機動戦士Gundam GQuuuuuuX 自由の奴隷   作:スペースデブリ

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使い勝手の良い駒

 

 

 昼休み。アマテ・ユズリハは、教室の隅の席で、机に弁当箱を広げていた。ふたを開けても、特に感情が動くことはない。昨夜、自分で適当に詰めたものだ。それでも「空腹を埋める」という目的は果たしてくれる。箸を動かしながら、ふと視線を窓の外に向ける。

 

(……あの人、あれっきり見てないな)

 

 それから数日。例の公園には何度か足を運んだ。帰り道にちょっと寄るだけ──そんな軽いつもりで。でも、彼の姿はなかった。

 

「こっちはちゃんと学校に行ってるのにさ……」

 

 ぽつりと呟く。本気で怒っているわけではない。けれど、どこか心のどこかがざわついていた。

 

(……別に、また会いたいとか、そういうんじゃないし──ただ、なんか──あの人、普通じゃないって感じがしてた……)

 

 そんな時だった。

 

「ねえ、アマテ。来週の職場見学、決めた?」

 

 クラスメイトが数人、近づいてくる。手には一覧表。市内の企業や施設名が並んでいる。

 

「うちのグループ、医療センター行く予定だけど、一緒にする?」

 

「んー……どうしよっかな」

 

 アマテは表を受け取り、流し見る。医療、福祉、監査局、資料館──どれも自分の興味とは程遠い。

 

「う〜ん……まだ決めてないし、そもそもピンとこないんだよね、こういうの」

 

「じゃあ適当に書いちゃいなよ。埋まっちゃう前に」

 

 表を膝に乗せながら、アマテは視線を落としたまま考える。

 

(……そもそも、職場ってなんだろ……ママがいる監査局?)

 

 一瞬だけ思考が“監査局”に止まる。

 

(やだやだ、あそこ行ったら絶対小言言われる……「制服ちゃんと着なさい」とか、「筆記用具は?」とか、いつも通りの調子で)

 

 口には出さないが、アマテの表情がほんの少しだけ曇る。

 

(……あそこ、“普通”のことしか言わないし、“ちゃんとしなさい”って空気でできてる……なんか、ああいうのって、疲れる)

 

 そう呟くように思いながら、指は別の欄へと動いていく。そのとき、ふと思い出した。あの公園の、ベンチの向こう側。

 

 コロニー中央部──無重力域で作業していたモビルワーカー。資材の運搬か、外壁の補修か。詳しくはわからない。

 でも、あの時、あの人も──アルジェントさんも、それをずっと見ていた気がする。

 

「……あー」

 

 小さく呟き、ペンを手に取る。

 

「じゃあ、ここ。行ってみたい」

 

 表の一角、建設関係の企業の欄に印をつける。

 

《〇〇建設・拡張事業部》

 

 どうして選んだのか、自分でもよくわからない。でも、なんとなく──そこに“何か”がありそうな気がした。

 

「えっ、建設会社? 珍しいね」

 

「意外〜 アマテがそういうのに興味あるなんて。うちの学校で行く子、あんまりいないんじゃない?」

 

「うん。でも、なんか楽しそうじゃん。重機とか。でっかいし」

 

 それだけ言って、アマテは笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 コロニー中央部──無重力空間にて、フブキは一台のモビルワーカーを操縦していた。静寂の中、緩やかに揺れる工具ポーチと補助アーム。

 

 操作は精確。動作は無駄がない。荷物を受け取り、定められた地点まで運搬。着地後は仮設フレームに接合される大型資材を、微調整しながら所定の軌道へ誘導する。

 

 浮遊するパネルに片手でアクセスしながら、視線だけで次の工程を確認。ときに補助員としてワーカーのサポートに入り、またある時は、故障機の簡易メンテナンスまでこなしていた。

 

「……便利にされてんな、アルジェント」

 

 無重力エリアに接続された中間デッキ。資材搬入口から少し離れた仮設の足場で、数人の作業員が低い声で話していた。

 

「あいつ、ここ数日で搬入、補助、点検、果ては配線の設定までやってるぞ。整備班じゃなくて、うちの作業員だろ?」

 

