機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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光る宇宙

 

 

 

 

 

 

 

「シャアァ!!」

 

「大佐っ!」

 

「チィ!」

 

 シャアは、シャリアとフブキの連撃を紙一重で外し続ける。ときに漂うデブリを盾に、ときに踏み台にし、間合いを詰められたら接近戦で捌く。スラストペダルを踏み込み、操縦桿をガチャガチャと動かしている。

 

 ……薔薇の少女が私に与えたこのガンダム。最後に乗った時と動きが別物だ。入力に対する遅れがない。スロットル、スティック、細かな姿勢制御の一つでさえ、指の動きがそのまま機体に反映される。……向こう側の技術が混ざったか? 

 

 ──長い。これほど一秒が長いと思ったことはない。……それに、先ほど私は何を口走った? 

 アムロ──男の名か? 聞いた覚えはない。なのに、なぜ私の口から出た……? 

 目の前の機体……ゼロヒトガンダムに酷似しているというのに、どこか違う。この機体を見るたび、額が疼く。痛みもあるが……どちらかといえば、古い記憶を撫でるような、懐かしさだ。まるで旧友に再会したかのように。これも、薔薇の少女の干渉なのか? それとも……

 

 シャリア・ブル……私の友。共にニュータイプの未来を作るための同志。何故だ……? 何故貴様もそちら側にいるのだ。アルテイシアが政治だと? あの優しい子が出来るわけがない。あの子がジオンを率いれば、また地球に搾取される運命になってしまうかもしれない。だからこそ必要なのだ、地球に住む人類に対して、毅然とし、宇宙に住む人たちの希望となる存在が。シュウジ……シャリア……そして、フブキ・アルジェント……なんでこれが分からん……っ! 

 

 シャリアからは純粋な殺意が来る。狙いも「落とす」ためのものだ。だが、ゼロヒトのパイロットからは殺意がない。狙いは関節部、推進器、センサー。ビットでさえ射撃ではなく、ぶつける程度の物理でしか使っていない……。

 

 シャアは二機の同時攻撃を捌く。バズーカで弾幕を割り、爆風でロックを切る。踏み込みにはサーベルの刃を滑らせ、掬い上げていなす。漂うデブリは盾にも踏み台にもした。

 

「フブキ・アルジェント! 貴様、なぜビットを使わない! 私に情けをかけているのか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 こっちだって……必死でやってるさ、シャア。

 モニターに表示されているGメーターは常に危険域。機体出力は常に最大限界域。身体が押しつぶされそうなほどのGと、瞬き一つ許すことができない動き。──これが、νガンダム本来の力。

 その圧に押されながらも、赤いガンダムは逃げきる。切り返しが速い。無駄が一切ない。

 

 シャア……やはり貴様は……貴方は凄い人だ。貴方のことだ、ノーマルスーツも着てないんだろう? それでこの動き──これが、本物の赤い彗星。やはりバケモノだな。

 

「ぐっ!」

 

 次の瞬間、機体が大きく跳ねた。コックピット前面に鈍い衝撃──赤いガンダムの蹴り。安全ベルトが軋み、肺の空気が押し出される。

 一年戦争時、初めて貴方と相対した日、あの時も同じ蹴りを喰らった。……懐かしい。

 視界が白む。だが、手は止めない。

 ビームサーベルを赤いガンダムに振るい、左腕を切り落とす。

 

 こちら側から積極的に接近戦に挑み、シャリアがメガ粒子砲を撃てないようにする。そのせいで蹴りを喰らった。

 極力シャリアの決定打を遮りつつ戦ってきたが、それが今になって牙を向いている。

 

 ──しかし、それがどうした? 俺は俺のやるべきことをやる。その為にここに来た。だから……まだだ、もう少し……あとちょっとなんだ。アマテがララァを助けてくれれば、全て終わる。

 操縦桿にかかる手に力が入る。視界の端で、エルメスを狙っていたガンダムが白く巨大となり、それに応戦する二機が見える。

 

 アマテ、お前ならできる。ニュータイプであるお前なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フブキ君……やはり君の機体は、“向こう側”の物なのですね? もしかすると、君がその機体に乗ることは運命だったのかもしれません。その機体は、まるで01ガンダムだ。

 白と紺、差し色の赤。装甲の割り付け、ソロモンで見た“ゼロヒトガンダム”の面影が、確かに残っている。

 

 しかし……それを差し引いても、大佐の赤いガンダムは何故あんなにも動けるのだ!? 私の知っている赤いガンダムではないのか? 私のキケロガとフブキ君のガンダムの攻撃を避け切るなんて、普通ではあり得ない! 

