機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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「──グワランの大破を確認!」

「ミノフスキー粒子、戦闘濃度です!」

 

 オペレーターの声が重なり、艦橋全体がざわついた。

 報告を受けたラシットは思わず立ち上がって声を荒げる。

 

「どこからの攻撃だ!」

 

 オシロが震える声で答える。

「近衛部隊のギャンが、国家親衛隊と交戦中です!」

 

「……なんだと? キシリア様が動かれたのか……?」

 

 ラシットは顔をしかめると、即座に号令を飛ばした。

「全艦、第1種戦闘配置! ミノフスキー粒子が撒かれてるんだ! 各員、目視による警戒を怠るな!」

 

 ブリッジに赤い警報灯が点滅し、低く唸るような警告音が鳴り響く。

 乗組員たちが一斉に持ち場へ走り、各モニターには光の点が次々と表示されていく。

 

「推進機関、出力安定! 対艦砲、照準システム異常なし!」

「通信混線! 再リンクを要請します!」

 

 混乱の中で、コモリは息を詰めた。

 震える手でタブレットを抱えつつ、ラシットを見る。

 

「な、何が起こってるんです……?」

 

 だが誰も答えない。

 セファも、通信士も、全員がただ目の前の情報に釘付けになっている。

 

 その時、操舵手のタンギが、低く、静かに呟いた。

 

「……戦争が始まった」

 

 誰もその言葉に返事をしなかった。

 ただ、艦の外で爆発した一条の閃光がブリッジのガラス越しに反射して、全員の顔を一瞬、白く照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 ピピッ──。

 電子音が鋭く響き、扉のロックが外れる。

 

「ん?」

 

 開いた先に立っていたのは、息を荒げたシャリア・ブルだった。

 額は汗で濡れ、髪は少し荒れてボサボサだ。

 

「あれ? ど、どしたの? ヒゲマン」

 

「マチュ君! すぐに出撃です! こちらに!」

 

「へ? うおわ! ちょっ──!」

 

 シャリアは返事も待たずにアマテの手を掴み、廊下を駆け出す。

 赤い警報灯が艦内を照らし、壁に走る影が何層にも重なっていた。

 

「はぁっ……はぁっ……私のミスです……! キシリア様が、一枚上手でした……! この戦争だけは……絶対に止めなければいけなかったのに……!」

 

「……私は何をすればいいの?」

 

 その問いに、シャリアは振り向き、疲れ切った瞳に一瞬だけ光を宿す。

 

「貴女には──貴女の“望むこと”を、やってもらいたい」

 

「え?」

 

「イオマグヌッソは、シャロンの薔薇が起こすゼクノヴァを利用した“戦略兵器”です。これが使用される前に、薔薇の中で眠る少女を救い出していただきたい。──貴女のガンダム・クァックスなら、それが可能なのです」

 

「……ジークアクスが……」

 

「もうこれ以上、ニュータイプが“人殺し”に利用されるのは──忍びない」

 

 その一言に、アマテの胸が詰まる。

 脳裏をかすめたのは、シイコとの戦いでジークアクスの中で見た光。

 自分が触れた“他者の心”、背中を押してくれた温かな声。

 我を忘れていたシイコさんと、──分かり合えた。

 

 ──ニュータイプ。

 それは人を殺すための力ではなく、理解し、繋がるための力──

 彼女の中で、何かが決定的に形を成した。

 

「……その時が来たら、オメガ・サイコミュのリミッターデバイスを破壊してください。貴女とガンダム・クァックスなら、シャロンの薔薇の“時間凍結”に干渉できるはずです」

 

「──私がやることはわかった。けど、アンタはどうすんの?」

 

 シャリアはわずかに微笑む。

 その顔は、これまで見せたどんな笑みよりも穏やかだった。

 

「軍人には、軍人の“責任の取り方”があります」

 

 その瞬間、艦内放送が割り込む。

 

『モビルスーツデッキで、タナトスが起動しています! 作業員は注意してください! 繰り返す!』

 

