機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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自由の奴隷

 

 

 

 

 

 

「フブさん……? 終わってないって……どういうこと?」

 

 目の前に佇む、姿を変えたタナトス──

 その巨大な影を背に、彼は私を真っ直ぐ見つめながらいつもの落ち着いた声色で口を開く。

 

「シャロンの薔薇……エルメスも、ララァも、向こう側に帰っていった。でも、まだ終わりじゃない」

 

「だ、だからっ! どういうことなの! フブさん!」

 

 焦りで胸が苦しい。喉がひゅっと鳴るのに、言葉だけは止まってくれない。

 

「──オメガ・サイコミュ……エンディミオン・ユニット」

 

 フブキは淡々と続ける。その口調が落ち着いている分だけ、嫌な予感が強くなる。

 

「これも、本来この世界には存在しないものだ。……だから、それも向こう側に送り返す必要がある」

 

 これまでにないほど、嫌な予感がした。

 目の前の彼は、いつもと変わらないのにどこか、覚悟を決めた人間の顔をしているような気がするのだ。

 

 でも、無理だ。ララァもイオマグヌッソも、もう向こう側に帰った。

 もう他に方法はない……! 

 

「で、でも! イオマグヌッソだって……!」

 

「そう。イオマグヌッソは消えた。ララァとエルメスを向こう側に送るという使命を果たして」

 

「そう……! だから! ……だ……から……」

 

「──だからこの世界に現れたんだ。このνガンダムは」

 

 やめて……

 

 喉が……体が、どうしようもなく震える。

 

「そう、全てはこの時のため。この時のために……俺はこの世界に存在した」

 

 言わないで……

 

 胸がぎゅっと締めつけられる。意味が分からない。だけど、聞いてはいけない言葉なのは直感で分かる。

 

「……わからない……! フブキが何を言ってるのか! わからないよ!」

 

「俺は、本来この世界には存在してはいけなかった。でも……全てはこの時のためだったと分かった」

 

 聞きたくない……

 

「なぁ、アマテ」

 

 彼は、いつもより少しだけ柔らかい声音で続ける。

 

「俺は、お前と会うまでは死んでいたのだと思う。奪うことしかしてこなかった俺が、誰かと関わって生きていくことなんて、ありえないと思っていた。

 ……もしも……あの場所で立ち止まらずに歩いていたら……俺はお前の顔を知らずのまま、光のない道を歩いていたと思う」

 

 お願い……! それ以上言わないで……だってそれじゃ、まるで……。

 

「アマテ。お前が俺を人にしてくれた。……前、言ったよな? お前は沢山のものを貰ったって。俺も同じだよ。お前から、沢山貰った。だから……」

 

「いや……! いや……! フブさん! 言わないで!」

 

 私は彼を抱き締めた。これまでで一番強く。そうしないと、この腕の中から消えてしまいそうで、怖かった。

 それでも彼は、同じくらい強く抱き返してくる。

 

「泣くなって、最後くらい笑って見送ってくれよ。なぁ……遅くなったけれど、いつかの返事をしたい。いいか?」

 

「いやだ……! お願い! 言わないで……お願い……っ!」

 

「……ありがとう、俺を好きだと言ってくれて。俺も……アマテのことが好きだ……愛してる。この世界で、宇宙で、誰よりも君が」

 

 ──ああ……抑えられない。

 頬を伝う熱いものの感覚が、はっきりと分かる。止めようとしても、止まってくれない。

 

 ひどい……ひどいよ……どうして今なの……? 

 認めたくない。この手を離したくない。

 

「アマテ……」

 

 顔を上げたくなかった。上げたら、本当に全部が終わってしまう気がして。

 それでも顎にそっと触れられて、私はゆっくりと顔を上げさせられる。

 

 私の口に、あたたかい感触が触れる。初めてだった、彼の方からしてくれるのは。今までは、全部私からだったから。

 

「いやだ……いかないで……ひとりにしないで……フブキ……」

 

「違う。違うぞ? アマテ。お前は1人じゃない。ニャアンも、シャリアも、コモリも、ロイドも、シイコさんも……みんなお前の近くにいる。だから、俺はこの美しい世界を、……なかったことにはさせない。お前たちが生きる世界を、なかったことにはさせない。だから……」

 

 

今度は俺がお前に返す番だ。俺が、お前を救うよ。

 

