【完結】3年後に世界が滅ぶと知ったエイシンフラッシュとトレーナー 作:ポンタ4
ぱたん、と音を立ててファイルを閉じていく。
”シニア”と書かれたファイルはここでお終い。
これ以降のファイルにはフラッシュのトレーナーとして、そして競技者としてのフラッシュは記録には残っていない。
時刻は18時、世界が滅ぶまで残り3時間。
外は既に太陽が隠れており、夕日による橙色の空は薄暗くなり、星々で輝いている。
いつもの日常であれば夕飯の準備を始めてもおかしくないのだが、俺とフラッシュはその準備の時間も、そして食事をとる時間も全て2人で話す時間にするために準備は何もしていない。
フラッシュの方を振り向くと、彼女は手帳を開いていた。
フラッシュが愛用している手帳、その手帳には”トレーナー室にて3年を振り返る”と記載されている。
「最後まで…私は予定を上手く立てられていませんね」
「だからこそ、俺がいる、そうだろ?フラッシュ」
彼女の手帳にペンを取り出して上から二つの予定を書いていく。
”現在の清算をする”
”未来を考える”
「現在と…未来…」
「最後だから、君と過去だけじゃなく今と未来を見たいんだ、ダメかな?」
「…本当…トレーナーさんにそう言われたら断れませんよ」
彼女が眉を下げて少し困った様子、でもその様子は本心ではないように見える。
「では、現在の清算…というと…なんでしょうか?」
「そうだな、トレーナーとして最後に君の走りをみたい、かな。フラッシュは?」
「…私も…同じ気持ちです。最後に走りたいと今思いました」
「はは、なら…コース場に行こうか。多分誰も居ないと思うし、使えるだろう」
「そうですね、トレーナーさん、すみませんが先に向かってて下さりませんか?」
彼女からの提案、さすがに私服で走るわけにはいかない。
そしてその着替えをいくら付き合っているとはいえ、見るのも忍びない。
「分かった、待ってるよ」
「ありがとうございます、10分後にはつきますので」
そうして俺は上着を手に持ち、トレーナー室から出ていった。
■□■□
10分後、私は時間ぴったりにコース上へ辿り着きました。
「トレーナーさん」
「フラッシュ、それは…」
彼が振り向いて私の服装を見ては少し驚いた様子。
ディアンドル、私はこの故国の装飾が入った勝負服を着てトレーナーさんの元へ訪れました。
「最後なので…有馬記念の後に着るとは思いませんでしたが…最後に着れて良かったです」
私は着ている服装に視線を落としていく。
この勝負服を着ていると自然と故国への想いが高まってしまう。
自分の胸元に手を添え、そして1つ息を吐いていく。
芝のコース場。
今日は誰も使用しておらず、完全に貸し切りの状態となっていました。
それもそうでしょう、この時にわざわざトレーニングをするウマ娘が居たら変わり者です。
既に外は暗くなり始めていましたが、トレーナーさんは照明を付けてくださり、視界は悪くありません。
「じゃあ…フラッシュ、最後に君の走りを見せてほしい。」
「はい、見ててください。トレーナーさん」
トレーナーさんの前で少しだけ足を伸ばしたりしてストレッチをしていく。
いきなり走ってしまえばそれこそケガに繋がってしまいます。
まずは足首、そして太腿と膝に念入りにする。
5分ほどの簡単なストレッチ。
それを終えるとターフに足を踏み入れていく。
あぁ、この脚に伝わる感触。
私はこれが好きですね。
くしゃり、と音を立てながらスタート位置へ歩いていく。
コース一周、約2000m。
この距離は私が勝った天皇賞・秋と同じ距離となります。
あの時を思い出し、そして有馬記念を戦った強敵達を記憶の中で再現していく。
「フラッシュ―、準備はいいかー!?」
「はいっ、大丈夫です!」
私はトレーナーさんに向けて声を挙げる。
こうしているとルドルフさんとシービーさんに並走して頂いたことを思い出します。
「よーい……どんっ!」
トレーナーさんのかけ声が聞こえれば私は一気に足を前に出してスタート。
記憶の中の強敵達、その人たちが本当に今走っていたら、それを考えながらそして自分の目の前に虚像を作り出していく。
コーナーを曲がり、位置取りを確認する。
私は最も内側、位置取りとしては完璧でしょう。
勿論、虚像が相手であるため、いくらで偽装し放題なのですが。
走りながら更に考える。
今前にいるウマ娘は何を考えているのか、レース展開は早いのか、それとも遅めなのかを。
ちらり、と視線をトレーナーさんの方へ向ける。
トレーナーさんは私を見つめており、表情は真剣そのもの。
最後だというのに、この走りが終わればそのまま指導が入ってもおかしくない表情です。
直線を終えて、最後のコーナー。
私の中の虚像たちは徐々にスピードを上げていきます。
ですが、私はまだ、まだ脚に力を溜めていきます。
回りに合わせはするもののまだ力は出しません。
そして最後の直線。
1歩、2歩、足を前へ進める。
――――今!