「まぁ、手ぇ抜かねぇし、器用だからな……そりゃ誰でも使いたくなるだろ」

 

「……でもよ、ああも無表情で黙々やられると、何考えてんのか分かんねぇっていうか……」

 

 そこまで言ったときだった。

 

「おい、てめぇら、口動かす暇あったら手ぇ動かせ!」

 

 鋭い一喝とともに、作業長が現れた。脇に端末を抱え、苛立ちを隠さぬ顔で作業員たちを睨む。

 

「ったく……お前ら、耳の穴かっぽじってよく聞け。来週、うちに学生が来るらしい」

 

 作業員たちの間に一瞬だけ沈黙が落ちる。

 

「中学の職場見学だとよ。コロニーの拡張作業に興味があるんだと。……ったく、誰がそんなもん希望すんだか」

 

「マジっすか……」

 

「えぇ……子どもかよ……俺苦手っすよ」

 

「ガキだろ? 仕事邪魔しなきゃ何でも良いよ」

 

 作業員たちが渋い顔を見せる中、苛立ちを込めて続けた。

 

「いいか? 丁重にもてなせ。言っとくが、怪我でもさせたら……」

 

 視線が鋭くなる。

 

「首が飛ぶと思えよ」

 

 言葉の重さに、場が静まる。

 

「特にだ──」

 

 作業長は顎で無重力作業エリアの奥を示す。そこでは、黒いノーマルスーツ姿のフブキが、静かにモビルワーカーの機体整備を進めていた。

 

「……アイツな。アルジェント」

 

「……ああ、納得」

 

「器用で丁寧で、文句も言わねぇ。でもって無愛想」

 

 誰かが小さく頷く。

 

「確かに……言葉少なすぎて、逆に気味悪いとこあるな」

 

「学生に無言で近づかれたりしたら、それだけでクレームもんだ。だからな、“見張っとけ”」

 

「もてなすんじゃなかったんスか」

 

「“もてなしながら監視しろ”。マルチタスクは社会人の基本だろ? 覚えとけ」

 

 作業員たちは苦笑を漏らしながら、各自の持ち場へ戻っていった。

 

 そんな空気が流れていたことなど知る由もなく──フブキは、いつもと変わらぬ無言のまま、センサーパネルを調整し、次の機体に移動していた。それが今の“日常”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 薄曇りのコロニー中央区域。回転の中心に近いため、地面はあるが、身体はわずかに浮くような感覚が残る。

 

 制服に身を包んだアマテは、同学年の数名と引率の教員と共に、建設区画へと足を踏み入れていた。

 

「こちらは居住区へ繋がる資材搬入路。重機が往来してますから、立ち入りは禁止です」

 

「手摺のない足場には絶対に近づかないようにしてください」

 

 建設会社の職員が、一つひとつ丁寧に説明をしていたが──アマテは、目の前の光景にそれほど注意を払ってはいなかった。

 

(ふわふわしてる……)

 

 足の裏から伝わる感覚が、日常から少しだけズレている。その非現実感に、ほんの少しだけ胸が高鳴る。とはいえ、興味のない話が延々と続く中で、アマテはすでに少し飽きていた。

 それでも、“つまらない”だけでは片付けられない何かが、この場所にはある筈だと……だからわざわざここを見学場所に選んだのだ……が……

 

 やがて案内の職員が「では、今から二十分ほど自由に見学して構いません」と告げると、クラスメイトたちは三々五々と移動を始めた。

 

 アマテは一人、人気の少ない通路側に立ち止まり、目の前をせわしなく動いていくモビルワーカーたちをぼんやりと眺めていた。

 

 鉄骨の束を運ぶ機体。溶接器を構える機体。艦船ではない、生活に密着したそれらの動きに、どこか心が落ち着く気がした。その時だった。

 

 建物脇の方で、一機のモビルワーカーが静かに停止した。コックピットがゆっくりと開き、中から一人の作業員が姿を現す。ヘルメットを取り、脇に抱えると、彼は無言で事務所と思しき方向へ歩き出した。

 

 アマテは、目を見開いた。

 

 ──間違いない。あの日、公園で出会った“おじさん”。いや、あの人──名前を教えてくれなかったけれど、“アルジェント”と名乗った人だ。

 

