機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
「っ! ヒゲマン!」
「分かってますよ!」
シャリアのキケロガと、アマテのジークアクスがスラスターを噴かし、黒い機影──タナトスへと突進する。
「……ニュータイプのマヴ。……これ程、嫌なものはないな……っ!」
フブキは歯噛みしながら、訓練用のビームライフルを引き絞った。
赤いレーザーが閃光を描き、接近する二機に向けて一直線に走る。
「マチュ君! 私がオールレンジ攻撃で撹乱します! その隙にやりなさい!」
「オッケぇぇえ!!」
ジークアクスが続けざまにビームを発射。赤い光がタナトスへ収束する。
「……ちぃっ! ファンネル!!」
タナトスの背面、バックパックから六機の板状のビットが散開した。
不規則な軌道を描きながら空間を切り裂き、レーザーを放つ。
「ちょっ! フブさん、それズルいって!」
「シャリアも使ってるだろう? シャアが使わないとも限らないんだ! 今のうちに慣れておけ!」
無数の赤い光線が雨のように降り注ぎ、ジークアクスは回避機動を強いられる。
「くっ! マチュ君!」
機体の足が止まった刹那、タナトスの黒いシルエットが、不気味に光を反射してシャリアに迫り来る。
「シャリア! 覚悟!」
「なんの!」
キケロガは有線メガ粒子砲を格納し、モビルアーマー形態からモビルスーツ形態へ変形した。
装甲が開閉し、関節が唸りを上げて伸びる。
「っ! ソロモンではそんな姿はしていなかったと思うんだがな! 俺の記憶違いか!?」
「ええ! あれからキケロガも改修しましたから!」
タナトスとキケロガが交差しざまにレーザーを撃ち合う。
赤い閃光が宇宙に幾筋も走り、タナトスのシールドやキケロガの腕部に当たっていく。
「よくそんな重い機体で動けるな!」
「キケロガはモビルアーマーですよ! 推力は並のモビルスーツの比ではありませんからっ!」
その時、背後から甲高い声。
「フブさああああんっ! 私を忘れてないっ!」
「っ!? マチュ! ファンネルは!?」
「なんかよくわからないけど止まったよ!」
「っは! 運がいいのか、悪いのか!」
「──ジークアクス!!」
アマテの叫びに応じるように、ジークアクスのフェイスガードが展開し、緑のツインアイが煌めく。
「……っ!?」
フブキが目を細めて警戒するが、そこに間の抜けたような声が混線して響いた。
《は〜い! ジークアクスのオメガサイコミュの起動が確認されたので──中佐、マチュペアの敗北です!》
「うえっ!? なんで!?」
《最初に言ったじゃない! オメガサイコミュは使っちゃダメだって! それにマチュ! 貴女、タナトスのビットに囲まれた時に一瞬だけ発動したでしょ! こっちでシグナル確認してるんだからね! まったく! 一回は見逃したのに!》
「ん……? 私、使ったっけ……?」
「──負けてしまいましたね、マチュ君」
「ヒゲマン……あ〜! もうちょっとだったのにぃ〜!」
「ふふ。……さぁ、帰りましょう。作戦会議をしますよ」
「う〜ん……」
ジークアクスやキケロガ、そしてタナトスがゆっくりとソドンへと帰還していく。
艦内の格納庫では整備兵たちの声が飛び交い、巨大なアームが機体を誘導していた。
「オーライ! オーライ! ──オッケー! ジークアクス格納完了!」
「各種武装の点検、補給を急げ!」
警告灯が消え、巨大なハッチが閉ざされる音が響く。作業員たちはすぐにジークアクスを取り囲み、点検用ハッチを開いて作業を進めていく。
コックピットから飛び出してヘルメットを脱ぎ捨てるアマテ。そんな姿を見ながら、コモリは少し大きく声を上げる。
「マチュ! 服は用意してあるからすぐに着替えて? 中佐とのデブリーフィングでその格好のまま行かないでよ?」
「ねぇ、コモりん……このカッコちょっと嫌になってきた……」
アマテは自分の体のラインに沿う黒いノーマルスーツをつまみながら、もじもじと呟く。