一気に貯めていた力を放出し、そして走り出していく。
先ほどの虚像たちは既に私の視界から消えており、私は走ることに夢中になっていました。
トレーナーさんが立っている場所、そこがゴールになります。
200m、100m。
少しずつ距離が近づいていく。
そしてトレーナーさんの目の前を過ぎていきました。
過ぎた直後にゆっくりと足の力を緩めて小走りになっていきます。
息を荒げ、自分の膝に両手をついていき、視界は芝生の緑一色。
額から汗が垂れていくのを感じ、腕で拭っていきます。
視界をあげると既にそこには先ほど見えていなかった虚像の後ろ姿。
私は―――――――
「フラッシュー!」
背後からトレーナーさんの声が聞こえるとはっ、と意識を取り戻し、振り返る。
彼が小走りで此方に近づいてきており、その手にはタオルを持っていた。
「お疲れ様、フラッシュ」
「ありがとうございます、トレーナーさん。」
私はトレーナーさんからタオルを受け取り、汗を拭いていく。
トレーナーさんの瞳を空に浮かんでいる星々より輝かせていました。
「やっぱりフラッシュの走りは惚れ惚れするよ。」
「…お世辞ではなく?」
「お世辞なんかで言わないよ。初めて見た時から、ずっと――――君の走りに一目惚れしているよ」
「っ…もう」
彼からの言葉に頬が赤くなり、タオルで自分の顔を半分隠してしまいます。
しかし、尻尾は嬉しいのかぱたぱた、耳もぴこぴこと揺れてしまう。
嬉しいのは分かったので収まってください、恥ずかしいので。
そう思っても収まることは無く、トレーナーさんがそれに気づいたのか
「嬉しそうで何より」
というと余計にまた頬が熱くなるのを感じてしまいました。
気を取り直すように少しだけ、んんっ、と喉を鳴らしては彼を見据えてとある問い。
現在への清算、その答えが欲しかった。
「トレーナーさん、私の担当に慣れて幸せでしたか?」
「幸せだよ、これ以上ないくらい。フラッシュは?」
私の答え、彼とジュニア、クラシック、シニア全てを走りぬきました。
そして最後の、本当に最後の走り。
私はこれ以上ない満足感に満ちていました。
トレーナーさんが導くと告げたジュニア、共に支え合うと決めたクラシック、そして誇りある私となったシニア。
「私も―――――これ以上ないくらい幸せです」
****
勝負服を脱いでいき、私服へと着替えていきます。
既にソファーに二人でまた並んで座っている。
先ほどと座る位置は違っており、私はトレーナーさんに背を向けて、そして尻尾は彼の膝の上に乗っています。
実は私とトレーナーさんは今年に入って一緒に同棲をしていました。
トレセン学園自体も今年に入っては全ての授業とレースを取りやめ、完全に休業状態。
しかし、来るもの拒まずであり、校舎内は出入りでき、そして寮も通常通りでした。
ですが、私は最後の時まで、どんな少ない時間も彼と一緒に過ごしたくて寮から出ていきました。
寮から出る際にファルコンさんが大泣きして、それを私が宥めたのはここだけのお話です。
トレーナーさんにして頂く、この尻尾のお手入れ。
いつもはお風呂上りにして頂いてましたが、今日は最後の日という事でこの時間からお手入れになります。
ホワイトデーに頂いたアロマオイルはまだ使い切れておらず、やっと3本目にいったところ。
毎日数滴、最後の仕上げとして使っていたため、量自体多く使ってはいませんでした。
私が渡した愛用のブラシが尻尾に当たり、ゆっくりと梳かれていく。
私は気持ちよく、瞼を閉じてその心地よさを享受していきます。
「フラッシュ、痛くないか?」
「大丈夫ですよ」
彼からの問い、この問いは毎度されています。
貴方にして貰うこと自体嬉しいというのに、痛いなんて思うはずがありません。
何度かブラシで尻尾の毛並みが整えられていき、そしてアロマオイルが数滴垂らされていきます。
尻尾から漂う甘いバニラの匂い。
お菓子を作るのが好きであるため、この匂いを嗅いでいると落ち着きます。