 

 フブキ君が乗っていたであろうクランバトルの時でさえ、赤いガンダムはオーバーヒートを起こして動けなくなっていた。間違いなく我々との戦いではその時以上の動きをしているのだ。しかし、なぜ……

 

 まさか……! あの赤いガンダムにも、摩擦キャンセル技術(マグネットコーティング)が!? ……だとしたら、やはり薔薇の少女が……! 

 

 シャリアはほんの一瞬だけ視線をシャアから外してしまい、シャアはフブキのガンダムを蹴り飛ばす。そして、視界を戻すと──デブリの陰から赤いガンダムが現れ、バズーカを放つ。

 

「っ! しまっ!」

 

 弾頭はキケロガの胴中央に命中し、爆発。爆炎が機体を覆う。──しかし。

 

「っ! 違うか! ええぃ! シャリア・ブル! いい加減貴様もしつこい!」

 

 爆炎を割って、無傷の頭部がカメラを点す。

 

 キケロガ──従来の「モビルアーマー」「モビルスーツ」の概念を覆す、シムスが大規模改修を施したニュータイプ専用機。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シムス中尉。キケロガを改修するとの話でしたが」

 

「はい。これまでの戦闘データを踏まえ、機体そのものを大型化したいと考えています。ジェネレーター出力を上げ、継戦能力を大幅に引き上げられます」

 

「……その件なのですが、シムス中尉にお願いが……」

 

「ふむ。モビルアーマー形態からモビルスーツへ──変形ですか。実に興味深い」

 

「可能でしょうか?」

 

「問題はありません。ただし、その機構を載せれば強度は確実に落ちます。率直に言えば、“可能”なだけで、現実的とは言い難い」

 

「大佐を倒すためには、それが必要なのです」

 

「大佐……いまは少将のはずですが、まあいいでしょう。承知しました。改修案はシャリア・ブル中佐の案どおりに。大型化できないのは──まことに、まことに残念ですが」

 

「シムス中尉、単刀直入に聞きます。私は、あなたの作ったキケロガで、大佐の赤いガンダムに勝てますか?」

 

「勝てませんね」

 

 はっきりと断言され、シャリアは目を見開く。

 

「勝てない……ですか」

 

 シムスは無表情のまま眼鏡を外し、布でレンズを拭きながら続ける。

 

「どう足掻いても、赤いガンダムに乗った少将の動きには、私のキケロガでさえ数分しか持たないでしょう」

 

 胸の内では、シャリアも薄々分かっていた。至近で見てきた“あの動き”を前に、倒すには自分の命も秤に載せる覚悟がいる。

 

「しかし……勝てはしませんが、相打ち程度なら……できるかもしれませんね」

 

 眼鏡を掛け直したシムスが、今度は正面から見据えて言い切る。

 

「相打ち……?」

 

「ええ。中佐が提案してくださった変形機構と、シャア少将の勘の良さを逆手にとり、コックピットの搭載位置と緊急システムを変更します。そうすればあるいは……」

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

(感謝します……シムス大尉。 貴女は素晴らしいメカニックだ)

 

「ぐうぅっ!! 大佐ぁぁぁぁ!!」

 

 キケロガの頭部砲口が開き、収束インジケーターが最大で固定。白光が一直線に伸び、赤いガンダムへ。

 シャアはデブリを蹴って姿勢を倒し、間一髪で主軸を外す──が、ビームが脚部を掠めた。両脚が爆ぜ、赤い機体はスパークを引いて漂う。

 

 直後、赤いガンダムの頭部バルカンが唸る。面制圧の散弾がキケロガ頭部ユニットに点々と火花を刻む。

 

「っぐ! っ! フブキくん!!」

 

 シャリアは歯を食いしばり、機体姿勢を保つ。計器には損傷点滅、油圧低下。推進剤も底をつく。

 

 視界の中央に、交差する白と赤。双方、ビームサーベルを構え──

 

 赤いガンダムはフブキのガンダムの右腕を貫き、フブキのガンダムは赤いガンダムの頭部を捉えていた。

 

「大佐……」

 

