機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷 作:スペースデブリ
さて、啖呵を切ったはいいものの──どうするか。
タナトスのコックピットで、フブキは冷静に状況を整理する。タナトス周辺には、黒一色で塗られたギャンが8機、ほぼ等間隔に円を描くようにこちらを取り囲んでいる。全機がランスをこちらに向け、様子を伺っている。やたら無闇に動かない、いい訓練を積んだ近衛の布陣だ。
(全部で8機……しかもこの等間隔。誰かがやられてもすぐにフォローできるような配置。さすがキシリアお抱えのニュータイプパイロットだな。──それを全機を不殺、か。まあ、やるだけやろう)
フブキはため息を吐いて、タナトスの操縦桿をガチリと動かす。重低音とともにビームライフルが放たれ、正面にいた1機のギャンの頭部を正確に撃ち抜く。センサー部が閃光とともに弾け、黒い兜だけが吹き飛ぶ。
「まずは1機」
即座に左舷側から滑り込んできた別のギャンに、機体をひねって回避し、タナトスのビームサーベルを最短距離で叩き込む。狙うのはコックピットではなく腕部。青白い光刃が肘の付け根を焼き切り、ランスと盾を握っていた両腕がくるくると宇宙に舞った。
一年戦争の時とは違い、生存を許さない徹底的な殺しではなく、殺さずに、無力化だけを目的とした戦い。「殺さず」聞こえは簡単だが、これほど難しいことはない。それでも──未来のためにやらねばならない。
ニュータイプ部隊、近代化改修を受けたギャン。──だが赤いガンダムやジークアクスみたいな、明確に“ニュータイプのために作られた器”を与えられていないだけまだマシか。
フブキはそう冷静に見積もると、タナトスのファンネルを展開させる。機体本体が動く前に、ファンネルが先に動く。1機、また1機と肘・膝・ランスの基部だけを正確に撃ち抜かれ、黒いギャンたちは次々と“戦えない”状態に落とされていく。
《くそっ! くそっ! 何でたかが1機のモビルスーツに!》
《狼狽えるな!》
《エグザベ隊長は墜とされたのか!?》
接触回線から悲鳴めいた声が飛び込んでくる。フブキは一瞬だけ眉をひそめたが、情けはかけない。
「ニュータイプなのだろう?ならば、"たかがメインカメラが壊れた"くらいで動きを止めるな」
冷ややかにそう告げ、ゼロ距離まで詰めると、ビームライフルを撃ち放つ。ヘルメット状の頭部だけが白光に呑まれて弾け飛ぶ。パイロットは生きている、だがもうこの戦闘には介入できない。
ラ──ラ──
かすかな旋律が真空で真っ暗な宇宙に響くように、ヘルメット越しにフブキを震わせた。
(この歌……ララァが目覚めるか。まずいな……彼女が目覚める前に、奴と決着をつけたかったんだが──)
視界がふっと遠のく。意識はきらめく粒子の海へと滑り落ちた。
──キラキラとした空間。
そこに立つのは、シュウジ、アマテ、そしてシャア。
シュウジは静かに告げる。
自分は“向こう側”の人間であり、ララァの心を守るために戦っているのだと。
フブキは黙って聞いていた──が、シャアの言葉にだけは沈黙を保てなかった。
(彼女がこの世界を作ったのも、お前がガンダムに乗ることになったのも、全てはララァがお前を思ってのためなのに。確かにこの世界ではお前は彼女に会っていない。しかし……それでは彼女が救われない)
アマテは、俺とシュウジに向かって叫んでいた。アマテが言いたい事は分かる。だが、すぐに分かるだろう。アマテも、彼女の記憶を見るはずだから。
光がはじけ、視界が反転する。
──目を覚ますと、眼前のタナトスのモニターにノイズが走っていた。
同時に、コックピット全体がやわらかな緑の光に包まれている。
身体の内側まで染み込むような、温かな光。
分かる──こいつはもう“タナトス”じゃない。仮初の姿から、剥がれていく。ララァのいた“向こう側”の世界の姿へ……戻ろうとしている。
モニターに奔っていたノイズは、やがて砂嵐を収め、淡緑の光とともに通常の武器管制画面へと静かに戻っていく。ビーム出力、慣性ベクトル──すべてがノイズが走る前へと戻った。唯一変わったことといえば、ファンネルの推力値がエラーを吐いていることだけ。
なんにせよ──時間がない。
“向こう側”から、エルメスを破壊するためのモビルスーツが現れる。シュウジの手で、彼女──ララァを殺させるわけにはいかない。