トレーナーさんがブラシを使ってそのアロマオイルを尻尾全体に馴染ませていく。
ブラシで梳かれ、そしてそのアロマオイルで仕上げられていけば自然と尻尾が揺れる。
今動くのは許します。
だって心地よいのですから。
「よし、終わったぞ」
「ありがとうございます、本当、お上手になりましたね」
「まぁ、何度もしているからな。さすがに慣れるよ」
ホワイトデーの時におっかなびっくりな手つきでしているトレーナーさんも可愛いと思いましたが、今こうやって慣れて心地よくしてくれるトレーナーさんの手つきも好きです。
仄かに香ってくるバニラの匂い。
彼にこの匂いを付けてくれるという行為は私にとって幸せでしかありません。
私は座りなおしていき、彼と足の向きが平行になるように座ります。
次は”未来を考える”
未来と言っても何を考えるのか私はぴんと来ませんでした。
「トレーナーさん、それで…どのように未来を?」
「あぁ、それなんだけど…」
そう言うと彼は手帳を取り出しました。
その手帳は私がクリスマスの日にプレゼントをした、私の同じ黒鹿毛のものでした。
彼がぱらぱら、とその手帳を開くと既にスケジュールが所狭しと書かれていました。
春のシニア路線に向けたレースへのトレーニングプラン、そして夏合宿の練習方法。
秋のシニア路線には天皇賞・秋の連覇と有馬記念のリベンジ。
勿論そこにはトレーニングだけではなく、私とどこに出かけるのか、何をするのかも書かれています。
私の胸の中から込み上げてくるものがありました。
私のスケジュールは今日までの日程でした。
ですが、彼は私とのこれからを――――――”未来”を既に考えてくださっていました。
本当にこの人は、私を喜ばせることばかりしてくれますね。
「初めてこんなに未来まで書いたから…正直、出来栄えに関してはあまり良くない…かな」
「構いません、未来を考えてくださっただけで私は嬉しいですから」
彼が立てた予定表、私はいつも1分単位でスケジュールを組んでいますが、トレーナーさんはざっくりで組んでいました。
初めてスケジュールを組んだからには私がサポートしてあげませんと。
「いいですか、トレーナーさん。予定を組む時はまず上手くいかないことも考えて立てましょう」
「バッファ…てやつだっけ?」
「そうです。予定には余裕や他のプランを持たせるのが大事なんですよ」
少し得意げになって彼にアドバイスをしていきます。
「例えば春のお出かけなんですが、桜の予定がずれたらどうしますか?」
「あ…桜が無いのにお花見しても…」
「そうです、なので他のプランで桜が咲いていないときカフェ巡りを――――いえ、春物の服を買いにいくのも良いですね…」
手帳のページをめくっていく。
「夏はどうだ?俺としてはよくできてると思うけど…」
「夏合宿はさすがに決まっているので良いと思います、さすがトレーナーさんですね」
「フラッシュに褒められた、やったね」
「もしできるのであれば夏祭りの花火もよいですが、手持ち花火もしてみたいですね」
「いいね、ならファルコンとかも誘って――――」
「私は…トレーナーさんとしたいんですよ?」
他の子と一緒に花火をしても楽しいでしょうけど、私は折角なのであれば…いえ折角でなくてもトレーナーさんと一緒に思い出を作りたいのです。
「分かった、なら2人きりの花火大会、だな」
「はい、2人きりの花火大会です」
また、ページをめくっていく。
「天皇賞・秋にはまたフラッシュの両親が来て欲しいな」
「そう何度も来れるとは思えませんよ…?」
「きっと来るよ、だってフラッシュは二人の
「ふふっ、そう言われてしまうと…本当に来てもおかしくないですね」
彼と話していると本当に現実に起きてもおかしくない、そう思ってしまいます。
「連覇をして、フラッシュの両親をもっとびっくりさせよう」
「もし連覇をしたらお父さんは帰る時に今度は何を言うんでしょうね?」
「……その時までにドイツ語を勉強して分かるようにします…」