 終わった。流石の大佐でも、メインカメラをやられ、腕部、脚部を失ってしまっては何もできない。あとは……

 イオマグヌッソへ視線を戻すと、ジークアクスが口部が開き、装甲の継ぎ目から走った光を纏いながら、巨大化した白いガンダムの腕面を駆け上がり、一直線に頭部へ向かっている。

 

 ──マチュくん。貴女はサイド6の事件で故郷を追われても、後悔はなかった。愛した人と共に在りたい。ただその一心で。あの拳銃は、そのために戦い続けてきた貴女にこそ相応しい。

 

 ──きっと、愛する者のために傷つき、戦える者こそが「ニュータイプ」なのだから。

 

 行きなさい──アマテ・ユズリハ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は……ララァの思いを守りたい。いつか、彼女が願った世界を本物にしてあげたいんだ。だから──僕は──」

 

 キラキラとした空間に立つシュウジの瞳は、強く定まっていた。だが、奥底に別の色が揺れるのを、アマテは見逃さない。

 

「窮屈に生きてきた私は、あの日フブキに会った。私と同じ──いや、それ以上に酷い目をしてた。けれど関わるうちに分かった。私が“窮屈”だと思っていた世界は、とても小さかったって。

 初めて誰かを好きになって、初めてこの人と一緒にいたいって思えた。そう感じるほどに、どんどんと世界は広がって、いつの間にか世界がキラキラと輝いて見えたんだよ。

 ジークアクスに乗ってシュウジと宇宙に行って、こんな自由な世界があるってフブキとシュウジが教えてくれた。

 そんなシュウジが、自分の心を縛ったりしないで……! ララァのことが好きなんでしょ……!」

 

「っ……! でも……でも……!」

 

「シュウジの描く絵は、いつもララァのいるキラキラで溢れてた……!」

 

「……でもっ! ラ……ララァを救うには……こうするしかないと……“ガンダム”が言っている……」

 

 シュウジは頭を抱え、嗚咽まじりに吐き出す。

 しかし──

 

「“ガンダム”は関係ない。君がどうしたいか、それだけでいい。──シュウジ、君はどうしたい?」

 

 フブキはそっと頭を撫でる。だがシュウジは、首を振るだけだった。

 

「そうか……じゃあ、“ガンダム”に聞こう。貴方はどうしたい? ガンダム」

 

 フブキがアマテの背へ声を投げる。口部ユニットを露出したジークアクスが、静かに現れ、その場にいる全員の頭の中に響くような声が届く。

 

 

 

──僕はもう見たくない。またガンダムがララァを殺す光景を──

 

 

 

 

「だ、誰だ……?」

 

 シュウジはジークアクスを見据え、わずかに息を呑む。ジークアクスの緑に輝いているカメラアイ、その両目は静かにシュウジを見つめている。

 

「私には分かる。ララァはシュウジが傷つくことを望んでないよ。シュウジが守らなくってもいいんだよ。誰かに守られなきゃ生き残れないなんて、そんなの……本物のニュータイプじゃない!」

 

「シュウジ、君ならわかるだろう。ララァは君が守らなければならないほど、弱い人ではないよ。……人の未来というのは、常に可能性に揺らいでいるものだ」

 

 フブキの静かな声に、アマテが手を重ねながらシュウジに叫んだ。

 

「誰かに守ってもらう必要なんかない! お互いにお互いを支え合う、それで良いんだよ! シュウジ!」

 

「僕は……僕は──」

 

 ──もういいのよ。

 

「っ!」

 

 ──貴方が私を思う気持ちは、十分に伝わったから──

 

「……相補性のある世界を望む……ララァ……君はそれで良いのかい……?」

 

 ──ええ。

 

「僕は……これまで何度も世界を壊して、巡ってきた。マチュ、ニャアン、そして、フブキさん。貴方達のような人は初めてだ……」

 

 シュウジは瞳からポロポロと涙をこぼしながら笑う。その笑顔は、とても晴れやかで憑き物が落ちたかのように見えた。

 

「多分……いやきっと、この世界は僕が貴方達に会うためにできたのかもしれない。

 僕とララァの長かった旅が、ようやく終わる。──ありがとう」

 

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アマテは目の前の白いガンダムへ、極大まで伸ばしたビームサーベルを振り下ろす。