やるべきことは二つだ。
一つ、シュウジにララァを殺させないこと。この世界を“なかったこと”にはさせないこと。
一つ、この世界にあってはならないものを全て排除すること。
そして、もっとも遺憾だが、絶対条件がある。"シャアを生かす"こと。
彼女はシャアのために生き、世界すら作り替えた。こちらのシャアがここで死ねば、彼女は再び世界を書き換える。この世界は無かったことになる。──ならば守るしかない。シュウジからララァを、シャリアや“世界”からシャアを──
(……まったく。本気で殺そうとしている二人から、ララァや貴様を庇わねばならないとはな)
「皮肉だとは思わないか? シャア・アズナブル」
──
「所属不明のモビルスーツ、最大望遠で出します!」
──ブリッジの照明が一段落ち、主モニターが瞬きながらズームインする。
モニターに表示された、イオマグヌッソの内部から現れたモビルスーツは、全身が白を基調としたトリコロール姿だった。硬質な装甲は光浴びているかのように輝いている。
コモリは額に手を当て、吐息を押し殺す。かつて記録映像でしか見たことのない「恐称」が喉元までせり上がる。背筋に走る冷気とは裏腹に、掌だけが汗ばむ。
「白い……悪魔……っ?」
「所属不明モビルスーツ、移動を開始! どうしますが艦長!」
主モニターには白い光の帯を引きながら凄まじい速度で動く白い機体。分割しているイオマグヌッソへと向かっていく。
「くっ! 全艦! 第一戦速! 本艦はこれより、他のサイド艦を守る為に動く! タナトスはどこだ! アイツはどこにいる!」
操舵手であるタンギが、カラカラと舵輪を回す中、甲板各所の警告灯が同期して点滅する。しかし、セファやオシロの様子がおかしい。
「は、はい! あ……あれ? なんだこれ……?」
「っどうした!」
オシロやセファのモニターには先程まで確実にあったであろう、フブキの駆る「タナトス」の識別信号が抜け落ちていた。
「消えてる!? タナトスの反応が現宙域から消えています!」
「は、はぁ!? アイツ逃げたのか!?」
ラシットが叫んだ瞬間に艦内が大きく揺れ、艦橋が軋む。クルーはすぐにショック姿勢を取るが、計器列が薄紅の警戒灯に染まった。天井スピーカーが破れた紙のように震え、衝撃音の尾が遅れて降ってくる。
「モ、モビルスーツです! 艦橋に取り付かれました!」
セファがそう叫ぶと、前方投影の外郭カメラが自動的に切り替わり、装甲ガラスに沿って貼り付いた影が拡大される。
「くそっ! 対空警戒は何をしていた!」
叱声と同時にクルーの脳内には嫌な予感が走る。キシリア派の人間が自分達を排除しようとしていると。誰もが息を呑んだ瞬間、通信回線の識別子が自動で緊急優先に繰り上がる。
《──こちらガンダム、フブキ・アルジェントだ。ソドン、応答せよ》
無機質な空電を挟み、低く澄んだ声が艦橋を貫いた。全員の視線が窓外へ吸い寄せられる。コモリは反射的に左舷側の観測窓へ身を寄せ、貼り付いている機影を確かめる。そこにあるのは、先刻までの黒く威圧的なタナトスではない。装甲のほとんどが月光のような白に塗り替えられ、イオマグヌッソから現れた白いモビルスーツと瓜二つのタナトス。
「フ、フブキさんなのよね?」
《コモリ少尉か。ちょうどいい、キシリアの近衛部隊は排除しておいた。彼等の回収を頼みたい。座標は──》
「ちょっ! ちょっと待ってよ! まずはその機体を説明しなさいよ!」
《ガンダムだ。それ以上でも以下でもない。セファ伍長! 本機の識別信号は「RX-93」だ。近衛部隊の座標は転送した、回収を頼んだ。これよりシャリアの援護に回る》
フブキは一方的にそう言い放つと、スラスターを吹かしてソドンから離れていった。外部映像では白くなったタナトスから、スラスターの青白い噴流が尾を引いていく姿だけが写っていた。
──
「……本物のガンダムが現れてしまった。もう、後戻りはできない。薔薇の少女を殺して、この世界を終わりにする。──ガンダムが、そう言っている」
アマテの目の前に現れた白いモビルスーツから淡々と告げられたシュウジの言葉。言葉は冷たく、まるでいっときの感情も持っていないような印象を受けた。
「ララァを殺す……? なんで!? ララァはシュウジの大切な人じゃなかったの!?」