 

 キラキラと光る世界が、いつかの夢と重なる。星を包んだあのあたたかい光が、私たちを包み込む。そして、気がつくと──

 

「──あ……」

 

 目の前から、白い機体は消え、腕の中にあった温かさは消えていた。

 まるで、最初から存在しなかったかのように。

 

 目の前には残酷にアラームの表示が瞬いているだけ。

 

 

 ──OMEGA PSYCOMMU LOST──

 

 

 止まって……? お願い……とまって……

 

「マチュ! マチュ! ドコカイタイノカ?」

 

 温かな光が目の前の宇宙に広がっているのに、私の視界はブレて見ることができない。

 

「ナイテイルノカ? マチュ! ケガシテルノカ?」

 

 

どうして…私を置いていったの…っ貴方の居ない世界に…意味なんかないのに…っ

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

「どうしましたか? アルテイシア様」

 

「いえ、大丈夫よミネバ。少し、懐かしい声が聞こえたと思って……」

 

「ラルおじ様を呼んできましょうか!」

 

「ふふふ、大丈夫よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

「ん? どうかしましたか? ハントさん」

 

「いや……なあ博士、坊やの声が聞こえなかったかい?」

 

「フブキ君の? 彼は今ソドンに乗っているのでは?」

 

「……確かに聞こえた気がしたんだよ……」

 

「……しっかりしてくださいよ? エフェメラ・ハントさん。貴女は今ゼネラルリソースの正式な社員なんですから」

 

「……わかってるさね」

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

「ん? どうしたのシーちゃん」

 

「どーしたの? おかーさん!」

 

「っ大丈夫よ。少しボーとしてただけ!」

 

(……フブキ君……?)

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

《フフフ……フハハハハハハ!》

 

「何を笑ってるんだ!」

 

《私の勝ちだな。今計算してみたが、アクシズの後部は地球の引力に引かれて落ちる! 貴様らの頑張り過ぎだ!》

 

「っ! ふざけるな! たかが石っころ一つ! ガンダムで押し返してやる!」

 

《なに!? バカなことはやめろ!》

 

「やってみなければわからん!」

 

《正気か! アムロ!》

 

「貴様ほど急ぎ過ぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない!」

 

 ──懐かしい記憶だ。こうして改めて見ると、よく分かる。我ながら無茶をしている。モビルスーツ一機で、小惑星を押し返す──どう考えても割に合わない賭けだ。シャアが正気を疑うのも、当然と言えば当然だろう。

 

《アクシズの落下は始まっているんだぞ!》

 

「νガンダムは伊達じゃない!」

 

 ──無理だとわかっていても、俺には……いや、僕には、ただ見ているだけって訳にはいかなかったんだ。

 シャア……貴方なら、地球連邦を変えることができるはずだった。エゥーゴで僕達が共に戦ったように。貴方なら……。

 

 ──僕は、貴方の下でなら喜んで戦ったんだ。なのに貴方は、地球に住む人々に矛先を向けてしまった。でも、それでも──

 

「な、なんだ!? どういうんだ?」

 

 ──僕は見た。僕と同じ心を持つ人たちが、力を貸してくれるのを。

 

「やめてくれ! こんなことに付き合う必要はない! 退がれ! 来るんじゃない!」

 

《な、何だ? 何が起こっているんだ! っええぃ! 完全な作戦にはならんとは……!》

 

《ロンド・ベルだけに良い思いはさせませんよ!》

 

「しかし! その機体じゃ……っ!」

 

 ──敵味方なんて関係なかった。次々とアクシズに取り付き、ネオ・ジオンの機体でさえ、地球が滅ぶのを黙って見ていられる訳がなかった。

 

「ギラ・ドーガまで……! 無理だよ! みんな退がれ!」

 

《地球がダメになるかならないかなんだ! やってみる価値はありますぜ!》

 

「しかしっ! 爆装している機体だってある!」

 

 ──どんなに僕の口から「やめろ」と言っても、彼らはやめなかった。

 次々とバックパックが爆発し、機体が離脱していく。当たり前だ。ただでさえ大気圏突入ぎりぎりの状況で、スラスターを全開にすれば──。

 

「ダメだ! 摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけだぞ! くっ! もういいんだ! みんなやめろ!!」

 

