【完結】3年後に世界が滅ぶと知ったエイシンフラッシュとトレーナー 作:ポンタ4
本日晴天なり。
死んでしまうには惜しい一日である。
いや、もしかしたら死んでしまうからこの素晴らしい晴天なのかもしれない。
今日は彼女、エイシンフラッシュと共にトレーナー室に足を運ぶ。
2人で最も長く時を過ごし、最も会話をしたこの場所。
2人で決めたこの場所で最後の時を過ごす。
それがトレーナーとエイシンフラッシュが決めたスケジュールであった。
普段では緻密なスケジュール、1分1秒のスケジュールを決めているが今回は午前10時から午後9時の11時間の間は大きな一つの予定が記載されていた
【トレーナー室にて3年を振り返る】
午後9時からの予定は空白。
つまり、この時間以降は予定が無い。
いや、予定を立てる意味が無いだろう。
―――――――なぜならこの時間以降地球で生きている全ての生物は死ぬからだ。
***
3年前テレビで大きなニュースになった。
地球に巨大な隕石達がぶつかると。
地球に降り注ぎ、地球はその破滅から逃れるすべはないというものだ。
遠い天体の一つがビッグバンを起こす。
その天体の周りにはどうやら大きな他の惑星があるらしく、ビッグバンによってその天体のルートを外れてしまう。
そしてそのルートを外れた天体、所謂隕石などが大量に現在地球に降りかかっている、というものだ。
それらが到達するまでに3年かかるのだという。
テレビで言っていた内容は正直トレーナーには理解できなかった。
最初は世界中で色々と混乱を起こしていた。
それこそ新興宗教ややけくそな動機で犯罪を起こすものもいた。
勿論、仕事を辞めては趣味に没頭するもの、己のしたいことをしようと旅に出たものもいた。
世界は隕石によって滅ぶ前に、人間の手によって滅ぶとも言われていたほどだ。
しかし、不思議と世界は1か月ほどで元通りになった。
人々の生活は安定し始め、最初の1か月にあった犯罪率も急遽落ち着きを取り戻した。
所謂世界中でこの隕石によって滅ぶ、ということに慣れが出てしまったのだろう。
人間の慣れとは怖いものである。
勿論、当初よりも自分の世界を大事にするものも増え、このトレセン学園も例外ではなかった。
トレセン内のトレーナー数は少なくなり、生徒も退学をする、またはそもそもレースを諦めてしまうものもいた。
俺自身も例外ではなかった。
トレーナー室にてそのニュースをSNSで見てはとある一つの答えが出ていた。
――――――――――トレーナーを辞める
トレーナーというのは中々に時間が取られるものである。
家族との時間を、友人との時間を過ごそうかと考えた。
しかし、ウマ娘のトレーナーとしてなったからには捨てられない夢があった。
G1勝利、王道路線制覇、海外―――
それらを捨てきれずに、そして答えを出せずにいた。
トレーナー室で一人、色々と考えてはいるものの中々決断できないのも事実。
このまま狭いトレーナー室で考えていても何も思い浮かばない。
そう俺は考え、そしてトレーナー室から出ていった。
時刻は14時、まだ日は高く昇っている。
今日はトレセン学園は休みとなっている。
外に出れば先ほどまで練習していたと思われるウマ娘やそのトレーナー達が騒ぎになっている。
阿鼻叫喚、その言葉がまさに似合う地獄であった。
その有り様から、現実から目を逸らすようにして、校舎から出ていく。
外も校舎内と同じような光景であった。
些か校舎内よりはまだ地獄ではないが、鳴き声や怒号は嫌というほど聞こえてしまう。
学園の外に出ても同様、ならばまだこの学園内にいて、落ち着くまで待つ方がまだ精神的にも落ち着く。
精神的に落ち着くとはいえ、まだ心の整理ができていなかった。
ふと、コースの方に視線を移す。
そこには人が少なく、練習しているウマ娘もほとんどいない。
というより、この状況で走っているウマ娘がいる方が珍しいだろう。
――――――あそこなら
そのコースへ足を運ぶ。
誰もいない静かな空間、そこならばきっと何かしらの考えは浮かぶはず、そう思った。
雲一つない晴天なり。
人生の終わりを告げられたというのにここまで清々しい晴れ空を見せつけてくるのは神様の悪戯なのではないか、そう思ってしまう。
今後の事、しかしトレーナー業を続けるのか、それとも辞めてしまうのか。
その2択の答えは中々決められなかった。
コースに近づくと、一つの走る姿が見えた。
こんな世界の終わりを告げられた日にトレーニングをするウマ娘がいるとは大層驚きである。
そんな物好きは一体誰なのだろうか、その姿を近くで見ようと無意識に走り出して近づいた。
その姿は黒く艶やかな頭髪と尻尾を揺らし、半ばやけくそに近い走りだった。
息を吐きながら最後の直線で一気に足を伸ばす。
波打つような美しい走り、恥ずかしながらその姿に惹かれてしまう。
一目惚れだった
これが彼女、エイシンフラッシュと出会いであった。
***
午前10時30分。
トレーナー室に足を運ぶ、トレーナーとエイシンフラッシュ。
今日はトレセン学園自体は休校となっているが、誰でも来られるように鍵は開いていた。
そのトレセン学園には少数ながらトレーナーとウマ娘がいる。
ここを最後の場所にするものは自分たち以外にもいたということだ。
2人で机の上に荷物を置き、上着を脱ぐ。
2月初旬。まだまだ寒さは残っているも日中は少しずつ春の温かさが顔を覗かせ始めている。
トレーナーはガラス戸の棚へ足を運び、その戸を開けて中から3つのファイルを取り出す。
その間にエイシンフラッシュは外の寒さによって冷えた部屋に暖房をつけていく。
取り出したファイルをエイシンフラッシュが視界に入ると、ぱたぱた、と音を立てて彼女は近づいてくる。
「トレーナーさん、それが…?」
「あぁ、そうだよ。これが君と俺の3年間の軌跡だ。」
部屋の真ん中にあるソファー二つとテーブル。
そのテーブルの上にそのファイルを置く。
ファイルの背表紙はそれぞれ”ジュニア”、”クラシック”、”シニア”と書かれている。
トレーナーはソファーに座るとエイシンフラッシュはそれに続いて隣に座る。
トレーナーは”ジュニア”と記載されたそのファイルを手に取って、開くとそこには写真の集まり。
トレーナーはその写真の集まりのうち、1枚を取り出しては眺める。
そこにはトレーナー室の中で二人で並んで撮った写真。
契約した当時の写真であり、これがエイシンフラッシュとトレーナーの二人の軌跡の始まりであった。