アマテには理解できなかった。"守る"と"殺す"は本来、真逆の位置にある。しかもその相反を、よりにもよってシュウジ自身の口から聞くことになるとは思いもしなかった。
キラキラとした空間が、光が差し込む海の中のようにゆるやかに明滅する。──朧げだが、アマテの目の前で、いつかの夢で見たようなモビルスーツ同士の戦闘が浮かび上がる。
「こ、これって……」
「彼女の……ララァの記憶が再現されているんだ。現実に向こう側で起こった事だけれど、それも今は蜃気楼か、夢のようなものだ」
映像には白いモビルスーツとキラキラと屈折していないシャロンの薔薇。2機が互いに動き合いながらビームを撃ち合っている光景。
「これは……シャロンの薔薇……?」
「そう。向こう側では、"エルメス"と呼ばれていた」
「エル……メス……」
アマテの頭では、どこか聞いたことがあるようなその言葉に違和感があった。
「ララァ! 奴との戯言はやめろ!」
少年と少女。2人のキラキラとした空間での語り合いはシャアの怒号と、赤い機体のビームライフルによって消え去る。ララァはエルメスの中でハッとするが、目の前の白いモビルスーツ、"ガンダム"も同じだ。
ガンダムは動きを止めていたが、ヒラリと簡単にシャアの攻撃を避けてしまう。振り抜きざまに白い機体へビームライフルを撃ち放つ。しかし、ガンダムはこれもヒラリと躱してしまう。
「っ! シャア!」
ガンダムは接近して赤い機体のライフルを破壊すると、シャアはビームナギナタを取り出して互いにサーベルとナギナタで鍔迫り合いをしながら、いつどちらが墜ちてもおかしくない接近戦を繰り広げる。
「ちぃ! ララァ! 私は”ガンダム”を討ちたい! 私を導いてくれ! ……? ララァ!!」
シャアはララァに自身を援護するように頼むが、当のララァはキラキラとした空間で自分と同じ存在、その少年のことが気がかりであった。しかし、今はシャアの身を守らなければ。ララァは小さく呟くようにシャアに答えた。
「お、お手伝いします……お手伝いします、大佐……」
「……すまん、ララァ」
2人がそうこうしているうちに、ガンダムがビームサーベルを構えて突撃してきていた。パイロットはまっすぐシャアを見据えながらシャアへと突貫する。
「シャアァァア!!!!」
「ガンダム! ララァを手放すわけにはいかん!」
またもガンダムと鍔迫り合いになりながらも、シャアはガンダムの盾を切り飛ばす。
体勢を崩したガンダムに、ララァもシャアを援護するためにビットやビーム砲で攻撃するが、ガンダムはその攻撃すらも避けてしまう。
2機で絶え間ない攻撃をしているにもかからず、ガンダムは紙一重で回避してしまう。シャアもガンダムから離れずナギナタを振り続ける。
「た、大佐! 近づきすぎます!」
ララァは、一向に距離を取らないシャアへと焦りの声を上げるが、ガンダムの援護に来たであろう連邦の戦闘機が接近していた。
「くっ! セイラさん! 来ちゃだめだ!」
「ちぃ!邪魔だ!」
シャアは自身の近くに来た連邦機を撃墜しようとナギナタを機体のキャノピーへと伸ばすが、ララァは感じてしまった。シートに座っているのは、シャアの大切な人であると。
「はっ──! 大佐!! いけない!!」
あと数メートルというところでシャアのナギナタは謎の光によって弾かれ、シートに座っているパイロットがスローで目に入る。
「ん……!? ……アルテイシアか!?」
シャアの攻撃は連邦機に当たる寸前で止まった。が、その一瞬が問題だったのだ。
ガンダムは、迷いのない加速で懐へ潜り込む。ビームサーベルは容赦なくシャアの機体の腕を切り落とし、シャアへと接近する。
「シャア! 覚悟ぉお!!」
「ちぃっ!!」
切断面からバリバリとショートして煙を吐いている中、赤い機体の姿勢制御が崩れかける。
「大佐っ!!」
ララァは叫んで機体を走らせる。ビットの回収もせず、ビーム砲を撃つことも忘れて。しかし、ララァの視界に入ったのは──
ガンダムがシャアの乗る機体をビームサーベルで貫く光景。
「大佐ぁ……!!」
ララァの目の前でシャアの機体は爆散し、ララァは流れ込んでくるシャアの言葉に絶叫した。
──すまない。ララァ。
「た、大佐ぁぁぁああああ!!!」
もう終わってしまう。やはり書いててもそう実感します。ちなみに私はバットエンドも意外と好きです。他意はない()