《結局……遅かれ早かれこんな悲しみだけが広がって……地球を押しつぶすのだ……。ならば人類は自分の手で自分を裁いて、自然に対し、地球に対して贖罪しなければならん。アムロ……何でこれがわからん……っ!》

 

 ──わかってるさ。貴方は貴方なりに地球のことを考えていた。

 だが、その“方法”のプロセスが間違っていただけなんだ。カミーユの事で、そういうやり方しかないと、貴方の中で決まってしまった。

 

《な、なんだ!? この光は……っ! サイコフレームの共振……! 人の意思が集中しすぎてオーバーロードしているのか? ──なのに、恐怖は感じない……むしろ温かくて、安心を感じるとは……》

 

 ──νガンダムから放たれた光は、僕たちとアクシズを包み込み、そのまま周囲へと広がっていく。次々と周りの機体を弾き飛ばして、僕とシャアだけがアクシズに残る。

 

《そうか……! しかしこの温かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ! それを分かるんだよ! アムロ!》

 

「分かってるよ! だから世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!」

 

《フッ……そういう男にしてはクェスに冷たかったな。ええっ?》

 

 ──クェス・パラヤ。彼女も貴方に惹かれた。

 シャア……貴方は人を変える力があったんだ。……どうして、それを正しく使えなかったんだ……っ! 

 

「俺はマシーンじゃない! クェスの父親代わりなどできない! ……っ! だからか? 貴様はクェスをマシーンとして扱って……!」

 

《そうか……クェスは父親を求めていたのか……しかし、それを私は迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな……》

 

 ──どうして……貴方はカミーユのように、クェスを導けなかったんだ……貴方にはその力があったはずだ。僕にはできないことだった。貴方のような才能は僕にはなかったから。

 

「貴様ほどの男が……なんて器量の小さい!」

 

《……ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ! そのララァを殺したお前に言えたことか!!》

 

 ──貴方は最初から、親からの愛を求めていた。父親を暗殺され、母親とも二度と会えなかった。

 だから貴方はララァに惹かれ、求めていた。ララァが貴方の求める"それ"を持っていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

《いつまでそうしているつもりだ……いい加減離せアムロ。お前の機体ならば大気圏を突破できる。お前一人なら……!》

 

 接触回線越しに、サザビーの脱出ポッドからシャアの声が響く。

 νガンダムは、灼けつくような大気の中でポッドを抱えたまま、ただ落下を受け止めていた。

 

「もう、飛べないよ。貴方が壊してくれたからな」

 

《……っ。こんな時にまで嫌味を言うのか……!》

 

 はは。嫌な顔をしているのが目に浮かぶよ。……こんな時でもなければ、貴方としっかり話もできないなんてな。

 悲鳴をあげる機体音、軋むフレーム。計器は赤一色に染まり、モニターの外には温かな光に包まれたアクシズ。

 

「褒めてるんだよ。このνガンダムは僕が開発に関わったんだ。僕が求めるガンダムそのものさ。それをここまで破壊した。流石だよ」

 

 モニターのいくつかはノイズが走り始めて真っ暗になる。もう、ポッドすらも視界に入らない。

 

「それに……ポッドなんて僕が手を離したらすぐに焼かれてしまう」

 

《……何の意味があるんだ。アムロ。情けをかけているのか?》

 

「……シャア、少し話をしないか?」

 

 短い沈黙。大気の光が、コクピット越しにちらつく。

 

《……話すことなど……なぜお前はそ……です……だ……今もなお……焼か……い#と言うnに……!》*1

 

 ……もう、機体も限界だ。通信は地球の大気から発するプラズマで聞こえづらくなっている。……でも──

 

「そんなに悲しむことじゃないだろう?」

 

 ──そうは言っていない! しかし……っ……

 

 ──分かるだろ? 貴方なら。モニターが壊れ、貴方の顔が見えなくても、無線が聞こえなくても、こうして、繋がっているんだから。

 

 ──僕は、ニュータイプは人殺しの道具にしかならないとも思っていた。

 でも、改めて思うよ。戦うために使ってきたこの力は、本当はこうやって分かり合う為の物だったんだよ──

 

 ──アムロ……

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの意識はなくなった。

 痛みも、重力も、鳴り響く警告音も、何もかもがすっと遠ざかっていく。ただ、何か大きなものに包まれているような感覚だけが残った。

 