 足が、勝手に動いていた。

 

「ねぇ!」

 

 声を上げると、その背中が止まる。彼はゆっくりと振り返った。変わらない無表情。けれど、確かに視線が、アマテを捉えている。

 

「……おじさん、だよね?」

 

 その声の主、制服姿のアマテが腕を組んでフブキを見るが、どこか拗ねたような顔。けれどその目は、確かにこちらを探していた光を宿している。

 

「……ああ、成程。見学があるとは聞いていたが……お前のところだったのか」

 

「何で、公園に来なくなったの?」

 

 アマテの問いに、フブキは少し目を逸らすようにして応える。

 

「……たまたま、休むのにあの公園がちょうど良かっただけだ。毎日いるわけじゃない」

 

「……なにそれ」

 

 アマテは唇を尖らせた。

 

(こっちはちゃんと学校行ってたし、アレから何度も公園に行ったのに)

 

「……」

 

 フブキは答えなかった。アマテはむぅ、と声にならない不満を喉に留めながら、視線を上に向ける。

 

「……それはそれとして。なんでここで働いてるの?」

 

 視線を戻して尋ねるが、フブキはやや間を置いてから、ぼそりと口を開く。

 

「……何となくだ」

 

「ええ……なにそれ……」

 

 どうにも噛み合わない会話に、アマテは思わず眉を寄せた。けれど、それでもどこか──離れがたいと感じていた。沈黙が少しだけ漂う。

 その空気を断ち切るように、フブキが小さく息を吐いた。

 

「……はぁ……ちょっと、待ってろ」

 

 そう言うと、彼はモビルワーカーの脇を通って、仮設の事務所へと足を運んでいった。アマテは首を傾げつつも、その場でじっと待つ。

 周囲では作業員たちがせわしなく動き、視線は彼女を横目に流れていった。

 

 数分もしないうちに、フブキが戻ってきた。今度は作業スーツのまま、無言でアマテの横を通り過ぎていく。

 

「……え、ちょ、ちょっと! どこ行くのよ!」

 

 慌ててついていくと、彼はモビルワーカーの影の下に腰を下ろしていた。

 

「……座れ」

 

 一言だけそう言い、腰のポーチから何かを取り出すと、軽く手首のスナップで缶をアマテに投げてよこす。

 

「わっ」

 

 慌てて両手で受け止めたアマテが見下ろすと、それは少しだけ冷えた缶のお茶だった。

 

「……え。くれるの?」

 

「飲むか飲まないかは、お前の自由だ」

 

 淡々と、けれどどこかほんの少しだけ柔らかく。フブキは、缶のプルタブを引きながら視線を遠くに向けた。

 

 アマテは、まだ少しだけ不満げな顔をしていたが、手にしたお茶の缶をじっと見つめていた。

 

「……ありがとう」

 

 小さく呟いてから、アマテは缶のお茶のプルタブを開けた。「プシュ」と静かな音が辺りに溶け、甘くも渋みのある香りが鼻先をくすぐる。

 一口、チビチビと飲み込むと、ほんの少しだけ気持ちが和らいだ気がした。

 

 フブキはというと、手元のデバイスを無言で操作しながら、ふと声を発した。

 

「……で? なんでまた、こんなとこに見学に来たんだ」

 

 こちらに目線は向けないまま、淡々とした口調。けれど、その言葉の奥には少しだけ興味が滲んでいた。

 

「こんなところに見るものなんて、何もないだろ」

 

 アマテは飲みかけのお茶を見つめながら、どう言おうかと一瞬考えた。まさか「貴方に会えるかもしれなかったから」なんて言えるわけがない。なんとなく? それでは少し格好がつかない気もして、視線を横に流す。

 

 そこで目に入ったのは、彼が先ほどまで乗っていた作業用モビルワーカー。脚部には粉塵がこびりつき、装甲には薄く擦れた跡がいくつも走っていた。

 

「モビルワーカー、見たかったんだ」

 

 そう言いながら、アマテはその機体を指差した。フブキの手が止まった。ちらっと彼女の方を見やると、少し意外そうな声が漏れた。

 

「……お前、将来こんなのに乗りたいのか?」

 

「違うけど……」

 