「っ……フブさん……!?」

 

「……流石。早いですね」

 シャリアの口元に、かすかな安堵と焦りが混じる。

 

「マチュ君、君も早くジークアクスへ! 私もすぐに追いかけます!」

 

「う、うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてガンダムが動いている! パイロットは!?」

「──無人です! タナトスには誰も乗っていません!」

 

 オペレーター、セファの報告が響いた瞬間、艦橋の空気が凍りついた。

 ラシットは立ち上がり、前方のメインモニターを凝視する。

 その視線の先に映っていたのは、ツインアイを光らせ、静かに起動する黒い巨影──タナトス。

 

「……バカな……」

 

 セファがモニターの解析データを確認しながら、震える声で叫ぶ。

「こ、コックピット付近に……光の粒子が漂っています! それに──微弱ながら、ゼクノヴァ反応も!」

 

 映像が拡大される。

 タナトスのコックピットが、まるで心臓の鼓動のように明滅していた。

 そして、黒いパイロットスーツを着た男がゆっくりとそこへ入っていく。

 

「……あ! フブキさん! パイロットの搭乗を確認!」

 

「なっ……!?」

 ラシットは指揮席を蹴るように立ち上がる。

「モビルスーツデッキを封鎖しろ! タナトスを外に出すな!」

 

「了解です! デッキ制御ロックを──え……な、なにこれ!? どうして……!」

 

「どうした!」

 

「ハッチが……開いていきます! 制御不能! こちらの信号をまったく受け付けません!」

 

 セファの声と同時に、目の前のモニターにはハッチが開放されていく様が映っている。

 

「な、何が起こっているんだ……!」

 

 メインモニターに映るタナトスの姿が、ゆっくりと動き出す。

 まるで、眠っていた“何か”が目覚めたかのように。

 

 コックピット、ひいては機体を包む光は徐々に消えていき、収まっていく。

 タナトスの背面スラスターがゆっくりと開き、青白い光が増幅していく。

 

「止めろ! 誰か……!」

 

 だが、すでに遅かった。黒いガンダムの姿が艦の外へ飛び出す。

 その瞬間、一瞬だけ、ブリッジにいたクルーの目には、宇宙へ飛び出していく"黒い"ガンダムが、爆発の閃光で、"白く"見えた。

 

 

「ジ、ジークアクス! カタパルトに接続! 発進要請です!」

 

「なに!? まったく……次から次へと!」

 ラシットは怒鳴り、額を押さえる。

「やめさせろ! 状況がわからない中での出撃は危険だ!」

 

 ブリッジ中が騒然とする。

 警報の赤い光が断続的に点滅し、艦内通信のノイズが混ざり合う。

 その混乱を切り裂くように、新たな通信が入った。

 

『ラシット艦長! 聞こえますか!? ジークアクスを発進させてください! 私もキケロガをすぐに出します!』

 

「中佐!? しかし、この状況では──!」

 

『頼みます!』

 

 一方的に無線が切れる。

 残されたのは、耳障りなノイズと、誰も言葉を発せられない沈黙。

 

 ラシットは拳を握り、指揮席の肘掛けを殴りつけた。

「くそっ……!」

 

 セファが恐る恐る問いかける。

「ど、どうしますか……?」

 

「どうもこうもあるか! ……ジークアクスのパイロットに繋げ!」

 

「り、了解……回線、開きます!」

 

「ジークアクスのパイロット! 聞こえるな!」

 ラシット艦長の怒号が、通信回線越しにブリッジ全体へ響く。

 

「その機体は、ジオン最新の機体だ! 多少は壊れても構わんが──絶対に帰ってこい! いいな! これは命令だ! 以上!」

 

 短く、だが確かに“命”を預ける声だった。

 通信を終えたラシットは、わずかに目を閉じて深く息を吐く。

 

「……艦長、良いんですね?」

 セファが躊躇いがちに尋ねる。

 

「さっき言った通りだ。さっさと放り出せ!」

 

「了解!」

 

