!」
「反省している。……少しは加減すればよかったと……」
「コイツっ!」
(……なぜでしょう……コモリ少尉は完全に勘違いしてますね……)
シャリアは額を押さえてため息を吐く。
その時、慌てた声が飛び込んできた。
「コ、コモりん! ちょっと何やってんの!」
アマテがコモリの腕を掴み、暴れる彼女を必死に廊下へと引きずり出す。
「フブさん、邪魔してごめんね! ヒゲマンもゴメン!」
「……あ、いや、いいんだ」
「構いませんよ。あ、マチュ君、コモリ少尉にも特に処罰を与えないと伝えておいてください」
バタン、と扉が閉じる。
一瞬前まで騒がしかった部屋は、嘘のように静寂に包まれた。
「……フブキ君」
「……? 何だ?」
シャリアはゆっくりと椅子に背を預け、真顔で言った。
「私が言えたことではないのですが、君は少し……言葉が足りません……」
「……?」
フブキは首を傾げたが、シャリアはそれ以上何も言わず、ただ深くため息を吐いた。
少しずつ、本当に少しずつですが涼しくなってきましたね。
10月中旬に入るまでに終盤にいかないと