 アマテは視線を機体に向けたまま、ぽつりと続ける。

 

「フワフワ動いてるの、なんか良いなって思って」

 

 それを聞いたフブキは、喉の奥で小さく笑った。

 

「フッ。お前じゃ……姿勢制御出来ずにクルクル回って終わりだな」

 

「は?」

 

 アマテは一拍置いて、じとりとした目でフブキを睨んだ。

 

「ねえ、絶対ナメてるでしょ。私のこと」

 

「ああ。ナメてるよ」

 

 迷いなく即答しながら、彼は缶を軽く傾けて残りのお茶を口に含んだ。その頬に、わずかな笑みが浮かんでいる。

 

 アマテは、しばらく彼を睨み続けたが──次第に、その視線もいたずらを咎めるような柔らかいものへと変わっていった。

 

 フブキの口元に浮かんだ、わずかに皮肉げな笑み。アマテはその表情を見ながら、ふと気づいた。──自分が、今、笑っている。それも、いつもより少しだけ、自然に。少しだけ、楽しく。

 

 何が可笑しいわけでもない。けれど、目の前にいるこの人が、無愛想に、そして時にからかうように話すその調子に、心が緩んでいるのだと、どこかで理解していた。

 缶のお茶を膝に置いたまま、アマテは少し躊躇いがちに問いかけた。

 

「……ねえ、おじさ──じゃなくて、今日は公園に来れるの?」

 

 フブキは少し間を置いて、目線を遠くの作業ラインへ向けた。

 

「……もう、行けないかもな」

 

 その返答に、アマテは目を瞬かせる。心のどこかで、またいつか会えると思っていたのかもしれない。だからこそ、その言葉は少しだけ堪えた。

 

「……どうして?」

 

 問いかける声が、少しだけ小さくなる。フブキは一度だけ深く息を吐くと、静かに答えた。

 

「この仕事だと……あそこまでは遠い。それに……俺みたいな奴がいると、あの公園の空気が悪くなるだろう」

 

 そう言って笑った彼の顔は、どこか寂しげだった。軽口とも、自嘲ともつかないその笑みに、アマテは言葉を返すことができなかった。

 ただ、手に残る缶の冷たさだけが、やけに強く感じられた。

 

(──なにが「俺みたいな奴」だよ……)

 

 アマテの胸の中に、小さなつぶやきが生まれる。けれど、それはまだ言葉にはならなかった。

 

 しばしのあいだ、モビルワーカーの脇で缶を片手に語らい続けた二人。アマテは笑ったり、口を尖らせたりしながら、それでもどこか嬉しそうだった。

 フブキは、変わらず静かなままだったが、その表情には、どこか柔らかい影が差していた。ふと、フブキが口を開いた。

 

「……にしても、お前。こんなとこでいつまでもいて良いのか?」

 

 アマテは「え?」と間の抜けた声を出したあと、目を見開く。

 

「あっ……!」

 

 思い出した。今、自分は“社会科見学”で来ているのだった。しかも自由時間も、もうとっくに後半に差しかかっている。

 

「ヤッバ……!」

 

 アマテは慌てて立ち上がると、缶のお茶をフブキに差し出す。

 

「これ、ありがと! えっと、その……また!」

 

 フブキが何か返す間もなく、アマテは制服のスカートを揺らしながら、小さく手を振って駆け出していった。その背中が小さくなっていくのを、フブキはしばらく眺めていた。

 

「……せわしない奴だ」

 

 ぽつりとそう呟くと、立ち上がって、受け取った空き缶を傍らのゴミコンテナに投げ入れる。金属音がひとつ、軽く鳴った。

 

 そして彼は何事もなかったかのように、また作業へと戻っていった。騒がしく、そして静かな、ただそれだけの日常の続きを歩むように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、人の人たる根源が"争い"であるのならば、その日常も長くは続かない。それは必然なのかもしれない。

 

「お久しぶりです。いや、お会いするのは初めてでしたかね。フブキ・アルジェント大尉」




 本当に見返せば見返すほど1話で終わらせて良い人じゃなかったよなぁ…ある意味ガンダムしてるんですが…そしてニャアンとマチュがもうすでにMAVになってて草でした。いや早いよ君たち…
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