「は? 何で? ちゃんとサイズ測ったし、マチュの希望通り“黒色”じゃない」
「う〜ん……何というか……フブさんからの反応が薄いっていうか……」
頬を赤らめ、恥ずかしそうに言うアマテを見て、コモリは額に手を当てた。
「……あのねぇ。女の、ましてや女子高生のノーマルスーツ姿を見て“可愛い”だの何だの言う男がいたら、私が殴ってやるわよ」
「ええ〜? そういうもの? やっぱり好きな人には言ってもらいたくない? コモりんは硬いんだよ〜。そんなだから、例の好きな人? に振り向いてもらえないんだよ? 少しはガツガツいかなきゃ!」
「っ! マ、マチュみたいに誰もが積極的にいけるわけないでしょ! 私には……私のペースってもんがあるの!」
アマテはクスクスと笑いながら肩を竦める。
「のんびりしすぎて、他の子に取られちゃったらどうするの〜? これは受け売りだけど、コレだと思った人は逃さないようにしないとさ!」
「う、うるさいっ!」
コモリは真っ赤な顔で、タオルをアマテに投げつけた。
──
「ジークアクス、タナトス、キケロガ、帰投しました」
オペレーターのセファは、艦橋にいる全員に届くように明瞭な声で報告した。
艦長席で頬杖をついていたラシットは、気だるげにモニターを見上げる。
映し出されているのは、先ほどまでの模擬戦の記録映像。
「これが……中佐が雇ったという“ニュータイプの戦い方”か……」
ラシットはぼそりと呟きながら、ビットを縦横無尽に操るタナトスの姿を追う。
「……あのビットの動かし方といい、一対多数戦闘に慣れているな……」
セファの背後に座っているオペレーターが資料を確認しながら口を挟む。
「一応本部にも確認しましたが、連邦やグラナダのデータベースにも一切情報がありません……中佐が言っていたこと、本当なんですかね?」
「“向こう側から来た”とかいう話か? そんなこと……にわかには信じられんな……しかしシャロンの薔薇の件もある……一概に否定はできないのがなぁ……」
ラシットは低く笑ったが、瞳はどこか探るように細められていた。
「あ、そういえばマリガン大尉から連絡入ってましたよ? イマ……、イオマグヌッソ……? ってやつの完成披露式典があるので、護衛としてソドンも参加しろと……どうします?」
「なんだと!? そういうことは早く言え!」
「いえ……模擬戦で少し忙しかったですし……」
──
「ヒゲマ〜ン? 来たよ〜?」
「ちょっとマチュ! 中佐! 連れてきました!」
コモリが扉の前で声を張り上げると、中から「どうぞ」という落ち着いた声が返ってきた。
ドアが開き、アマテとコモリは中へと入る。
すでに部屋にはフブキが居た。
振り向いた彼は軽く手を挙げ、短く告げる。
「コモリ少尉、ご苦労様でした」
「いえ、それでは」
コモリは一礼すると部屋を後にし、扉が閉じる。
静けさの中で、シャリアが口を開いた。
「さて──マチュ君も揃ったことですし。貴方が聞きたかったであろう話をしましょう」
「あ、木星の話?」
「おいおい……俺との模擬戦中に……ずいぶん余裕だったんだな」
「ち、ちがうって! フブさん探してる時にちょっと……その、気になってね?」
「くだらない旅の話ですよ?」
シャリアはワインを口に含み、静かに目を伏せた。
「──木星に旅立つ前、私には責任がありました。スペースノイドの自由と独立の為、必要なエネルギー物資を持ち帰る。
ジオン国民の期待を背負うその責任は、崇高なものだと感じていました」
フブキは鼻で笑い、吐き捨てるように言った。
「皮肉なもんだな……そうやって持ち帰ったものが、戦争に利用される原動力になるとはな」
「ええ。当時の私は……それすらも“誇りあるもの”だと思っていたのですよ」
シャリアは瞼を閉じ、記憶を掘り起こすように語り続ける。
「長い往路の旅を終え、船団がヘリウム3を採取完了した時、事故が起こりました。……木星から照射される宇宙線は、技術部の想定よりはるかに強力で……致命的なダメージを制御装置に与えたのです」
言葉に重さがのしかかる。