 刃が走り、ヘッドユニットが静かに離れる。

 同時に、イオマグヌッソから発したキラキラとした光が辺りの宙域を包む。アマテは眩しさに思わず腕で目を覆う。──しかし、光の中で確かに優しげな声が聞こえた。

 

 ──ありがとう こちら側のニュータイプさん──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シャロンの薔薇は向こう側に帰ったのか……?」

 

 キケロガの計器は火花を散らし、モニターは縞状のノイズを吐く。シャリアは焦げた視界の奥、デブリに横たわる赤いガンダムを見つけた。

 

「大佐、聞こえますか」

 

 返ってきたのは、ノイズ混じりの途切れ途切れのかすかな声。

 

《……ああ……聞…える》

 

「大佐は、これからどうするおつもりなのですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薔薇の少女に着せられた士官服が、光と共に消えていく。少女は向こう側に帰り、世界に、私に対しての干渉は消えた。

 ザビ家への復讐は成った。新政府にはアルテイシアがなるという。あの優しい子が、果たして人の上に立つことができるだろうか。

 誰からの干渉もない今、私は本当の意味で自由となった。

 

 私はフブキ・アルジェントに負けた。正々堂々、正面から。敗者は去るのが正しいのだろうな。

 

「──そうだな……お前達に殺されないような人生を、探してみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャアはそう言い残すと、赤いガンダムのコアファイターで噴き上がり、星屑を裂いて去っていった。

 

「大佐……ぐっ!」

 

 感傷に浸る間もなく、コックピットが大きく揺さぶられる。ほとんど映らないモニターの向こうで、白く大きな“手”がコックピットブロックを鷲掴みにしていた。静電気の火花が走り、計器が断続的に明滅する。

 

「エグザベ少尉か……キシリア様は死にました。なんの言い訳もするつもりはありません。私を軍事法廷で捌きなさい。この命をもって罪を償おう」

 

 目を閉じ、罵声を受け入れる覚悟で待つ。だが、ノイズ混じりの回線から返ってきたのは、まるで逆の言葉だった。

 

《ふざけるな!! アンタはニュータイプがニュータイプとして生きられる世界を創るんだろ! なら! ザビ家亡き後のジオンをなんとかしろ! アンタには責任があるんだ! 勝ち逃げは許さないぞ!》

 

 呆気に取られ、思わず笑みが漏れる。ニュータイプが聞いて呆れる──そう言いかけて、言葉を飲む。結局のところ、ニュータイプも一人の人間に過ぎないのだ。

 

「新しい時代を作るのは老人ではないんですがね……」

 

 独り言が零れたところで、別の回線が音量を上げる。歪んだノイズの奥から、確かな呼び声──ソドンの周波数。コモリの声だ。自分を気遣う声に、シャリアは小さく息を吐く。空っぽの自分にも、帰る場所がある。

 

《……佐! 中佐! ご無事ですか!? 中佐!》

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……はっ!」

 

 ニャアンはコックピットで跳ね起きた。直前の記憶──巨大化した白いガンダムに機体を握られ、オートイジェクトでコアファイターとして離脱した瞬間、そして、誰かの声。耳の奥に残響だけが残る。

 

 だが、窓外には巨大な白も、イオマグヌッソもない。静かな宇宙だけ。

 

「シュウちゃん……向こう側に帰ったのかな……挨拶くらい……したかったな……」

 

 背もたれに体を預ける。途端、索敵モニターが小さく鳴り、移動目標の反応を拾う。IFFに灯る識別文字列。

 

「これ……RX-93って……お兄ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わった。シャロンの薔薇──エルメスとララァは向こう側へ戻っていった。これで、全てが終わった。

 

「はぁ……」

 

 アマテは体から力が抜けるのを感じる。だが、ハロだけはモニターに写る宇宙を見て動かない。

 

「ハロ?」

 

「……マチュ」

 

 発音はいつも通りの機械音だが、抑揚が違う。

 

「キミガ、パイロットデヨカッタ」

 

「な、なに? ハロ? 何が言いたいの? 全部終わったじゃん! ララァも助けて、シュウジも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──いや、まだ終わってないよ。アマテ」

 

 

 

 









次回 最終回です。

お楽しみに。

ちょこちょこ出してきた機体やキャラクター設定集いりますか?

  • ホシイ!ホシイ!
  • イラナイ!イラナイ!
  • マカセル!マカセル!
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