 ラシットは深く息を吐き、椅子に背を預ける。

「……ったく、誰も彼も言うことを聞かん。──全艦! ジークアクス射出後に最大戦速!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……間に合わないか……っ!」

 

 フブキは歯を食いしばりながら、タナトスの操縦桿を押し込んで、スロットルを最大にする。

 モニターの中央には、地球に向けて構えられたイオマグヌッソが映っている。

 

 巨大な反射板群がゆっくりと回転し、その角度を地球から月へと転換していく。

 同時に、通信を通さずとも聞こえる──ララ音。

 

「……やめろ……!」

 

 だが、タナトスの推進出力を最大にしても、距離は埋まらない。

 目の前で、光子が収束し、圧縮され、

 宇宙を切り裂く閃光が放たれる。

 

 ──ソロモンを包んだ、赤い光。

 

 再び現れた“それ”が、今度はイオマグヌッソから迸る。

 そしてその光の中央に、あり得ないものが現れる。

 

「……っ! ア・バオア・クー……だと……!?」

 

 それはジオン最大の要塞。

 本来、月の裏側にあるはずの巨大要塞が、まるで“時空を歪めたか”のように目の前に出現した。

 

 要塞表面の装甲はボロボロと崩れ、周囲には──赤い稲妻のような、揺らめく空間。

 

「これが……本物のゼクノヴァ」

 

 次の瞬間。

 

 ドプン──

 

 音がした。

 それは“宇宙では絶対に聞こえないはずの音”。

 水面に何かが沈むような、低く重たい響き。

 

 フブキの視界から、ア・バオア・クーは一瞬で──消えた。

 まるで初めから存在しなかったかのように。

 

 そして、ララ音も、戦闘の光も、すべてが消えた。

 宇宙には、ただ──完全な静寂だけが残った。

 

 

 ──人は、いつも同じ過ちを繰り返す。ソーラ・レイだってそうだ。

 人はまだそれを“扱う準備”ができていない。──だからこそ、俺たちがいる。……そうだろ、ガンダム。

 

 白い機体に乗っていた頃の記憶が、身体の奥から呼び起こされる。

 シャロンの薔薇──エルメスをビームサーベルで刺し貫くあの感触。

 あんなのは、2度と起こしてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「──シャロンの薔薇が……泣いている……っ! 誰が……誰がっ! こんな恐ろしい兵器を使ったんだっ!!」

 

 アマテはコックピットの中で頭を抱え、歯を食いしばった。

 モニター越しに見えるイオマグヌッソが、赤黒く輝いている。

 

 あの瞬間──要塞が消えた刹那、頭の中に流れ込んできたのは、無数の“声”。

 老若男女の悲鳴、断末魔。誰も彼もが死にたくないと最後まで叫んでいた。

 圧倒的な恐怖。そして、1人の少女の悲しみ。

 

 その全てがアマテの胸を焼く。

 

「っ!!」

 

 ジークアクスのスロットルを押し込み、推進剤が一気に燃え上がる。

 機体が吠えるように震え、一直線にイオマグヌッソへ突進する。

 

 しかし──

 

 目前に白い機体。ジオン製の識別信号。

 

「邪魔ぁぁぁっ!!」

 

 アマテは叫び、シールドを構えながら突撃する。

 Iフィールドが空気を震わせ、ジークアクスが白い機体にぶつかる。

 金属音が宇宙に響き、機体が火花を散らした。

 

《っ! ジークアクス!? なぜお前がここに! イオマグヌッソへは行かせんぞ!!》

 

「邪魔だって言ってんじゃんっ!! ナンパ野郎!!」

 

 アマテの両目が怒りで歪む。しかし、次の瞬間──嫌な気配。

 

 アマテは反射的に周囲を見渡す。

 そこには、目の前の白い機体とまったく同じ型のモビルスーツが、円を描くように展開していた。槍を構え、冷徹な統一動作で彼女を包囲する。

 

《悪いがお嬢さん──これはクランバトルじゃなくて、軍事作戦なんだ》

 

「っ!!」

「ズルイズルイズルイ!」

 

 アマテは震える手で操縦桿を握り締める。

 

(どうするっ……どうするっ!? 動かなきゃ……! 今動かなきゃ! ララァを──救えないのに……っ!!)