それはただの技術的な不具合ではなく、人類がまだ知らぬ宇宙の過酷さそのものを突き付けられた記憶。
「地球へ帰る術を失い、崇高な責任を果たせないと分かった時……私には何もすることがなくなってしまった」
低く押し殺したような声。
「やるべきことも、やりたいと思うことも、何もない。いっそ自ら命を絶とうとも考えました──そんな時です。
何の役にも立たない自分を自覚した時、私は初めて“自由”になれた」
「……自由……」
アマテは小さく呟き、座るフブキの体に身を寄せるように抱きついた。
「誰の期待に応えることもできない。なにより、自分自身の期待にさえ。
そうなって初めて……私には、本当の自由が生まれたのです」
シャリアは振り返り、二人が座る椅子の横のテーブルへ視線を送る。
そこには、冷たい光を放つ一丁の拳銃が置かれていた。
「──それは、私が木星に持っていったものです」
瞳を細め、記憶の奥をなぞるように語る。
「本当の自由になれたまま死ねるのなら、それでいいのかもしれない……そう思い、引き金に指をかけたその時──なぜか船団のオートパイロットが復旧したのです」
一呼吸置いて、淡々と続けた。
「私は……英雄として地球に帰還しました。
しかし、自分の信じた戦争が生み出した恐ろしい惨状を知ってなお……私は何も感じなかった」
シャリアの声には、怒りも悲しみも宿っていない。
ただ乾いた事実だけがそこにあった。
「スペースノイドの自立も……人類の半分が死んだことも……もうどうだっていい。──私は、自分が空っぽになってしまったことに、気づいたのです」
「──そんな中、奴に会ったわけか……」
「ええ。とても面白い男だと思いました」
シャリアの目が細くなる。
「若く、自信家で、大それた野望を持ち……それを、自分に課せられた責任だとさえ思っている」
フブキは視線を逸らし、吐き捨てるように言った。
「……ヤツはそういう人間だ。夢みたいな目標を持ってるから、いつも過激なことしかやらない」
その声音には苛立ちが滲んでいた。
アマテはそんなフブキの変化に気づき、首を傾げる。
「……? フブさん……?」
「……っ! すまん……」
フブキは目を伏せ、言葉を濁した。
沈黙を破るように、シャリアが微笑む。
「シャア大佐──彼は私と似ている」
「……空っぽのアンタと?」
アマテの疑念を含んだ問いが投げかけられる。
「ふふ……」
シャリアは応えず、ただ笑みを深めた。
そして、そっと机上の拳銃に触れる。
「貴女には、頼み事があるのですが……それはまたの機会にしましょう。
気に入ったのなら、この拳銃は差し上げます。……私には、もう必要のないものだ」
拳銃をテーブルの中央に滑らせながら、軽口を添える。
「──あ、でもコモリ少尉に見つかると大変ですからね。気をつけて?」
部屋に一瞬だけ、乾いた笑いが響いた。
アマテが部屋を出され、扉が静かに閉まる。
残されたのはフブキとシャリア、二人だけ。
重苦しい沈黙を破ったのは、シャリアだった。
「──ソーラレイ…イオマグヌッソが完成したそうです」
「……っ! 早いな……」
フブキの瞳が鋭さを帯びる。
「周囲のサイドに周知する前から、密かに着工していたとしか思えんな」
「その通りでしょう。そして、それに伴って……完成披露式典にこの艦も、キシリア様の護衛につくことになりました」
「……ふん。しかし──そこにはギレンも現れると?」
「ええ。ザビ家総出の式典です」
シャリアの声は低く抑えられているが、その響きは重かった。
「……チャンスではあるが……」
フブキは唇を噛み、考え込む。
「問題は“シャロンの薔薇”と──“シャア”だな」
「ええ。シャロンの薔薇を使った、ゼクノヴァを利用した兵器……大佐が仮に生きていて、そこに居たとしたら……」
シャリアはゆっくりとフブキを見据える。
「──お二人が出席するこの場を狙うはずです」
空気が張り詰め、部屋の温度が数度下がったかのような錯覚さえあった。
薔薇の少女。貴様が世界を歪めるのなら、私がそれを正すだけだ。