「ドイツ語のお勉強、私もお手伝いしますね」
彼と立てる予定が楽しい。
空白だったスケジュールに、未来の人生がトレーナーさんと考えるたびに色塗られていく。
「そういえば、ドイツでは確か…お酒のお祭りがあるんだっけ?」
「えぇ、オクトーバーフェストですね。皆でお酒を飲んで、バカ騒ぎします。すごく楽しいお祭りですよ」
「俺はそこまでお酒強くないけど大丈夫か…?」
「大丈夫ですよ、一番の目的は”楽しむ”ことなんですから。飲めない人にはちゃんと別の飲み物が準備されています」
「はは、なら来年はそれに行ってもいいかもな」
ドイツへ興味を持ってくれる彼。
尻尾が彼へと近づいていき、しゅるり、と彼の腰回りに巻き付いてしまう。
「有馬記念…あれは俺にとっても悔しいよ」
「トレーナーさんもなんですね」
「当たり前だよ、だからこそ次は絶対に勝ちたい。ちゃんとそれに向けたトレーニングも既に考えてるよ」
「さすが、トレーナーさんですね」
トレーナーさんは少し誇らしげに鼻を鳴らして口角を緩めていきます。
「クリスマスはどうしましょうね?」
「そうだな…去年はワイワイクリスマスだったから、今回こそがドイツ流で…2人でゆったりするか?」
「それも良いですが…次は日本式をお願いしたいです」
「はは、なら一緒にイルミネーションを見に行こうか」
彼と立てる予定、普段は誰かとこうやって長期の予定を立てることは殆どしたことありません。
「いつかは…海外にも挑戦したいね」
「そうですね…来年…というよりこれでは既に多くの予定が入っているので再来年ですね」
「再来年は…さすがに考えられないな…そんな先の未来は分からないし」
「なら、今から大まかにでも考えてみませんか?手帳には入りませんが――――これで」
私はソファーから立ち上がり、ファイルがしまっている棚へ歩いていく。
いつもここにはトレーニング用のノートがいくつもしまっており、その中にはまだ1文字も書かれていないノートがあった。
そのノートとペンを手に持ち、机の上に置いては私は彼の隣に座る。
ノートの表紙、そこはまだタイトルすら決まっていない。
そのタイトルに私はペンで描いていく
”私と貴方の未来”
ノートの表紙を捲り、そこには2年後、とサブタイトルを付けていく。
「では、まずは私から、ですね」
そう告げて私はノートにこの先起こりえない未来をひたすらに書いていく。
「じゃあ…俺も書くよ」
彼も私の予定の横に書いていく。
少しずつ積み重なっていく2人だけの未来予想図。
したいこと
されたいこと
夢
そんな淡いものをただひたすらに2人で書いていく。
2人で会話を交え、時には修正をし、お互いに同じ歩幅で進めていく。
海外出走
ドイツへ旅行
フラッシュの両親に挨拶
3冠制覇
連覇
新しい担当
チーム運営
淡く、叶わない夢を2人でただただ描いていく。
真っ白だった私の未来予想図は、トレーナーさんと共に歩む、色鮮やかなキャンバスに変わっていく。
私はこの人と出会えてよかった。
私はこの人と3年間を走り抜けてよかった。
私は――――この人を好きになれてよかった。
「それでさ、フラッシュ。このチーム運営した後――――――フラッシュ?」
「……ごめん…なさい…すぐ泣き止むので……ごめんなさい…」
ぽたぽた、と涙が止まらなくなってしまう。
一粒、一粒先ほどまで書いていた私のキャンバスが滲んでしまう。
止まって
お願いですから、今だけは止まってください
むしろその思いとは裏腹に止まらなくなってしまう。
頬に伝わる暖かな感触。
未来を書けば書くほどに、今まで隠していた思いが溢れ出してしまう。
ずっと、ずっと見ないふりをしていた思い。
もっと生きたい
トレーナーさんと、彼とずっと一緒に生きていたい
もう涙は止まりませんでした
「フラッシュ」
彼が私をそっと抱き寄せてくれます。
私を胸元へ抱き寄せ、そして優しく撫でてくれます。
あぁ、こうされてしまうと自然と安心してしまう。
貴方の体温が好きです。
貴方の撫でる手が好きです。