 

 グルグルとやるせない言葉が頭の中を回る。

 手が震え、心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響く。

 モニターには、包囲するモビルスーツの光点が、点滅していた。

 

 

 

 ──ファンネルッ!! 

 

 

 

 

 次の刹那、アマテの目の前に閃光が走る。

 

 コの字型の金属フレームが光を裂き、白い機体に衝突。

 もう一機、そしてまた一機。一瞬で包囲網が崩壊する。

 

「えっ……!? これ……フブさんっ!!」

 

「はっ。軍事作戦、ね……笑わせる。地球を破壊することが軍事作戦か。──つまらないプライドの持ち主だな、エグザベ・オリベ」

 

 通信が入る。低く、どこか怒りを孕んだ声。アマテの心に安堵が広がる。

 

「……フブさん……!」

 

 黒いモビルスーツ──ガンダム・タナトスが、イオマグヌッソを背に舞い降りる。

 その隣には、キケロガ。

 モビルアーマー形態から変形し、二本の腕を広げている。

 

「ここは俺とシャリアに任せろ。──ララァを頼むぞ、マチュ」

 

 一瞬、アマテは息を呑む。

 モニター越しに見える、タナトスの双眸。

 

「……ありがとう、フブさん……ヒゲマン!」

 

 ジークアクスのスラスターが青白く輝き、再び加速する。

 タナトスとキケロガをすり抜け、一直線にイオマグヌッソの中心へ。

 

 爆発と光の中、アマテの機体だけがまるで導かれるようにイオマグヌッソの内部へと吸い込まれていった。

 

 

「くっ……! 中佐っ!!」

 エグザベは歯を食いしばり、ランスを構える。

 背後では味方のギャン隊が散開する。

 

「総帥のスパイとも思えない……っ! 貴方はいったい……何者なんだッ!!」

 

 その問いに、キケロガのコックピットでシャリアは静かに答えた。

 声に怒気はない。ただ、穏やかで、どこまでも真っ直ぐに。

 

「私は──ニュータイプが、ニュータイプとして生きられる世を作りたいだけです」

 

 その言葉は、エグザベを戸惑わせるほど、通信越しでも重く響く。

 

「……っ! 全機、油断するなっ! 灰色の幽霊が相手だぞ!!」

 

 エグザベの怒号が飛ぶ。

 それに呼応するように、ギャンの部隊が陣形を組み直しランスを構える。

 

 一方、タナトスのコックピットではフブキが静かにモニターを見据えていた。

 

「シャリア。お前の言う“世界”を作るためにも……コイツらは、生きていた方がいいんだな?」

 

「……キシリア様のニュータイプ部隊は、近衛を任されているほどです。私でも手加減はできません」

 

 フブキは息を吐き、わずかに笑う。

 

「……なら、周りの奴らは俺に任せろ。アンタは──エグザベを頼む」

 

 シャリアの声が通信に重なる。

 

「……分かりました。君と訓練以外で“マヴ”を組むのは……これが初めてですね」

 

「ああ。これが最初で最後だ」

 

 タナトスのバックパックからビットが展開する。

 六基のユニットが同時に起動し、緑の光子を撒き散らす。

 

「──行くぞ。ファンネル!」

 

 放たれた光の群れが、闇を裂いて走る。

 ビームの残光が交錯し、戦場が一瞬だけ“昼”のように照らされる。

 ギャン部隊の槍が閃光を掻き消し、シャリアのキケロガがその陰を縫うように突進する。

 

「っ……中佐!」

「これが──“灰色の幽霊”の戦い方です! エグザベ少尉!」

 

 

 




いやーもうちょいで終わりですね。寂しいような、ようやく幕を下ろせると安堵すべきか。
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