 僕はその時初めて、「死」というものがこれなのかと理解した。

 終わり、というよりも、切り離されていく感じだ。自分と機体、自分と身体、自分と世界を結んでいた線が、一本ずつ静かに外れていく。

 

 けれど……同時に思った。これが、「自由」なのかと。

 

 

 そこから、夢のような時間を過ごした。

 

 ジオンの視点で、様々な出来事を見た。この世界ではジオンが勝利し、ガンダムはジオンの手にある。──ガンダム・クァックスが建造されるまでの経緯も、すべて。

 

 そして、僕は彼女に出会った。

 

 アマテ・ユズリハ。カミーユと同じような、真っ直ぐ過ぎるタイプの子供。

 正直に言えば、彼女でなくてもよかったのかもしれない。だが、なぜか「この子がいい」と思ってしまった。今にして思えば、それが結果として最善だった。

 

 ジオンのニュータイプの少年もいたが、軍人というには少し優しすぎる青年だ。彼ならサイコミュの力がなくても、ガンダムを十分に動かせる──そう判断した。だから、僕が力を貸す必要はないと思った。

 

 しかし……彼がガンダム・クァックスに乗ることはなくなってしまったな。

 

 それ以降、ガンダムにはマチュが乗ることになったから。

 ザクの手から直接コックピットに乗り込むなんて。しかも、気密が保たれているかも分からない地下トンネルで。……やはり似ているな、彼と。

 

「どうすんの! これ!」

 

 落ち着くんだ。ロックが外れる。あとは僕が動かすよ。

 

 ハロ……懐かしい。

 僕が色々改造して、僕を形作った「一部」でもある。

 

 マチュは、僕の想像よりもずっと優れた子だった。

 僕やシャアと同等──いや、それ以上の素質。

 

 戦争によって歪められた女性を救い、誰かのためにその力を振るうことができる。

 そして彼女には、見ているだけで「お似合いだ」と思える愛する人がいた。フブキ・アルジェント。銀色の雪か……

 なぜだろう。どこかで会ったことがあるような気がする。僕は彼と、どこかで会ったことがあるのか? 

 

 彼は寡黙だった。僕と話す機会などほとんどなく、マチュがハロを抱えている時に、少しだけ様子を覗かせてもらった程度だ。

 まだ幼いのに達観していて、マチュやニャアンを正しく導いてきた。その光景を見ながら、どこか悲しそうな目をしていた。

 

 ──気になったんだ。だから聞いた。

 

 泣いているのか、と。

 

 彼はすぐに否定した。けれど、何かあれば手助けしてくれと僕に言った。

 

 僕には分からなかった。

 彼を見ていると、なぜか僕の心が悲しくなる。なぜだ? 

 彼は僕と何の関係もないはずだ。なのに──どうして……。

 

 でも、シャロンの薔薇というものが見つかってからは、理解した。

 この世界は……ララァが作ったものだと。

 

 ──ゼクノヴァ。僕の世界では存在しなかった事象。

 その正体は、ララァがこの世界に干渉したことで生まれた出来事だ。

 シャアを守るために、ララァは何度も世界をやり直してきた。その影響だったのだろう。

 

 ──νガンダムが現れたことさえも。

 

 普通の人間なら、とても耐えられないはずだ。

 それでも、彼とマチュは戦った。ララァのために、世界のために。

 

 よくやったよ、シュウジ。

 でも、僕はもう見たくないんだ。またガンダムがララァを殺す光景を。だから、あとは彼らに任せていいんだ。

 

 

 ああ……マチュ。本当に、君がパイロットで良かった。

 

 

 だから──

*1
話すことなど……なぜお前はそこまでするのだ……今もなお助けた星に焼かれていると言うのに……! 




 どうも作者です。これにて、
「機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷」 終了です。GQuuuuuuXが終わってはや半年。ここまで走ってこれたのは同じガンダム好きの皆様のおかげです。皆様の感想はここまで走ってくるのに大変励みになり、個人的にはかなり大満足な結果となりました。
ありえたかもしれないIFの世界。数多あるガンダムの世界で、1人の少年のお話を描けたことは私にとって大変嬉しいものでした。

重ね重ね、ありがとうございました。 

R-18版は来年かな?







































最終回と言ったな。まだエピローグがある。
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