貴方の匂いが好きです。
顔を摺り寄せ、私は私という存在を彼へ擦りつけていきます。
「俺も…もっと君と生きたかった。だから、こうやって未来を書いてしまった。ごめん…辛いのを思い出させて」
「そんなことありません…私は嬉しかったんです…」
貴方のおかげでもっと生きたいと思いました
「トレーナーさんが未来を考えてくれて」
貴方のおかげでもっと走りたいと思いました
「トレーナーさんが一緒に横で考えてくれて」
貴方のおかげで色々なものを見たいと思いました。
「トレーナーさんがいたから…私は…自分の感情にいまこうやって正直になれたんです…」
貴方のおかげでもっと好きになりました
□■□■
2人で書いた未来予想図、そのノートの横に俺は来年の予定を書いた手帳を置いていく。
携帯を取り出し、既に残り10分だった。
とあるライブで世界の終わりを告げるまでの時刻を告げる機械音声が流れている者があるらしい。
それを調べると既に多くの人がそのライブを再生している。
俺もそれを再生していき、携帯の音量を上げて2人の耳に入るようにしていく。
フラッシュが泣き止んだ後、一緒に決めた最後に何をするのか。
一緒にソファーから立ち上がり、そして立ち上がったまま、お互いに正面から抱きしめ合っていく。
そしてそのまま、俺はフラッシュの瞳を見つめ続ける。
最後に決めたのはお互いにこうやって見つめ合って、最後のひと時までお互いの顔を見て終わりたいと考えていた。
ただ見つめ合う彼女の表情。
「こうやって長く見つめ合うのはしたことないので少し照れますね…」
「俺も。だけどフラッシュの顔を最後まで見たいからさ。」
彼女は照れて頬を赤く染める。
しかし、視線は逸らすことなく、ただ見つめ合う。
フラッシュは照れるときはいつも顔を隠したり、逸らしたり、それこそ何ごとも無さそうに振る舞うこともあったが、照れているときはこんな顔だったのか。
またフラッシュのことが1つ好きになってしまった。
もし、生きていれば俺は何度彼女のことを好きになるのだろう。
そう思ってしまうほど、俺は彼女が愛おしいと思う。
【一分】
機械音声によるタイムリミット。
携帯から流れてくるこの音声を果たして何人の人間とウマ娘が聞いているのだろうか。
1分、あまりにも短すぎる本当の最後の時間。
既に彼女と過去、現在、そして未来への想いを語りつくした。
本当に、本当に終わってしまうんだ、そう思ってしまうほど胸が締め付けられ苦しくなる。
【30秒】
あぁ、本当にお別れが近い。
嫌だなぁ、最後の最後でそんなことを思ってしまった。
途端に溢れ出そうになる涙。
目頭がじわり、と熱くなる。
唇が強く、強く結ばれてしまう。
最後に死ぬときは泣き顔ではなく、彼女に笑顔を見せて死にたい。
しかし、そう思えば思うほど、俺の堪えていたものは耐えきれなくなり、既に溢れる直前。
「トレーナーさん」
フラッシュから声をかけられる。
「どうした、フラッシュ?」
そう返すと彼女が顔を近づけてきて、唇に当たる柔らかな感触。
ただ触れる程度の感触だが、柔らかく、そして俺の溢れそうなものは全て収まってしまった。
【15、14ーーーーー】
機械音声が鳴り響く、最後の15秒。
フラッシュにはやっぱり敵わないな、と思ってしまう。
彼女に救われたあの日から、ずっとずっと俺は彼女に救われている。
「死んでもずっとずっと愛しています。生まれ変わっても、ずっと」
彼女がとびきりの笑顔を浮かべ、そう告げた。
その答えにトレーナーもとびきりの笑顔を浮かべながら
「俺も愛してるよ、これからも、これまでも」
そう告げて、少しの間無言の時間が流れていく。
無言の時間の間に胸の中が暖かくなる。
2人で一緒に照れ笑いをし、少し恥ずかしそうにお互いに頬を染める。
あぁ、今なら―――――――俺は死んでも良いと思った。
この表情が最後で、
心から
【3、2、1――――】
俺は最後までフラッシュのその表情を忘れないようにただ
見つめ続けた